6 診断結果
新宿にある総合病院の面談室には、徹とその父である野沢
医師の
「野沢徹さんとお父様でしたね。担当の内山です」
二人が深く頭を下げると、内山は封筒の中から書類を取り出して机の上に並べた。メガネの縁に手を掛けつつ診断結果を念入りに確認する。そして野沢徹に一瞬だけ、視線を向け、元の書類に戻すと重たそうに口を開いた。
「早速ですが…… 診断結果を、お知らせします」
なんの余談もなく内山は、いきなり本題に入った。
医師の内山から、告げられた診断結果は、急性骨髄性白血病との事だった。
病名を告げられた瞬間、父の哲は天井を見上げ、細長い息をふーっと一息吐き、医師の口元を見据えた。一方の徹は、膝に当てていた両手を強く握り締めて、深くうな垂れる。その様子に気づいた哲は、徹の肩に軽く手を置いて、医師のほうへ向き直り、冷静を装って治療方針を尋ねた。
これから箱根を目指そうとする徹にとって、この診断結果は残酷なものだった。医師の内山は、丁寧に治療方針を説明していく。しかし徹は、顔を伏せたままピクリとも動かず、目に溜まっていく涙を流すまいと硬く目を瞑った。おそらく医師の話など耳に入ってはいない。
徹の脳裏には順調だった過去の姿と、思い描いていた未来の姿が交錯している。日本学生選手権10000メートルと5000メートルの二冠を達成した過去の姿、それにチームのエースとして、大歓声を受けて箱根駅伝を走っている未来の姿。しかし未来の姿は、闇の中に消えていく。
「これからだと言う時に・・・・・・」
受け止め切れない現実を突きつけられた徹は、鋭利なナイフで胸の中をえぐられているような、激しい痛みに襲われた。
医師は言う。
「野沢さんは陸上部で箱根を目指しているのでしたね。白血病は絶望する病気ではありませんから、希望は捨てないで下さい」、と。
しかし、この言葉も当然、徹には響かない。
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