第49話 Fランクの下準備2

 おはようございますタイシです。


 やはり三区ではダンジョンのある南南西付近が一番賑わっているのでしょうね。


 それ以外の地域は冒険者も新人ばかりでお金にならんからなのか、お店が少ないんですよ。

 南東なんて人の通りもほとんどないのか、宿屋すら少なくて農地ばっかり……特に遊べるような場所もなく宿で大人しく寝てました。


 王都北東の川に隣接している船着き場あたりだと、川を使った輸送船を止める船着き場があって栄えているらしいんだけど……。

 ちょっと興味があるんでいつか見に行ってみたいね。


 そして今日も朝から湿地帯で狩りをする。


 俺はゴブリンのご褒美用の焼肉串を焼く事に専念しつつ、ついでにスキルの熟練度も上げていく。

 ふふんふんふ~ん、パッチンコココンコンココン。


 片手用のカスタネットを自作してみました。


 音の質は悪いがスキルは発動しているようで、一割以上能力値はアップしているかな?

 まだ熟練度が低いから、そのスキルの重複が足し算なのか掛け算なのかは分からん。


 ただこの〈音楽魔法〉の弱点も見つけちゃったのよ。


 ……なんと! 鼻歌をしていると指示が出せないって事に気づいた!


 ……。


 それと狩場に定めた此処らは、湿地帯のスライム群と王都の壁に挟まれているので強い魔物が縄張りにし辛いせいか、ちょっと特殊な魔物の生息地でもあった。


 それがこのバトルキャットやバトルドッグやバトルハムスターやバトルバードなんかのバトルシリーズだ。


 このバトルとつく魔物達は普通の動物やらに毛が生えた程度の強さにしかならんので、他の魔物にすぐ倒されて糧とされてしまうそうだ。


 俺が持っていたバトル系の蛇や蜘蛛やコウモリは、逃げ足が速かったり木に登って逃げられたり隠れるのが上手かったりするので生き残っていたんだろう。


 魔物は人間相手には好戦的だが、魔物同士だと逃げたりする事もあるみたいだし。


 そうして手に入れたバトルキャットカードを召喚してみたが、格が一で才能上限が二だった……。

 スキルも生えてない子は生き残れなさそうだよなぁ……。


 てかこれ、只の猫にしか見えないよな……。

 カード化したことで目つきも鋭い感じから、のほほんとした大人しい感じになったしね。


 ここらの魔物はそういったバトル系が多いのだが、それはつまり魔石も小さく素材も安いという事だ。

 つまり此処らは冒険者達の狩場にはならず、外周壁調査の新人が壁の側を回るくらいしかしないそうだ。


 月に何度かある、魔法使いによる焼き払いの時以外はひとけがないという事は、有難く好き勝手に出来る安全な狩り場って事だね。


 カード化が世界に実装されたら美味しい狩場になっちゃうんだろうな……。


 拠点の周囲で魔物が倒される様子を見ながら、角ウサギとバトルラビットは戦力が全然違うんだなぁ……と思った。


 ……。


 ……。


 ――


 ――


 ふんふんふふふ~ん、と拠点で料理する事三日間。


 このスライム湿地帯から帰る事にした。


 二日間と今日の午前だけで、スライムカードが三千枚を超えた。

 他のカードもぼちぼち貯まったので、世界にばらまいてみようと思う。


 これも俺が自由にカードを使えるようになるためだ、頑張ろう!

 てことで撤収します。


 ささっと拠点を片付けて、ゴブリンだけを護衛にして壁に近づき、壁に着いたら角折れウサギと交代してゴブリン達を送還する。


 テイマーとして街にゴブリンの集団を入れようとするのは、Fランク冒険者だとちょっと厳しいかもだしな。


「先導と魔物が出てきた時は頼んだよ角折れウサギ」


 俺がそう頼むと、頼りにされているのが嬉しいのか、角折れウサギは鼻息をフシューと洩らしながら俺の前をピョンピョンと飛んで門へと向かう。


 まぁ魔物が出たら他の子も呼び出すんだけどね。


 ……。


 ささっと南東門から三区へと入り、人目につかない場所で角折れウサギを送還してから、南西のダンジョン側の冒険者ギルドへと向けて駆けていく。


 ……。


 夕方前に着いた冒険者ギルド、受付にいたココに話しかける。


「相変わらず暇そうだなココ」


「こんにちはタイシさん、いいのよ私の仕事は新人の調査なんだから、っと内緒でよろしくね?」

 ココが、いいのよ、辺りから遮音魔法を掛けてそんな事を言ってくる。


 まぁそんな所だよね。


 力を信奉する冒険者の能力を把握しておく事は、為政者にとって重要だものな。

 戦闘スキル持ちが多いせいか冒険者って脳筋が多めで、理性的な言葉やルールが通じない時とかあるし。


 それに冒険者同士が酒場とかでケンカになって、ギルド立ち合いの元で決闘とかが起こる世界だしな……。


「で今日はどうしたの? チョコの材料はまだ買い集めてないのだけれど」


 ココがコテンと首を傾げて聞いてくる、可愛いなおい。


「いや公爵様に伝言を頼もうと思ってな」

「公爵様に? ……なんだろう、すっごい嫌な予感がするんだけど……またやらかした?」


 ココは何かすごく嫌そうな顔をしながらそう反応したのだが、ってそんな、しょっちゅうやっているみたいに言うのは……うん。


 こほんっ。


「失敬な! ……これからやるから伝言するんじゃないか」


 俺もね、これが結構すごい事になるとは分かっているんだ。

 分かっているからこそ、公爵様に文句を言われるのが嫌で伝言にするのだよ。


 ふふり、タイシ頭いいな!


「うう……聞きたくない……聞きたくないけど、聞かないと後悔しそう……それで、なんて伝言を伝えれば?」


 すでにココが遮音魔法を掛けているが、一応〈生活魔法〉の結界で遮音魔法を二重に掛けてっと。


「女神様が各地の教会にカードを下賜してくれる事になり、すでにスライムカード三千枚を中心に用意は出来たので早速始めます、なので対処の準備よろしくって公爵様に伝えてくれ」


 ココは頭を抱えて唸っている、どうした片頭痛持ちか?


 ココはグワっと顔を上げると。


「やらかしの規模がとうとう世界規模になってる! ……突っ込みが追い付かないよタイシさん! 分かるよ? 何をやりたいのか分かるけど! タイシさんのやらかし速度が速すぎて自重さんが追い付けなくて泣きそうだよ! それにどうしてタイシさんの計画に女神様が一枚噛んで来るのよ!?」


 ココは意外に突っ込み気質だよなぁ。

 それと声でかすぎだ、遮音二重にしといて良かったよ。


「それはな、俺と女神との秘密だよ」


 あいつとの会話内容はなるべく表に出さない方がいいよな、神としての威厳が薄れるし。


「女神様と友達か何かなんですか!? ……いやもう好きにしてください……公爵様への伝言承りました、それで開始時期はいつ頃になるんですか?」

「今日の夜からだな」


 俺はココへと簡潔に伝えた。


「それだと対処の準備どころか心の準備さえ出来ないから! もう少し周りの人への配慮をですね……」

「俺が俺のためにする事だからな、俺は止まれないんだ、すまんなココ……お前にはいつも迷惑をかける……」


「……タイシさん……本当に迷惑です!」

「おいおーい、そこはさぁ『それは言わないお約束です』とかって言う所だろーに」


「言いません! ……はぁ……世界に衝撃が走るんだろうなー、周りの人が驚いてるのに私だけ平然とする訳にいかないから演技しないとなー……あーあーすっごく面倒だなー」

「……おーけぃココさん、これをどうぞ」


 俺は〈引き出し〉から蜂蜜クッキーが入っている木箱を取りだし、ココに差し出した。

 女神に奉納する分が減るが……ま、いいだろ。


 ココはそれを受け取ると、ススっと受付台の下へ隠した。


「タイシ屋お主も悪よのう」

「いえいえ、ココ様ほどでは……」


 ……。


「タイシさんってノリが良いですよね?」

「ココもな」


 さてココとの雑談と用事も終わったし、教会に行って奉納してくっかね。


 俺が受付を離れようとすると。


「あ、タイシさんちょっと待って」


 ココが何かを思い出したように引き留めてくる。


「どしたー?」


 さすがにお菓子の追加は困るんだが。

 ココは少し困った表情で続ける。


「えとね、うちの妹がね……」


 ココの妹?


「ココ妹ちゃんが祝福の儀でやばいスキルでも手に入れたか?」


 あの子ならあり得そうな事を聞いてみる。

 するとココは手を横に振り。


「下の妹じゃなくて上の妹の事でね、タイシさんがお父さんに認められるくらい近接戦闘が強くないとって諭したじゃない? それであの子、毎日騎士団の訓練に混じって泥まみれになって頑張っているし……お母さんもノリノリで色々教え始めてね……それで……お父さんが根負けしそうなの……」


「はぁ? ココパパが教えてるんじゃなくて、ココママが教えてるのか?」


 演奏のお手伝いの時にココママも体力あるなぁとは思ったが……。


「うん……侍女はほら、偉い人の最後の盾になるから、戦闘能力がある人もいるのだけど……お母さんが教えたら妹がすごい勢いで技術を吸収し始めちゃってね、しかも新しいスキルまで現出しちゃうし、新人の兵士を近接戦で倒せちゃうくらいだからお父さんも止めようがなくてね……その、今度タイシさんのクランのお屋敷に妹と一緒にお伺いしていいかしら? 妹がタイシさんにお願いしたい事があるんだって……どうかな?」


 ありゃぁ……イエローは戦闘の才能があったらしい。

 ココパパでも止められないのか、うーんお願いってやっぱ……うーん……。


「俺の方は予定を教えてくれたら、遊びに来るのはいつでもいいけどさ、お願いってやっぱ冒険者だろう? 危険な職業だし俺は基本ソロだからなぁ……」


 面倒を見てくれと言われても困るんだよな。


「あーえーっと、冒険者もまだ目指してはいるんだけども、なんだかちょっと夢が変わったみたいでね? 詳しい事は妹から聞いて欲しいのだけれど……」


 ココは何か歯切れが悪い、何事よ?


