第63話 Fランクの日常

 おはようございますタイシです。


 今日も朝からシャキっと目が覚めました。


 ……何故かってそれは……俺やイエローやレッドの上に当たり前のように毎日乗っかってくるピンクがいるからだ。

 寝相もそうだが寝言もすごいよなぁピンクは……。


 乙女の体面だがイメージがどうたらとか言い出すので、武士の情けでその寝言の内容はあまり言わないようにしていますが……。


 今日も今日とて朝から縄抜けのごとくに、寝ている皆から抜け出し……というか俺が日本で手に入れたスキルである〈縄抜け〉や〈脱出〉スキルが、この世界に馴染んだおかげで、彼女らを起こすことなくベッドから抜け出せるようになりました。


 ニュルニュルっと隙間を抜けていくタイシです。


 ……。


 そうして、まだ朝日が昇る前から、皆の朝ご飯を作りつつ今日の予定を考える。


 今日は大工の兄ちゃんが屋台の一号機を完成させているはずなので、それを確認に行く日だ。


 たった二日で移動する屋台を完成させるとか言えちゃう大工の兄ちゃんは、絶対に複数の生産系スキルを持っていると思います。


 そういや午前とか午後とか指定されてなかったっけ? うーん……ギリギリまで作っている可能性を考えて午後にしておくか。


 そうすると午前が空いちゃうなぁ……あ、そうだ、食パンのレシピを公爵様に渡さないとな……午前は冒険者ギルドのココに会いに行こう、そうしよう。


 そうやって今日の予定を組みながらも、茹でたじゃがいもを潰して朝から大量のポテトサラダなんかを作っている。


 上級スキル持ちのイエローはたくさん食べるからね、簡単に大量に作れて美味しいメニューは助かるのよ。

 まぁ簡単と言っても、俺の異世界日本産の〈生活魔法〉さんがあるからこそ、マヨネーズが簡単に作れてしまうって事なんだけどね。


 ……そういや、公爵様にマヨネーズのレシピも渡す必要あるかな?

 マヨネーズそのものはこの世界にも存在しているから……でもレシピが流通しているかは……うーん、一応提出しておくか。


 そうして朝ご飯を作りながら、尚且つ、食パンやマヨネーズのレシピを紙に書いていく。

 ちなみに、三区でも植物紙は使われているが、何の植物を原料にしているかは分からなかった。


 雑貨屋の売り子も紙の材料なんて詳しく知らなかったし……というか、そういう情報ですら利権を確保するために秘密にされているのではと思ってしまう。


 うーむ、転移者や転生者なら和紙の作り方とかを知っているだろうし……紙の作り方とかの情報にそこまでの価値はなさそうだけど。


 ……正直何の情報に価値があるか分からないのよねぇ。


 まぁいいや、今は目の前にある、寝かせたパン生地を相手にする方が大事だ。

 主食である『ナッツ入り天然酵母使用ライ麦メイン黒パン』は、毎日毎日、作っても作ってもあっという間に消えていくからな。


 ……。


 ……。


「おはよータイシ兄ちゃん、何か僕が手伝う事はある~?」


 切り分けたパン生地を〈生活魔法〉の結界を活用したオーブン的な機能を使って空中で焼いていると、眠そうな声を出しながらもイエローがお手伝いを申し出て来た。


 いつものメイド服を着込み、金髪ショートの頭頂部にある狐耳をヒョコヒョコさせて、笑顔でそう申し出てくるイエローは今日も可愛いね。


 他の皆より先んじて起きてきて俺を手伝ってくれるんだからな。

 さすが俺専属のメイドさんなだけはある。


 嬉しくなった俺は、側に来たイエローの頭をナデリコしながら。


「おはようイエロー、じゃぁまずは朝食の味見をお願いしていいか?」


 お皿を用意してもらったりしてもいいのだけど、まずはこれを頼もうと思う。


「味見は得意だから、僕にまかせてタイシ兄ちゃん! うわぁ……今日の朝ご飯も美味しそうだねぇ~」


 イエローが見ている調理台の上には、調理用のボールに山盛りの『ポテサラ』や『じゃがいものポタージュスープ』そして『揚げ芋』と、今日の朝はじゃがいも尽くしだ。


 ……いやほら、大工の娘ちゃんが揚げ芋を気に入ってたじゃんか?

 あの子からの結婚の話は断わったけど、俺が異世界人である事を隠そうと頑張ってくれた事のお礼をしなきゃいけないだろうからさ。


 ならばじゃがいも繋がりでって事でそのうち差し入れるにしても、じゃがいも料理の練習をしとこうかなってさ……。

 他にも『いももち』や『ニョッキ』なんかの調理も練習しておきたい所だ。


「ほれ、塩気が足りてるかみてくれ」


 俺がそうやってイエローにスプーンを差し出しながら味見を頼むと。


「あーん」


 イエローは俺からスプーンを受け取らずに、その小さくて可愛らしい口を開けてきた。


 ……くっ! 金髪ショートな僕っメイドさんが俺を見上げるように顔をあげて『あーん』している姿とか…可愛すぎだろう!

 しかもイエローは天然だから、あざとさを感じないという……。


 その可愛らしさに撃沈した俺は、イエローに渡そうとしたスプーンでポテトサラダをすくい、そのイエローの小さな口にポテサラを入れてあげる。

 イエローは13歳で身長も歳相応に俺より低いので、なんというか、ひな鳥にエサをあげる親鳥の気分になれるね。


「パクッ……むぐむぐ……今日も最高に美味しいよ! タイシ兄ちゃん!」


 イエローはピカーっと輝くようなニコニコ笑顔でそう言って来た。


 まだ日も昇っていないのに眩しいと思えるような笑顔だ。


「それなら味の調整はいらなそうだな、じゃぁイエロー、後は食堂の準備をお願いしていいか?」


 そうしてお皿やカトラリーの準備をイエローに頼むも。


「……他の味見はいらない? ……それじゃぁ……テーブルの準備してくるね……タイシ兄ちゃん……」


 ちょっと悲しそうな声を出すイエローだったので、揚げ芋の味見を数回追加でお願いする事にしたタイシである。

 悲しそうな僕っメイドさんをそのままに出来ないからね、仕方ないね。


 ……。


 さて、じゃぁそろそろ起きて来るだろう子達のために、カリカリベーコンを焼いていきますかね~、ふふんふんふ~ん。


 ……。


 ……


 ――



 朝食後に、いつものように『五色戦隊』をダンジョンへと送り出しました。


 ダンジョンに入り始めて間もない彼らは、地下一階層の魔物の湧きが少ない地点を行ったり来たりして、レベリングというか、スキルの熟練度上げと基礎能力のための格上げ中らしい。


 まずは自身を強くしないとだし、慎重なのは良い事だ。

 パーティの指揮をとっているブルー君は自分達の弱さを良く知っているよね。


 無謀な新人だとお金のためにダンジョンの奥を目指しちゃって……なんて事もあるみたいだからねぇ。


 女神から一つは必ず貰える祝福で戦闘系のスキルを手に入れちゃうと、無双感を覚えてしまう新人とかもいるっぽいんだよね……。


 自分が女神様からスキルを貰えるというのなら、他者も同じようにスキルを貰っている事に気付いて欲しい所なんだけど……高ランクの冒険者でさえダンジョンからの未帰還者が出る事の意味をもっとよく考えて欲しい所だ。


 無謀な新人だと、それに気付いた時が終わりの時なんて事も……あるのだろう。


 冒険者ギルドで新人教育をしてくれる教官達も、その手の話は毎回しているのだけど……話を聞かない奴はいるからさぁ……。

 っとと、暗い話を考えても仕方ないな、ブルー君が慎重派で良かったと思っておこう。


 それと、ダンジョンの一階層を『地下』と表現したが、実際に地下にあるかは知らん。

 単純に地面に魔法陣があって、その上に建物とかがないタイプのダンジョンだからそう言っているだけだ。


 ここのダンジョンは入口も階層を渡る時も転送魔法陣を使うらしいからね。


 世の中には、階段をのぼる塔型や、逆に階段で下って行く地下型のダンジョンなんかもあるらしいから、色々あるんだろうね。


 まぁあれだよ……カード化が世界の法則として馴染んだら、色々なダンジョンに行ってみたいよな!



 そうそう、昨日食費の話を相談したからなのか、ブルー君が出かける時に、『食べられる食材の持ち帰り量を増やしますね』と、一言残していったのよね。


 その気使いの出来る男の子っぷりに、惚れそうになってしまった俺がいます。

 他の女子メンバーも見習って欲しい。


 まぁレッドもピンクもグリーンもイエローも、あの会話の時にはまだ食事に夢中だったから……仕方ないとは言えるんだけどな……。


 ……後でこのブルー君の良い所話をアネゴちゃんにしておこうと思います。









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