第54話 Fランクの提案

 ◇◇◇


 前書き

 GWに合わせて久しぶりに続きを書いてみました。

 登場人物のノリが前と違っていたらごめんなさい。


 ◇◇◇







 おはようございますタイシです。


 昨日隅っこで寝たはずなのに、起きた時は何故かベッドの真ん中で皆に囲まれていたんだよね、不思議だね?


 イエローは皆と共にダンジョンに行くべく、まずはギルドにパーティ名の変更をするのだと、全員で仲良く元気よく出かけていった。


 昨日のパジャマパーティで随分と仲良くなったようだ。


 ちなみにイエローの装備はメイド服である。

 戦闘用のメイド服らしく、ぱっと見は普通のメイド服なのだが、内部に鉄板とか武器とか色々仕込みがあるらしい。


 イエローは魔法も使えるが、魔法威力を上げるような杖は持たずに、アクセサリーで補完しているんだとか。

 そして手には黒い手袋をしていて、拳を保護出来るように砂鉄が仕込まれているんだってさ……〈メイド術〉に体術も内包されているって言ってたもんなぁ……近接はそれで殴るの?


 魔法用の杖と同じような魔法威力を上げたり消費魔力を下げたりする効果のあるアクセサリーって、魔法用の杖に比べてお高いらしいんだけど、ココママに貰ったと言っていた。

 家族に愛されているね。


 イエローに聞いたスキル構成が〈一尾魔法〉〈メイド術〉〈生活魔法〉〈悪意感知〉の四つ、そのうち二つが上級スキルってのはすごい事らしい。


 この中の〈悪意感知〉はココパパがスキルオーブを買ってあげたんだとか。

 ナイスだココパパ、イエローは世間知らずっぽい所があるから甘い言葉で詐欺って来るような奴が怖かったんだよ。


 スキルがあれば世の中の悪意に気づく事だろうて、それを知る事が幸せかどうかは……本人次第だけども……。


 ……。


 そんなこんなで俺は何をしているかというと、教会を訪れている。

 湿地帯の焼き払いが終わるまで暇だからね。


 そしていつもの部屋でハゲ司祭さんと向き合ってソファーに座っている。


「それで今日はいかがなさいましたか? 使徒……タイシ様」


 ハゲ司祭さんは変わっていないようだ。


「俺は使徒ではないけれど、ちょっと相談がありまして」

「聞きましょう」


 ハゲ司祭さんはソファーの上で姿勢を正す。


「教会には新生派が作り上げたという荘園があると聞きましたが本当ですか?」


「はい本当です……神官が免税特権を利用し積極的に商売するなどけしからん事ですが、働き手である孤児達の受け入れ先になってもいるのです……今は彼らの待遇を改善して荘園は継続していく予定になっております」


 ハゲ司祭さんは新生派の所業を話す時は本当に悲しそうだよね。


 昨日のココやココパパとの雑談中にそんな話を聞きだしたし、それだけじゃなくてアネゴちゃんからも情報として聞いていたんだよな……。


「俺が仕入れた情報によると、今まで荘園の作物やらを買っていた商人に足元を見られていると聞きましたが?」


「それは……はい……安くせねば買い取らないと言われていまして、今はなるべく教会内部で消費していますが、全てを使い切れる量ではありませんし、仕方なく安い値段で商人に卸しております、私ども本道派には商人相手に交渉出来るような者はいませんので困っているのです」


 本道派は商売にうといと見て商人に軽んじられているのだろうね。


「ですよね……そこでですけど、門前町を作りませんか?」

「門前町ですか? それは一体どんな物なのでしょうか」



「参拝客を相手にした商売のお店を門の前に並べる感じですかね、何故かこの三区の教会には日中の参拝客が多いのに、そういった商売をする店が近くにありませんよね?」


「それは、このあたりの土地は全てこの教会の物になっていますし、新生派のように金に汚くなる事を嫌う者が多いですから」



「稼いだお金を一部の人間が吸い取るのならそうでしょう、でもその働き手が教会の運営している孤児院からならどうでしょうか? お店を作るのが難しいというのなら、まずは屋台をやってみませんか? どんな物かを知って貰うのにお店を作るより初期費用の安い屋台は良いと思うんですよ」


