第61話 Fランクの話聞かせ
こんにちはタイシです。
孤児院へと大量のナッツ入りライ麦黒パンを差し入れをし。
それから、前にハゲ司祭さんへと頼んでおいた燻製用の小屋の確認をしに行こうと思っていた。
ハゲ司祭さんは女神教会でも奥まった場所に有る使用頻度の低い小屋を提供してくれるとの事だったが、もう後少し最終整備に時間がかかるとの事だ。
教会には技術系スキルを得た孤児院出身の神官とかが勤めているので、俺が伝えた燻製用施設の設計なんかが外に漏れる事は……たぶんしばらくはない。
金に汚い新生派はすでにほとんど女神教会から逃げ出しており、残っているのは昔ながらの清貧を尊ぶ本道派達らしいからね。
教会はある意味自給自足出来る全ての技能持ちを揃えているのがすごいよなぁ……税のかからない荘園も持ってるし。
普通の為政者なら、そんな存在が自分達の足元にいる事を疎むものなんだけど、女神様ってのはずいぶんと崇められているっぽいよね。
スキルを祝福で貰えるのが大きいんだろう。
この世界には魔物が出没する訳で、力を与えてくれる女神様は素晴らしい神だって理由だよな。
……。
魔法を使うための魔素が魔物の湧き出る原因らしいし、この世界を設計した女神のせいで魔物がいるとも言えるんだけどな……。
まぁ、タイシ賢いから、そういう事をお外で吹聴しないけどね。
……。
「タイシお兄ちゃん! 早く次のお話をしてよ!」
「そーだよタイシ兄!」
「タイシお兄様、次は可愛いお話がいいなー」
「何言ってんだよ! 英雄が魔物を倒す奴のがいいに決まってんだろ!」
「男子はそういうのばっかりだよね~」
「たいしにぃ~」
「おはなしきくの」
……。
……。
午前中にやる事がないので孤児院の子供らと遊んでいるのだが、それならと適当な物語を異世界風に改変した物を披露してみたら……。
主に男の子達に受けた!
やっぱり娯楽が少ないからかねぇ?
孤児院での遊びも、チャンバラや、追いかけっこや、おままごと、とからしい。
最初にしたお話はレッドやピンク達に聞かせた事もある、桃太郎の改変物語である『テイマー太郎』の話をした。
今は『テイマー太郎』が話し終わったので、次は何にしようかの話合い中だ。
その話合いの中で子供らが言い合いを始めたので、ハゲ司祭の事や燻製施設の事を考えてしまっていたが、そろそろ子供達のリクエストに応えるべきだろう。
『テイマー太郎』で切った張ったはやったので、次は……うーん……。
所で……女の子から要望のあった可愛い物語ってどんなのだ?
公爵様の所で女の子向けにやったお話は……あれは貴族の女性社会のドロドロとした部分をねっとりと表現した、別の意味で怖いお話だったから、可愛くは……ねぇよなぁ?
となると?
うーむ……あ! カグヤ姫を改変した物にするか?
お姫様みたいな可愛い娘も登場するし。
そうするなら、内容をこちらの世界に合わせて改変をしないとな……えーっと……。
……。
……。
「昔々ある所に薪取りの翁という者ありけり――」
「お爺さんとお婆さんは、その娘を養子に迎え大層可愛がり――」
「成長した娘はその美しさから近隣の者に女神がごとき美しさと――」
「娘は求婚を断り続けていたが――」
「そのあまりの熱心さに娘はそれぞれの求婚者に――」
「とある国の王太子は女神様のお使いになった食器を探しに――」
「とある国の公爵は女神様の住む庭に生えている神樹の枝を探しに――」
「とある国の将軍は神竜の羽製の衣服を探しに――」
「とある国の伯爵は――」
「そして最後のとある豪商の跡取りは――」
「どれもこれもが手に入るはずもない代物ばかり――」
「ある者は失敗をし――」
「またある者は偽物を――」
「そうして全ての求婚者が諦めて、娘は安堵の溜息を――」
「そんな時、噂を聞いた、とある大帝国の皇帝が娘を後宮に――」
「娘は育ててくれた両親に、求婚者達から贈られていた宝物を残して姿を消し――」
「そうして娘は女神様に召し上げられ――」
「聖女として異世界からの勇者と結ばれ――」
「幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし」
……。
ふぅ、本気で物語を演じると疲れるなぁ……って、あれ?
