第108話 Fランクは食べきれない

「「「女神様に感謝して「「「いただきます!」」」」」」


 地球から転生や転移が頻繁にあるこの世界、しかもそれを行っている女神いわく、日本人は転移説明時の理解度が高いとか言ってたっけ?

 転移を促す魔道具が日本の昔話に出て来るような『玉手箱』だった事を踏まえると、女神は昔から日本を狙い撃ちにしていたっぽいよね。


 何が言いたいかっていうと、慣習やら文化の中に日本由来っぽい物がたまにあるのよな。

 ご飯を食べる時の『いただきます』とかな。


 今回女神に感謝を捧げる人は……半々くらいだったか?

 ただしこれは信仰があるとかないとかそんな話ではなくて、言葉を端折っているかいないかの違いっぽい。

 この世界で出会った人の中に女神の悪口を公然と口にする人っていなかったし。

 女神がこの世界で一番偉い神様という意識は当然のように広まっている。


 女神教会で腐敗まっしぐらだった新生派だっけ?

 あの派閥も女神の権威を利用して金儲けはするが、女神が一番偉い神様であるという意識はあったっぽい。

 そりゃ神様が実際に力を現世に行使してくる世界なんだし、そんなものかもしれないよね。


 っとと、話が逸れてしまった。

 ようは『いただきます』や『ごちそうさま』という飯時の挨拶は、この異世界文化に組み込まれているという話だ。


 水生系獣人の村で魚介類を購入した俺は、ピンクと一緒に『簡単クッキング』で夕食を大量に作りあげた。

 俺が作った飯をクランの仲間が求めていたからこうしたんだけども、どうせならとエルフの船員さん達皆の分も作った訳だ。


 そうして日の落ちた夕食時、川沿いに泊めた船の中の食堂でご飯を食べている。


 全長が百メートル近くある船とはいえ食堂はそれほど広くないので、隣に座る人と距離が近く、小学校の教室一つくらいよりちょい狭いくらいかな?

 そこに俺や仲間とエルフさん達全部で三十人くらいが、いただきますの掛け声をして、それぞれ料理に手を出し始めている所だ。


「……モグモグ、美味しい! タイシ! この魚を揚げたやつ、すっごい美味しいわよ!」

「もぐもぐ……魚ってこんなに美味しいんですねぇタイシさん、あんなに簡単に作ったのにびっくりです」

 俺の左側に座る赤髪ポニテのレッドと、ピンク髪ミドルボブのピンクが俺の作った魚のフライを褒めている。

 彼女らの身長以上の長さだった魚は、地球でいうピラルクーみたいなイメージの見た目をしていて、捌いてみたらうっすらピンク色の身だった。


 フライの味見をした感じでいうと、タラフライとか? いや、どちらかというとカジキフライに似ているか?

 まぁ白身魚のフライに近い味だと思う。


 そしてもちろん白身魚のフライのお供には、タルタルソースを添えてある!

 白身魚のフライにはこれだよね!


 水生系獣人の村では卵や野菜もいっぱい仕入れる事が出来たから、タルタルソースは絶対に作りたかったんだよな。


 冒険者ギルドが経営している食堂で俺が働いていた時は、そこで使う卵は浄化済みだったので、今回は各種魔法やら精霊魔法やらが得意なエルフさん達に卵を浄化して貰った。

 俺の異世界日本式〈生活魔法〉でも卵の浄化は可能なんだけど、エルフさん達との交流にもなるからまかせてみたんだ。

 それにしても魔法って便利だよな。



 俺が所持する〈生活魔法〉を利用したノンフライヤー製法で作り上げた、ピラルクーっぽい魚のフライにタルタルソースを付けて食べてみる。


 パクッっとな。

 ……もぐもぐ……。


 うむ、味見でも少し食べたが、やはり美味い、さすが俺だ。


 食堂にいるエルフ達も白身魚のフライの美味しさに感動を……。

『もぐもぐ……うわ、おいし……』

『もぐもぐ、油を一切使わずに揚げてたとは思えないよねぇ……』

『目の前で見ていても謎なスキルだったよね? もぐもぐ……』

『もぐもぐ……空中に浮かんだ食材に熱が入っていくんだものね……』

『もぐもぐ……姫様の旦那様がこんなにも料理上手だとは』

『側室に立候補しておいて良かったわよね、もう一個食べようっと』

『もぐもぐ、姫様が選んだお方だもの、私は心配してなかったわよ?』

『素敵な旦那様に嫁げて私達幸せよね~』

『すでに四人の恋人がいるみたいだし、色々と順番が回ってくるまで時間がかかりそうだけどねぇ……』

『それは仕方ないわよ、近衛小隊のほぼ全員が立候補しているんだし』

『もぐもぐ……エルフの秘薬があれば夜に何人相手しても大丈夫……もぐもぐ』

『『『『『『たしかに!』』』』』』

 ……。

 ……。

 ――

 ――


 それほど大きくない食堂なのでエルフさん達の会話も聞こえてくるのだが……俺と銀髪エルフ少女との婚約話がまだ否定されてないみたいだなこれ……。

 赤髪護衛エルフさんから話が回っていないのかなぁ?


 てーか赤髪護衛エルフさんがお嬢様って呼んでた銀髪エルフ少女は、部下から姫様って呼ばれているのか。

 そりゃ小国に近い扱いの侯爵家の娘なら、姫と呼ばれてもおかしくないか。


 そして、俺にすでに四人の恋人がいるという話は……レッドやピンクやイエローやグリーンの事なのだろうか?

 ……いやまぁそうだよなぁ、あいつら夜になると俺に割り当てられた船室にやってきて、俺と一緒のベッドに潜り込んで寝ていくしな……なんかもうその状態が当たり前になっていて少し感覚が麻痺している俺がいます。

 なんだろう、もう後に戻れない所まできているのは気のせいかなぁ……。


 ふぅ……まぁ細かい事を悩んでも仕方ないな、あいつらと俺がどうにかなるとしても三年先の事だし。

 面倒事は全て未来の俺に丸投げすればいいだろうさ。


 取り敢えず今は。

 エルフさん達の話の中にあった、夜が大丈夫になるというエルフの秘薬について後で詳しく聞いておく事にしよう!

 ……俺も男の子だからね、そういう話に興味が出るのは……仕方ない事だよね。





「もぐもぐもぐ! ……タイシ兄ちゃん! この、エビフライ? っていう奴すっごい美味しいよ! 何本でも食べられるかも! もぐもぐもぐ」

「エビ最高、もぐもぐ……」

 俺の右隣りに座っている黄色髪をショートにした狐獣人のイエローと、緑髪ロングをヒモでまとめて背中に流しているグリーンはエビフライがお気に召したようだ。


 購入した中でも大き目のエビを使ったエビフライは、なんと一番大きい物で全長が三十センチくらいある。

 これだけ大きくて味の良いエビフライには中々出会えないだろう。

 そしてもちろんタルタルソースをたっぷりと添えてある。


 しかしまぁ本当に美味しそうにご飯を食べるよなぁうちの子ら。

 イエローの頭にある狐耳はピコピコと嬉しそうに動いているし、普段は無口なクール系に見えるグリーンもほんの少しだけ口数が多く。

 ブルー君は河カニを出汁にした魚介スープがお気に召したようで、お代わりしている。


 ただまぁ、皆があまりに普段通りに飯を楽しんでいる事に違和感があるというか……。


 レッドとピンクとイエローとグリーンが……エルフさん達が飯を食いながらしている雑談の内容に気付いていないっぽいので。

 エルフさん達の会話をもう一度よく聞いてみたら……世間一般で使われている共通語じゃない言葉で会話しているっぽかった。


 エルフ特有の言葉か?


 仮にエルフ語という物があったとしても……俺には謎の翻訳能力があるから全部聞こえちゃっているんだよな。


 召喚された者に備わる謎翻訳能力の事に思い至れないのか、それとも俺だけなら聞かれてもいいと思っているのか……前者であってほしい俺がいます。


 なぜって?


 だってエルフさん達のエルフ語? による雑談の内容が……猥談になってきているんだもの……。

 俺が作ったご飯の美味しさに掛けて、自分達も俺に食べてほしいとかなんとか……エルフの世界にもそんな比喩的表現があるんだね……。


 だがしかし! そんな話をしているエルフさん達には一言物申したい!


 それはね。

 そっち系のスキルを大量に持つタイシでも、一日にその人数は食べきれないよ! って言いたい!

 がしかし、あの猥談の中に参加してしまうと『では、今日の夜にエルフの秘薬を試してみますか?』とかなんとか言われそうで怖いからやめておく。



 だけど……しまったな……侯爵家からのお迎えが来る前に王都の三区で賢者に転職しておけばよかったかもしれん……俺も男の子だからさ……。

 所でさ、エルフが治める侯爵領には賢者転職できる場所ってあるのだろうか?

 仮にあったとして……従業員はエルフなのだろうか?


 三区の転職場所は、人間族や人成分の高い獣人で構成されていたっけか……。

 ……侯爵領の街を探検するのがちょっと楽しみになってきた、タイシです。

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