「屋台ですか? それなら祝祭の時に出したりはしますが……恒常的にというお話ですよね? タイシ様にはどんな意図があるのかをお聞かせ願えないでしょうか」


 ハゲ司祭さんは真剣な表情でそう問いただしてくる。

 孤児院にいる子供らの未来に関する事ならそうなるよね。


「そこまで難しい話じゃないですよ、荘園で育てた食材を使った屋台を出すというだけの話です、荘園の食材を使う当てが出来たとなれば、商人は売ってくれなくなる可能性を考えるはずで、教会の屋台の規模が小さいうちに、そこそこの値段で手を打つのではないかな、と思いまして」


「成程……確かに良いお話のように聞こえますが……失礼ながらそれは屋台が成功したらの場合ではないでしょうか? 商売にうとい私でもそんな簡単な物ではないと存じております」


 まぁそうなるよな……。


 俺は〈引き出し〉から炙ったベーコンとスモークチキンが乗った皿を取り出し。

 楊枝が刺さったそれを、食べてみてくれとハゲ司祭に差し出す。


 モグモグと肉を食べているハゲ司祭が、口の中の物を飲み込んだタイミングで感想を聞いていく。


「どうですか?」

「これは素晴らしい味ですね! 確かにこれなら人気は出るでしょうが……しかしこの肉はダンジョン産なのでは? うちの荘園と何の関係が?」


 そういった疑問が出て来るのは予想していたよ。


「ええそうです、ダンジョン産の肉に教会の荘園の一部にあるに落ちているゴミとなるような枝を使い風味をつけたものですね」


「ゴミですか? この風味が果樹園に落ちているゴミで出ていると?」


 ハゲ司祭さんは俺の説明に驚いて、空になったお皿をジッと見ている。


「それにです、材料の全てを自己完結するのは良くないんですよ、ダンジョン産の肉を使うからこそ、ここを訪れた冒険者も気前よく買ってくれる事になるんです」


「確かに自分達が売った肉が巡った物ならば買いやすいのかもしれませんね……」


 空のお皿から俺へと視線を戻したハゲ司祭さんは、何かを納得するように何度か頷いた。


「最近では冒険者の参拝客も増えたと聞きますがどうですか?」


「そうですね、新生派を追い出した事により治癒魔法の費用を昔の値段に落とせたのが良かったのでしょうか、最近では治療に来た冒険者の方も女神様や眷属神様に祈りを捧げてから帰るようになりました、ありがたい事です」



「せっかくお祈りをしに来てくれた人たちが、ご飯を食べる所も休憩する場所すらないのは可哀想だと思いませんか?」


「それは……確かに二区の教会にはそんなお店が入口にあったりするようですが……教会が管理するのは……うむむ」


 ハゲ司祭さんは考え込んでしまった。


「いきなり毎日やれとは言いません、まずは試しに少しだけやってみませんか? 成人して孤児院から出て行く者の受け入れ先や、荘園で収穫される作物の消費になればよし、上手く行かなければ止めれば良い話です、屋台ならそこまで損失も出ないでしょうし、最初の屋台の資金は俺が出しますよ?」


「……タイシ様……貴方はそこまで子供達や我らの事を考えて……分かりました! 私の名において女神教会前の参道に屋台を出す事を許可します!」


 許可を貰ったのは嬉しいが、あまり気負い過ぎてもあれだよな。


「ぼちぼちやりましょうよ、気負ったって失敗する時は失敗しますし、アネゴちゃんにまた暫定的にリーダーをやって貰いますがいいですよね?」


「ええ勿論です、あの子を雇い入れ、しかも将来的な事まで考えて配置して頂き大変感謝しております、やはり貴方様は……いえタイシ様、よろしくお願いします」


 俺はハゲ司祭さんから屋台を出す許可が書かれた書類を受け取り、燻製を作るために必要ないくつかの頼み事をしてから、アネゴちゃんに会いにいく。


 さて、俺がなんでこんな事をしているかというと……自分の屋敷の周りにお店がまったくないからだ!


 教会はいざという時の避難場所になるので、冒険者街の中でいうとダンジョンから一番離れているんだよね。


 ダンジョンがあって。

 一番近くに冒険者ギルドがあって。

 次に冒険者街の繁華街があって。

 そして教会があるって感じ。


 まぁダンジョンから一番近くといっても、冒険者ギルドは五百メートル以上離れている。

 ダンジョンはスタンピード時の迎撃用に、その周囲五百メートルくらいの範囲に建物は建てちゃいけないらしいのよ。

 すぐ移動できるようなテント屋台とかはあるけども。


 冒険者ギルドの建物が強固な作りに見えたのも、スタンピード時には最前線の砦として使うからなんだってさ。


 ここのダンジョンは入口とか階層移動が基本的に転移で行われる。

 なのでスタンピードは地上にある転移陣の周りを守らないといけないんだよね。


 まぁ話を戻そう。


 そうして街から遠い場所にある教会周りにはお店がない訳で、日本にいた頃はコンビニとかめっちゃ好きだった俺には耐えられないの!


 日本にいた頃でも調理系スキルがあって料理を自分で作る方が美味しいんだが、夜中に買いにいくジャンクフードとかは辞められなかった。

 さすがに教会の屋台を夜中にやらせる気はないが、ふらっと買いに行ける近所のコンビニ的な場所を作成する計画なのだ。


 決して、そう決して、アネゴちゃんが定時連絡の時に荘園と商人の話を俺にして、孤児院にいる子供達の未来を思い、泣いていたからではない……。


 俺は救える人しか救わない薄情者だからね。

 手を広げ過ぎて共倒れとか嫌だし。


 美味しい物が食べられる屋台が増えたらいいなーって、そう思ったに過ぎないんだ。


 ……。


 そうして歩く事しばし、てか女神教会って避難場所に使う事もあってか、敷地がめっさ広いのよ。

 その端っこにある孤児院が見えてきた。


 周囲を生垣に囲われた地味な一階建てのぼろっちぃ建物だ。

 ちなみに生垣にしてある植物は、葉っぱが食える物を使っていると聞いた。


 ……この植物はちょっと前に教えてもらった記憶がある奴に似ていて……ギルドの野営知識の教官が言っていた栄養はあるけどまずい奴だよねたぶん……。


 生垣の中に入ると、小さな子供達が広さだけはある庭で元気よく遊んでいる。


 ……。


 何度か来ている孤児院にお邪魔をして応接室へ、そこにアネゴちゃんがやってくる。


「タイシ兄貴! 今日はどうしたんですか?」


 エプロンと子供を装備したアネゴちゃんがそう聞いてくる。

 いや、子供は一歳くらいかな?

 ちびっ子をアネゴちゃんがおんぶ紐を使って背負っているだけなんだけども。


「ああ、屋台の件で来たんだ、司祭様から許可を貰ったから、話を進める事が出来るようになったぜ、人選の方はどうだ?」


 教会前の屋台計画は、ある程度アネゴちゃんには相談していた。

 司祭様からの許可が出るか分からなかったけども、事前に人選をお願いしておいたんだ。

 アネゴちゃんは俺の話を聞いて驚き。


「本当に!? やったーありがとうタイシ兄貴! ……荘園に勤めている知り合いから状況の悪さを聞いて心配していたんだよ……うう……ぐすっ」


 アネゴちゃんがちょっと泣いちゃっている。


 アネゴちゃんは威勢が良いのだけど、すごく優しい子で孤児達を思い泣いてしまう事が結構ある事に最近の付き合いで分かってきた。


「まだ何が出来たって訳じゃないんだから泣くなよ、どうせなら上手く行った時に嬉し泣きしとけ、それで調理系スキル持ちで良さげな奴とか、屋台の責任者として成人している責任感のありそうな奴に目途はついたのか?」


「ぐすっ……そうだった、まだまだこれからだよね、人選の方はある程度纏めておいたから、後でお屋敷の方に書類を持っていきます、そうだ! タイシ兄貴、この間の差し入れのクッキー皆すごい喜んでたって話はしたよね?」


 泣いていた目をこすり、へへっと笑いながらそう言ってくるアネゴちゃん。


「ああ言っていたな、あれは孤児院へ裏庭掃除する労働力を出してくれた事のお礼だし、美味い物が食えるなら次も頑張ってくれるかなと思ってやった事だが、それがどうした?」


 あれは下心ありの差し入れだからな。


「ふふ、おかげで新規に入って来た子らの躾が捗ったよ、次にお屋敷からの仕事がある時は、自分も行きたいからって真剣に礼儀作法や常識や道徳の授業を受けてくれたんだ!」


 アネゴちゃんは嬉しそうに語っている。


 なるほど、てことは次の仕事を頼んだ時も、またご褒美にクッキーを作らんといかんな。


「また裏庭に草が生えてきたら仕事を頼むからよろしくな、俺はちょっと出かけるから、書類を持ってきてくれるなら夕方に頼むわ」


「了解しましたタイシ兄貴!」


 そう元気よく返事してくれたアネゴちゃんと別れて外に向かう。


 孤児院から帰る途中で、お屋敷の掃除に来た事のある子が挨拶してくるので、何人もの頭を撫でながら挨拶を返して目的地へと向かう。


 さて次は冒険者街に行かないとな。





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