第52話 Fランクは雇う

 こんにちはタイシです。


 今俺はイエローをメイドさんとして雇い、お茶を入れて貰っている。


 美少女僕っメイドに、上目使いでお願いをされて断れる男がいるだろうか?

 いませんよね。


 そんな風に答えが出たので、俺専属のメイドさんとして雇う事にしました。

 そして冒険の方はクランに加入させて『四色戦隊』に紹介するという話になった。


 それは何故かというと、イエローが朝早くからギルドに行き冒険者登録をしたのだが、そこで石板による確認をした段階でEランクが確定したらしい。


 そりゃね、戦闘に使える上級スキル持ちで貴族との繋がりがあったらね……そうなるよね……。

 まぁつまり、Fランクな俺とはパーティを組めない訳です。


 イエローは悔しがるかと思ったけど、一番の夢が叶ったので構わないらしい。


 問題はココパパで、ココママにもイエローを自立のために一人で行かせなさいと言われていたそうなんですが、心配で着いてきちゃったそうです。

 ココパパが言うには俺の屋敷の確認や、紹介予定の『四色戦隊』の実力や人柄を見るまでは帰らないそうで……親馬鹿ってのはこういう事を言うのかね?


 俺の日本での家族とはまったく違うものだな……俺の父親は学校の行事やらも全て使用人にさせてたからな……ちょっとイエローが羨まし……。


 いや、やっぱり羨ましくないかも。


 イエローが喜々として俺の世話を焼いている横で、俺とココパパやココとお給金や待遇について話し合っている。


 ……イエロー? 君の事なんだから参加しませんか?

 タダでも良いって? それは駄目でしょ……。

 イエローさんはやっぱり世間知らずなようです。


 メイドの雇用形態だが、クランで雇うのではなく俺個人で雇う形にした。

 クランの予算で雇うと、他のクランメンバーからもメイド扱いになっちゃうからね。

 そこはクランメンバーとして対等にしておいた方がいいと思った訳です。


 ……。


 ――


 ある程度話し合いも終わったので、ココとイエローとココパパを引き連れてお屋敷を案内している。


「ここが食堂で、あっちが厨房です」


「へー結構広いんですねぇ」

「僕も〈メイド術〉でお料理手伝うからねタイシ兄ちゃん!」

「ふむ問題ないな」


 問題のある食堂って何だろうか?


 一階の使用人区画を案内。


「ここが使用人の部屋と洗濯場です」


「館の規模にしては使用人部屋が多いですね」

「タイシ兄ちゃんの洗濯も僕がするからね!」

「二段ベッドか……下働きの部屋だな、うちの子はこの部屋じゃないだろうな?」


 洗濯は〈生活魔法〉で出来ちゃうんだよな……タオルとかを頼むかね?


 使用人用の部屋には二段ベッドが入っていて二人部屋みたいなのよね。

 二人だとちょっと狭いんだよなぁこの部屋。


 イエローはクランメンバーなので二階の一人部屋にする予定です。


 一階のお風呂を案内。


「ここが風呂なんですけど魔道具が取り外されていて今は使ってません、そのうちどうにかしたいとは思っているんですが……」


「せっかくのお風呂が使えないのは残念ですよね、でもまぁ平民でも湯船に浸かれるのってお金持ちだけですからね? 普通は濡らした布で拭うかサウナくらいです」

「僕の魔法を使えばお湯を作り出して入れる事も出来るけど……ちょっと浴槽が大きすぎるかなぁ……」

「風呂用の魔道具は高価だからな、庶民の家なら一軒家が建つくらいの値段はするぞ」


 今は俺の〈生活魔法〉を使ったり、それか桶にお湯を入れて体を拭っているんだよな。


 ……庶民の家って何処の庶民を示しているんだろ?

 ココパパは一応騎士爵らしいし二区の一軒家値段な気がする。


 二階の案内に移る。


「ここの大部屋は社交パーティとかに使うんでしょうかねぇ? 一階の倉庫にテーブルとかはいっぱいあったんですが」


「小規模なダンスパーティくらいなら開けますね、お茶会とかも」

「お茶なら僕にまかせて! スキルを覚えてから美味しく淹れられるようになったんだよ?」

「うむ、うちの娘の淹れるお茶は最高だ!」


 親馬鹿炸裂しているココパパに『ココママの入れるお茶とどっちが美味しい?』とか聞いちゃ駄目なんだろうな。


「んでこっちがクランメンバーの部屋な、空いてる所を好きに使っていいよ」


 二階の空いている部屋を選べとイエロ―を促す。


「一人なら十分な広さですね」

「うーん、タイシ兄ちゃんのお部屋って何処なの?」

「掃除はされているようだな……これならまぁ……」


 ココパパは指で机を拭ってホコリの有無を調べている。

 お姑さんか何かかな?


 お屋敷の中は俺が一気に〈生活魔法〉スキルで掃除をしたから、まだまだ奇麗なはずだ。


 そして最後に俺の部屋を案内する。


「ここが俺の部屋ね」


「うわ広い……いいなー、しかもお風呂とトイレ付なんですね」

「おっきぃベッドだねぇ……、後これくらいのお風呂なら私の魔法でいけるよタイシ兄ちゃん」

「ふむ……この規模のお屋敷を所有する主か……いやしかし……強さもないと……」


 ココパパはぶつぶつ小さい声で唸っているが、後半はよく聞こえなかった。


 確かにここは俺個人のお屋敷で、それをクランに貸しているという感じになっているけど、何か問題でもあるのだろうか?


 以上です、と言ったらココパパに裏庭があるだろうと言われた。

 そういえば、さっき外を眺めていたものね。


 仕方ないので案内をする。


 裏庭に行ける扉は、厨房、食堂の横の通路、一階多目的広間、使用人洗濯場、倉庫の五カ所にある、屋敷の外側を回り込んでも行けるけど。


「ここが裏庭です」


「うわ……個人の家でこの広さですかぁ……ってあれはゴブリン!?」

「ゴブリン!? タイシ兄ちゃん僕に任せて!」

「ふむ……テイムされているという事でいいのか? ちゃんと見なさいイエロー、状況を判断出来ないようなら、外にでる許可を取り消す事もあるぞ」


 ココパパは冷静にイエローをたしなめた……だが俺は知っている。


 ココパパが一階でココママメイドの件で目を反らして外を見た時に、遠くにいたゴブリンに気づき酷く驚いていた事を……。


 ココパパは屋敷を案内している間じっくり考えてテイムにいきついたのだろう。

 だがタイシ優しいので、そこらには突っ込まないでいてあげる。


 何故ならイエローが、ココパパの言葉を聞いてゴブリンがテイムされている可能性に気づき、それに即座に気づいた父の観察眼に感心して褒めているからだ。


 イエローに『お父さんすごーい』と褒められて、ココパパはすごく嬉しそうだ。


 タイシ空気読める子だからチャチャを入れません。


「タイシさんあれって……」


 ココはカードの事を知っているからなぁ……。


「タイシ兄ちゃんテイマーでもあるんだね、色々出来てすごいね!」


 イエローは素直に感心している。


「よく見るとゴブリンにしては見た目がおかしいか? 亜種? しかしあの程度の実力じゃ戦力にならんだろう?」


 ココパパの反応を見ると、まだカードの情報は知らないみたいだな。


「雑用みたいな物ですかね、戦力というなら兵士三人に勝てるイエローの方が強いでしょうしね」


 俺は素直に答えた。


 そもそもゴブリンは少数で使っても意味ねーしな……。

 まぁこの二人にはカードの事を説明しちゃおうと、俺は角折れウサギとアクアスライムも近くに呼び、ココ達に紹介する。


「うわぁ……近くで見ると可愛いですね、そうだイエローちゃん、これは普通の魔物と見た目が違うからね? 勘違いしちゃだめよ? 普通の魔物はもっと目がギラギラして怖かったりするし、スライムなんかはもっとねっちょりしているからね」


 ココはアクアスライムを撫でながら、イエローにそう注意していた。

 イエローは外にほとんど出た事がないのなら、知識としてでしか知らんのかもな。


「そうなの? こんなに可愛いんじゃ倒すのに躊躇しちゃいそうだと思ってたんだよね、可愛いねぇ君、うりゃうりゃ」


 イエローは角折れウサギの下あごのあたりを撫ででいる。

 角折れウサギはうっとりして目を瞑ってしまっているな……。

 今は角もないし、正直いってぱっと見はペットだよな。


「ゴブリンといいこれらといい全部亜種? いやそんな事が? 何処で見つけてきたんだか……」


 ココパパは見た目の違いに不思議がっているね。

 それじゃぁカードの説明をしようと思ったのだが。


『グゥゥゥゥゥゥ』


 お腹が鳴る音が響いた。

 その場にいた全員が角折れウサギを撫でていたイエローに視線を向ける。


「ち、違うの! これはその……そう! お昼を食べてなかったからなの!」


 イエローは俺に向かって言い訳をするが。


 その横でココは首を横に振っている。

 ……道すがらお昼は食べてきたのだろう……。


 だがまぁ三時のおやつには丁度いい時間だな。


 そういえばイエローと初めて会った時もこんな腹音をさせてたな。

 一緒にご飯を食べた時もチョコパーティの時も、人一倍食べてたっけなぁ……健康的で良い事だね、うんうん。


「丁度オヤツの時間だし、ちょっと味を見て貰いたい物があるんだ」


 俺は三人を食堂に誘導しつつ、そう語り掛けた。


「タイシさん! チョコですか!?」


 ココは歩きながら興奮しているが、外れだ。


 何故か角折れウサギをお腹あたりで抱えて歩いているイエロー。

 お屋敷に入る前にまとめて〈生活魔法〉で全員を奇麗奇麗にしてあげた。


「……わぁ服が奇麗になった……ありがとうタイシ兄ちゃん、そういえばあの時のチョコは美味しかったよね……でもね、僕は初めてタイシ兄ちゃんに会った時に食べさせてくれたカラアゲの味が一番かな……あの味は一生忘れないよ!」


 イエローはニコっと俺に笑顔を向けてそう言った。

 なんだこの可愛い生き物……いや僕っ狐メイドさん。

 ……信じられるか? この子俺専用メイドさんなんだぜ?


「……」ガシッと。


 ココパパは何故か無言で俺の肩を握ってきた。


 イタイデス、分かっています、メイドさんに不埒な事はしません!

 ……でも膝枕で耳かきして貰うくらいなら? って肩が痛い痛い痛い!


 なんで口に出してないのに分かっちゃうの!? ココパパはエスパーだった?

 悪意感知……いや……破廉恥感知スキルでも持っているのかしら?


 ……。


 ――


 食堂に戻った皆に、お試しで作ってみたスモークチキンを使ったサンドイッチを出す事にした。


 スモークチキンの味を前面に押し出したかったので、風味の強いナッツ黒パンではなく、小麦をメインに使った食パンを使っている。


 スライスした食パンに、スモークチキンやトマトやキュウリやらを挟み、バターや塩やマヨネーズで味をつけて半分に切っただけのシンプルな物だ。


 だがこのスモークチキンは八十点をつけた逸品だよ! どうぞ召し上が――

 俺が得意満面でそれを三人の前に出した瞬間、ココにアイアンクローされた。


 ナンデー! アイアンクローナンデー!


 ちょっとタップを! タップしているから!

 まさかココさん格闘技の降参の意味を知らない説!?

 ちょっとココさー-ん!


「タイシさん? 私言いましたよね? 新しい事をする時は相談しましょうって、しかもこれ新種のパンになりますよね? 食パ……異世界では普通のパンなのかもですが、こっちの世界だとまず金型を使って作るパンなんて滅多にないんですけど? ちょっと聞いていますか?」


 ココはセリフの間もアイアンクローを止めてくれない。

 金型なんて使ってないし!

 俺の〈生活魔法〉の結界を利用しているだけだから、セーフだと思うんだけど!?


 ちょっとココパパはなんで音を出さない拍手をしているんだよ!

 しかも、血は争えないな、ってボソッっと言ったよね?


 ココママも怒ると怖いの?


 そして俺の専属メイドは、主人を助けずに美味しそうにサンドイッチを食べている。

 ……角折れウサギにもお裾分けしているね……良い子や……って主人のピンチだよ!? 助けてくれないの?


 ……。


 やっと手を離してくれたココ。


「それでタイシさん、これは外の誰かに出したりしましたか?」


「今出したのが初めてですマム!」


 俺は敬礼をしながら答える。


「まったくもう……レシピを書いて公爵様に提出してくださいね?」


 ココは溜息をつきながらそう言った。


「今回は外部に出していないし冤罪じゃね?」


 俺は一応抗議してみたが。

 ココは俺をジロっと睨み。


「何か言いましたか? 今私が指摘するまで何も注意してなかったタイシさん?」


「いえなにも言ってません、そのうちレシピを書いて公爵様に提出します!」


 怖いので逆らうのは止めた。


 食パンなんてスーパーに行けば二百円もしないじゃんかよぶつぶつ……。


「タイシ兄ちゃんこれ美味しいね! お代わりある?」


 イエローは俺達のやりとりにまったく気付かずに、美味しくサンドイッチを食べていたらしい。

 この子の注意力で冒険者をやっていけるのだろうか?


 だがまぁダンジョンにはサンドイッチが敵として出て来ないから大丈夫か。


 そしてイエローのお皿には他の人の二倍入れてあげたんだが……角折れウサギがたくさん食べちゃったとか? まぁ俺の分をどうぞ。


 ありがとーとお礼を言いながら俺の皿にあったサンドイッチを頬張るイエロー。

 頬を膨らませながら食べるその姿はハムスターみたいだな。


 ココやココパパもイエローと俺のやり取りを見てから食べだした。


「うわ……おいっしぃ……ってこれ燻製しているんですね……これはまぁ真似しやすい技術だから二区あたりにならすでにあるけど、この味を出せている店がどれだけあるやら……」


 ココにそう言われた。


 煙で燻すだけなら誰でも真似して試行錯誤すりゃいけるんじゃね?

 とも思うんだが……いや、基本を知らんと色々面倒な部分もあるのか?


 日本にいた頃は、その基本のやり方をネットでいくらでも調べる事が出来たからなぁ……。


 ココパパもじっくり楽しみながら食べていて。


「これはすごいな、酒のツマミとして売り出したら人気が出そうだが、商人どもにすぐ真似されるとは思う……そうだ、下手な雑用を雇うと奴らはスパイを入れてくるから気を付けた方が良いぞ、物は盗まずに情報だけ盗まれるから厄介だしな」


 俺に忠告してくれるココパパ。

 そしてココパパは、自分の皿からサンドイッチを一つイエローのお皿に移していた。


 ってあれ?


 俺が譲った皿がすでにからっぽ?

 イエローは自分の分と俺の分で六つ食べたって事?


 ……うちのクランのエンゲル係数が上がりそうな気がした俺であった。

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