第68話 Fランクの調理指導

 こんにちはタイシです。



 昨日『五色戦隊』の五人とアネゴちゃんと共に、お屋敷の厨房で考えた屋台用のメニューを、実際に屋台を運営する子達に教えている所です。


 昨日協議した結果採用されたのは。


 俺とピンクとイエローが簡単に提案したナッツ黒パンを使った燻製肉サンドやポテサラサンド……の改良品と。


 レッドとブルー君が提案してきた、具材がたっぷりなスープと。


 最後にアネゴちゃんとグリーンが提案してきた、屋台でよく見かける果物なんかを絞った飲み物と。


 最後に皆で協議した、魔物肉の串焼き。


 になりました、パチパチパチパチ。



 ……まぁあれだよ……元々は食パンの代わりにナッツ黒パンを使う事にしただけの提案だったんだけど、ついでにこないだ作ったポテトサラダが好評だったのもあってポテサラサンドも加えたんだよね。


 なんでかというと教会の荘園では色々な作物を栽培しているけど、ジャガイモは庶民の食卓の味方として大規模に作られているからなんだよな。

 大量に生産されるジャガイモを使ったメニューは他にも考えたい所だ。


 三区あたりだとジャガイモはスープの具にするか、バターとかを使わないで味付けが塩だけのマッシュポテトにするのが普通らしい。


 それとココに聞いた通り、マヨネーズの存在はそこそこ知られているみたいなんだけど、三区では一般的に使われてないっぽいのは……卵が日本に比べると少し高めだかからかなぁ?


 ……というか、卵10個で100円そこそこな日本がおかしいんだよな……。


 ダンジョンのある現代日本の場合、魔力を帯びていない普通の作物や動物なんかはかなり安めに流通してたからね。


 時間湧きだけども草原フィールドで無限に牛や豚や鶏や卵がPOPするんだもの……。


 俺の言い間違いじゃないぜ? がPOPするんだよ……他にも小麦やら果物やら……まぁアホみたいな量が産出する訳ではないので、農家とか畜産家が潰れる程じゃなかったんだけど……あれはやっぱり神や天使がダンジョンを調整してたんだろうなぁ……。



「タイシ先生! こんな感じでどうですか?」


 エプロンを装備した俺がそんな事を考えていると、側にいた子から元気よい声がかけられる。


 その子は俺と同じエプロンを装備し、調理系のスキルを祝福で得た成人したての孤児院出身の男の子で、彼は鉄製の大きなしゃもじのような物を使い、パン釜から焼きあがったばかりの黒パンを取り出して俺に見せてくる。


 今俺はダンジョン街にある女神教会全体の食事を作る大厨房の一部を借り切って、屋台で働く調理担当の子らと一緒に調理の練習をしている。


 大きな教会の全ての食事を作る場所なので、めっちゃ広いし、調理系の魔道具も充実していて、大きなパン釜の魔道具もあるんだよねぇここ。

 三区の一般家庭なんかでは薪を燃料にして調理したりもするんだけど、教会くらいの規模になると魔石を燃料にする魔道具な調理器具は必須っぽい。



 その差し出された焼けたばかりの黒パンは、丁度良い焼き加減でパン釜から取り出されたもので。


 アチッ!


