第112話 Fランクと神経衰弱
こんにちは、タイシです。
最近ブルー君がはまっている事といえば?
そうです、釣りです。
娯楽としての釣りで普通の魚や魔物が釣れる訳なんだけども、魚系の魔物を俺がしめるとテイムカードに変化する確率がそれなりにあるんですよ。
そんな訳で、目が金貨になってしまったブルー君が、船上での釣りにはまっている。
船に乗っている間は冒険者活動が出来ないから、収入が途絶えているとかなんとか言ってたんだけど。
貯蓄だってそこそこあるし、豪華客船でクルージング中みたいなものなんだから、仕事の事なんて忘れりゃいいのにな。
いや、ブルー君の場合はたとえ貯蓄が山ほどあろうとも、目の前に確実に稼げるネタがあれば我慢できないって事なのかな?
彼は冒険者だよね? 商売人じゃないよね?
ブルー君達が釣り上げた魔物型の魚は、俺がテイムカードから召喚した魔物にトドメを刺させている。
そんな感じに俺がテイムカードから召喚した魔物にトドメをまかせると、ブルー君達が倒すよりはるかに高い確率でカード化するんだよね。
そんでもって倒してもカード化しなかった魔物魚は、アクアスライムのおやつとして食わせている。
いやだってさぁ、似たような魚はもういっぱい釣り上げて食材にしているから、これ以上いらんのよねぇ……。
ちなみにうちのテイムカード魔物であるアクアスライムなんだが、カード表記を見ると才能限界である格六に到達していた。
……だけども進化はしていなかったので、必ずしもスキル持ちならば才能限界で進化する、という訳ではない事が判明した。
残念だね。
魔物の個体ごとに進化する才能とか、そういうのも設定されているのかも?
ダンジョンのある現代日本の場合、そもそもテイムカード化した後に魔物が進化するなんて……うさんくさい噂でなら聞いた事あるけど、実際には見た事ねーんだよなぁ……。
だからまぁ仕様の違うこの世界のテイムカードは、謎だらけな訳で、検証とかも色々してみたいんだよね。
ここ最近大量に手に入れているバトルフィッシュのテイムカードは、スキル持ちがほとんど、というか……まったくいないし、才能限界も二とかで進化は望めそうにないなーという感じ。
一応何匹かのバトルフィッシュテイムカードに、釣り上げた魔物魚のトドメを刺させて才能限界まで育てたけど、案の定というか、進化なんてまったくしなかった。
クランメンバー全員に釣りを教えて数日、雨も止んでいるお昼過ぎ、航行中の船尾でトローリングしているのはブルー君とレッドである。
俺とグリーンとイエローとピンクは、少し離れた船上に布を敷き、そこに座ってブルー君達の釣りの様子を眺めたり、周囲の風景を眺めてお茶したりとまったり状態だ。
グリーンは釣りの餌をつける行為が苦手なので、俺が隣にいてそれをやってあげる時以外は釣りをしないんだよな。
そしてイエローとピンクはテイムカードの絵や文字が書いてある方を伏せて、床に敷いた布の上に七並べのようにカードを並べ始めた。
テイムカードの片面は女神や眷属神を表すシンボルが幾何学模様的に描かれていて、トランプみたいに感じるが、完全に同じ模様ではなかったりする。
「イエローにピンク、テイムカードを裏返しで並べて何すんだ?」
「ん? えっとね、こう、順番に二枚ずつ裏返して、同じ見た目の魚なら勝ちっていう遊びをしようかなって、タイシ兄ちゃんもやる?」
「タイシさんも絵合わせ遊びしますか?」
ああ、テイムカードを使って神経衰弱的な遊びをしようって事か。
「いや、俺は記憶系スキル持ちだからなぁ……グリーンはやらんのか?」
俺は〈記憶力向上〉スキル持ちだから、そういう覚えゲーは負けなしになっちまうと暗に断わりながら、グリーンに話をふった。
「フルフル」
グリーンの返事は首を左右に振るシンプルなものであった。
「ええ? グリーンもやろうよ~」
イエローがグリーンの手を取って並べられたカードの側まで引っ張っている。
人見知り……異世界人見知りなグリーンは困って……いや、さすがに皆には慣れてきているのか、大人しくイエローの誘導に従ってカードの側に座るグリーンであった。
ただちょっとグリーンの顔が引きつっているので、完全に異世界人見知りが治った訳ではなさそうだ……。
仕方ねぇな……。
「俺も記憶系スキルを使わないようにするから参加してもいいか?」
とイエローやピンクに向けて声をかけながら、イエローとグリーンの間、それも若干グリーンの側寄りに座る事にした。
「タイシ兄ちゃんもやるの? うん! 歓迎するよ!」
「タイシさんも参加するのなら勝った人が負けた人に何かお願いできるルールを追加しましょう!」
「コクコクッ」
といった感じの反応が三人からきたのだけど。
イエローはまぁいい、素直に喜んでくれているのだから一緒に遊ぶ俺も嬉しい。
ピンクは……一体何を頼むつもりなんだ?
