第100話 Fランクは補填する
俺がリーダーを務める『女神の軌跡』クランの拠点であるお屋敷の裏庭で、各クランメンバーの掛け声や作業している音が響いている。
あ、こんばんは、タイシです。
冒険者街での買い物も無事に終わり、お財布の役目から解放されました。
そうして皆が買ってきた武器防具を拠点の裏庭で装備したり調整したりしている所を眺めています。
レッドは結局剣のみ購入、革鎧はエルフの侯爵領で買う事にし。
ブルー君は投擲用の使い捨て武器などを買い、短剣を黒鉄鋼製の物に変えた。
ピンクもレッドと同じお店で黒鉄鋼製の槍だけを買った。
エルフ領では弓や革製の品物が有名らしく、そういった品は侯爵領で買おうという事になったので、革製の防具を使いたい人は保留になった訳だ。
ただしエルフ侯爵領では魔法の付与された革製品なんかは有名だが、金属製鎧なんかは作られていないらしくグリーンは防具も含めて冒険者街で買う事にした。
本当ならドワーフ作の防具とかダンジョン産の物が良いのだろうけど、値段の桁が一つ変わっちゃうらしくてねぇ……。
そもそも金属製のハーフメイルだけでも二十万エルを軽く超えてくる。
最後の買い物だったのでグリーンの買い物には皆が揃っていたのだけど、その値段の高さに皆が驚愕していたっけか……。
鎖帷子に鉄板を張り付けたようなハーフメイルと鉄兜、鉄が要所に使われたラウンドシールドに、王都ダンジョン低階層の宝箱産で魔法付与がされている金属製メイスの四点セット。
……グリーンが購入したこれら全てで……四十五万エルを超えていた……。
一応グリーンの貯金で買えるのだけど、パーティの要であるタンクの装備品という事で、クラン予算というか……俺の財布から少し補填する事にした。
グリーンは教会の聖女見習いでもあるから、多少は金を持っていると思われているだろうけど、個人が一括で全額を払う所を見せるのもあれだしな。
……俺はまぁ後ろ盾に高位貴族がいるって噂があるから、商人や他の冒険者達も余計な詮索はしてこないんじゃないかなーと思っている。
お貴族様の機嫌を損ねれば命にかかわるしな。
これでも質がそこそこの物で我慢したというのだから、装備品にかかる費用が青天井なのは日本も異世界も変わらんなーと思った俺である。
女神に没収された神の加護付き装備類なんて、日本では億単位の値段するしな。
「えい! とぉ!」
ピンクが新しく購入した黒鉄鋼製の槍を巻き藁に突き刺し、使い心地を確かめている。
この世界には米が存在するので
その筵を大量に購入してきて、雑草を包み込むようにぐるぐる巻きにした的を俺が制作したのだ。
手足を付ける事でゴブリンをイメージした的の、一番えぐい部分に確実に突き刺しているピンクの姿は……後で模擬戦をさせようと思って召喚したナイトゴブリンが数歩離れるくらいに頼もしい……。
ゴブリンは雄が多いからね……そこは確かに弱点だけども……。
「やぁ!」
ザクッ。
ピンクの槍捌きを見ていると股の下がヒュンッとしたので、視線をレッドへと移す事にした。
えっと、レッドは……。
「はぁぁぁ! てりゃ!!」
ズササササッ。
こちらは、巻き藁を何本も横に重ねた物を一刀両断にしていた……。
竹の代わりに細い木材が芯なのだが……あれを斬れるという事はゴブリンも両断できる腕がレッドにはあるって事なんだよね。
スキルの能力補正や行動補正がそれだけすごいって事だ。
そしてブルー君は……。
「タイシさん、どうかしましたか?」
俺の視線に気づいたブルー君は、購入した装備品の手入れをしていた。
使い捨ての投げナイフとはいえ錆びないように油を塗ったりしないといけないからね。
俺は『いや、なんもないよ』とブルー君に返事をしながらグリーンへと視線を移す。
「ふん! ふん! ふん!」
そこには完全フル装備でメイスを振るグリーンの姿があり。
メイスを振るたびに、ブォンブォンと風を切る音がしている。
うーむ……グリーンの長い髪の毛を鉄兜に押し込めていないので、うなじあたりからまとめられた髪の毛が出てきちゃっているのが気になるなぁ……。
「なぁグリーン」
俺がそう声をかけると、メイスを振っていたグリーンが動きを止め、鉄兜の奥から視線を俺に向けてくる。
「?」
「その背中に出ている髪を戦闘の時に引っ張られたりしたら危なくね?」
グリーンは緑色のロングヘアで仲間内でも一番髪が長いからなぁ……。
「本番、お団子、兜、入れる」
周りに人がいるから異世界人見知りを発症しているのか、単語をいくつか口にするグリーン。
まぁ意味は分かった。
「なるほど……本番では髪をまとめて兜に入れちゃうんだな?」
「コクッコクッ」
頷きながら擬音を口にするグリーンだった……。
もうそれ『うん』とかでよくね?
