第60話 Fランクの食欲考察
おはようございますタイシです。
今日も今日とて俺のベッドの中はクランメンバーで埋まっています。
仰向けに寝ている俺の右にはレッドが。
左側にはイエローが。
グリーンは俺の右下に。
そしてピンクが……俺とレッドとイエローを横断するように、横の体勢で乗っかってうつ伏せで寝ている。
昨日の寝始めはジャンケンで負けたピンクが左下にいたはずなんだが……ピンクは寝相が悪いからな……。
ちなみに……俺のお腹部分にピンクの肋骨が当たっていて痛いです。
「ふあっ! ……おはようございますタイシさん……今私の事で何か言いましたか? ……それとも今のは夢?」
掛布団をバシュッっと跳ね上げて半身を起こしたピンクが、眠い目を擦りながら俺に向けて剣呑な目を向けてくる。
「おはようピンク、それはきっと夢の中の話だ、取り敢えず重いので俺の上からどいてくれないか?」
「むむ……夢でしたか……あ、ごめんなさい今すぐ……って女性に重いとか言っちゃ駄目ですよタイシさん! お嫁さんポイントマイナス10です!」
マイナスポイントあざーっす。
というかピンクお前さぁ、起き上がったらわざと俺の上に再度乗っかって来ただろうに……全身で乗っかられたらそりゃ重いに決まっているだろ。
「……おはよぉ……ふにゅ……すぅ……」
「ふぁ……おはよー……タイシ兄ちゃん」
「……はょ」
俺とピンクがベッドの上で騒がしくしたせいか、レッドとイエローとグリーンも起きて来たようだ。
「おはよーさん皆……取り敢えずレッドは寝直そうとしないで起きような?」
危うくもう一度寝そうになっているレッドに声をかけつつ、挨拶を交わしていく。
Eランクになったばかりの『五色戦隊』の皆だが、今日はまた午前からダンジョンに行く予定のはずだ。
「ほれほれ、今日はまたダンジョンに行く日だろー、新人なんだしちゃんと稼がないと大変だぞ、しゃきっとしろ」
まだ眠そうな皆にそう声をかけながら。
もう完全に起きているくせに掛布団のように俺に覆いかぶさって来ていたピンクをどかし。
再度寝そうになっているレッドに掴まれていた右腕を抜き。
イエローに握られていた左手を離し。
グリーンに掴まれていた足を抜いてベッドから抜け出していく俺だ。
毎日毎日こんな感じなので沢山の妹が出来た気分というか……大家族ってのはこういう物なのかね? という感じ。
まだ眠そうに欠伸している皆を部屋に残し、〈生活魔法〉さんで俺を含めて全員を奇麗奇麗にしてから厨房へと向かう。
朝シャワーと洗顔&歯磨きいらずの日本産〈生活魔法〉さんは本当に有難い。
……。
……。
――
今日は気が向いたので朝食のほかに、ダンジョンの中で食べるお弁当を準備してやり。
朝から元気よく『五色戦隊』を送り出した俺。
大工兄ちゃんに頼んだ屋台は明日の午後だし、暇だからといって今はまだカード召喚を大っぴらに使えないので、ソロ狩りはまだ危険だしという事で。
昨日ブルー君にアネゴちゃんへと伝言を頼んでおいたんだが、どうなったかな?
急な話で無理そうなら無理だと言って来るように伝えて貰っているんだが。
『チリンチリーン』
俺の腰に吊り下げている鈴型の魔道具が音を鳴らす、まぁこれはインターホンみたいなものだ。
はいはーい、と誰もいない屋内で声をあげながら正門へと向かう。
……。
正門の横の使用人用の扉を開けると、そこには金髪ショートのアネゴちゃんが来ていた。
アネゴちゃんはすでに扉の魔道具に登録済みだから勝手に中に入る事も出来るんだけど、まだ遠慮しているのか、こうやって呼び鈴を鳴らすのよな。
早くうちのクランの仲間として馴染んで欲しい所だね。
「おはようアネゴちゃん、昨日急に伝えた話だったけど大丈夫だった?」
「おはようタイシ兄貴! 建物の方は元々司祭様も協力してくれる予定で準備はしていたから大丈夫! ……伝言にあった人材の方は午後からになっちゃうけど……構わないよね?」
アネゴちゃんはニコニコ笑顔で挨拶をして来てくれる。
朝から元気だよねぇこの子は。
「勿論大丈夫だ、じゃぁ早速設備を見に……行く前に孤児院への差し入れを運ぶのを手伝ってくれ」
「いつも有難うタイシ兄貴!」
アネゴちゃんからの感謝の言葉を聞きながら二人して厨房に向かい。
そして朝から頑張って大量に作成した、天然酵母を使ったナッツ入りライ麦黒パンを大きな籠に山盛りに……。
「……二人じゃ運ぶの無理だな……」
「……そうだねタイシ兄貴……、何人か応援を呼んで来るから! 待ってて!」
アネゴちゃんはそう言って厨房から駆け出して行き。
俺はその背中に向けて、呼び鈴は使わずに入って来てもいいぞと声をかけておいた。
アネゴちゃんはたぶん、孤児院の中でも年齢が高めの子らを応援として連れて来る気なのだろう。
なので俺は大きな籠をいくつも用意し、そこにナッツ入りライ麦黒パンを山盛りに入れていく。
一人二籠ずつ持つとして……応援は10人もいればいけるだろうか?