 焼きあがったばかりの黒パンはすっごい熱いんだけど、俺の調理系スキル群のおかげで、指で触った時の弾力具合で大体の状態が分かる。


「うん、大丈夫そうだ、そのまま数を焼いてみてくれ」


 黒パンは大丈夫そうなので、パン焼き担当の男の子には続けて何度も黒パンを焼いて練習するように指示を出した。



 今回屋台で使うパンなのだけど、俺のナッツ黒パンは協議の結果不採用になった。


 ……天然酵母の確保とかがね……そりゃ個人でやるのとは規模が違うもんな。


 ブルー君達に言われるまで気付かなかった、タイシです。


 まぁ、俺一人でもナッツ黒パンも酵母も大量に用意出来ない事もないんだけど、これからずっと付きっきりで世話していく訳にもいかないからね。


 そこで、普段焼いている黒パンを、少し加水率を変えたうえで形を饅頭型からコッペパンのような形にしてみた。

 ……なのでこの黒パンはこれからコッペ黒パンとでも呼ぶ事にするか。


 三区で食べられている黒パンは、保存性を考えたものだからパンが硬いのよね。


 どうせすぐ食べちゃうのなら保存性とかそこまで考えなくても、なんて思っていたら……。

 五日に一度くらいの頻度で沢山黒パンを焼く事で、燃料代なんかを安く仕上げるためもあるんだってさ……なるほどねぇ……。


 そのパン焼きの燃料に使う魔石代な経費を聞いた俺は……小規模の商いなら分からなくもないけど、教会規模で商いをするのなら、毎日パン釜を使っても採算が取れる計算をハゲ司祭さんに示し。


 商売用に毎日パン釜を使う事を承知させた。


 まぁ今練習で使っているパン釜で消費される魔石代とかは……俺の財布から出ているんだけどね!


 まだ商売が始まっていない机上の空論だから、教会側に払わせるのはあれだよね。

 実際に屋台で儲けが出せるようならば、後で必要経費として認めてね? とハゲ司祭さんとは話がついている。


 そんな訳で、一般に売られている黒パンよりは少し柔らかいコッペ黒パンの上側に切り込みを入れて、そこに燻製肉や野菜を挟んで売る形にしたって訳。


 ホットドッグみたいなイメージかなぁ?

 まぁそれと比べるとパンが堅めになっちゃうけど……スキル持ちは身体能力が高いので顎も強いだろうから、きっと大丈夫!


 そしてスープの方が……。


 パン釜から離れた俺は、スープを大きな鍋で作っている、エプロンを装備した成人したてで孤児院出身な女の子に声をかける。


「スープの方はどうだ?」


 火にかけられた大きな鍋を、長いレードルでかき混ぜていた成人直後な女の子は俺の方を向くと。


「あ、タイシ先生! 丁度味見をお願いしようと思っていたんです! よろしくお願いしまーす」


 そう言って女の子は、かき混ぜていたスープを深めの皿に盛り、俺に差し出してくる。


 これがブルー君やレッドが提案した……普通スープだ。


 ……いやまぁ、冒険者街にある屋台街とかでは、総菜包みクレープや黒パンの販売もそうだが、こういったスープを売る店も結構あるそうなんだよね。


 屋台街にはフードコートみたいな共有の椅子やテーブルが置かれているのが普通で、そこで屋台で買った色々な物を食べるのだけど、スープ系は必須だと力説されたのよね。


 これはココが言っていた、硬いパンをスープにつけてから食べる習慣と関係あるのかも。


 そして調理が苦手だからなのか、そのスープの内容にまでは一切言及しないブルー君とレッドだったけど……その意見は納得のいく物であった。

 普段よく見る料理に安心する人とかもいるかもだしね。


 てことで、奇をてらわない普通のスープを目指した。


 ……ごめん、嘘ついた。


 そのスープの見た目は、屋台街でよく見かける塩とハーブ味のスープに見え……ません。

 まぁそれらよりかは、白っぽく見えるそのスープは。


 パイタン、もしくはパイタンスープと呼ばれる物になっている。


 ここでもやっぱり長時間煮込むと燃料の薪代や魔石代が云々という話が出てくるのだが……うるせぇ知るか! とばかりに、魔物の骨をじっくりと煮込ませた……。


 俺は女の子に渡されたパイタンスープをスプーンで一口飲み……そして具材の根野菜や魔物肉もモグモグ……。


 むぐむぐ……ごくんっ。


 俺は女の子に対して、片手をグッドマークにして見せると。


「美味い! この感じでまったく問題ないので、このまま進めてくれ」


 と褒めていく。


「やった! こんなに長い時間、燃料の魔石を消費するのはどうかと思ったんですけど……すっごく美味しいですよねこれ!」


 うむ……まぁ俺の〈生活魔法〉さんだと、圧力鍋的な使い方も出来るので、経費ゼロで尚且つ短時間で出来ちゃう味なんだが……まぁそれはここで言うべき事ではないな。


 俺は女の子に器を返すと次なる場所へと……。

 行かずにクルっと踵を返してパン釜の様子を再度――


「ちょ! タイシ先生ってば何処いくんだよ!」

「私達の成果の味見もお願いします!」


 タイシの両腕は成人して一年くらいの男女二人に背後からガシッっと掴まれてしまい、逃げる事が出来なかった……。


 くそっ!


