第99話 Fランクは査定する

「取り敢えず武器はこれにしようと思ったんだけど……タイシはどう思う?」


 こんにちは、タイシです。


 今日は『五色戦隊』の皆と冒険者街へとお買い物に来ています。


 お財布として、とあるお店に連れ込まれ、レッド本人から購入予定だという片手剣を見せつけられている。

 お店には他に客がおらず、中古の安そうな武器が適当に樽に突っ込まれている以外はカウンターがあるのみのお店だ。

 ちゃんとした商品はカウンターにいる武器屋のおっちゃんに頼んで出して貰うシステムっぽいね。


 俺はレッドから片手剣を受け取ると鞘から抜き放ち、刀身から手元までじっくりと確認していく。


「タイシ兄ちゃんは武器の良し悪しが分かるの?」

 武器を確認している俺の横にいるイエローがそんな質問をしてきた。

 イエローは特に買いたい物がないために俺と一緒に行動している。


「ああ、まぁぼちぼち程度にはね」

 細かい説明を武器屋の店主に聞こえる場所でするわけにもいかないので、曖昧に返事するだけに留めておいた。


 この世界は脳筋である。


 何故そう断言できるかというと、戦闘に関するスキルが上位スキルと認識されているからだ。

 その脳筋仕様が、俺が日本にいた頃から持っていたスキルがこの世界に馴染む順番に影響してくるんだよね。


 なもんで、武器や防具を作れたり品質を判定できる〈鍛冶〉スキルなんかを使えるようになるのが、かなり後になりそうなんだよなぁ……。

 でまぁそれとは別に、世界から戦闘に関係ないと見なされるスキルは世界に馴染み済みだったりもする……〈編み物〉や〈縫製〉だってゴブリンのツタ製鎧を作る時に役にたったんだけどな……。


 ファンタジーというか、この世界の眷属神達の決めたルールがよく分からんのよな……。


 まいいや。


 そんな訳で俺には商売系の能力もいくつか使えるようになっており、その中の〈査定〉というスキルを使えば、物品の価値が……無条件で分かる訳ではなく、基準となる物に比べてどうなんだ? みたいなイメージが頭に湧いてくる。


 ……うーむ、説明が難しいが、今もっている片手剣だとしたら、レッドが前に使っていた剣に比べたらどれくらいの価値の差があるかっていうのが感覚的に分かるというかなんというか……まぁ査定する事ができる。


 頭の中に攻撃力とか耐久値みたいな数字が出てきたりはしないよ?

 ……まぁレアスキルの中にはメニュー画面とか数字が出てくるようなスキルがあるらしいけど……そういうのは日本でもすっごい高かったからね、手が出せなかった。


 そうしてこの剣はというと……ふむ……。


「レッドが今使っている片手剣の7割増しくらいの価値があるな」

「……それって良い事なの?」

 レッドは俺の査定に対して首を傾げている。


「レッドが使っている剣の値段はいくらだったの?」

 イエローが俺とレッドの横から口を出す。


 問われたレッドは自身の腰に装備された片手剣をさわりながら。

「えっと、両親からのプレゼントだから値段までは……うちも裕福じゃないからたぶん一万エル前後だと思うけど……」


「じゃぁ、この剣の値段は?」

 俺は片手剣の刀身を鞘に納めながらレッドに問う。


「三万エルちょっとだったかな?」

 レッドが答えた値段は、俺の査定より高かった。

 まぁレッドが使っている剣の値段が予想でしかないからあれなんだが……。


「値段相応の武器だと思うぞ」

 それほど査定と乖離していないのなら、ぼったくりや粗悪品ではないのではないかと思う。


「ふーん……じゃぁこれにしようかなぁ……うーん……ああもう! こんな高い買い物初めてだから迷っちゃうわ! タイシはどう思う?」

 困ったレッドが俺に助けを求めている。


 イエローは物の価値について良く知らないっぽいので、俺の側で成り行きを見守る事にしたようで大人しくしている。


 そうだなぁ、三万エルってさ、物の価値的に日本で言うなら車が買えちゃうくらいだとは思うのだけど……。


「安すぎる、もっと良い物にしておいた方がいい……まぁ予備武器としてこれくらいの片手剣も買っておいてもいいかもしれないけどな」

 と俺は答える事にした。


「は? ……え? だって三万エルの剣よ? 安すぎるってそんな……新品の剣なのよ?」

 レッドはさらに困惑しているようなのだが……。


 だってさぁ、俺銀行への預け金がいくらあると思ってんだよ……八十万エル以上だぜ? 冒険者ギルドからの報酬分だけだって一人十八万エルあったんだぜ?

