第48話 Fランクの下準備
おはようございますタイシです。
今日はもう『四色戦隊』の皆はダンジョン一階に狩りに行っています。
朝ご飯とナッツ黒パン他お弁当を作って送り出し済み。
……。
そして今俺は冒険者ギルドのココの所へ相談に来ている。
「という訳で王都近場での魔物の生息域なんてのが知りたいんだが」
狩場を探すべく暇そうなココに尋ねていく。
ココがこうやって暇そうな端っこの受付勤務なのは、公爵様の意向なんじゃね? と最近思っている。
「どんな訳だかさっぱりだけども冒険者ギルドの二階に図書室があるわよ? カクカクシカジカ」
ココが後半をはしょった。
「成程マルマルウマウマか、いや分からんから! ……二階だな、ありがとさん」
ココにお礼を言って離れる俺。
「あ、タイシさんまたチョコ菓子作ってよ~材料費は払うから!」
受け付けから離れる俺にココが声を掛けて来たのだが……手数料は?
俺はココに背を向けて歩きながら、軽く手を振ってココに応える事にした。
……。
一階の入口エントランスの端にある階段を登ると、また受付やら待合席やらがある。
近くにいた冒険者に話を聞くと、二階はCランク以上用なのだとか。
俺は奥にある図書室の場所を聞くと、お礼にとその冒険者に銅貨を渡しながらそこへ向かう。
図書室と書かれた看板の掛かっている扉を開けて中に入り、入口の受付にいるエルフのギルド員に図書室の使い方を教わる。
以前教官から聞いた通りに、一万エルの保証金を預けてから使用するとの事だった。
たっかいよなぁ……まぁ図書室使用料も毎回百エルかかるし、低ランクじゃどうにもならんよね。
ギルド職員でエルフの司書さんは、俺のギルドプレートがFランクなのを見て驚いてやがった。
さてと、本当は〈生活魔法〉で本を浮かべて一気に読みたいんだが、もしその途中に悪意のあるやつが俺に近付いて本が落っこちるとまずい。
本が壊れたりしたら最悪なので、面倒でも一冊ずつ読むしかないか。
さて〈速読〉〈思考分割〉〈並行処理〉〈記憶力向上〉〈俯瞰〉等々使えそうなスキルを使って、必要そうな本を片っ端から読むぞ~!
パラパラパラ黙々、パラパラ黙々、パラパラパラ黙々、内容なんて一切意識をせずに、ただ本の内容を〈記憶力向上〉スキルのストレージにどんどん仕舞って行く。
「あの」
パラパラ黙々。
「もしもし!」
パラパラ黙々。
「ちょっと! 反応しなさいよ!」
なんだか煩いな、俺はいつのまにか横に立っていたエルフ司書を見る。
「なんですか? 今忙しいんですけど」
「もうすぐ閉室なのよ、最初に言ったでしょう? ギルドの依頼受付なんかは深夜でも最低一カ所は常に人がいるけども、図書室は日勤だけだから夕方までだって、それにあなた一日中パラパラと流し読みしてただけじゃないの……本っていうのはもっとちゃんと読んであげるべき物であってね? ってちょっと聞いてる?」
ここは窓がなく魔道具の明かりだけの部屋だから、そんな時間になってたって気付かんかったな……。
俺は持っていた本の最後まで目を通すと本棚に仕舞い。
最初に読んだ本を本棚から抜いてエルフ司書に渡す。
そして図書室の受付方面に歩きながら。
「好きなページを開いてページ数を俺に教えてくれ」
エルフ司書は意味が分かってなさそうだが、俺の言った通りに適当なページ数を言ってくる。
そこで俺は〈記憶力向上〉の中に置いてある、そのページの内容を諳んじてみせた。
するとエルフ司書は驚愕の表情を俺に向け。
「え? 貴方これ全部覚えたの? いくら〈速読〉で読めたとしても……この内容を全て記憶した? ……すっごいわね! あ、あの、貴方も本好きなのかしら? 私も本が大好きなの! 人間種は本を馬鹿にする人も多いけれど、私は本こそ文明の基本だと思うのよね、そ……それでその、今度本好き同士でお話とかどうかしら?」
……この世界の女子はエルフでも肉食なのでしょうか?