 しょうがないので、俺は改めてその男女ペアが担当している調理台へと、体をクルっと回転させて正対した。


 ……。


 そこには、いくつもの並べられた木製のコップが大量に置いてあり、その中の液体は……。


「なぁ、なんでこんなに、深くて濃い緑色とか、濁った血の色とか、ヘドロ色みたいな飲み物が出来上がっているんだ?」


 そう、俺の前の調理台では、飲み物を作成していたはずなんだが……。


「タイシ先生が、果物単体ではありふれた味になるって言ったんじゃんか!」

「そうよ! ならどうすればって聞いたら、野菜を飲み物にする地域もあるって教えてくれたんじゃないの!」


 そう男女二人は連携の取れた物言いをしてくる。

 さすが、婚約しているだけあって息がぴったりだね。


 この二人はアネゴちゃんと同期の子達で、生活が安定する収入を得る事が出来たら正式に夫婦の宣誓を教会でしようと約束しているらしく……つまり婚約者同士。


「確かに俺はそう言ったが……勿論味見をしながら作ったんだよな?」


 どうにも見た目がやばい飲み物が混じっているんだよな……。

 俺の質問に対して、婚約者な男女はさっと視線を俺から外し。


「最初はタイシ先生に飲んで貰おうかなって……」

「そうそう、やっぱりここはタイシ先生にぎせ……評価して貰おうかなって」


 ……今お前、犠牲って言いかけなかったか?


「……お前らも同時に飲め」


 俺が低い声でそう二人に命令すると、彼らは泣きそうな表情で小さな器三個にヘドロっぽい見た目な飲み物を分けていく。


 そして、お互いに見合って同時にそれを飲んでいく。


 ……。


 ……。


 ん?


「意外に飲める味だな……」

「ですね、タイシ先生……」

「びっくりした……」


 見た目は悪いが、日本の甘味が少な目な野菜ジュースに似ていた。


 ……ふむ。


「ちょっと果物も足したりして、見た目と味をどうにか出来ないか色々試してみろ」


「悪くない味ですけど、果物だけで作った方が美味しいんじゃないですか?」

「そうそう、無難な味になりますけど果物は甘いですし……」


 それだと何処にでもある、果物を絞ったジュースを扱った屋台と同じになっちゃうだろ?


「異世界から召喚された異世界人が伝えたとされる、果物と野菜を絞って混合させた飲み物には、食物繊維やビタミン類等栄養分が豊富で……お肌がツヤツヤの状態になったり、後はお通じに効く……という……個人の感想があったりなかったりする……」


 うむ、こういった効能を喧伝する時は、最後に内容を濁すのがありがちだよな、ちなみに最後の方は小さい声で言っている。

 この世界には景品表示法なんてのはないだろうけども。


 俺の言葉を聞いた婚約者な男女二人の反応は……。


「へぇ……お肌? お通じ? えっと……異世界から召喚されたっていうとお城にいるっていうあの? あいつらの言う事なんてあてに――」

「お肌ツヤツヤ!? それとお通じも!? それは……頑張って見た目と味が良い組み合わせを見つけないとですね! タイシ先生! ほら×××もさっさと始めなさい!」


 女の子の方がすごい乗り気みたいで、すぐさま野菜果物ジュースの開発に乗り出したのであった。


 ちなみにその開発過程での味見は、全て男の子に任せる事にした、タイシです。


 さらばっ。


 ……。


 ……。


 さて最後は魔物肉の串焼きなんだけども……これは塩を使った味付けをし、そこらの屋台にもありふれている串焼きを出す事にしているので、専任調理人として指名する人はまだいません。


 今回はまず燻製肉を表に出す場だからね。


 タレ焼き鳥は、のちのちの屋台メニューのテコ入れ時か、もしくは単純に屋台を増やす時に使おうと思っているんだよね。


 なので今回は普通の塩味な肉串にする予定だ。




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