 命をかける武器防具なんだから、もう少し良い物を買ったほうがよくね?


 ……まぁ、まともな装備を持っていない俺が言うのもなんだけどさ……。

 俺はほら……後衛だから。


 俺は持っていた片手剣を武器屋の店主っぽいおっさんに渡しながら。

「武器屋のおっちゃん、この剣は冒険者ランクでいうとどれくらいの奴らが買う物なんだ?」

 と質問をした。


「ああ、まぁダンジョンに潜り始めて多少は稼げるようになった頃の冒険者が手を出す品だから……Eランクだな」


 ああ、やっぱり……レッドは13歳だし、見た目もまだまだ子供っぽいからな……それでもちょっと質の良い高めな品を出してくれたんだとは思うが。


「まぁこの子はそんな感じに見えるよね……なぁおっちゃん、低ランク冒険者のくせにテイムカードを何枚も出して大儲けした冒険者パーティの話を最近聞いたりしなかったか?」

「ん? ああ、そういやそんな噂は聞いたな、それがどうし……まさか? お前らがそうなのか?」


 武器屋のおっちゃんの疑問に対してニヤっとした笑みを返しながら。


「予算は倍で頼む」


 と、一言返してあげると。


「お、おう! まかせろ! Dランク帯の冒険者がよく使っている黒鉄鋼製の剣でいいよな?」

 という言葉を残し店のカウンター奥の棚で武器屋のおっちゃんが武器を探し始めた。


 ガチャガチャと武器屋のおっちゃんが黒鉄鋼製の剣とやらを探しているなか、レッドが俺に近づいてきて。


「えっと……どういう事なの? タイシ?」

 俺やおっちゃんの会話や、さっきの剣に駄目出しされた事が理解出来てないレッドが下側から俺の耳元でそう囁いた。


「レッドがおっちゃんに何て言ってあの剣を見せて貰ったのかは知らんが、お前の見た目と雰囲気で低ランク冒険者の買い物だと思われていたんだよ」

「……でも私は実際に低ランクだし……間違ってないよね?」


「普通ならそうなんだけどな、レッドはテイムカードで一発当てたのだから、普通より良い物を買っても問題ないんだよ……命を預ける装備なんだしさ」

「確かに……そうかも……なんとなく貧乏な頃の性分が出ていたかもしれないわ……ありがとうタイシ、所で……予算を倍にした理由を聞いても? もっと高くてもいけるわよ?」


 俺はパチリッと指を鳴らし〈生活魔法〉で俺とレッドを囲むように遮音結界を張る。


「俺とレッド達がテイムカードで手に入れた資金なんだが、等分割りなら一人十八万エルという情報が商人に出回っている可能性は高い、なので、剣より高くつく防具の事も考えたら……武器に使える予算はそれくらいになるんだよ」

「十八万エル? ……あ、そうか! 冒険者ギルドのオークションで手に入れた額が情報として出回っているかもなのね……なるほど……」


「まぁエルフの侯爵領に行った時にもっと良い物を買ってもいいし、そのあたりは皆にも言っておかないとな……ちゃんと事前に注意しなかった俺が悪かったわ、すまんなレッド」

「タイシが謝る事じゃないわよ、武器の更新はしておきたかったし……もっと良い物を買うにしても予備装備は必要だから、ここで買っておこうと思うわ!」


「そうか……まぁそれがいいかもな」

「うん!」


 とまぁ俺とレッドが遮音結界の中でこそこそと仲良く会話を続けていると、寂しくなったのか、イエローが遮音結界に侵入してきて、俺の腕をそっと掴んできた。


 その、寂しいから構ってと言わんばかりの様子に、俺とレッドはお互いに視線を合わせると……。


「ぷっ」

「ふふっ」


 と同時に吹き出しながら、俺とレッドはイエローの頭をナデリコしていくのであった。



 ……ちなみに武器屋のおっちゃんはいまだに店の奥の棚でガチャガチャと探し物をしていた……バックヤードの整理くらいしておこうよ……。





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