「ふむ……よく分からんが部屋もたくさんあるからお泊まりでも構わないし、なんならファミリー全員で遊びにきてもいいぜ?」


 面倒事は未来の俺に投げる事にした。


「ありがとうタイシさん! じゃぁ予定が決まったら連絡するね」

「了解、じゃぁまたな~」


 妹ちゃんの話も気になるが今は目先の事を優先しようと、ココに別れを告げた俺は教会に向かう。


 ……。


 ――


 礼拝堂では個人が女神様に奉納する事も許されている。


 なので、一般人がいなく関係者の人が一人しかいない瞬間を狙い、台座にカードを詰めた風呂敷包みと、お菓子が詰まった箱を置く。


 そうして女神に像に向かって祈りを捧げる。


『カードは奉納する、それと手数料のお菓子だ、後は頼んだよ』


 ……。


『リョウカイオカシスクナクナイ?』


 すぐさま女神から神託が降りて来たのだが、お菓子についての文字数が勝っている……。

 お前がちゃんと仕事をやったら、次はいっぱい奉納したるわい!


 台座から荷物が消えるのを見届けてからクラン屋敷に帰る事にする。


 ちなみに女神に託したカードだが。

 スライムカード3258枚と、その他のカードも諸々百枚程度になる。


 何故最初にスライムカードをメインにしたかというと。

 テイマーがスライムをテイムして下水の浄化等をしているのだが、まったくもって人手が足りていないという話を聞いた事があるからだ。


 自然のスライムを利用したりもしているが、制御出来ていない魔物は時に事故を生む。

 それなら、誰でもインフラ作業員になれるスライムカードは受け入れられ易いのでは? と思った訳だ。


 さて……どうなるやら、ワクワクするね。


 ……。


 そのままクラン屋敷に帰ってきた俺。

 久しぶりに厨房で夕ご飯をノリノリで作っていると皆が帰ってきた。

 〈生活魔法〉でパパっと皆を奇麗にしてあげる。


 ……。


 今日はロールキャベツにグラタンとナッツ黒パン、そしてミネストローネ風スープと、味付けに出汁と果物の酸味を使ったサラダだ。


 ……。


 皆は早速とばかりに食べ始め。


「御無事に帰ってきて何よりですタイシさん、ご飯もありがとうございます、いつもより豪華というか手が込んでますね、このスープとかすごく美味しいです」


 ブルー君はトマトが好きなのかな?

 今度ケチャップを作ってあげよう。


「怪我とかしていないみたいね……ねぇタイシ、スライムカードは集まったの? あ、このグラタン美味しいわね……細かいお肉とトマトの酸味とチーズの相性が最高かも」

「私も知りたいです! 夫の行状を知っておくのも妻の役目です! このサラダは優しい味でいくらでも食べられます、モグモグモグ」

「ずずずっモグモグ」



「美味しそうに食べてくれて何よりだ、スライムカードは十分集まった、しばらくしたら世の中にテイムカードの話が出てくると思うけどびっくりしないでくれ、そして俺のスキルは身内だけの秘密でお願いな」


 俺はナッツ黒パンを食べながら、皆に内緒だとお願いをしておく。


「公爵様が商うんでしょうか? あのカードをクランで独占販売出来たらものすごいお金に……いえ死肉に集まるスライムが如くに欲深い輩が集まってきますか……タイシさんの能力は金貨になりそうな物が多いのに、気軽に表に出せない事が多いですよね」


 そう言って残念そうにしているブルー君だが。

 俺は彼の間違いを一つ否定しておく。


「最初にカードを扱うのは公爵様じゃなく教会になりそうだ」


「教会ですか? 確かに組織の規模としては大きいですけど、あそこは上が腐っていますし、やめておいた方がいいですよ?」


 ブルー君が忠告してくるが、その情報はもう古いよ?


「回復魔法のお代とかすごく高いって聞くよねー、お父ちゃんが愚痴ってたのを聞いた事がある、回復系スキル持ちは二区以上の教会に取られちゃうから、三区の教会は大変なんだって」

「うーん、でもレッド、最近回復魔法のお代が下がったって噂をしていた冒険者がいましたよ」

「コクコクッ」


 まだ教会の内部抗争の話は民に伝わり切っていないんだな。

 まぁ教会内部が腐敗していましたなんて、わざわざ周りに言ったりはしないか。


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