さっきはちょっと俺を馬鹿にしていた感じだったのに……まぁFランクでも一万エルをポンと預ける事が出来る相手という事もあるか……。
受け付けにたどり着いた俺は、預け金を返して貰い、エルフの司書に返事をする。
「次ここに俺が来たら、君のお勧めの本を教えてくれ」
「まかせて! 本好きの仲間が増えるのは嬉しいわ!」
そのままエルフの司書にバイバイと別れを告げてから、図書室の外へと歩き出す俺。
……実は今回必要な本は全部読んじゃっていて、最後の方は予定と関係ない本を読んでたんだよね。
つまり。
しばらく図書室に行く予定ないんだよなぁ……。
まぁあんな美人エルフが本気であんな事言う訳ないし、社交辞令だろうさ。
そうして、ご飯を食べるのも忘れていたために、グゥゥと主張しているお腹をさすりながらクラン屋敷へと帰る事にする俺だった。
……。
丁度皆がご飯を食べる所だったようで俺も食事に参加する。
「それでダンジョンはどうだったんだ?」
ピンクの作った肉と野菜の炒め物を食べながら聞く俺だ、モグモグ。
「やっぱりダンジョンは外と違いますね……低階層のマップは公開されていますが、手書きの物と実際では印象が違いますし……緊張して疲れました」
ブルー君はげっそりしているな。
彼が斥候役だから、移動ルートの管理とかもしているんだろうしな。
「びっくりしたのは魔物が消える事よね~、人が近くにいると倒した魔物はそのままなんだけど離れると消えるのよ! 一回試しに遠くから観察してたら本当に黒っぽいモヤになって消えていったわ! 魔素から生まれる時もあんな感じなのかしらね?」
レッドはちょっと興奮していた。
魔物が消えるなんてまるで日本の……いやドロップアイテムが落ちる訳じゃないみたいだし違うか?
この世界のダンジョン独自の設定かねぇ……? むしろ日本の方が真似を……?
ま、分からん事を考えても仕方ないか。
「固定狩りでも魔物はそこそこ寄ってくるし、移動するとすぐ魔物に行き当たるんです、稼ぎは良いけれど休憩を取れそうな場所とかを見つけておかないといけないですね、今回は順番に戦いながらご飯を食べたんですが……タイシさんのお弁当が手に持って食べられるタイプだったのは良かったです……あれはこういう状況を踏まえてだったんですか? だとしたらプラス五十点です!」
ピンクは俺の意図に気づいていた。
お弁当とはいえ戦場で食べるのなら、その場その場に合わせないといけないからな。
でも明日からはちょっと用事があるから、お弁当は自分達で作ってね?
ナッツ黒パンだけはいっぱい常備させておくからよ。
「フルフル、コクコク」
グリーンさんは何の意見を否定して何の意見に賛成なのかな?
「まぁお弁当を自分らで作れっていうのはな、俺が暫く忙しいからなんだよ、場合によっては……いや普通に二、三日お泊まりもしてくるが心配しないでくれ」
「どういった予定か聞いても良いですか?」
「……まさか一人で危ない狩りとかに行かないわよね?」
「は! まさか浮気ですかタイシさん! 外に女を作ったんですね! 何処の誰だか教えてください、ちょっとゴアイサツに行かないといけませんので」
「フルフル」
ブルー君は普通に聞いてきて。
レッドは勘が鋭く。
ピンクはいつも通りで……いや、浮気の前に本気がなかったと思うのだが?
グリーンは良く分からん。
「あー公爵様にカードの事で頼みがあったんだが……問題が色々あってな、スライムカードを大量に集めようかと思っているんだ、移動時間が勿体ないから泊まるってだけで、やばい所に行くつもりはあんまりないんだ、それに稼ぎにならん行動なんでお前らを連れて行くのもなぁ……」
「あのカードを公爵様にですか? 確かに性能を考えると個人で扱うべき物じゃないですよね、スライム相手なら安全なんですよね? でもクランとして必要なら稼ぎとか後回しで手伝っても良いですよ?」
ブルー君はそう言ってくれるが。
俺個人が〈カード化〉スキルを気にせず使えるようになりたいだけなんだよな……。
「うーん、スライム相手なら大丈夫だろうけど……怪我でもして帰ってきたら許さないからねタイシ!? そうなったら何でも一つ言う事を聞いて貰うんだから! いいわね?」
レッドはむくれた表情でそう言って来る。
何でもは無理です、お菓子くらいで許してくれませんか?
