第58話 Fランクの気付いた事
ふぅ……色々と濃い話が出来たな……。
大工さんとの話も終わり家に帰っている所なのだが……。
自分の二つ名がやけに広まっているなぁと思っていたんだが、何故そうなったかの答えを知ってしまった。
ウエイトレスの彼女達も悪気があってやっている事じゃないので怒る訳にもいかず。
かといって嬉しい訳でもなく……。
「はぁ……」
まぁ、いいか……。
いまだに戦闘系のスキルがこの世界に馴染んでいないので、俺はまだ弱い方の部類になるからなぁ。
だとすると下手に目を付けられるよりは、侮られている方がマシなのだろうさ。
何もかもこの世界の仕組みが脳筋なのが悪い。
日本でも微妙と言われているようなスキルが先に馴染むよう優先されてるみたいだからな。
……。
ん?
自分のお屋敷が見えて来た頃に、教会がある方面からそのお屋敷に向かうアネゴちゃんが見えて来た。
アネゴちゃんも俺に気付くと、お屋敷には向かわずに俺の方へと小走りで寄って来て。
……。
「タイシ兄貴! 言われた書類を持ってきたよ!」
アネゴちゃんは元気よく書類とやらを俺に渡してくる。
道端に二人して立ったままだが、その書類を軽く〈速読〉で流し読む。
……。
「へぇ……〈調理〉やら〈裁縫〉やら〈木工〉やら……生産系のスキル持ちがかなりいるんだな」
「うん……コネのない孤児だと、そういったスキルを覚えても持ち腐れちゃうんだよね……上手い事商人とかに雇われても、下っ端扱いでお給金とか低い扱いだしさ……」
アネゴちゃんは悲しそうにそう呟いた。
そういやこの子の祝福も〈裁縫〉スキルだったっけか。
インターネットやらの情報系ツールが発達していない頃だと、縁故社会になるのは当然とも言えるからなぁ……。
「うん、これはあとでじっくり読んでおくよ、ありがとなアネゴちゃん」
書類を〈引き出し〉に仕舞い、アネゴちゃんの頭を撫でながらお礼を言う事にした。
悲しい雰囲気のまま別れるのも嫌だしよ、ナデリコナデリコ。
すると、アネゴちゃんは少し照れながら。
「タイシ兄貴のためならこんな事訳ないよ! ……って、子供らの頭を良く撫でるけど、撫でられるのは久しぶりな気がする……なんか恥ずかしい……ま、またねっ! タイシ兄貴!」
アネゴちゃんは相当恥ずかしかったのか、身を翻すと教会の方へと駆けて行ってしまった。
ショートの金髪を揺らし軽快に走るその姿からは、先程までの悲しそうな雰囲気は微塵も感じなかった。
……。
さて、自宅に戻った俺がやる事と言えば。
サンプル用の燻製肉の作成だ!
……サンプルにも使えるようにとたくさん作ったはずなのに、思ったよりも身内の消費が激しくて……あっという間にほとんどなくなっちゃったのよね……。
イエローの胃袋を舐めていたのかもしれないな。
という事で裏庭にまたカードからゴブリンやらを召喚して訓練させつつ、厨房で燻製作業をしていく。
ふんふんふ~ん。
……。
……。
ふーむ、やっぱりこの種類の枝は香りが良いよなぁ……。
だとしても果樹園の木から自然に落ちる枝だけじゃ足りないか?
いや、たしかスキルの中に植物の成長を早める物があったはず……。
燻製用の樹木に成長スキルを集中投入して貰えば……いける?
それとダンジョンからの資材確保を考えてもいいか?
冒険者への普通の依頼だと、フィールド系のダンジョンから建築資材に使う木材を伐採するとかもあるらしいのだが。
果樹が取れる木なんかもダンジョンにはあるって話だし……それならば冒険者達への新しい依頼にもなるか……。
……でも依頼を出す事で燻製用に使う木材の種類がばれたら真似される……だけども、そんな情報はすぐ掴まれる物だし……。
だとすると、一番隠すべきは食材を漬け込む液の配合や燻煙用の道具か……。
あ、それと、この世界の治癒系魔法スキルがえぐいので、お金さえあれば大抵の病気やらが治るとの事で……。
発がん性がどうのこうのとかな話は、日本ほど考えなくて良いのは楽だ。
まぁ教会でも何でも、治癒系スキル持ちに治療をお願いするとお金がかかるから、治りそうな物は自然治癒にまかせるのが、平民では普通だったりもするみたいだけど。
祝福でスキルを得ただけで基礎能力が上がるって事は、たぶん病気やらに対する抵抗力も上がっていると思うんだよなぁ……。
……女神の加護か……、一応ちゃんと仕事をしているんだよなぁ、あいつ。
……。
……。
――
厨房に籠ること数時間、パーティ名を『五色戦隊』に変更した皆も帰って来た。
ささっと〈生活魔法〉で皆を奇麗にしてあげて、食堂で夕食を食べながら雑談時間になる。
俺は学んだんだよ。
考えてみたらさ、別に燻製肉を飯に使わんでいいじゃん、とね。
なので今日の晩御飯は安いコッコ肉やオーク肉を使う事にした。
コッコもオークも魔物肉だが、鳥系と豚系の肉だと思ってくれ。
……牛系のお肉はちょこっと高めなんだよね。
まぁそんなお肉をミンチにして各種材料を混ぜた……。
そう、皆大好きなハンバーグさんだ!
