第95話 Fランクは後悔を公開する。

 テイムカードの報酬を分配する予定だったのに、俺が思い至らなかったレッドの気持ちを知る事になってしまった。

 そっかぁ……レッドが俺をなぁ……もしかして俺は女心が分かっていないのだろうか?


 公爵家に呼ばれた時に、銀髪お母さんエルフな侯爵様や熊獣人貴族女性にも色々言われたけど……俺は俺をふったあいつの事をまったく理解出来ていなかったのかもしれないな……。


 まぁ……過去の事を後悔するのは後にして、俺に真っすぐな気持ちをぶつけてくれている子達には、誠実に応えるべく……俺の過去の事を公開するべきだな……。

 ……ダジャレじゃないからな?


 俺の事をそこまで想ってくれているのならば、俺は過去のトラウマをこの子達に話そうと思う。

 ココも知っている話だしな……。


「なぁレッドにピンクにイエローにグリーン、ちょっと俺の過去の話を聞いてくれるか?」


 ブルー君には俺の色恋沙汰部分は関係のない話なんだが……まだ報酬を分配する前に部屋を出ていって貰うのもなんだし、そこで案山子になっていて貰うとする。


「どうしたのタイシ?」

「タイシさんの真面目な表情も素敵です、プラス20ポイント!」

「タイシ兄ちゃんの過去?」

「……コクッ……」


 それぞれの反応を受けながら俺は過去の話をしていく。

 ……ってかグリーンさぁ、お前のそのオノマトペを口に出す奴は、人見知り故なのか、それとも元配信者としてのクセか何かか?


 そうして俺は公爵家でも話した失恋話の事だけでなく、さらに俺自身の生まれや生い立ちなんかを含めて皆に話していく。


 ……。


 ――


 俺の実家が異世界日本では数百年以上系譜を遡る事の出来る魔法の名家だった事。


 そんな魔法の名家では先天性の血統スキルの継承が大事な故に、歴代最弱の能力だった親父は……魔力の高い嫁を金で買う契約結婚をした事。


 俺が生まれた事で契約の完了した母親はすぐに離婚して家を出たそうで、そのために俺は、世間でいう母親という存在のありようが又聞きや物語の中での事でしか知らない事。


 父親からの愛情等は一切感じられる事はなく……子供の頃はうちで働いていた女中や下男に世話して貰っていたので、家族という物も良く分かっていない事。


 そんな環境で成長した俺は、異世界日本で一人暮らしにシフトして探索者専門高校という教育を施す場所に通いながらも探索者として活動を始めた事。


 その高校を卒業する頃には探索者として名をあげていて二つ名持ちだった事。


 そしてその頃に……一人の女性と知り合い、お付き合いを始めた事。


 その女性と一年以上お付き合いをして……ちゃんとした家族に……憧れていた家族という物になりたかった俺が、結婚のプロポーズをしたら金目当てだったと言われて断られた事。


 ……それを受けて俺の心は少し壊れて……その後は少しの間、遊びの女性関係で荒れた事……。


 そして多少の時間が過ぎてある程度立ち直った俺が、裏の仕事を受けて……この世界に転移された事。


 この世界の公爵家で失恋話を披露する羽目になった時に……俺を振った彼女が本当は金目当てなんかじゃなく、何か事情があったのではないかと気付いた事……。


 それにより、過去のトラウマと後悔が心の中でグチャグチャと渦巻いており、娼館で遊ぶくらいならまだしも、結婚となると息が詰まる事。


 等々時間をかけてゆっくりと皆に話していった。


 ……。


 ――


「とまぁ……俺の過去はこんな感じでな、皆の事は人として好きだし、女性としても可愛いなと思うんだが、いざ結婚という事になると……心の奥がこう……ギュッとなるというかな……」


 そうして俺は話を締めくくった。


 ちなみに説明の間〈道化〉を始めとしたデメリットスキルはOFFにして効果が出ないようにしていた……ふざける場面じゃなかったからな……。


 俺の事を見つめながら話を黙って聞いていてくれた皆が、話が一区切りした事が分かったのだろう、ホッと一息ついたり冷めたお茶を飲んだり視線を上に上げて何かを考えている。


 ちなみにブルー君だけは居心地悪そうにモジモジしている……うん、ほんとごめんな!


