第70話 Fランクはカツレツにチーズを使いたい

 ふんふんふふ~ん、ふふんふ~ん。


 ハゲ司祭さんとの話し合いも終わり、教会からの帰りがけに明日からの予定をアネゴちゃんへと伝えてから、急いで大工兄ちゃんの所にも話をしにいった。


 急な話にもかかわらず大工兄ちゃんは、明日の午前中に仕事道具持参で来てくれるそうだ。

 段取りが悪いよなぁ俺も、行き当たりばったりだから仕方ないんだけどさ。


 まぁ俺は、ダンジョンのある現代日本ではただの探索者だったからなぁ。

 それ以外の仕事はあんまりした事もねぇし、色々と手探りなのは仕方ないよね。


 以上タイシの反省終わり!


 てことで作業の続きだ、ふふんふんふ~ん、ふふんふふ~。

 そうして鼻歌を歌ってスキルの熟練度を稼ぎつつ調理していく。


 今日は鹿系の魔物の骨を使った出汁をとっていきます!


 冒険者ギルド直営のお店ってのがあって、そこで買える魔物の骨はそこそこ安めなんだよねぇ。


 骨から出汁を取るには長時間オーブンを稼働させたりしないといけないからね。

 そういった燃料費と美味しさを天秤にかけると、三区あたりの人達は安さを優先するから、出汁を取る用の骨の需要はあんまりないって感じらしい……。


 裕福な二区や貴族区や王城なんかでは普通に需要があるみたいだけど、そういう所は低ランクの魔物の骨は選ばないっぽいんだよね。


 なので冒険者ギルドで解体された、お肉を取った後の骨は、畑の肥料用に安く販売してたりするのさ。

 農業系のスキルの中には、生ごみや糞尿から肥料を作る物もあるからね。


 そんで今使っている魔鹿の骨は、ダンジョンの中階層にいる属性持ちの奴なので、ちょっと値段は高め。


 いつも同じ魔物の骨じゃ皆も飽きちゃうだろうからさ、たまには違う味もねーという訳でこの骨を使っています。


 ちなみに屋台で使うパイタンスープは、ダンジョンに出て来る突撃コッコという低ランクな鳥系魔物の骨を使う予定……ちなみに鳥のくせに空を飛べない。


 突撃コッコは角ウサギやらと同じで、お手頃なお肉の供給源として毎日すごい量が倒されるから、肉を取った後の骨の量もすごいんじゃないかな?


 あ、それと、生ごみなんかをスライムに食わせて、排出される土っぽい物も肥料になるそうで……この世界のスライムって浄化装置であり有機肥料製造装置でもある感じ?


 たまたま便利な存在になったのか……それとも意図してそういう生物にしているのか……やっぱ後者かなぁ?


 おかげで、中世と言えそうな街並みとかなのに、あんまり臭くないんだよね!

 ……調理中に臭いだの臭くないだのと考えるのはやめよう。



 俺の日本式〈生活魔法〉さんは圧力釜的にも使えちゃうので、煮込みも手早く出来ちゃう。


 さて火属性持ちの魔鹿骨を煮込んだお味は……ズズズッ……ほほう……少し野性を感じる風味はジビエ料理っぽいイメージだな。


 スープとガラを分けてっと、ガラの方は後でうちのアクアスライムの餌にでもしちゃおう。

 次にこのスープに香味野菜を使って……お肉は魔鹿の肉だと……さっき味見をした感じだとちょっと淡泊すぎるなぁ


 あ、魔鹿骨の出汁を使うならと、ちょっとお高い魔鹿の肉の方も買ってきてあるんです。

 昨日は皆にメニューを考えるのを手伝って貰ったからねぇ……俺のお財布からの出費で買いました!


 まぁ、話を戻してっと、赤身な魔鹿の肉だと風味はいいけどパンチが足りないので、スープには突撃コッコの皮つき部分の肉を入れてコラーゲン盛り盛りなイメージでいこう。


 ふふんふんふ~ん。


 ささっと香味野菜や突撃コッコ肉を処理してスープに投入、そしてさらに煮込んでいく。


 さて、スープを煮込んでいる間に次は魔鹿肉を使おう。


 赤身肉ともいえるこの魔鹿肉で作るのは……そう! カツレツさんだ!


「フフンフンフ~ン、赤~いお肉を薄切りに~、叩いて大きく伸ばしましょ~。はんはんはは~んふふんふ~ん、塩とハーブで下味つけて~麦粉と卵につけまして~、最後にパン粉を……このパン粉にはチーズを粉状にした物が入ってるけど内緒だよ? ハンハンハハ~ンフフンフ~ン、生活まっほうで揚げ焼きに~ふふんふ~ん、最後に――」


「ただいま帰りましたタイシさん、ノリノリの所申し訳ないのですが……いつものをお願いします」


 おっと。


 厨房の入口から中に入ってこず、こちらにそうやって呼びかけてきたのは……。

 全身が赤黒くなってたブルー君だった。


 うへぇ……きったねぇな……。


 ブルー君は俺に声をかけると、すぐさま入口から離れていった。

 厨房に汚い恰好で入ってきたら駄目だという事を、きっちりと理解しているブルー君は偉いね!


 俺は〈生活魔法〉で空中に浮かべて調理していたスープやカツレツを鍋やお皿に入れると、厨房の外へと向かう。


 ブルー君はすでにお屋敷の入口に向けて歩いていて背中しか見えない。

 俺は、ブルー君が歩いて来た通路を〈生活魔法〉さんで奇麗にしながらその後についていく。


 そしてお屋敷の入口まで着くと、開けっ放しになった大きな両開きの扉より外側に……。

 ブルー君より尚酷い見た目の『五色戦隊』の皆が佇んでいた。


「いや、すごいな皆……何があったらそんなに汚れるんだ?」


 皆の表情なんかを見ると怪我とかはしてなさそうで良かったが、何があったんだろうね。

 すると魔物の返り血っぽいものですごい事になっている皆が次々と口を開き。


「魔物の集団を押し付けられたのよ! ったく! マナーが悪いったらないわよね!」


 レッドはひどく腹を立てていて、その声も大きく、憤りの大きさを表しているかのようだ。


「最低な人達でした……」


 対してピンクは、自身の武器である槍の石突を地面に着け、杖のようにしてそれに寄りかかっている……相当疲れているのだろうが、座り込むと玄関口が汚れるから我慢しているのかもな。