そんなハンバーグをイエロー対策にと山ほど作り、テーブルの真ん中の大きなお皿に積み上げている。
まさにハンバーグマウンテン……いや、ハンバーグ富士山と言えるだろう!
……ってあれ?
すでに始まっている夕食なのだが……あれ?
おかしいな、夕食が始まった時は富士山だったのに……今は槍ヶ岳くらいに見える……。
食べるの早すぎじゃないだろうか君達……。
……このままだと俺が登山を始める前に山がなくなりそうなので、自分の分を早めに確保しておこう。
……。
いくつか確保したハンバーグをパクリッ。
「うん、美味い、さすが俺だ」
牛系の肉は入ってないがこれはこれで美味い。
俺がそうやって自画自賛して頷いていると。
「これも美味しいですタイシさん、一体どれを商売のネタにすればいいのか……悩みますね」
ブルー君はそんな悩みを漏らすが。
……屋台で出せるのかを考えているのだよね?
自分で商売する事は考えてないよね?
「モグモグ、疲れた体に染み渡る美味しさよね……タイシの作るご飯はいつも美味しいわね~」
「タイシさんの愛情が詰まっているのを感じます、お嫁さんポイント10アップです! モグモグ」
レッドはしみじみと食べていて、ピンクはご飯のたびにポイントがアップしていくような気がするんだが……。
「モグモグ……当たり……モグモグ」
お、グリーンはチーズ入りハンバーグを引き当てたようだ。
全てには入れずにランダムに入れておいたんだよね。
「え? もぐもぐ、え? グリーンのには中にチーズが!? タイシ兄ちゃん! 僕のには入ってないんだけど!? もぐもぐ……」
イエローは隣の席のグリーンのハンバーグを見て騒ぎ出し……いや、すぐ食べる作業に戻っている。
安心しろ、そのペースで食べ続けていればすぐ当たりが出るから。
……すでに元ハンバーグ富士山は半分以下の高さになりつつあった。
……。
「それでタイシさん、例の屋台の話はどうなったんですか?」
このパーティの中で一番胃袋の小さいブルー君は、一足先に食べ終えたのか、そんな質問をしてくる。
「ん? 大工の職人さんと契約は結んできたよ、新しい屋台を作る前に簡単な模型で試してみるって事で、明日また確認に行く事になっているね」
「順調そうで何よりです、僕もクランの副リーダーとして何かお手伝いをした方が良いでしょうか?」
「いや、ブルー君は……そうだなぁ、後でアネゴちゃんへの連絡とかをお願いするよ」
「……了解しました」
うん、馬に蹴られたく無い俺は、積極的にそういう機会を作るのだ。
だが俺の下心に感づいたのか、ブルー君は不審をあらわにした表情で。
「何か妙な事を考えていませんか? タイシさん?」
「何もナイヨ? タイシいつも真面目に真っすぐに生きてイルヨ?」
良し、完璧な偽装だ。
そんな俺の誤魔化しに反応したのか、ハンバーグに夢中だった女子達が次々と口を開く。
「もぐもぐ……同僚と昼間っからお酒を飲みに行く時のお父ちゃんみたいだ……大抵の場合はお母ちゃんにバレて後で怒られるんだけどね」
「タイシさんは分かりやすくて可愛いですよねぇ……これなら浮気もすぐ分かりそうで安心安心……って、浮気しちゃ駄目ですってば! タイシさんマイナス10ポイントです!」
「もぐもぐ……お兄ちゃんに似てる……もぐもぐ」
「もぐもぐ……タイシ兄ちゃん……お代わり……もうない? クスンッ」
レッドの父親は母親の尻に敷かれているんだねぇ……。
ピンクは……想像の話でポイントがマイナスになるとか理不尽で……いいぞもっと浮気しろイマジナリー俺。
グリーンの日本でのお兄さんって、そんなにイケメンで格好良かったのかぁ……。
イエローは……って待って!?
ハンバーグの山が……消えただと……。
余ったらゴブリン達にでもあげちまおうって思ってたのに。
うん。
作りがいがあって楽しいね!
美味しいと言っていっぱい食べてくれる子は好きだぜイエロー。
これからもたくさん作ってあげるからな!
……でも今日の所は終わりです……俺のお皿の上のも食べていいからさ……。
というかさ、んーと……この世界の人達って健啖というか……。
もしかしてさ、スキルの質や量によって、その人の燃費が変わってくる可能性もワンチャンあるかも?
……孤児院の祝福を得る前の子とかはそんなに食わないし、まだ祝福の儀を受けていないココ妹ちゃんも、チョコデザートの数々を食べきれなくて悔しがってたよなぁ。
これは要検証だな。
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