第111話 Fランクの昼マズメ

 おはようございますタイシです。


 すっかり日も昇り、朝ご飯を終えた俺達。

 雨もかなり弱くなったので下流に向けて出発しました。


 弱くなったと言っても、まだポタポタと天幕に雨が当たる音は聞こえてくる。

 天幕が風で煽られないよう風精霊に頼んでいるらしく、一切バタついてないのがすごいよな。

 大型木造クルーザーの推進力も精霊に協力して貰っていて、水精霊を使ったジェット推進? みたいな感じっぽいんだけど、船上からはよく分からんのよな。


 今は天幕の下の船上に絨毯を敷いて貰い、その上でブーツを脱いでくつろぐという、日本式花見スタイルで食休みしている。


 俺はあぐら座りをしながら目の前の絨毯にテイムカードを並べ。

 ブルー君やレッドやピンクは、俺とカードを挟んだ対面に横並びで座り、俺が並べたテイムカードを眺めている。

 そしてグリーンは皆と同じ列に並ぶのが嫌なのか、カードを置いた部分を横長のテーブルと見なした場合のお誕生席ポジに着いている……分かりづらいか……少し離れた横に一人で座っていると言えば分かるかな?


 それでイエローは俺の背中におんぶ状態で、手を俺の首に回しながら、俺の肩に顔を乗せて後ろから覗き込む姿勢だ。

 朝釣りの時にちゃんと起こしてくれなかったからと、少し拗ねて甘えてきているみたいだ。

 ぐっすり寝ていたから起こさなかったんだけどなぁ……。

 まぁ可愛い僕っメイドさんに、背中から抱き着かれた所でご褒美でしかない気がするからいいんだけどな。


「色々な絵柄がありますねタイシさん」

「ほんと……魚ってあんまり見た事ないけど、こんな感じなのねぇ」

「レッドにブルー、これ全部魔物なんですよ」

 ブルー君とレッドとピンクは、俺が並べたテイムカードを見ながら感想を述べている。


 ここに並べたテイムカード十数枚は、全部ピンクとの釣りで手に入れたカードなんだよね。

 普通の魚も釣れるんだけど、小型の魔物も結構釣れるとは思わなかったな。


 ただし、魔物とは言っても小さいので、ただ単に魔石を内包しているだけって感じで、まったく脅威にならんかった。

 ま、アマゾン川にいるピラニアみたいなイメージかな?

 釣り上げちゃえば船上でピチピチ跳ねるだけってね。


「タイシ兄ちゃん、見た目が違うのに、全部同じ名前なのはなんでー?」

 イエローが俺の耳のすぐ横で声を出す。

 ちょっと耳元がくすぐったい……ASMR攻撃か何かか?


 まぁ、イエローの言う通り、並べられたテイムカードに描かれている魔物の姿絵は色々な種類の魚なんだけど、カードには全部バトルフィッシュって書いてあるんだよね……。


「あー、なんだ、バトルキャットやバトルドッグも見た目が色々だったりするだろ? あれは同じ呼び方をしているけど、実は色々な種類に分けられたり出来るっぽいから、つまりこのバトルフィッシュテイムカードも纏められちゃっているんじゃねーかなぁ」

「そういえばバトル系の魔物はそんな感じかも? なんで同じ名前に括られちゃうんだろ? タイシ兄ちゃん分かる?」

 分かるかと問うてくるイエローだが……うーむ……それはたぶんこの世界を治めている女神や眷属神の基準が脳筋だからなんじゃないかなと思う。


「一定以下の強さ……つまりまぁ、弱い魔物は一纏めにされてるんじゃねーかなぁ?」

 これはまぁ、マグロとサーモン以外は全部フィッシュって呼ぶ外国人みたいなものか?

 ……ちょっと違うか……。


 でもまぁバトルキャットと呼ばれている猫達をテイムカード化すると、アメリカンショートヘアやスコティッシュフォールドや三毛猫だったりするからなぁ……。

 細かい分類をされてないんだと思う。


「この世界、大雑把」

 この世界の住人歴が俺より長いグリーンが、端的にまとめてくれた。


 つまりはそういう事らしい。


 俺の前にある鯉っぽいテイムカードも、ナマズっぽいテイムカードも、ピラニアっぽいテイムカードも、全部バトルフィッシュって表記である……。


 眷属神たちも、面倒な仕分けとかしたくなかったんだろうな、と思う。

 ある程度強い魔物になったら名付けされるんじゃねーかな?