比喩ではない意味で、山のように積まれているパンを見つつ考える。
子供の顔程もある大きな饅頭型のナッツ入りライ麦黒パンなのだが、孤児院にいる子供達の数を考えると……、一食で消えちゃうよなぁこれ。
小さい子らは日本の常識的な普通の食欲なのに、一定以上の歳の子達はすごい健啖だからなぁ……。
やっぱり祝福やらでスキルを所持すると燃費が悪くなる説はあるよな?
ちょっと今日は、孤児院のご飯時間にお邪魔させて貰って確認するつもりだ。
そういや俺もこちらの世界の〈カード化〉や〈音楽魔法〉を覚えた後に、食べる量が増えている気もするしな。
……日本産のスキルが増えてもそんな感じはなかった気がするから……あっ!
此方の世界のスキルは身体強化の補正値が日本産のスキルより強いと感じるよな?
……つまり……その身体強化にかかるエネルギーが、日本のスキルより多めに使われているから、それを補充するべく食欲が上がる?
うん、この考えは合っている気がする。
どんな能力でも対価なく無限に使えるって事はないはずだしさ。
農業系スキルが各種あるこの世界は、食料の生産量もかなりのはず。
それなのにそこまで食料品が安くは感じない……つまり全般的に消費量も多いという事に……それはつまり日本よりエンゲル係数が高いという事で……。
……食い物屋台は当たれば利益も大きそうじゃね?
あー、はいはい、だから美味い物が作れる調理人は生活も安泰なのか。
俺がウエイトレス達にモテるのも、その辺の理由も加味されているのかもな。
うちの『五色戦隊』の子らも、良く食うなぁと思っていたんだが、理由が判明しちゃったかもしれん。
能力が一番高そうなイエローがすごい食欲なのも納得だ。
上級スキル持ちだもんね。
スキル数の多いグリーンも……食事中に口数が少ないから目立たないけど……結構食っているもんなぁ……。
……。
っと、色々と考え事をしていたら、お屋敷の門の方からタッタカと走る音がして来た。
しばらくして。
「お待たせタイシ兄貴! 暇そうなのを連れて来た!」
金髪ショートを靡かせながら厨房に駆けこんできたアネゴちゃん。
彼女の後から10歳以上の男女8人程が同じく駆け込んで来た。
彼らと朝の挨拶しつつ、ナッツ入りライ麦黒パンの入った籠を二つずつ渡して早速運んで貰う。
彼らはその大量の黒パンに驚きつつも、嬉しそうな笑顔でお手伝いをしてくれる。
そんな子供らを先頭に、アネゴちゃんと俺も籠を四つずつ持って孤児院へと向かうのだった。
◇◇◇
ちょっとした本文内の説明という後書き
タイシは日本での特殊な魔法の名家に生まれ、兄妹もいなく父親からの愛情もなく孤独に育ちました。
ですので、大家族に対する知識が、かなり歪んでいます。
日本での一般的なご家庭で、年頃の妹が兄と一緒のベッドで寝る事なんてほとんどあり得ないという事を理解していません。
そして、こちらの異世界の冒険者街や農業地区がある三区あたりは、貧乏で家が狭いという事もあり、仕方なく同じ寝床になっていたりするのですが。
レッドやピンクからのそういった情報を聞いて、タイシは家族ならそういう物だと思い込んでしまっています。
異世界であっても、お金もあって家の広さも十分にあるのなら、兄妹で男女同衾なんてしないというのが常識なのですが。
ブルー君はそれらタイシの認識の齟齬を何となく察していますが……そこを指摘してタイシが女子との同衾を断るようになった時に、彼女らに恨まれるのが怖くて黙っています。
以上説明終わり
◇◇◇
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