第50話【閑話】反響
side 教会
そこはダンジョンの側にある教会で、元々本道派と呼ばれる集まりが采配している教会の一室で会話が行われている。
テーブルに向かい合い椅子に座っているのは二人。
一人はハゲの司祭、もう一人が年嵩の修道女だ。
「これがそのカードとやらですか? この丸っこい魔物を模した絵は、スライムと書いてありますね……これが女神様から下賜されていたと?」
「はい司祭様、それと使い方の説明書きも添えてありました、さらに魔道具での連絡によると、各地の教会に同じようにカードの下賜が有り、従属神様の神託が降りているようです、うちの修道女の何人かにも神託がありました」
ハゲ司祭はそれを聞くと驚き。
「なんと! それで従属神様達はどんな神託を下さったのでしょうか?」
「纏めますと、女神様が新たな力を民に授ける事になったと……そのカードがその力で、世界中で女神様への信仰心が強まれば魔物を倒した時にそのカードが手に入るようになるとの事です、カードの内容や使い方はそちらの説明書きをお読みください」
それを聞くやハゲ司祭は説明書きをじっくりと読み始める。
しばらくしてハゲ司祭はスライムカードを持ちながら。
「召喚! おお! 本当にスライムが出て来た……これは素晴らしい……新生派の大司教を解任させた事といい、女神様は私達を見守っておられるのですね、これがあれば孤児出身でテイムスキルがなくとも都市インフラの仕事に就く事が出来るでしょう……さらに脅威である魔物を誰でもテイム出来るとなれば、その恩恵は計り知れませんね」
「司祭様のおっしゃる通りですね、確かにこれは素晴らしい物です……が素晴らしいだけに価値があります、そうなれば商人や貴族が狙って来るのでは?」
その年嵩の修道女の言葉を聞いて司祭は考え込んだ。
「女神様から下賜された物を取り上げるとは思えませんが……王に献上は必要でしょうね、王城の教会にどうするべきか相談しに行きます、もうほとんどの教会から新生派を追い出しているはずですから、下手な事にはならないと思うのですが……送還」
ハゲ司祭はスライムをカードに戻し、年嵩の修道女に渡す。
そして、すぐさまハゲ司祭は出かける準備を済ますと。
「では早速行ってきます、貴方はそのカードの管理をお願いします、では」
足早に部屋を出て行った。
……。
残った年嵩の修道女は椅子に座ったままスライムカードを手に持ち。
「召喚! わっ本当に出るのねぇ……さっきも思ったけど貴方コロコロと丸みがあって可愛いわねぇ……スライムなんてべっちゃりしていて、ネトネトしているはずなのに、触ってもスベスベしているし」
スライムを撫でたりプニプニと指でつつく年嵩修道女、だんだん興に乗ってきた彼女はスライムに命令を出し始める。
「そこで跳ねてみなさい! わーピョンピョン跳ねて可愛いわ……次はそうね体を震わせてみなさい! いやんプルプルしてる……ツンツン、さっきも言ったけど貴方丸みがあってコロコロプルプルしていて可愛いわねー、コロちゃん、なんちゃってー」
その時年嵩の修道女はスライムとの間に絆が結ばれたのを感じた。
名前を付けた事により、スライムとのパスが本格的に繋がったのだ。
「……え? ちょっま! っこれって……送還……ああ……やっちゃった……貴方の名前コロちゃんになっちゃった……司祭様に謝らないといけないわね……はぁ」
カードに戻ったスライム、そこにはきっちりと『コロちゃん』の表記が書かれていた。
「ま、いいかコロちゃん召喚! もうどうにもならないし遊びましょうコロちゃん」
各地の教会でも似たような事例が起きまくったのは言うまでもないだろう。
side 商人ギルドの会合
『それが本当なら絶好の商機ですな!』
『しかりしかり、出来れば現物があればよかったのじゃが……』
『無茶を言ってやるなよ、女神様が教会に下賜された物を貰うなんて今は無理だろ』
『相手が新生派ならいけたのですがなぁ、はっはっは』
『新生派も昔は良い商売相手だったんじゃがな、権力を振りかざして支払いを踏み倒すとか、商人相手にやってはならん事をするようになってしもうて残念じゃわい』
『天秤が傾いた瞬間本道派に一気に支援の手が入ったそうですよ、おー怖い怖い驕れる者久しからずでしたか?』
『転生者の伝えたコトワザでしたっけ? 支援して没落させた側が言う言葉でもないでしょう? ふふふ』
『はは、それは言わないお約束という奴ですよ、さて、話を戻しましょうか』
『魔物から出るようになるという事は冒険者からの買取になるのう』
『テイムとなれば王国の法は必須になるだろ? 現状のテイムに関するルールは緩すぎだ、なればそこを俺達で押さえてしまえば?』
『やりすぎるのは悪手ですぞ、冒険者ギルドと組んでほどほどの利権と利益を得るのが最善でしょう、欲しがり過ぎれば新生派と同じ轍を踏みますぞ』
『確かにそれはありそうねぇ……それでも国との折衝は必要でしょうし私が行こうと思うのだけれど良いかしら? 勿論利益の独占をしない事は女神様に誓うわよ』
『私は問題ないと思いますが、たいして信仰もしていない女神様に誓うよりは、金貨に誓って下さった方が安心しますがね、ハハハ』
『そりゃ言えてる! 金貨に誓ってくれよ!』
『我らが道は金の道だしのぅ……』
『ふふ、商人ギルド役員の×××は王国への交渉役として赴き、商人として最大限の利益を商人ギルドへともぎ取ってくる事を金貨に誓うわ』
『新たな商売にワクワクしますな、私×××は交渉役の件を承認します』
『俺×××も承認するぜ! 城には俺もツテがあるからよ、力が必要なら言ってくれや、格安で助けてやる』
『ほっほ×××も承認するぞい、まぁ若いので頑張るとええ、わしゃもう年だしの、のんびりやるわい』
『何言ってんだか爺さんは、あんたが一番怖いくせに、いっつも美味しい所を持っていきやがって』
『年の功という奴なのでしょうなぁ……老公にはいまだにかないません』
『お爺ちゃんは最後の最後に持っていくから油断ならないのよねぇ』
『ほっほっほ』
side とある苦労人
「なぁ……普通はもっと前に連絡するよな?」
「さようでございますな」
「連絡が来たと同時期に他からすでに異変が始まっている連絡があったとか……あいつはアホか! 心の準備すら出来んっての!」
「謎の生物でございますから……」
「そうだったなぁ……いやあいつが謎すぎるだけじゃね?」
「はてさて」
「俺は今それを知ったって事にして、そしてそれを相談すべく王城に行き兄上……王に会って相談するという建前で動く、表からの情報はどの程度入っている?」
「すでに教会からの聞き取りは終えています、ここに書き示した事は公爵様が知っていてもおかしくないでしょう」
「さすがだな……ふむ、下賜品に説明書きも送られてくるって前代未聞じゃね? しかもこの従属神の神託の量がありえないだろ……もうやだあいつ……何したんだよ……なんでこんな事が出来ちゃうんだよ! くそ! 商業ギルドが動く前にある程度道筋をつけておかないとな……やはり冒険者ギルドにテイムカード関連の部署を作るのが……ふむ」
「公爵様、今は動いた方がよろしいかと、考えるのは国王様と一緒になさったらいかがでしょうか?」
「ああ、それもそうだったな馬車の準備をさせろ!」
「すでに入口に用意してあります」
「お、おうそうか、では行くぞ」
「畏まりました、お供いたします」
「ったく……次にあいつに会ったら何か面倒くさい仕事とか振ってやろうか……嫌がらせの一つでもしないと気がすまん……まぁ今はカードの件か、ついでに酒の件も兄上に相談しておくか……はーめんどくせー! 諸々終わらせてまたテーブルトークで遊びてーなぁ、くそ……」
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