「女ではなさそうなので行ってらっしゃいですタイシさん、夫が出かけた家を守るのも妻の務めですから、まかせてください」
ピンクさん最近もう容赦しなくなっているよね?
完全に既成事実に持っていこうとしてませんか?
三年後くらいにフリーだったら考えるって話だったよねぇ?
「ガシッ」
グリーンは俺の腕を掴む。
「いやお前が抜けたら三人が危ないだろ? 回復魔法持ちでタンカーなグリーンが一緒に行ってくれる事で安心なんだよ、だからまぁ頼むよ」
言葉をほとんど出してないのに、なんかもう何が言いたいか分かるようになってきてしまった。
「ヌヌヌ」
グリーンは悔しそうに了承してくれた。
……。
――
夜になりブルー君以外の皆が俺のベッドに潜り込んできた。
いやまぁ毎回皆きてるんだけどよ……。
その日の夜は、日本でふられた彼女ともう一度出会い結婚をし、家族をたくさん作り子供らと一緒のベッドで寝る、そんな夢を見た。
……。
……。
――
あくる日の太陽も出ていない早朝に、厨房にナッツ黒パンだけ大量に作っておき、荷物を背負った俺は出かける。
まだ暗い道を〈生活魔法〉で照らして東南門へと向かう。
……。
欠伸しつつ夢の内容を思い出しながら速足で歩いていく……。
俺はまだ吹っ切れた訳じゃないのかなぁ、とか考えつつ。
……。
俺達がいる冒険者街は王都の南南西の位置にあり、おっちゃん兵士がいるのが南門で。
そのまま南に街道を向かうと農業都市があり、そしてさらにずっとずっと先に海があるとか。
王都の東側には大きな川が流れており、北の上流側から王都に支流を作り都に川の水を取り入れて様々な用途に使っている。
そして最後はまた東側の川に戻る……つまり下水の出口が南東にある訳だ。
そのまま流す訳じゃなく東南に沈殿池のような物が……いやそんな管理された物じゃなく、湿地帯に下水を流していると思ってくれ。
王都内部でもテイムされたスライムによる浄化作業はしているのだが、どうしても下水を完全に処理は出来ない。
そこで南東を湿地帯にして、そこで天然のスライムによる水質浄化をさせているという事だった。
スライムは死体とか下水のような汚染された場所に集まって浄化してくれる生き物らしい。
俺の目的は勿論そのスライム狩りだ。
そんな場所のスライムを狩っていいのかと思うかもしれないが、下水の水が栄養豊富なせいなのか、そこのスライム達はものすごく増殖するらしい。
増えすぎたスライムを火魔法使いの範囲魔法で焼き尽くす事が、月に一回は必要なのだとか。
それなら俺が好きなだけ狩ってもいいよね? って事だ。
まぁ下水の流れ込む湿地帯の中に入って狩りをするのは、カード召喚したゴブリン達の仕事になるんだけどもな。
お泊まりをするというのは南門から南東門まででも、そこそこ時間がかかるからだ……王都の外周部広すぎ問題だ。
俺は南東門に近い、お値段もそこそこで個室がしっかりしている宿屋を確保してから湿地帯に向かう。
野外伯するつもりは一切ないからね。
南東門の門兵に挨拶して外に出た頃には日が昇り始める。
さて……図書室の地図によると確かこっちに……まぁ取り敢えず。
「ゴブリン部隊召喚!」
ホブゴブリン 格六 一匹
ナイトゴブリン 格八 一匹
ゴブリン 格二~三カンスト済みが九匹
全部で十一匹を呼び出す。
それらを俺の護衛にしながら下水の出口を探していく。
確か暗渠があるはず……ってあった!
よーしこれに沿って川方面へいくぞ!
途中で出るビックラットや角ウサギはゴブリン達の敵ではなく、俺は問題なく先へと進んでいく。
「ふふんふんふ~ん、ふんふふ~ん、ははんはんは~んはんはは~ん」
〈鼻歌〉で〈音楽魔法〉スキルを発動しながらな!
誰も文句を言う奴もいないのでさらに〈指鳴らし〉もしちゃうぞ!