 逆に言うと、船上から簡単に釣り上げる事が出来た時点で、魔物としては弱い部類になるって事だもんな。


 引き揚げちゃうと床でピチピチ跳ねるだけで簡単にトドメが刺せちゃったからな。

 むしろカード化されちゃうと食材にならんから、少し困っちゃったよ……。

 きっちり血抜きをするためには俺がシメないといかんしさ。


「タイシさん、このテイムカード達は売れるでしょうか?」

 ブルー君が真剣な表情で聞いてくる。


 魔物の時の目が赤くてギラギラしている感じは、テイムカードになった段階でなくなっているだろうから。

 日本なら観賞魚としての需要はありそうなんだが、この世界だと……うーん。


「ガラスの水槽とかがあれば、ワンチャン売れるかも?」

 と、自信なさげに答える俺であった。


「ガラスですか……花瓶などは聞いた事がありますが、魚を入れる大きなガラス細工となると……ですが魚を入れて観賞するという概念は新たなビジネスチャンスが……ぶつぶつ……」

 ブルー君は思考の海に潜り込んでしまった。


 ふむ、ガラスの花瓶があるなら水槽もあるかもしれんか?


「なぁイエロー、ガラス製の水槽……あーっと、ガラスで出来た箱みたいなのは見た事あるか?」

 イエローなら公爵家に住んでいたのだしと、ちょいと横を向いて聞いてみる。

 俺が横を見ると、すぐそこにイエローの顔があるのだよな。

 そろそろ俺におぶさるように抱き着いてくる姿勢に疲れたりしませんか? まったく疲れない? そうですか……。


「うーん、ブルーも言っていたけど、僕もガラスの花瓶は見た事あるけど……お魚を入れるガラス箱? は見た事ないかもだよタイシ兄ちゃん」

 イエローが俺におぶさって抱き着いてくるのはいいんだけど。

 答えながら俺の首や横顔に顔をこすりつけて来るんだよな。

 そうすると、お互いの髪がこすれあったりしてジョリジョリするんだ……。


「そっか……まぁ侯爵領でバトル系カードを売る時に混ぜてみるかなぁ」

 売れるかどうか期待せずに俺がそう言うと。


 ブルー君がハッとした表情を俺に向け。


「それはつまり侯爵領に辿り着く前からテイムカードで稼げてしまうという事に!? タイシさん! 今からみんなで釣りをしましょう!」

 目が金貨になってしまったかのようなブルー君が、そう提案してきた。


「待て待て、魚系テイムカードが売れるかどうか分からんのに、そんなに集めても仕方ないだろ」

 暴走したブルー君を止めようと声を掛けるが……。


「始めは物珍しさで売れる可能性が高いです! ここで一気に稼いで装備品購入費の足しにしましょう!」

 一応これからの冒険のためという建前を用意してきたブルー君である。


 うーん、エルフの侯爵領では、まず装備の購入を予定しているし、最初に侯爵様に換金をお願いするのもありっちゃーありなんだけど。


「釣り竿ってそんなに数あるかなぁ?」

 と、俺が疑問を漏らすと。


「ありますよタイシ君様」

 と、近くに立っていた赤髪護衛エルフさんから返事がきた。


 あ、そうですか。


「じゃまぁ……皆で魔物釣りでもするか?」

「はい! 頑張りましょうタイシさん!」

「お金になりそうなの? よい装備が買えるかしらね?」

「今朝の釣りでコツを掴んだ私がレッドに教えますよ」

「わー、やろーやろータイシ兄ちゃん!」

「エサ……ミミズ?」


 とまぁ、俺の呼びかけに答えるブルー君、レッド、ピンク、イエロー、グリーンであった。


 ……一人だけエサに何を使うか不安に思っている奴がおるけど、安心しろ。

 魔物は食肉とかで十分に食いつきがよかったから、そっちを使えば問題ないし。

 仮にミミズや虫を餌に使う場合でも、グリーンの分は俺がつけてやるからさ。


 それにしても、今日はこれから釣りになりそうなんだけど。

 大型木造クルーザーがそこそこの速度で航行しているので、船尾からのトローリングみたいな釣り方になるのかねぇ?


 無理そうなら夕方に停泊する時でもいいけど、ま、やってみてから考えるか。

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