最初に披露した『テイマー太郎』のお話と比べて、男子には受けないかなと思ったけど……女子の反応が良くない?
「えっと、面白くなかったか?」
女子達の反応が鈍いので、素直にそう聞いてみる事にした。
すると女の子達が次々と口を開き。
「いくら縁談を断るためとはいえ、命の危険がある場所へと求婚者を向かわせるのはちょっと……」
「大帝国の皇帝様のお召を断るのもねぇ? 黙って消えた後、残された両親に被害があると思わないのかしら?」
「豪商の跡取りとか一番良い縁談なのにね? 偽物の品だっていいじゃないの、なんで皆の前で殊更に暴いて晒し物にする必要とか、ないよねぇ……性格わるーい」
「勇者って言ってもこの世界のコネが薄い渡り者だし……それに今実際に異世界から来ている人達の性格の悪さを聞いちゃうと……ちょっと結婚相手としては考えられない話だよね~」
「というかこのお話って、自分の顔の良さに酔った女が周囲を振り回したあげく、一番条件の悪い場所に嫁ぐっていう事だよね……それはどうなの?」
「タイシ兄様、良縁を受け入れて他の人と結婚するお話じゃ駄目なの?」
……。
……。
……等々と。
どうやら竹取物語異世界版は、あんまり女子に人気が出ないみたいで。
この世界の子供達には、せっかくの玉の輿を断る事が理解出来ないようでした。
……。
……。
竹取物語異世界版は受けがよろしくなかったので、それならばと光源氏が出て来る源氏物語の異世界版を披露してみたら……。
……女子達の続きを求める声が止まる事を知らず。
結局お昼ご飯が始まる直前まで話しを続ける事になってしまった。
改変をしたために大国の後宮のお話っぽくなってしまったが……女子ってそういうのが好きなのかねぇ? タイシには良く分からん。
男の子達の中には、途中から席を立って何処かへ行っちゃう子とかもいたっけか。
ごめんなー、次の機会があったら勇者がドラゴンを倒す物語とかにするから許してくれ……。
俺には女子達のあのキラキラ……いや、ギラギラとした目で訴えて来る声に逆らう事は出来なかったよ。
……。
そして今は孤児院での昼飯にお邪魔している。
食べ始める前に女神様に感謝の言葉を捧げるのが常らしいのだけど、女神様とセットみたいに、差し入れをした俺の名前を入れるのはやめて欲しい……。
百人以上は軽くいる子供達が無駄口を叩かず、女神と俺に感謝するとかって一斉に唱和するんだぜ?
まぁその後の食堂では、子供らしい騒がしさにすぐなるんだけどね。
そうしてワイワイガヤガヤと話をしながら食べている子供達を見ながら、孤児院のトップである年嵩のシスターさんに色々とお話を聞いてみた。
その結果、やっぱり祝福でスキルを得ると食欲旺盛になるとの事で、しかも戦闘系スキルの方がその上がり幅が大きいのだという。
この世界の人にしたら当たり前の事過ぎて、俺が何故それを不思議がっていたのかを逆に不思議に思われてしまった。
ああ……ブルー君あたりにでも一言聞けば教えて貰えた事なのかもな……。
何が『要検証』だよ……はぁ……やっぱりココに常識を聞けなかったのが勿体なかったな。
でもさぁ、また次に同じような機会があっても、ココはまたアニメや漫画の内容を聞いて来る気がするんだよなぁ……。
公爵家という後ろ盾の出来た今は、常識知らずが滲み出て目立つ事を恐れないでいいとは言えるのだけど……まぁ大丈夫か。
そんな風にぼちぼちと考え事をしつつ。
目の前で行われている、微妙に分配しづらい量だったのか、少しだけ余っていたナッツ入りライ麦黒パン争奪ジャンケン大会を眺めているのであった。
このパンは普通に流通している黒パンと比べると味が段違いだからね。
子供達も真剣な表情でジャンケンしている。
一定量は全員に行き渡っているので、小さい子供達には十分な量があったし残りをどうしようと問題はないやね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます