第67話 Fランクの簡単な?

 おはようございます。


 今日も朝からウナギに転生した気分を味わっていて。

 ニュルニュルっと隙間を抜ける事に慣れてきた、タイシです。


 ……。


 昨日冒険者ギルドの受付嬢であるコーネリアことココに、食パンのレシピを届けに行ったらアイアンクローをされました。


 そうなった詳しい理由は昨日の俺に聞いてください。


 その結果、教会の屋台業で出す予定の品を少し変えないといけなくなりました。


 ……こないだ屋台業の従業員になる子達には、燻製関係の事をメインに教える時間しかなかったのは運が良かったというべきなのだろうか。


 と言う訳で。


「今日は冒険者業をお休みしている『五色戦隊』の皆さまにお手伝いをして頂く事になりました~わ~パチパチパチ」


 俺は拍手で皆を厨房へと迎え入れる事にする。


「何のノリなのこれ……」

「知りません、まあタイシさんのやる事ですし」


 と、レッドとブルーは休日の普段着姿で俺のノリをスルーし。


「僕がタイシ兄ちゃんを頑張ってお手伝いするからね!」

「いいえイエロー、タイシさんのお手伝いをするのは嫁である私の役目です!」


 イエローはメイド服姿、ピンクは普段着で俺のノリに乗ってきてくれて。


「聖女様もタイシ兄貴のお手伝いするんです?」

「……」


 グリーンは聖女見習い用の教会服を着て、隣のアネゴちゃんに話しかけられて人見知りを発症させていた。

 ちなみにアネゴちゃんは教会服を簡易にしたような……修道女ではないけど関係者と分かるようないつもの服だ。


「さて、そういう訳で皆、屋台で出す予定のメニューが使えなくなったので……新しいメニューを考えて貰います!」


「それで私達に?」

「僕達は料理とか出来ないですけど……」


「僕はタイシ兄ちゃんが作るなら何でも食べるよ!」

「使えなくなったメニューというのが少し気になります」


「え! それって明日の予定は大丈夫なの? タイシ兄貴?」

「……」


 うむ、大丈夫ではない!