釣りの時も似たような事を言ってた気がするが、懲りないというかなんというか……。
そしてグリーンのその頷きは、俺がお前を守るように参加した事への嬉しい頷きなのか、それとも、ピンクの提案に対する肯定なのか……分かりづらいんだよなぁ……。
……。
……。
――
ペラリ、ペラリとカードを二枚めくる俺。
「くっ……鯉っぽい奴とナマズっぽい奴か……これは合っていないな……俺のターン終了だ」
めくったテイムカードを、絵が見えないよう元の裏返しに戻す。
「ふふーり、僕のターン! タイシ兄ちゃんのお陰でヌメヌメしてそうな魚の絵柄が揃うよ!」
「ちょ! タイシさん! さっきからイエローのアシストばっかりしているじゃありませんか! ずるいですよ~!」
「やはりメイド好き」
いや待て。
それは順番のせいってだけだろ?
たまたまじゃんけんで俺の次がイエローになったから、そう見えちゃうだけじゃんかよ……。
というかグリーン、お前は今なんて呟いた? 確かにメイドさんという存在は好きだけどさ……そんな贔屓はゲーム中にしないっての。
何言ってんだという意味を籠めて、隣に座っているグリーンの脇を肘で小突いておいた。
そうこうしているうちに次はピンクの番。
「このままではイエローが勝ってしまいます、私の番、うなれ直感! ……両方の尻尾の形が似ているので、これは同じ魚と言えないでしょうか?」
「駄目だよピンク! 模様が明らかに違うじゃないの、はいはい裏返しに戻して~」
それは無理があるなピンク……。
タナゴとニジマスを同じ魚と言っているような強引な理屈だった。
そしてグリーンの番。
ってどうした? さっきまでならすぐテイムカードをひっくり返してたのに。
今グリーンは目をつむって真摯な祈りの姿を見せている……運がよくなるように神頼みでもしてるんか?
っと、グリーンの目が開いて動き出した。
ペラペラ……ペラペラ……ペラペラ……ペラペラ――。
ちょっと待て。
「何枚連続で当てているんだよグリーン!? 直観力やばくね!?」
「最初のは僕も狙っていたやつだけど、次からは全部新規カードだよね……」
「まさかこれは聖女見習いの本気の力ですか!?」
グリーンの勘の良さに驚愕する俺とイエローとピンクであった。
……。
……。
ちなみに、テイムカード神経衰弱に勝利したグリーンが、勝者の権利を使用した内容なのだけど。
俺が『女神様にお菓子を捧げに行く』という物であり……。
……。
……色々な意味で不正を疑った俺が、後でグリーンをこっそり問いただした結果。
女神の神託による不正が明らかになった。
あいつはヒマ人かよ!
……何してんだか……。
俺が旅に出た事で、しばらくお菓子の供給がない事を心配したみたいで……。
こんな事で利用されるグリーンが可哀想だと思ったのだけど、グリーン本人は女神様の神託が何度も聞けて幸せそうだった……。
……。
グリーンが幸せだというのなら……これからもグリーンを神託伝言板に使って貰うべく、女神にお菓子を奉納しておこうかね……。
てか、グリーンは本当にそれでいいの? いいのか……そうか……それじゃぁ、船上でお菓子の作り置きでもしておくかぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます