第106話 Fランクは魚介を求める

「うーん……でっかいなぁ……」

 目の前のむしろに置かれた魚を見た感想がこれである。


 こんにちはタイシです。


 赤髪護衛エルフさん肉食系疑惑が湧いた今日この頃。

 魚介類を求めて水生系獣人さんたちと商談しております。


 水生系獣人にも色々種類があるらしく、今俺達の相手をしてくれている種族は……あー……リザードマン? ワニ獣人? 体中を鱗に覆われた感じの見た目をしており。

 重心が陸生の二本足生物に比べて低いというか、腰が曲がっているというか。


 ワニ顔な彼らが上半身を前に倒して二足と尻尾でバランスを取って歩いているのは、バランス悪く見えるので、普段は水の中で暮らしているからとかかな?


 この大河には彼らのような水生系獣人が暮らす村々が川に面しており、川岸に特徴的な旗を立てた建物がある場合、そこを訪れると魚介類の取引ができるという目印になっているらしい。


 実際に俺達の大型木造クルーザーが、川辺にある大きな屋根付きの屋台に近づいて停泊すると。

 商売相手が来たと分かるのか、何も置いてなかった大き目の屋台に新鮮な魚介類を村人達が持ち込み、即席の小さな市場を準備し始めていた。


 たぶん村人達が外貨を稼ぐ手段になっているんじゃないかな?

 商人として慣れてなさそうなワニ獣人さん達がワラワラと、大河から水を引き込んでいる貯水池みたいな泉を泳いで屋台に品物を運んできてくれている。

 その泉にはあしやらで作ったっぽいドーム状の建物が置かれた浮島が各所にある。

 なぜ浮島だと思うのかというと、ワニ獣人さん達が泳いだ時の波によって浮島が微妙に動いていたりするからだ。

 たぶんあれが彼らの住居なんだろうなーと思う。


 そんな浮島の住居からワラワラと現れているワニ獣人さん達が、今日の晩御飯にでもなったであろう獲物を、売り物にするべく集まってきているっぽいんだよね。


 そしてさっきのセリフは、大型木造クルーザーから小舟で移動し川岸に降りたった俺が、その小さな市場に置かれた魚をみた感想である。


「コレ、ヤクトウマイ、アタマモウマイ」

 ワニ獣人さんの発音は人のそれとは少し違い、半分鳴き声に近いというか……日本で言うなら癖の強い方言か、はたまた外国の人が覚えたての日本語を話しているって感じで。

 俺に備わった謎翻訳能力でも少し拙く聞こえてしまうみたいだ。

 俺の言葉がちゃんと相手に伝わるだけで十分役に立つ謎翻訳能力だと思うけどね。


 レッド達だとここのワニ獣人さん達と会話するのが難しいらしく、エルフさん達も身振りや単語を使ってコミュニケーションを取るのが普通だとかなんとか。

 なので、今ここには俺と赤髪護衛エルフさんの二人で来ている。

 船頭役のエルフ船員さんは小舟に待機中だ。


 レッド達が護衛として一緒に行くとか言っていたのだが、護衛対象が増えるだけだと赤髪護衛エルフさんに言われてしょんぼりして諦めていた。

 普通の村人が商売相手を襲うなんて事は滅多にないらしいけど、盗賊が村を制圧していたなんて事もない話ではないっぽいし。


 レッド達はまだまだ成長途中の冒険者だから、領主の娘を護衛する部隊の隊長格と比べちゃうと……まぁ足手まといと言われても仕方ないかなぁ。



 ちなみに今『焼くと美味い』と教えて貰ったでかい魚なんだけど、ピラルクーか? というくらいにでかく。

 長さでいえばイエローの身長以上はあるんじゃねぇかな?


 ちなみに『五色戦隊』皆の身長はドングリの背比べって感じで、履いている靴や髪形でも順位が変わりそうなくらいだったりする。

 今は男子の平均身長よりちょこっと低めなブルー君だけど、年齢を重ねれば皆より背が高くなるかもしれないけどね。

 十三歳前後だと女子の方が成長が早かったりするから、現状では皆ほぼ同じ150の前半くらいかなぁ。


 まぁ話をピラルクーっぽい魚に戻そう。

 せっかく食べるのなら、これくらいインパクトのある物に手を出してもいいかもしれん。

 と言う事で。


「美味そうだな、いくらだ?」

 俺がピラルクーっぽい魚を買いたい旨を伝えると、それを持ち込んだワニ獣人さんは、お尻から生えているだろうワニ尻尾でスパンッスパンッと地面を叩きつける。


 たぶん喜びの表現だと思うけど、ワニの尻尾ぽいゴツゴツした突起がある尻尾は攻撃にも使えそうだよな、という感想が真っ先に浮かんだ。

 ちなみにワニ獣人さん達の性別の見分けは難しいのだけど、着ている服で分かるっぽい。

 服と言ったが植物の葉っぱを組み合わせた物で、最低限の部分を隠しているって感じ。


 まぁ人間の服を着ていると水の中で動きづらいだろうし……今彼らが着ている、葉っぱを組み合わせて作ったっぽいショートパンツや胸当ても、もしかしたら俺達みたいな取引に訪れた人に配慮して着ているのかもしれない。


 たとえ裸族だとしても驚かないように気を付けないとな。

 文化の違いなんて、これだけ見た目の違う種族ならあって当たり前だと思うしさ。


 目の前のワニ獣人さんは、鱗に覆われた指と指の間にヒレがある手を、自分の前に出し、指を一本一本折り曲げながら何やら計算しているようで。


 ……。

 しばらくしてから。


「ダイドウカ、サンマイデドウダ?」

 と、値段を伝えてきた。


 ……。

 安くね?


 二メートル近い新鮮な獲れたて……まだピチピチ動いているので新鮮さは折り紙付きのピラルクーみたいな巨大川魚が大銅貨三枚?


 銀貨一枚以上は請求されると思ったんだけどな。

 これが現地価格って事なのかねぇ?

 俺の隣にいる赤髪護衛エルフさんに視線を向けたら頷きを返してきたので、適正値段の範疇っぽい。


 郷に入っては郷に従えってな。


「買った! じゃぁこれ大銅貨三枚な」

 嬉しそうに尻尾で地面を叩いている売り手のワニ獣人さんに、大銅貨三枚を渡してピラルクーを受け取る俺だ。


 ちなみにピラルクーはまだピチピチ跳ねていたので、異世界日本式〈生活魔法〉や〈調理〉系スキルを使い、血抜き処理してから俺と赤髪護衛エルフさんの背後に冷蔵で浮かべておいた。


 周りにいた人たちが驚いているけど、俺は問題なく異世界日本式〈生活魔法〉が使える事の方が嬉しかった。

 つまり、俺達に悪意や敵意を向ける人がいないって事だものな。


 顔はワニっぽくて怖いし、見分けもあんまりつかないけど、良い人……良いワニ獣人さん達みたいだ。


 さて、次の売り物でも見ていこうか。

 次はお母さんワニ獣人と、その子供っぽいワニ獣人が売り手のエリアに向かう


 おお!

「川エビか! 美味そうだね! いくらだ?」

 大きな木製のタライの中には大小様々なエビがうごめいていて。

 たまにピョンッとタライから飛び出したエビを、子供のワニ獣人が急いで捕まえてタライに戻している。


 エビフライに使えそうな大きいのから、素揚げで食べられそうな小さいのまでいっぱいいるなぁ……。

 ちなみに、食材であるのなら俺が持つ調理系スキルにより毒の有無が分かるので……うん、これらは普通に人族が食えると思う。


 タライの中を覗き込みながらワクワクして値段が決まるのを待っているのだけど。

 基本的に村人が売り子っぽいので、その時々で売値を決めるみたいなんだよね。


 お母さんワニ獣人さん……たぶんお母さん? お婆さんや姉弟の可能性あるけど……まぁいいや、お母さんワニ獣人さんがウンウン悩みながら出した値段は。


「イッピキ、ドウカイチマイデ、ドウカナ?」


 なるほど、大小様々な大きさなのに一匹銅貨一枚か……。

 って! どんぶり勘定が過ぎる!


 小指の先くらいのエビと、洋食屋で食える巨大エビフライに使えそうなエビが同じ値段ってどうなのよ……。

 ……まぁ、小エビだとちょっと高く感じるけど、大きなエビだと安く感じるから、まとめたら程々の値段になりそうだけど……。


 俺の隣にいる赤髪護衛エルフさんに再度視線を向けたら頷きを返してきたので、川エビも適正値段っぽい。

 どんぶり勘定も一般的なのかねぇ……?

 ま、赤髪護衛エルフさんが頷くならそうなのだろう。


「おーけい、じゃぁタライの中身全部買うから……銅貨八十三枚でどうかな?」

 俺には視界内の品物を数える事が出来る〈カウント〉スキルがあるのだ。

 大きなエビの後ろに小エビがいるかもだけど、ま、だいたいこんな所だろ。


 だが、俺の提案した値段を聞いたお母さんワニ獣人さんの動きがしばし止まる……。


 ……。

 体を硬直させ返事がないお母さんワニ獣人さんに声をかける事にした。


「あの……どうしました?」

「ア……ビックリシテシマッテ……ゴメンナサイ」

 びっくり?


「俺の値付けが何かおかしかったとかですか?」

 実は見えない所に小エビがもっといっぱいいたとか?

 銅貨五枚足りねぇよ! 的な?


「イエ、イツモナラ、ホカノヒトハ、ハンネクライニネビイテクルノデ……」

 他の取引相手は半値に値引く?


 え?


 俺はそれを聞いて横に立っている赤髪護衛エルフさんへ視線を向けると、彼女はコクリッと頷きを返してきた……。


 なぁ……もしかしてさ……その頷きって、俺が視線を向けたからなんとなく頷きで返しているだけか?

 さっきのピラルクーの値段も適正値段とかそういう事じゃないとか?


 ……赤髪護衛エルフさんが護衛以外では頼りにならない匂いを感じ、先程ピラルクーの支払いを渡したワニ獣人さんに顔を向けてみると……。

 彼は嬉しそうに眺めながら持っていた大銅貨を、ササッと俺の視線から隠すような仕草を見せた……。


 あれはたぶん……もう取引が終わったのだから、今更値段の高さに気付いてもこれは返さねーぞ! 的な行動に思える……。


 あ、はい……俺が思っていたよりも現地価格は安そうだな。


 それでも出した唾を飲み込むような事をしたくなかった俺は。

「ではそのタライの中身全部を、銅貨八十三枚で売っていただけますか?」

 と、少し見栄を張って先程の値段で買いとる事にするのであった。


「ウリマス! アリガトウ!」

 お母さんワニ獣人は子供ワニ獣人と手を取って喜び。


 ……そして、俺が次に見にこうとしていた売り手達は、何やら村の方へ駆け出し……泉に飛び込んで移動する者も現れ……。


 ……。



 たぶん、たぶんなんだけど……売り物の種類と量が爆増しそうな気がしてきた俺である……タイシまたやっちゃったかなぁ……。

 まいいや、材料が増えるのならエルフさん達の分も作ればいいよね!


 今夜はパーティナイトでいこうぜぃ!

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