【短編】妹のタブレットを借りたら痛い小説を見つけたので読んでみた

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

第1話 新学期


『義兄さん、誰にも邪魔されない二人だけの生活を実現しましょうね!』



妹のアカウントで日々綴られた文章を見つけてしまった。

そして、それは日ごろ清廉潔白で品行方正な妹が、裏ではとんでもない秘密を持っていたということを示していた。





■『普通』の生活-----

僕、九重暁一(ここのえあきかず)の生活はいたって普通だ。

4人家族で両親は共働き。


父さんは出張が多く、月に何日かしか家にいない。

母さんは、いつも帰りが夜の9時くらいになる。


必然的に、家事は僕と1歳年下の妹、美涼(みすず)で手分けすることが多い。

最近でこそ美涼が料理などできるようになったけれど、それまでは兄である僕の仕事だった。


共に頑張らないといけない環境だったので、兄妹仲は比較的良くて特に大きなけんかなどもなくきている。






■妹との関係――――――

朝食は美涼の当番なので、作ってくれる。

そして、朝食ができたタイミングで起こしに来てくれる。

これはとてもありがたい。


「兄さん、朝ですよ。朝食出来ました。起きてください」


「ん……わかった。起きる……」


「……あ、そんなことを言って二度寝のパターンですね?」



確かに、ちゃんと起こしてくれると思っているので、僕もどこか甘えているところがあるかもしれない。



「起きないと……キスしてしまいますよ」


「え!?」


「あ、起きましたね!顔を洗ってリビングに来てくださいね」



冗談を言ったけれど、恥ずかしくなったのか、美涼はすぐに行ってしまった。

マンガやアニメなんかの兄妹関係みたいだけど、どこの家でもこんなもんだよね?


美涼は中学生の頃から、成績が学年一位だったみたいだし、成績優秀者として表彰されていた。

高校に入っても常に5番以内には入っている。


その上、毎週のように告白されているモテっぷりだと噂で聞いた。

熱狂的な『信者』みたいな人がいるとも聞いたことがある。




ただ、家での美涼はそんなそぶりも一切見せない。

家事も手伝ってくれるし、料理の腕もかなりのものだ。

いろいろ気にかけてくれるし、時として話し相手にもなってくれる。

歳が近いので余計にかもしれない。


我ながら誇らしい妹だと言える。


ただ、昔は『お兄ちゃん』と呼んでくれていたけど、いつの間にか『兄さん』と呼ばれるようになった。

その点は、少し寂しい気がする。






■新学期の同級生ギャル―――――

3年になり、今日から新しいクラスになった。

隣の席がギャルの今宿(いまじゅく)さんになった。


ギャルは少し苦手だ。


まず、声がでかい。

隣の席の友達と話すのにも声がでかい。


どうしてだろう?

耳が悪いのか!?




次に、デリカシーがない。

昼休み手を洗って教室に戻ったら、僕の席が今宿さんの友達に占領されていた。

僕はどこで弁当を食べたらいいんだ……




さらに、被害妄想というか、攻撃がすごい。

先日はパンツ見ただろうと詰め寄られた。


そんなにスカートが短かったら、歩いているだけで見えそうなのに、階段で僕の前を歩いたり、椅子に立膝立てて座っていたり……




最後には、顔を見るたびに難癖をつけてくるようになった。

僕が強く出なかったから悪いのか……



その後も、階段から突き落とされたり、わざとらしく弁当を落とされたり……


最初は気を惹こうとしている不器用な子かと思ったけど、明確な悪意を感じるようになってきた。

他にも、教科書を取られたり、筆入れを隠されたり、上靴を隠されたり……これはもう『いじめ』では…!?




「九重、アーシら友達でしょ?」


「う、うん…そうだね」



突然、質問された。

今日は今宿さんの周りに取り巻き2人もいる。



「アーシ腹減ったんだよね。購買行ってパン買ってきてくんない?2秒で!」


「そんな、2秒なんて無理だよ……」


「じゃあ、なるはやで!何秒で帰ってこれるか数えるから!いーち、にー、さーん……」


「ちょ、ちょっと…」


「5分越えたら罰ゲームだから」



とりあえず、ダッシュで購買に走った。



「ぎゃはは!行ったよ!」


「マジで行った!」


「今宿、最高!」






「兄さん、どうしたんですか?最近、少し元気がないですね?」



家の夕食の時に美涼に聞かれてドキッとした。

たしかに、最近ずっと今宿さんのことばかり考えている。

好きとかじゃなく、次はどんな嫌がらせをされるんだろうという負の感情のみ……



「心配してくれてありがとう。ちょっと新しいクラスでまだ馴染めなくて……大丈夫だよ。もうじき解決すると思うから……」


「……」


少し考えてから美涼が笑顔で言った。


「仲良くなるための通過儀礼かもしれませんよ?ある日突然謝ってくるかも」



そんなことあるのかなぁ?