 そんなシーンとした静けさの中に、飲み終わった木製の茶器を置くコトッとした音をさせながら、レッドが口を開く。


「つまりタイシは……遊びなら問題ないけど、本気のお付き合いが怖いのね?」

「ああ……そうだな……」


「なるほど……だからピンクの積極的なアタックにもあんな風に……」


 そうしてレッドは口を閉ざし、次に声を出したのはピンクだった。


「タイシさん、女性が16歳になってからじゃないと結婚を考えられないというのは嘘だったんですか?」

「それくらい時期が空けばピンクが心変わりする事もあるかなって最初は思っていたな……今はそんな事思っていないが……」


「つまり三年後に私と結婚する未来もあり得ると?」

「……ああ、このトラウマも時間が立てば癒えるかもだし……そういう未来になったら……結婚も……家族を作る事もありかなとは……思っている……」


「成程……ならば良しです! 私の愛情でタイシさんの心の傷を三年以内に癒せば済む事ですから! ばっちりと私におまかせです! 苦しい事を告白してくれたタイシさんには、お嫁さんポイント千アップです!」


 ピンクは前に出した右手の拳を握りしめながらそう宣言してきた……強いよなぁピンクって……。

 ちょっとポイントの単位がおかしいけど、そこはスルーしとこう。


 っと、イエローが右手をちょこっとあげて発言の許可を待っている、なので俺はイエローに視線を合わせてコクリッと頷いてあげた。


「……タイシ兄ちゃんは僕の事を嫌々受け入れてたりするの?」


 少し悲しそうな表情を見せるイエローだが、いやいやいや、待て待て待て。


「こんなに可愛らしい僕っ専属メイドさんを嫌がる男がいる訳ないだろう!? 普通にイエローがメイドさんになってくれて超嬉しかったよ! 俺は別に……可愛い物を可愛いと思う心がなくなった訳じゃないんだっての……」


 なんでそんな勘違いをしたか知らんが、イエローの懸念はすぐさま否定しておかねばならんと思うので、力強くイエローが可愛いと宣言する俺だった。


「か、可愛くて嬉しかった? エヘヘ……じゃ、じゃぁタイシ兄ちゃん! 僕の体の匂いは好き?」


 お、おう……ここでその話を持ってくるか……だがここは嘘をつかずに素直に言うべき状況だな……くっ……。


「……勿論、イエローの甘い体臭は……良い香りで……好きな……匂いだよ……」


 俺の返事を聞いたイエローは、体をモジモジとさせながら。


「えへへ、僕もタイシ兄ちゃんの匂いは大好き……だから……相性の良い僕とタイシ兄ちゃんなら、きっとこれから先も大丈夫だよ!」


 そうやって満面の笑みを向けてくるイエローなのだが……ピンクとレッドが『『体の匂い?』』と呟きながら俺に説明を求める視線を向けてきていたりする……。


 だけども順番的に次はグリーンだから!

 残念だけど君達には対応してあげられないなぁ。


 あー残念だ。


 俺は自分の心を守るため、〈道化〉や他のデメリットスキルをONにしていく事にした……。

 お茶らける事で自身の心を軽くする効果は、もしかしたらメリットと言えるだろうか?


 そして俺はグリーンに視線を向けるも……。


「……黒歴史を知る者同士、お似合いだから問題なし……」


 という一言を残して黙ってしまった。


 ……たぶんグリーンの事だから、他の皆がいない時に長文で何かを言ってくれるのだとは思うけど……。

 人見知りというかグリーンは異世界人恐怖症だからな……ああ……結婚恐怖症みたいな俺とは似てるって言いたいのかもな……。


 最後にブルー君に視線を向けるも……関わりたくないのか顔を左右に少し振ってきた……まぁそうだよね、ごめんな。


「まぁ取り敢えず、俺の話は一旦やめて、報酬を分けちまうか……」


 話は終わりだとばかりに俺は報酬の分配を進めていく事にした。

 蚊帳の外っぽいブルー君を待たせるのも可哀想だしな。


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