 諸々の予定が狂いそうなので何としても今日中に決めないといけない。


 でも俺が全てを考えると日本の感覚に引っ張られちゃうから、現地の人にもある程度考えて貰うのが良いと思ったのよね。


 そんな訳で、お屋敷の厨房には各種類の燻製肉を用意し、さらに教会の荘園で育てられている各種野菜や果物を用意してある。


 さらに冒険者街で買える一通りのパンやチーズやら諸々の食材も一揃い。

 これらの素材を使って屋台で何を売るのがいいかを、何組かに分かれて考えようと皆に提案していく。


 その途中で、俺の組に入りたいというイエローとピンクが壮絶な5回勝負のジャンケンをした結果……。


 ……。


 ……。


 ――


「タイシと」

「ピンクの」


「「簡単クッキング~」」


 パチパチパチパチと俺とピンクは拍手をしながら、上手かみて下手しもてから移動して調理台の前で合流する。

 うちの厨房は広いから、部屋の中央に調理台があるのよね。


「はい、そういう訳でピンクさん、今日もやってきました簡単クッキングのお時間です」


「はいタイシさん、簡単に料理する簡単クッキング第二回ですね!」



「その通り! ではまず第二回の今回は、この解体された魔物肉を燻製していきます」


 俺の前の調理台には生の魔物肉がドドーンとお皿に乗っている。


「うわー、燻製を一からやるのは大変そうですね~タイシさん」



「そう思うでしょう? そこで今日はすでに完成している燻製肉をご用意しました! じゃじゃーん」


 そう言って俺は燻製肉が乗せられたお皿を出す。


「おー、これは簡単に進行していきますねタイシさん、さすが簡単クッキングです!」


 そうしてピンクと一緒に燻製肉や他材料を紹介していく。



「えっと……またコレをやるの?」

「……僕に聞かないでくださいレッド……」

「……三分?」

「タイシ兄貴?」


 レッドやブルー君やグリーンやアネゴちゃんは困惑しているが、俺達はそれをまるっとスルーした。



「はい今日はまず、こちらの燻製肉を、このように程よい大きさにカットしていきます」


「食べやすい大きさに切るんですね、タイシさんは包丁いらずで調理出来るから簡単ですね!」


「はい簡単です、そしてこれらの洗った葉物野菜も同じようにカットをし……後お願いしますねピンクさん」


「はい、こちらタイシさん特製のナッツ黒パンをスライスした物に、簡単にカットされたそれらをこのように乗せていきまーす、ただ乗せていくだけなので非常に簡単です!」


 ピンクは俺がカットした野菜や燻製肉を、スライスしたナッツ黒パンの上に並べて、そこにマヨネーズをかけてから再度野菜を乗せて、最後にナッツ黒パンで蓋をする。


「はい完成しましたね、今は簡単に〈生活魔法〉を使ってカットしましたが、ピンクや皆さんは包丁を使いましょうね~」


「殺意や敵意が側にあると、その〈生活魔法〉は使えませんものね? ……無事に使えて良かったですね? タイシさん?」


 なぜそこで怖い一言を挟んでくるんだピンクは……。


「さて、このナッツ黒パンの燻製肉サンドを馴染ませるために、硬く絞った濡れ布巾で包んでから重しを上に乗せてしばらく置いている間に、もう一品作っていきましょう」


「はい、簡単に作れる簡単料理の追加ですねタイシさん、所で材料が見当たらないのですが……」


「そこは大丈夫ですピンクさん、さて材料を持って来て貰いましょう、アシスタントのイエローさ~ん」


「は~い、タイシ兄ちゃん! これでいい?」


 イエローが新たな素材を調理台に運んで来てくれる。


「……何故……じゃんけんで負けたイエローが……出テクルンデスカ? タイシサン?」


 さっきまで笑顔だったピンクの顔がスンッと無表情になりました。


「じゃんけんに負けて泣きそうだったので、アシスタントとしてピンポイントで出演して貰う事にしました!」


「なるほど? 簡単クッキングって……寝る場所の勝負で負け続け……やっと……やっと! 初めてジャンケンに勝てて喜んでいた私の思いが、簡単に覆されるという意味ダッタンデスネ?」


 おおう……ピンクがちょっと怖い、部屋の温度がちょっと下がったかな?


「ええっと……今回これらのジャガイモや野菜を茹でたり潰したりするのですが……」


「……」


「なんと! すでに出来上がった物がここにありますピンクさん!」


「……」


「とはいえ味を確かめてみないといけないですよね? そこでピンクさん味見をよろしくお願いします、はいピンク、あ~んして~」


 俺は素材をどかした調理台に、ポテトサラダが盛られたお皿を乗せ、それをスプーンですくうと、ピンクの口に向けてあ~んと言いながら差し出すのであった。


「んもう! タイシさんったら! こんな新婚夫婦みたいな事をしてくるなんて~、仕方ないんですから~あ~んパクッもぐもぐ、タイシさんの愛情が籠っていて美味しいです!」


 ピンクは無表情から一転、笑顔満点の表情に変わっている。


 チョロイ。


「味は丁度良いみたいですね、ではこれもスライスしたナッツ黒パンに挟んでいきましょう、お願いしますピンクさん」


「はいタイシさん、さっきと手順は同じだから非常に簡単ですね~」


 ピンクが作ったポテサラサンドも濡れ布巾で包んでから重しを乗せ。


「では、これらにも重しを乗せてしばらく待つ……のは大変なので、こちらにしばらく前に作った物を用意してありますピンクさん!」


「わ~待たなくていいなんて簡単ですね~タイシさん」


 俺はピンクの前に重しによってパンと具材を馴染ませた、燻製肉サンドとポテサラサンドを乗せたお皿を出し。


「ではピンクさん、このパンの真ん中に包丁を入れて皆さんに中身が良く見えるようにしてあげてください」


「了解しましたタイシさん、えーっと、よいしょっと……」


 ピンクが手際良くナッツ黒パンに包丁を入れ、中身が良く見えるようにお皿に配置し終わると。


 その具材が良く見えるようになったパンの断面が、観客の皆さんに見えるようにお皿の向きを整え。


「いかがですか皆さん、この簡単に作れる簡単サンド、人気が出ると思いませんか?」


「美味しそうですよね~タイシさん、所で、簡単に機嫌がなおってチョロイとか思ってませんよね?」


 ……おっといかん、時間が押している。


「以上、簡単クッキング第二回でした~、皆さん第三回でまたお会いしましょう~」


「最後に予定していた手順を変えて私に包丁を使わせたのも……〈生活魔法〉が使えない可能性を考えたからでは? ところで、第三回の相方は勿論?」


「はいっ! 第三回のタイシとピンクの簡単クッキングをお楽しみに~ばいば~い」


「言質取りましたからねタイシさん! また次回お会いしましょう~ばいば~い、うふふふ~」


 ブルー君やレッド達の困惑した空気を一切無視し、こうして俺とピンクとアシスタントのイエローは簡単に屋台メニューを提案するのであった。







 そして……女の子はチョロくないと学習した……タイシです。


 反省します。

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