具体的な解決策も思いつかないけど、美涼に心配をかけるわけにはいかない……






翌日、今宿さんは来なかった。

休みか……風邪だろうか。

一瞬、安堵したけれど、病気が治ればまた登校してくる……


僕の気持ちは、イマイチ晴れなかった。






「兄さん、まだイマイチお顔が晴れませんね?」



家での食事の時は、美涼とはよく話す。

今日あったこととか、最近気になることとか。

そのいつもの会話の一環で話している。



「実は、クラスメイトとあまりうまくいってなくてね……」


「今日もなにかあったんですか?」


「いや、今日は休みだったけど、また来ると思うとね……」


「もし……その子が心から反省していたら、兄さんだったら許しますか?それとも、もう二度と会いたくないですか?」


「そりゃあ、反省してくれればね……クラスメイトだし、仲良くはしたいよ」


「兄さんは、優しいですね」



美涼が静かに笑った。






そんな話をした翌日、奇跡が起きた。

今宿さんが登校してきた。

ここは当たり前。


長かった髪は、かなり短くなっていた。

ベリーショートっていうのかな?

髪が短かったので、誰だか分からなかったくらいだ。



「あ!おはっ、おはようございます!九重さん!」



僕が教室に入ると、今宿さんがすぐに駆け寄ってきて挨拶してきた。

その勢いに、ビクッとしたけど、挨拶だけだった。


なんなんだよ、急に……

今宿さんは、自分の席に戻ると、カバンからゴソゴソと取り出し、僕の机に色々持ってきた。



「あの、これ、お借りしていたものです!お納めください!」



奇跡だ……どういう心変わり?

方針転換?


教科書やノート、筆箱、上靴、1万円……1万円?


教科書やノートは分かる。

確かに、僕のものだ。


「1万円?」


「すいません!パン代と手数料です!」


「手数料って?」


「購買まで買いに行っていただきました!」


「え、いや、それだけでこんなに受け取れないよぉ」


「あ…あああ…受け取っていただかないと、わたっ…わたしっ……」



今宿さんが、急に取り乱し始め、すごくおびえた表情になった。



「わかったよ!受け取るよ!受け取るからっ!」



登校したのはいいけど、机についてからはずっと下を向いてるし、一言も話さない。

事情が分からないから怖いなぁ。

またなにか企んでいるのかな……






夕食時。

いつものように美涼が聞いてきた。

本当に雑談程度に。



「兄さん、クラスメイトとはその後どうなんですか?」


「うん……急に謝ってくれて」


「へー、それで兄さん、許したんですか?」


「うん。その後、なにかあると思ったけど、なにもなかったんだ」


「よかったですね、兄さん」


「うん、美涼のいう通りになったね。僕はどうも悲観的でいけない」


「ふふふ、でも、最悪のケースまで想定できるのは、兄さんのいいところでもありますよ?」





■美涼とデート-----

週末、美涼がデートに誘ってきた。


「あの……兄さん、週末ちょっとだけ、で、デートに出かけませんか?」


「え?デート?」


「あ、ほら、あの、気分転換というか、気晴らしというか……だから、デート的というか」



いつも冷静な美涼にしては珍しく慌てていた。

まくし立てるみたいに、饒舌だった。



「その……ダメでしょうか?」



僕が驚いていたので、乗り気じゃないと思ってしまったのか、しゅんとしてしまった。



「ごめん、ごめん。嫌だったわけじゃなくて、わざわざ『デート』なんていうもんだから、ちょっと驚いちゃって……」


「そっ、それは!兄さんを元気づけたくて……最近、お悩みのようだったので……」


「心配してくれてありがとう。そうだね。ちょっと出かけてみようか」


「はいっっ!」



美涼に笑顔が戻った。


美涼とどこに行くのか、デートプランを一緒に考えた。

計画を立てる段階から楽しくて、今宿さんの一件を少し忘れる程度には浮かれていた。


結局、映画を見て、モールを見て回る割と無難なもので収まった。

美涼は、おしゃれをしてきて、妹ながらすごくかわいいと感じた。


本当に清楚系の服が似合う。

美涼の雰囲気にぴったりだ。


1日美涼と過ごして、心が救われた気がした。

それくらい、人間関係の悩みは、エネルギーを消費するものだ。






■使わなくなったタブレット-----

ひとまず、今宿さんのことは落ち着いた(?)から、気分転換にマンガでも読もう。

最近、ネットマンガにはまってる。

ただ、スマホでは字が小さくて読みにくい。


活字は見えるけど、スマホの画面だと書き文字が見えないんだよね。

そこで、美涼がしばらく使っていないタブレットがあったと思うので、借りることにした。



(コンコン)「美涼、ちょっといいかな?」


「はっ、はいっ!しょ、少々お待ちを!」



(ガチャ)「お待たせしました」



すぐに美涼が部屋のドアから顔を出した。

笑顔がかわいい。



「昔、美涼タブレット使ってたよね?ちょっと借りれないかな?」


「いいですよ。最近使ってないから、兄さん使ってください」


「え?ほんと?助かる!」



部屋の入口までタブレットを持ってきてくれたところで、美涼の電話が鳴った。

タブレットは受け取ったものの、美涼は電話に出てしまった。


僕は『ありがとう』と美涼に視線を送ると、美涼は笑顔で『OK』の合図をくれた。




早速、部屋に帰ってマンガアプリを入れようと思って気づいた。




これは、美涼のアカウントでログインしたままだ。

そして、気づかなければよかったけれど、小説みたいなものを見つけてしまった……



この時点でタブレットを返しておけば、それで済んだはずだ。

ところが、タイトルに『お兄ちゃんHELP』と書かれているのだ。


そうなると、見ない訳にはいかない。

タップして内容を見ていく。






『お兄ちゃんHappy Eternal Life Plan』


『お兄ちゃん助けて!』の方じゃなくて、『お兄ちゃんとの永遠の幸せ計画』ってとこか?

少し安心した。


内容を見てみると……



『数学教師「丸岡」は、もう駄目だ。お兄ちゃんをねちねちといじめて楽しんでいる。一応警告したのに、反省の色はない。処分とする。』



なにこの文章……

そういえば、2年の時、丸岡先生っていたなぁ。

厳しい先生だったけど、すぐに移動になって、他の先生が来たんだ。


日付ごとに少しだけ書かれている日とか、たくさん書かれている日とか……

他の部分を読んでみる。




『今日は、お兄ちゃんと一緒に出掛けた。これはもうデートでは!?デートに違いない!私の服もかわいいと誉めてくれた。この服は「勝負服」認定しましょう!』



日付は2年前のものだった。

先日出かけた件とは別の話らしい。


小説かと思ったけど、なんとなくこれは日記?

妄想日記的な?


日付的に近いものを選んでタップしてみる。




『今宿は監禁した。お兄ちゃんに無礼な態度をとったのだから、そのくらいは当たり前。お兄ちゃんの大事なものを奪ったのだから、今宿からも大事なものを奪ってやった』




なんか物騒な話が出た。

普段、虫も殺さないような美涼にもこんな凶暴性のある文章が書けるなんて驚きだ。

そもそも本当に美涼が書いたものかな?


偶然なのか『今宿』の名前が一致しているのが僕には妙にリアルに感じられた。

続きを読み進めてみよう。




『今宿は、おとなしなったらしい。ちょっとかわいがって、髪を切った後、指を1本折っただけで何でも言うことを聞くようになったとのこと。処分はどうしようか迷ったので、お兄ちゃんに委ねた。』




ん?『お兄ちゃん』が出てきた。

小説では『お兄ちゃん』が指示しているのか。



『お兄ちゃんに聞いたら、「反省してくれれば」ということだったので、左手親指の爪だけ剥がして、反省させた』


怖い!