まぁ、了解したとグリーンに手を振って伝え、俺はイエローへと視線を移す事にした。
グリーンは再度頷きで返事すると、メイスを振って鎧がずれたりしないかの調整作業に戻っていった。
さて、イエローは……。
「皆頑張るねぇ……」
角折れウサギをカード召喚し、それを抱きかかえながらホンワカとした感想を呟いていた。
……まぁイエローは何も買っていないしな……。
……。
……。
――
新しい装備の慣らしも終わり、夕食も食べ終わった。
ブルー君は自分の部屋に行き、他の皆はいつものように俺の部屋へと集まっている。
イエローやレッドやピンクはお風呂に汗を流しに行っており。
グリーンは俺の〈生活魔法〉で奇麗にして貰うからと、お風呂から逃げる事に成功していた。
体を奇麗にするだけなら俺の〈生活魔法〉だけでも可能だからね。
俺の部屋のお風呂は寝室に入口があるので、女性陣がお風呂を使っている間は手前の執務室で過ごす事にしている。
イエローからココパパに俺のそんな紳士的態度が伝わればよいなーと思っている……。
だってほら、仮にイエローがさぁ『何お父さん? 僕がお風呂に入っている間? ……えっとタイシ兄ちゃんは隣の寝室のベッドで待っているよ?』なんていう誤解を招きかねない内容の会話をココパパとする可能性とかあるじゃん?
なのでそういった事にならないようにしているのです。
そういう訳でお風呂から逃れたグリーンが、俺と同じソファーに座っている。
「相変わらず皆と一緒のお風呂は無理か? グリーン?」
「あのノリは無理……お互いに洗いっことか……小学生の修学旅行でもありえない……ブルブルッ」
グリーンは恐ろしい物を思い出したとばかりに、自分で自分を抱きしめて震えている。
ちなみに今この執務室には俺とグリーンしかいないので、異世界人見知りを発症していないグリーンは普通に話す事ができる。
というかイエローやレッド達は洗いっことかしているのかよ……若い女子達の生態に俺はそこまで詳しくないのだけど……そういう事って普通にするものなの?
「そりゃまた何というか……男同士だとあり得ない展開だな」
学生の修学旅行だろうが何だろうが、男同士で洗いっことか聞いた事ないしな。
「BL展開ならワンチャン……ブル×タイ……」
「やめろ! それ以上その話を盛り上げようとしたら……俺はお前を裸にひん剥いて、イエロー達のいる風呂場に投げ込むぞ?」
「ごめんなさいお兄ちゃん!」
「許す」
ふぅ……。
お互いに一息つき、テーブルに置いてあるお茶を一口飲んでから戻す。
お茶菓子でも何か用意するべきかなーとか思っていたら、グリーンが俺の寝間着の裾をクィックィッと引っ張ってきた。
「どうした? グリーン?」
「装備品の代金をお兄ちゃんが出してくれたのって……本当によいの?」
ん? ああ、俺の財布から少し出してやった話か。
「タンク兼ヒーラーはパーティの生存率に関わる重要なポジションだからな、装備を高くて良い物にするのは当然だし、皆のためになるからなぁ……それに、他の皆にもエルフの侯爵領で買い物する時に多少の補助は出すつもりだし、まぁ気にすんな」
俺は左にいるグリーンの頭を、左手でナデリコしながらそう言ってやった。
それに俺には公爵様の所にレシピ代貯金があって……今も貯蓄額が増え続けているからな……。
新しいレシピもちょいちょい追加で渡しているしな。
ナデリコを嬉しそうに受け入れながらグリーンは、俺の左脇腹あたりから抱き着いてきて。
「ありがとうお兄ちゃん……」
そう呟いて抱き着いたまま目をつむった。
……。
……。
ナデリコが難しい体勢になったので左手を軽くグリーンの頭の上に置いてしばらく放置していたのだけど……。
いつまでたってもグリーンからの抱き着きが終わらない……。
……イエロー達のお風呂が終わるまで……この姿勢なのかなぁ?
ま、いいけどさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます