12 親子
店を引き継いで二年目に、将一は常連客と結婚した。そして翌年、航が産まれる。しかし、航が幼稚園に入る前に、妻と離婚してしまう。
離婚の原因は、将一の女性問題では、との噂もあるが、実はその逆で、男を作った妻が原因ではないか、と言う疑惑もあり、真相は定かではない。
その為、航にとっては、母親の記憶は、ぼんやりとしたものしか残っていない。
妻と離婚したあとの将一は、男手ひとつで航を育てた…… と本人は言っているが、実際は殆どほったらかしで、航の面倒は、お店のスタッフやお客さんが見ていたと言った方が正しいだろう。
子供の頃から目鼻立ちが整っていた航は、海辺で育ち、太陽の光を存分に浴びていたから常に日焼けしており、成長とともに逞しさも増して、男っぷりが良くなっていった。
また父の手ほどきで始めたサーフィンは、ジュニアの枠を飛び越え、大人の大会に参加しても、上位を脅かすほどの腕前だった。
男前で、サーフィンも上手となれば、女性スタッフや、女性客が放っておく筈がない。中学生になり、身体が大きくなっていくと、航の事を一人前の男として見る女性客が増え、数多の誘惑があったようだ。
しかし、その事に関して、将一は無頓着だった。自然の流れに任せるのが一番、これが将一の考え方だったのだ。
父に育てられた記憶など殆どない航だが、父の事は好きだった。
まだ太陽が昇りきらない時刻、二人で海へ繰り出して、サーフィンをした楽しい記憶は、鮮明に残っている。沖へ向かってパドリングをしながら見る父の後姿、朝日を浴びて輝くその逞しい背中は、航の心にくっきりと刻み込まれている。
航は、父の愛情を海の上で感じていたのかもしれない。そんな事もあってか、中学、高校と部活には所属せず、学校が終わるとすぐさま帰宅し、店の手伝いをした。子供の頃からお店に出入りしていたので、人との接し方には秀でており、また父を慕って集まってくる、大勢のサーファー達と過ごす事で、人の輪の大切さを学んでいたのだ。
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