パッチンパチパチパチパッチン、ふふんがふんふんふんふふ~ん、パチパチパッチン……。
あれ? 俺はちょっとゴブリンの動きに違和感を覚えた。
そしてその違和感を確かめるために演奏の仕方を変えた。
まずは無演奏……そして〈鼻歌〉……さらに〈指鳴らし〉追加!
……やっぱり効果上がってねぇか?
え? っもしかしてこれ二重に効果が出ている?
今は〈音楽魔法〉の熟練度が低いから微妙な差だけども、この二重効果が足し算なのか掛け算なのかでまた違ってくるよなこれ……。
……人気ないスキルだから、こういう実験する人とかいなかったんだろうなぁ。
……。
俺は〈音楽魔法〉の検証をしながら移動狩りをする。
そして暗渠の出口に差し掛かり……
「諸々召喚!」
アクアスライム 格四 一匹
角折れウサギ 格四 一匹
角ウサギ 格二~三カンスト済みが五匹
バトルスパイダー 格二カンスト済みが二匹
バトルスネイク 格二カンスト済みが四匹
彼らには俺がいる拠点の周囲を警戒させ、ついでにナイトゴブリンも俺の側で護衛させる。
「ホブゴブリン君とゴブリン九匹の君らは湿地帯に進入して、スライムを狩りまくってください!」
ゴブリン達はちょっと嫌そうにしているが、ナイトゴブリンの〈鼓舞〉によって士気を持ち直して湿地帯に進入していった。
湿地帯と言っているけれど、水とスライムが半々くらいという、とんでもない量のスライムがいるね。
すっげぇなこれは。
俺は風上に移動をして匂いが来ない場所を拠点とし、料理でもする事にする。
いや、ゴブリン達に何か報いないと友好度落ちそうだしさ……。
……。
たまに拠点に寄ってくる魔物は護衛が倒してくれている。
そこで得た食える肉を使って焼肉串を作っていく事にする。
移動狩りじゃないので、ちょっと獲物は少な目だが、味にこだわった一品だ。
ふんふんふ~ん。
……。
カードが五枚溜まったら戻って来るゴブリン達が、ナイトゴブリンにカードを渡していく。
その都度ゴブリンに肉串を食わせてから再度狩りにいかせると、ご褒美があると知った彼らのスライム狩りの速度が上がった。
ふふり、計算通りだ。
お腹一杯になっても困るので、焼肉串一本あたりの肉の量はかなり少な目にしている。
ちなみにカードが五枚単位なのは手の指の数と同じだからだ。
十枚にすると間違える奴とかいそうでさ……素のゴブリンは人間の五歳くらいの知能って話だしな。
うーん、ここに来る時もぼちぼちカードは出たし、女神の言うこの世界独自のドロップ率ってどんなもんなんだろうな?
今の所結構な確率で出てるんだけども……ドラゴンとかもこの確率だったらいいなぁ……まぁ強さで変わってくるのなら無理なんだろうけどよ。
俺は串焼きを焼きつつ、フンフンフフ~ンと〈音楽魔法〉の熟練度を上げていく。
どうもこの〈音楽魔法〉重ね掛けは、両手の指鳴らしは二つに数えてくれないっぽい。
ならばと片手をそこらの木で作った打楽器を演奏してみたら……三重にかかりました。
これ足とか使って演奏したらどうなるんだろうか……取り合えず片手で使えるカスタネットとか開発しようっと。
しかしあれだ、角折れウサギの元気がないな……やっぱ角が折れて攻撃力がなくなってしまい落ち込んでいるのだろう。
俺はウサギ達用に持ってきていたお野菜を、角折れウサギに食べさせつつ話をする。
「いいか角折れウサギ、お前にはまだ〈脱兎〉や〈俊敏〉スキルがあるじゃんかよ、スキルを使って格が上がれば進化するかもしれない、それでなくてもお前が前線で敵の攻撃を避けてくれるだけで、他のやつらに余裕が出来るんだ、自信を持て、お前はままだまだやれるさ」
俺はそんな言葉を掛けながら角折れウサギの頭を撫でてやる。
すると角折れウサギは鼻息を荒くして、後ろ足で地面をタンタンと叩き始め、やる気十分になったのか周囲の警戒に戻っていった。
結局この日は八時間ほど狩りをして、スライムカードは千三百枚以上手に入りました。
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