おっかないなぁ……




『お兄ちゃんから奪ったものを全部返して、謝らせることにした。お兄ちゃんに許してもらえないときは、もう一度拉致して爪は全部剥がして、今度は帰さないと伝えたら失禁していた』




ちょっと待て。

日付は昨日のもの。


僕も『許すか』と聞かれたことを思いだした。

現実との合致点が多すぎる。


今日の物は…ないようだ。

空白。

無いのか、これから書くのか!?

まさか、これってやっぱり日記!?



今宿さんの左手親指の爪を剥がしたと書かれてある。

今日は学校で、今宿さんの指までは見なかった。


タブレットは、オンラインで常に同期しているから、パソコンなどで美涼が更新したら、このタブレットでも同じものが更新される。

明日、確認してみるか。





翌日、今宿さんは学校に来なかった。

体調不良で休みらしい。

あの日記が現実のものなのか、それとも単なる空想なのか、確かめることができなかった。






家に帰ったら、もう少し調べてみよう。

今度は、かなり古い日付のものを見た。




『今日、お兄ちゃんと私は血がつながっていないことを知った。これからは「義兄さん」という意味を込めて「兄さん」と呼ぶことにしよう』




なんだ。

やっぱり妄想か。

びっくりさせる。


美涼と僕は実の兄妹だ。

小さい時からの写真もある。

だから、これは妄想小説……妄想日記(?)だった。






今月、僕の誕生日だ。

ある日曜日、この日は朝から父さんが家にいた。

出張が多い人なので、日曜日に家にいるのは珍しい。


そして、僕だけがリビングに呼ばれた。






「暁一……今月、18歳の誕生日だったな。」



父さんが言った。

リビングのテーブルには、父さん、母さんが座っていて、向かいに僕が座っている。

この光景は我が家としてはレアで、いつ以来のことだろうと思った。



「18歳は成人ってことになったから、暁一に伝えておきたいことがある」



え?なに?重要そうな話っぽい。

まさか、実は美涼が養子でした……みたいな?

あのタブレットの妄想日記が思い出された。


いや、小さい時の写真もあるし、それはないだろう。



「お前は、戸籍上は養子なんだ。」


「え!?」



変な声が出てしまった。



「これから戸籍を取ったりすることもあると思うので、先に言っておこうと思ってね」


「それでも、あなたは私たちの子供ですからね」



これって意外だった。

盲点だった。


確かに、美涼が生まれた時の病室の写真などはある。

でも、自分のは見たことがなかった。


言われるまで気づかなかった……



「それで、本当の両親は……」


「お前の伯父さん、お前は俺の弟の子だ。」


「……」



その後、養子になるまでの経緯を教えてもらったけど、全く頭に入ってこない。

指が震えている。

これは自分で思っている以上にショックを受けているようだ……




その後、何を言われたかは覚えていない。

とにかく部屋に帰った。


部屋に帰って、思い出したことがあった。

美涼の日記(?)。

僕も知らなかった事実が書かれていた。


何なんだこれは!?




改めて、『最初のページ』を探す。


『お兄ちゃんのことが大好き!お兄ちゃんがいれば他は何も要らない!この日記は、「お兄ちゃんHappy Eternal Life Plan」を実現させるための日々の進捗を綴るものである』



なに?美涼は僕のことを好きってこと!?

兄としてだよね?

ヤンデレってこと!?


『最終目的は、お兄ちゃんと二人だけの生活を実現すること。そのためには、すべての邪魔者を排除して、お兄ちゃんに私無しではいられない身体にする必要がある』



なぜか、かなり妄信的にじゃないかな!?



『STEP1……、STEP2……、STEP3……』



そこには周到なマイル・ストーンが実現可能なステップごとに分かれ、書かれていた。

美涼自身、僕と血がつながっていないことは途中で知ったみたいで、方針転換についても書かれていた。



『お兄ちゃん、誰にも邪魔されない二人だけの生活を実現しましょうね!』



僕は養子だった。

ゲームでいえば『BAD END』って表示されているような気分だった。

ただ一つ違うのは、これは現実だということ……



(トントン)「兄さん、この間貸したタブレットなんですけど、ちょっと見せてもらってもいいですか?確認したいことがあって……」



美涼は、僕の部屋の前まで来ていた。

僕がこの『お兄ちゃんHappy Eternal Life Plan』について見たと知ったら、美涼はどんな反応をするのか!?


そして、僕はどうなってしまうのか……

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