「……」


 グリーンの全身はなんかもう……返り血がついている面積の方が多い事になっていて……盾役として職務を果たしたのだろうなという事がよく分かる。


 無言で立っているのも、いつもの人見知りだからだけではなく、心底疲れているのかもなーと思われる。


「疲れたよぉ~タイシにいちゃ~ん……」


 遊撃ポジションなのでメイド服がそれなりな汚れのイエローは、今にも俺に縋り付いてきたそうに両手をこちらに向けて差し出してきたので。


 俺の日本式〈生活魔法〉さん、出番ですよ~。

 とばかりに彼らの汚れを奇麗奇麗にしてあげる。


 ……。


 その間わずか十数秒である。


「ふぅー、こんなものか、俺も飯を手早く作っちゃうから、皆も装備を部屋に置いて食堂においで」


 俺が出てもいない汗をぬぐうポーズをしながら、そんなセリフを吐いていると。


「タイシさんのそれは、相変わらず理不尽なスキルですよね……」


 ブルー君が失礼な事を言っていた。


 失敬な! これでも意外に制御とか大変なのよ? 今は多重起動とか並列処理とかしたし……まぁそういう大変な部分を教えるつもりはないけどね。


 実は大変な作業を、いかにも簡単に対処してるがごとくに見せる方が……カッコイイだろ? フフリ。


「タイシにぃ~ちゃ~ん、ぼくつ~か~れ~た~」


 イエローはその奇麗になったメイド服姿で、俺の前側から抱き着いて……というか寄りかかってくる……自分で移動するのも辛いのか……。


「しょうがねぇな、俺が運んでやるか」


「タイシさんのお姫様抱っこですか! お願いします! プラス10ポイントです!」


 ……さっきまで槍を杖代わりにして寄りかかってたのに、一瞬で元気になってこちらに両手を差し出してきやがったピンクである。


 元気満々じゃね? それならピンクは自分で歩いて……。


 ……いやまぁ、ここでイエローだけお姫様抱っこで運んで、ピンクを仲間外れにしちゃうのは、先日のピンク闇落ち展開の再来になってしまう事くらい俺にも分かる。


 なので俺は、パチンッと〈指鳴らし〉スキルを使い、〈生活魔法〉さんや諸々のスキルを使い『五色戦隊』の皆を荷物ごと空中に浮かべて運ぶ事にした。


「わわっ! ナニコレ……私達空中に浮かんでる?」

「……お姫様抱っことかじゃないんですね……タイシさん、マイナス20ポイントです……」

「わぁ~僕が浮いてる……すごいねタイシ兄ちゃん!」

「……こわっ……」

「タイシさんは相変わらず理不尽な……」


 理不尽って言うけどなブルー君。

 これってば悪意とか敵意とか戦意があると日本式〈生活魔法〉が解除されるから、万能能力って訳じゃないし、しかもその時は君らが床へと落ちるんだよね。


 俺に対する悪意とか敵意をブルー君達が持つとは思っていないけども……戦意は……なんかこう、俺の何かに怒ったりすると……解除される事がない話ではないのよねぇ……


 なので大人しく足を下に向けて普通に浮かんでてください……空中を泳ごうとするなレッド!


 そうして俺の周囲にプカプカと皆を浮かべて各自の部屋へと運ぶ俺。


 ……。


 ……。


 しばらく休んでから着替えて食堂にこいよ~……ま、最悪寝ちゃうかもだけど、それでもいいよ。

 てな事を伝えながら、浮いている皆をそれぞれの部屋へと放り込んでいく俺だった。


 ……。


 ……。


 さて調理を再開する前に……お屋敷の入口から外の道までの間も奇麗にしないとな。

 日本式〈生活魔法〉さんでお屋敷の入口から外の壁にある使用人用の小さな扉までの間を奇麗にしていて思った事がある。


 ……道に面している扉に設置してある、インターホン的な魔道具を鳴らして貰えば、こんな事しなくてよくなるんじゃね? と。


 ……後で皆にはこの事を話しておこう。


 俺がいない時は自分らでどうにかして貰うとして。

 このお屋敷って冒険者の事を考えてないんだよね。


 なので、汚れて帰ってきたら、お屋敷の外を回って裏庭から使用人区画にあるお風呂や洗濯場にある裏口から入るのが一番掃除が楽になるかな?


 この辺りの動線の悪さは、まぁ教会のお偉いさん用だったって事なら仕方ないか……。

 いつか冒険者クランとして使いやすいように改築したいものだね。




 ちなみに、さっき皆を浮かせた時の話なのだが、別に指を鳴らさなくても能力は問題なく使える。

 なんとなく、そっちの方がカッコイイかなってスキルが勧めてくるのでそれに乗っかっただけだ!


 どういう事かというと。


 ……日本にいた頃に覚えたスキル群の中には、デメリットスキルなんかも結構あってさ、基礎能力は上がるが意識や精神に干渉する物なんかもあった。


 だけど、そういったデメリットを打ち消すスキルも存在しているから、そんなスキルとセットにしてアクティブ状態にすれば特に問題はなかったんだけど……。


 今は順番にスキルが世界に馴染んでいる途中だから、デメリットスキルを打ち消すスキルがまだ使えなかったりするのもあるんだよな。


 そんなデメリットスキルなんだけど、多少なりと基礎能力は上がるから、よっぽど酷いデメリットじゃなきゃ使っているんだ。


 例えは精神に干渉するスキルには〈道化〉〈虚勢〉〈見栄張り〉〈恰好つける〉〈武士は食わねど高楊枝〉とか他にも諸々あるのだけど……。


 ……スキル名が酷いのは、そんなスキル名のスキルスクロールがダンジョンの魔物からドロップする設定にした日本を管理している神様か何かに文句を言ってくれ。


 それで、さっきの〈指鳴らし〉で格好つけたのは〈恰好つける〉や〈見栄張り〉が、今だやれ! ってな感じに精神に干渉をしてきたのでやりました。


 これらのスキルからの精神干渉なら無視する事も出来るんだけど、その干渉に乗っかるとスキルの熟練度が稼げて基礎能力値への補正値が上がるから……そのうちデメリットに対抗出来るスキルも世界に馴染むし問題はないと思っている。


 まぁ……〈冷静沈着〉や〈泰然自若〉スキルなんかは、戦闘時に精神的に有利になるって事で、戦闘系スキルとしてみなされる可能性とかはあるんだけどな……。


 確か戦闘系スキルは後の方に馴染むって女神が言ってたから。


 ……そういったスキルが世界に馴染むのは……遠そうだよな。

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