第53話 Fランクのメイドさん

 こんばんはタイシです。


 夕方になりクラン屋敷に帰ってきた『四色戦隊』のみんな。

 装備を外す前に裏庭に案内をしながら、イエローの事情を説明した。


 ……。


「僕は戦力が増える事に賛成します、タイシさんが認めているなら性格も良い人なのだと思いますし」


 ブルー君は普通に賛成してくれて。


「うーん、一度手合わせをしてからでもいいかな? それとメイド服のまま冒険に行くつもりなの?」


 レッドは〈メイド術〉の事を知らなかったようで、その実力に懐疑的だ。


「個人でメイドさんを雇うとか、タイシさんは益々異世界から召喚された勇者様っぽくなっていきますねぇ……私もメイド服を着た方がいいですか? あ、私は賛成です」


 ピンクはいつも通りだった。


「コクコク……む?」


 グリーンも賛成らしい、しかし最後のがよく分からない。


 俺がグリーンの内心について考えを巡らせていると、グリーンが俺に近付き腕を引っ張り、俺の頭を下げさせてから耳に手をあてて小さな声で。


『お兄ちゃん、私もメイド服の方が良い?』


 そう聞いてきたので、今のままで良いと返しておいた。

 グリーンは嬉しそうにしているが、別に教会服の方が好きって意味ではないからな?


 そんな事をグリーンとしている間に、レッドとイエローの手合わせが始まる事になっていた。

 ゴブリンが使っていた刃引きの訓練用武器を回収して選ばせる。


 レッドは素直にいつも使っている剣と似たタイプの物を選び。

 イエローは武器を選んだはずなのに向き合ったら無手だった、暗器として使うのかな?


 グリーンがレッドとイエローに光魔法でシールドの魔法をかける。

 これはある程度のダメージを肩代わりしてくれる物らしい、便利やなぁ。


 日も落ちて来たので、俺も〈生活魔法〉で光源をいくつか空に浮かべてやる。


 俺やココにブルーやピンクとグリーンは、少し離れた場所に一列に横並びして見学する。

 三区で簡単に手に入る材料で作った、蟻蜜ナッツクッキーを皆に配って食べながらね。


 審判はココパパがやってくれた。


「それではお互いに向き合って、では魔法のシールドがなくなるか、俺が有効な攻撃と見なしたら決着とする、お互いに礼」


 レッドとイエローは十メートルくらい離れて礼をする。

 ちなみになんでもありのルールらしい……異世界の訓練コワイ。


「始め!」


 ココパパが開始の合図をかける。


 レッドは真っすぐにイエローに向かって……いや? あれ?

 イエローに近づいたレッドは見当違いの場所を攻撃している。


 レッドから『なんで!』とか『すり抜けた!』とか言っているのが聞こえるから……。

 横にいるココに聞いてみた。


「ポリポリ、さすが俺だ美味しい、なぁココ、あれはやっぱりイエローの魔法か?」


 ココも蟻蜜ナッツクッキーを食べながら答えてくれる。


「モグモグ、シンプルで美味しいわ、そうね、あれは狐系獣人特有のスキルで上級にカテゴリーされている物で……今のあの子は確か〈一尾魔法〉で……あれは幻の魔法を使っているのだと思う」


 すごいフラグめいた事を聞いてしまった。


「なぁって事は、もしかして成長して内容が変化するスキルなのか? やっぱり最後は九になるの?」


「どうなんだろね? 記録だと六くらいまでしかないのだけれど……数が増えると同時に使える魔法が増えるらしいわよ? 今は内包している中の一つしか使えないけど……魔法系統が複数内包している時点でうちの妹すごすぎると思うの、サスイモよ」


 隙あらば妹を褒めていくスタイル、シスコンか?


「上級スキル持ちってそんなのありですか!? 上位クランから誘いが来るレベルですよそれ……モグモグ、これお安い材料で作れるのなら売り物になりますよね」


 ブルー君は驚愕しながらも商売っ気を忘れなかった。


「ポリポリ、さすがタイシさんのメイドさんなだけありますね! プラス三十ポイントです! ……これ美味しいので今度作り方教えてください、焼いた薄い生地に蜂蜜をかけたりが甘いお菓子の基本なんですよねこのあたりだと」


 ピンクはやっぱり相変わらずで、俺が戦っている訳でもないのに上がっていくポイントだった。


「ポリポリモグモグ」クィックィッ。


 グリーンは蟻蜜ナッツクッキーを食べ終わってしまったのか、俺の服の袖を引っ張ってお代わりを催促してくる。

 いや、試合の感想くらいは言ってやれよ……はいお代わりどうぞ。


 試合はレッドが隙を見せた瞬間イエローが距離を詰めて横を抜け、レッドの背後から首筋にナイフの刃を当てている。


 シールド魔法が残っているので、無理やり距離を取って再戦する事も出来るが……ココパパが止めていた。

 まぁ首筋を斬られたら普通は終わるものね。


 ……。


 俺達に近づいてくる二人。


「うぁー悔しい! 何の手ごたえもなかったんだけど、あれ何なの……」


 レッドはまだ幻に気づいてないのか。


 一緒に歩いていたココパパがレッドに状況を教えつつ、剣筋は悪くなかったとアドバイスなんかをしている。

 ……そしてそのまま何故か訓練を始めた。


 もうすぐ夕ご飯にしたいんですけど?


 ……。


「あー! クッキー食べてる! 僕にも頂戴タイシ兄ちゃん! あーん」


 イエローが俺の前に来て、ひな鳥の如く口を開けてきた。

 その可愛らしい口に蟻蜜ナッツクッキーを入れてやると、美味しそうに笑顔で食べ始めるイエロー。


 ココが隣で悔しそうに唸っている。

 シスコンか?


 レッドとココパパは訓練用の武器を打ち合わせて楽しそうに訓練しているね……。


 お屋敷に帰って行く皆に部屋に装備を置いてから食堂においでと声を掛け。


 俺も皆と一緒にお屋敷に戻り始めると、距離が出来た事により庭の〈生活魔法〉の光源が消えていく訳で、レッドとココパパも慌てて追いかけてきた。


 裏庭に面した倉庫に道具類を片付けてから、ゴブリン達はカードに戻した。


 ココパパやイエローはその現象にすごいびっくりしていて。

 食事をしながら説明するからと、まずは食堂に行く事に。


 他の皆は装備類を部屋に置きにいった。


 ……。


 俺はちゃちゃっと厨房で飯を作る。

 そう、今日のメインはボア肉のベーコンを使ったステーキだ!

 他にもスモークチキンを使ったサラダや、ナッツ黒パンと適当野菜スープで完成。


 ……。


 皆も揃ったので頂きます。


 ココパパとイエローに、カードの説明をしながらモグモグ。


「つまり異世界の日本とやらではこれが普通なのだな? ……騎士団の訓練でも対魔物を想定させた物を組み入れねばな……敵が無手でも強い魔物を急に出せる訳だしな、このステーキは美味いな……」


 ココパパがそんな事を言ってきた。


 まぁそれは有り得る未来ではあるんだが……。

 敵が使えるって事は自分も使えるって事なんだよな。

 騎士とテイムカード魔物との連携もやっておくといいと勧めておいた。


「モグモグ、サラダが無限に食べられるねこれ……タイシ兄ちゃん、それはつまり、あの可愛い魔物が自分の物になるって事だよね! ……譲渡して貰う場合っておいくらくらいになるのかな?」


 イエローはカード運用の怖さよりも、カード魔物の可愛さを重視したようだ。

 今もイエローは角折れウサギを自分の膝に乗せているしな。


 可愛い系のカード魔物は女の子に受けるのか……ふむ。


「もうすぐしたら世間にカードが出回るから、そうしたら譲ってあげられるかもな」

「そうなの? 楽しみに待っているねタイシ兄ちゃん、あとお肉お代わり!」


 イエローは嬉しそうだ。


 安心しろ、お代わりはちゃんと用意しておきました……多めにな。


「教会で売り出すんでしたっけか? 供給源が辿られると厄介そうですけど大丈夫ですか? ……モグモグ、タイシさんは売れそうな物を作り過ぎです……このステーキ肉だけでひと財産出来ますよ?」


 ブルー君が心配そうに言ってくるが、最後は商売っ気が出てきた。

 そうだな、勘違いをさせちゃってたんだっけか、よし。


「いやブルー君、そうじゃないんだ、どうも俺が奉納したカードを女神様が気に入ってくれたみたいでな、この世界の魔物からカードがドロップするようになるみたいなんだよ」


 ちょこっと内容を変えて教える事にした。

 お菓子で女神が動いたとか言えないしな。


「それ! ……は……すごい事ですね、世界中の魔物からカードが? もしかしてすごい商機なのでは? むぐぐ僕もカード扱った商売をしたい……初期に手を出せばすごい儲けがでますよこれは……ああ金貨の山が見える……」


 ブルー君は冒険者である事をたまに忘れるようだ。


「それはつまり、いつかワイバーンカードとか出るって事よね? 飛竜騎士とかいいわよねぇ……乗ってみたいわ……それと私もお肉のお代わりちょーだい!」

「タイシさんと二人っきりで空のお散歩ですね、憧れます、私もサラダお代わりいいですか?」

「フルフルッ!」


 レッドやピンクはいつものごとくで、ベーコンステーキやスモークチキンサラダの方も気に入ったみたいだ。

 そしてグリーンは……高所が苦手なのかな?


 そうしてご飯を食べながら、来るべきカード時代を想像して雑談していく俺達……。


 ……。


 ――


 ご飯後に、お茶を飲みながら話し合い、イエローの『四色戦隊』入りが決まる。


 パーティ名は四色から五色に変えるそうだが、取り敢えずおめでとう。

 ココパパも皆の性格の良さと、裏庭での試合を見て実力にも納得したようだ。


 グリーンが聖女見習いな事にも驚いていたしな。


 ココパパは夜だけどうちに泊まらずに、ココを送ってから帰るらしい。

 来た時に馬車から降ろしていた荷物はイエローの物だったみたいだ。


 ココも泊まっていいのよ? と言ったが、護衛配置の関係もあるのだとこっそり教えて貰った。


 ……。


 帰っていく二人を外まで見送ってから屋敷の中に戻る俺達。


 そういやイエローの荷物が、まだ一階の廊下に置きっぱなしじゃないか。


「イエローは何処の部屋に決めたんだ? 荷物運んでやろうか?」


 俺がそう聞くと。


「タイシ兄ちゃん、一階の倉庫にある物って使っていい?」


 イエローからそんな返事が来た。


 そりゃ構わないけど、と伝えるとイエローは嬉しそうに倉庫に向かった。

 棚でも欲しいのかね?


 運ぶのを手伝おうとしたら断られたので、俺は自分の部屋に戻る。


 ……。


 ――


 どさっと寝室のベッドに倒れ込み、早くカード情報が広まらないかなーと夢想していると、ガチャっとドアが開き、イエローが荷物を持って入ってくる。


 なんで?


 イエローは俺には何も言わず荷物を隅っこに置いて、またドアの向こうに消えた。

 と思ったら今度はテーブルを持ってきて荷物の所へ運び、またドアの向こうへ。


 そして今度は衝立を持ってきてと……それを何度か繰り返し、俺の部屋の隅に秘密基地を作り出す……。


 うん隅っこを衝立で囲い込み、唯一ある入口に暖簾を設置してあって良い出来だね、って違うだろー!


「ふー」


 イエローは汗もかいてないがオデコを拭い、仕事をやり切ったという表情をしている。


 俺は勿論問いかける。


「いや何してんですかイエローさん?」

「僕はタイシ兄ちゃん個人のメイドさんだからね!」


 元気よく答えるイエローだが、答えになっていないんだが……。


「それはつまり俺の部屋の中に自分の部屋を作ると?」

「勿論そうだよ?」


 何故イエローはそんなに不思議そうな顔をするのだろうか。

 俺の方が不思議なんだが?


「さすがにそれは駄目だろう? それにその秘密基地にはテーブルしか置いてないよな……何処で寝る気なんだ?」


 なんとなく答えは分かっているが一応聞いてみる俺。


「ん? そこのベッドだけど? ピンクに聞いたら皆で家族のように寝てるって言うし、タイシ兄ちゃんは僕を仲間外れにしないよね?」


 イエローは俺が寝ているベッドを指さしながら答えた。

 ぐはっ! ……それを突っ込まれると何も言い返せない……。


「あーえーとでもな、ほら、ココパパが許さないんじゃないかなーって思う訳だよ」


 ココパパの事を持ち出して抵抗を試みるが。


「それなら大丈夫! 万が一その……そういう事になっても……責任を取るなら許すって、お母さんとお父さんからも許可を貰っているから!」


 イエローは恥ずかしそうに体をモジモジさせながらそう言ってきた。


 は? ココパパ!? え? いつ許してくれたの?

 いつも娘を泣かせるなって言ってたし……。


 あれ? ……付き合うなとは一度も言われてないかも?

 ええ!? 最初から許されて……た?


 分かり辛いよココパパ! って別に俺から結婚を許してくれって言ってないけどさ!


 イエローが続けて。


「それにタイシ兄ちゃんは異世界のルールを大事にするから十六歳? 以上にならないとそういう事はしないだろうってお姉ちゃんも言ってたし……待っててねタイシ兄ちゃん! 僕も数年でお姉ちゃんやお母さんみたいなナイスバディになるからね!」


 今でも十分だと思うけどな。

 ピンクの数倍……いやゼロには何をかけてもゼロか……。


 その時、ドパンッと寝室の扉が開いた。


「今凄くタイシさんに馬鹿にされたような気がしたんですが!? 何のお話をしてたんでしょうか!?」


 ピンクが寝間着で俺の部屋の寝室に乗り込んできた。


 その後ろからレッドやグリーンも寝間着でぞろぞろとやって来て、全員が俺のベッドの上に乗って来る……。


 イエローがピンクに向けて。


「皆で家族みたいに同じベッドで寝るって話だよピンク、同世代の女の子達とのお泊まり会みたいで楽しみだなって……僕は友達とかを作る事が出来ない環境だったから……」


 イエローが悲しそうにそう言うも。

 ピンクはベッドに乗り込みながらイエローに向かって。


「なにを言っているんですかイエロー! 冒険者のパーティとは信頼し合う物です、つまり家族でもあり親友でもあるんです! つまり私とイエローはもうお友達ですよ?」


 笑顔でそう言い放った。

 そしてレッドもベッドに乗り込みながら。


「勿論私も友達よ! 貴方の幻? は、すごかったわ、これからは頼りにするからねイエロー」


 そう言い放つ。


「コクコクっ」


 グリーンはレッドに乗っかって頷くだけだが、伝わってはいるだろう。

 イエローは嬉しそうに、三人に向かってベッドに飛び込み抱きしめている。


「ありがとう、僕すっごく嬉しいよ! タイシ兄ちゃんの所に来てよかった……レッド、ピンク、グリーン、これからよろしくね!」


 そのままレッドとピンクとイエローは、キャイキャイとベッドの上で輪になって会話を初めている。


 どうしよう、中学生女子のパジャマパーティに二十歳の男が参加している気分になってきて、すごい疎外感がある。


 がしかし、俺の横にいつの間にかグリーンも来ていた。


 俺はグリーンに対して、お前も混じってこいよという意味を籠めて、顎をしゃくってレッド達を示す。


「フルフルフル、ムリ」


 グリーンが顔を横に素早く振り、最後にポソリと呟く。

 埒があかないのでグリーンを彼女らの方へ押してみたら本気で抵抗された。

 どうにも友達だと頷くくらいならいけるけど、皆でワイワイ会話するのは無理らしい。

 人見知りを拗らせてるなぁこいつ……。


 俺も中学生女子が青春しているような輪に乗り込むつもりはないので。


「寝るか?」


 とレッド達を見ながらグリーンに聞いてみる。


「コクコク」


 そう頷いたグリーンとベッドの端に行き。

 はしゃいでいる彼女らの邪魔にならないように端っこで寝る事にした。


 おやすみなさい。





 ◇◇◇ 補足 ◇◇◇


 大志さんが元いた日本世界は、作者が書いているもう一つの作品である「ダンジョンのある現代」の世界観から来ています。


 その世界は1999年に世界中にダンジョンが出現したために歴史が変化していて、2050年頃の作中では日本の成人年齢が16歳まで下げられているという設定になっています。

 なので女子が結婚できる年齢も16歳だとタイシさんは認識していますのでご了承ください。

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