第65話 Fランクのパン事情
こんにちはタイシです。
今日は朝から冒険者ギルドへと向かい、公爵様へ食パンのレシピ等をココに渡す予定だったのですが……。
思ったよりも時間がかかってしまった。
珍しく見習い用の受付に他の冒険者がいたりした事も理由の一つではあるのだけど……一番の理由はココが恥ずかしがって、元に戻るのにしばしの時間が必要だった事が一番だろう。
……どうして恥ずかしがったのかは……まぁ説明する程の事でもないのだけど。
そこでずっと頬を赤くして顔を伏せている時間をかければかける程、さらに周りからどんな風に見られるかとか……ココはやっぱり気付いてないんだろうなぁと思っている。
ご飯休憩の時とかに同僚に色々聞かれそうだよね、まぁ頑張れココ。
……。
そして特に問題なく食パンのレシピをココに渡す事が出来た。
一応試食用にと食パンを〈引き出し〉から出してココに渡しつつも……。
「本当にこのレシピに価値があるのか?」
と一応聞いてみたら……。
「あのですねタイシさん……この世界の一般庶民が食べるパンというのは、地球でいうハード系の物が多いんですよ」
「ハード系って……堅い奴か? フランスパンとかライ麦パンとかカンパーニュみたいな?」
まぁ冒険者街で売られている黒パンも、日本のライ麦パンよりさらに堅い奴って感じだものな。
「ええ……かんぱーにゅってのがどんなパンなのか私は知らないですけど……、ライ麦パンやフランスパンが近いですね、そして二区や王城になると小麦をメインにしたロールパンというか、酵母を使った柔らかい饅頭型で小麦をメインに使った白パンがあるんですが……砂糖とかをパンに使うって話はあんまり聞いた事がないんですよ」
……そういや、公爵様の所で食べたパンも饅頭型の小麦パンがあったな。
「つまり?」
「サンドイッチというか総菜をパンに挟むという行為もメジャーではなく……タイシさんが前に食べさせてくれた、食パンに葉野菜や燻製肉を盛り盛りに使ったサンドイッチみたいなのは……初めて見ましたよ? そもそもパンにはバターやジャムを使う物という既成概念があるんですよねぇ、後はスープにつけたり?」
あらまぁ……なんていうかヨーロッパの人みたいな感覚か?
あっちの人が日本の『焼きそばパン』や『カレーパン』なんかを見るとびっくりするって聞いた事があるしな。
「おおう……でもまぁココが知らないだけで何処かで食べられている事はあるかもだよな?」
ココの話に多少の納得はしたけども、一応少し反論していくタイシだったのだが。
「それはあるかもですが、そうだとしても私が存在を知らないと言う事は、それはつまり……レシピが秘匿されているって事ですよね? タイシさ~ん?」
はい、そうですね、タイシ理解しました!
なので……その聞き分けのない子に分からせる的な、アイアンクローをしそうな手のニギニギを見せてこないでくださいお願いします何でもします。
……。
うーん、しかしどうしようか、ハゲ司祭さんに食べさせた燻製肉なんだが、俺は食パンを使った燻製肉サンドにして屋台で売り出そうと思ってたんだよねぇ……。
ハゲ司祭さんには燻製肉を食べさせただけだし、あの人はそのまま売ると思ってたのかもしれないなぁ……。
「実は教会直営で屋台を出して、その屋台で食パンを使った『燻製サンド』を売り出す気だったんだけど……まずいかな?」
俺のその言葉を聞いたココはガクッっと肩を落とすと。
少し疲れた様子で……しかし素早く俺の顔面を片手で掴むと!
「……また……タイシさんは……新しい事を……やる時は……相談をしろと……言われて……ますよねぇ?」
ミシミシっという骨が軋む音が聞こえる気がする!
痛い! アイアンクロー痛いから! ギブッ! ギブミーチョコ! あ、これ違った。
ヘルプミー!
ってかココさん!?
こんな姿を他の人に見られたら『彼氏が浮気でもしてたの?』とか噂されちゃうけどいいの!? だからやめてくださいお願いします何でもします。
……。
……。
どうにかアイアンクロー刑を許された俺は、ココのお説教を聞いている所です。
「いいですかタイシさん、タイシさんが最近作った、えーっと『ナッツ入り天然酵母使用ライ麦メイン黒パン』は、ライ麦の全粒粉が使われているためか見た目がハード系のこの世界のパンに似ているからまだましだったんです」
「はい」
「ですが、あれですら、いざ食べてみると見た目とは違って予想以上にふんわりとした食感と香ばしいナッツの香りで……またあのパンの差し入れをくださいお金は払うので」
「はい」
「ええっと何処まで話しましたっけ……そうだ、つまりナッツ黒パンでさえ新たな風味の美味しいパンという事で、商人達が風聞からだけでも騒ぎ立てたのに……そこに食パンを使ったサンドイッチ? そんな爆弾を落とす気だったんですか?」
「はい」
「お願いですから、新しい事をする時は相談してください、これはタイシさんを守るためでもあるんです」
「はい」
「別に意地悪で言っている訳ではないのですから……事前に相談してくれたら、その……そんなに顔に跡がつくほどのお仕置きは……ごめんなさいちょっとやり過ぎました」
「はい」
「……タイシさん?」
「はい」
「……もしもし?」
「はい」
「……私の話を聞いてます?」
「はい」
「……私にチョコレートのお菓子を大量にプレゼントしてくれますか?」
「は……材料費と手数料は頂きます」
「……ちゃんと私の話を聞いていたんですね……てっきり何かのスキルを使って適当に体に返事をさせているのかと思いました……」
……するどいなココ。
でもタイシ賢いから〈条件反射〉スキルは〈隠蔽〉で隠してあるし、この場でばらす事はしません!
くそう、ココが出来の悪い子供を叱るお母さんの目で俺を見てくる。
まぁ俺にはまともな母親なんていなかったから想像でしかねーんだがよ。
「でもよーココさんや」
「何か反論でもあるんですか? タイシさん」
「三区の屋台とかだとな、小麦粉……あーライ麦の全粒粉を水で溶いた物を薄く焼いた物に肉の炒め物とかを乗せるクレープとか、後は、そば粉を使ったガレット的な物を売っている屋台とかあったぜ?」
総菜を生地に乗せる文化が普通にあるじゃんかと、俺は思うんだけどな?
「タイシさん……クレープやガレットをパンと呼ぶ人はいないんです」
ふーむ……外国の人がクリームパンを主食のパンとは言わせねー、とか言っているようなものか?
一部の人にはデザート的な何かに感じちゃうらしいしな。
いや、それも違うか……クレープはパンではない別の料理って事か?
うーむ……。
「まぁ理解出来たような、理解できないような……取り敢えず、この世界のパン事情はフランス人を相手にするような物だと思っておくよ」
「……なんでフランス限定なのかは分かりませんが……日本の感覚とはずれていると思った方がいいですね」
いや、パンって言ったらフランスじゃね? あれ? トルコだっけ? いや、イギリスか? はたまたイタリアかドイツか……。
うん……この話題はケンカになりそうだから、タイシ前後撤回しておくね!
ちなみに、マヨネーズのレシピは貴族や二区の高級料理店とかでは意外に知られているそうで、一応受け取ってくれたけど、それほどお金にはならないかもという話でした。
……そりゃあ、異世界人……いや日本人ならマヨネーズは最初に作ろうとするよねぇ……。
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