13 三人の接点
航と爽夏はカウンターを挟んで健一と談笑をしている。
爽夏はタコライスを抱えこむように食べていた。
三人の話題になっているのは、芦ノ湖へ下る危険な坂道で、航と爽夏を強引に抜いていった男の事だった。緑山大学のランニングシャツを着ていた、と言う事を、爽夏が話すと、スポーツニュースに詳しい健一は、視線を宙に泳がせ、何かを思い出そうとしている。
暫くすると、ふと思い当たったように、スマートフォンで検索を始め、この選手ではないか、と爽夏たちに見せた。
健一のスマートフォンには、「野沢、箱根へ向けて疾走」、と言う見出しで、緑山大学の部員と共にトラックを走っている、野沢徹の写真が、掲載されていた。
「うん、うん、この子だよ! 間違いない!」
爽夏が驚いたように声をあげる。しかし航にはピンと来ていない。
一瞬の出来事だったから背中しか見ておらず、判別のしようがないのだ。それに特段、腹を立てている訳ではないので、彼が誰であったかなんて、興味すらない。
記事には、今年の箱根駅伝を補欠に回された悔しさをバネに、練習に打ち込む野沢の事が書かれていた。そのなかの一節に、「陸上部の練習が休みの時は、近郊の山へ出かけて行き、トレイルランニングで脚を鍛えている」、とあった。
「のざわとおる、かぁ…… 大学三年生という事は、私たちと同級生なのね。凄い選手なのかもしれないけど、純粋に山を楽しんでいる私達を蹴散らしていくなんて、嫌な性格よね」
同意を求められた航は、生返事をしてその場をやり過ごす。いくつか引っ掛かる言葉があったが、このように物事を少し誇張して表現する、爽夏のユニークな口ぶりも嫌いではなかった。
「野沢くんの事はいいとして、トレイルレースの事なんだけど、健さん、何かオススメのレースないかなぁ?」
爽夏が突然、話題を切り替えた。芦ノ湖からの帰り道、航と爽夏は、お互い上達してきたので、そろそろレースデビューしてみようという会話をしていた。
それならば、健一が詳しいだろうと言う事になり、早速、爽夏が切り出したのだ。
「信濃トレイルランニングレースはどうかな?」
健一は即答した。爽夏がスマートフォンを取り出して、レース名を検索すると、開催日時は7月5日土曜日、スタート時刻は九時三十分、距離は32キロ、レース終了が16時30分で、18時からバーベキューパーティーが行われると書かれていた。
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