第47話 Fランクの説明

 公爵様がテーブル上のスライムカードを示しながら。


「誰にでもテイム状態で魔物が呼び出せるカードなんだよな……取り敢えずお前のスキルやカードの詳しい内容を聞いてもいいか? 情報料は払うからよ」


 そんな事を言って来た。


 まぁ元々カードを広めるために、いつか説明しなきゃなーと思っていたし、問題ないよね。

 というかお金まで貰えちゃうの? ありがたやー。


「まず俺のスキルなんですが、俺が魔物を倒すか、俺が呼び出したテイムカードの魔物が倒した場合のみカード化する可能性があります、カードは基本的に誰でも使えますが魔物に名付けをした場合主人が固定されるのでその人専用カードになり、名付けした魔物との間のパスが強化されて相手の意思がなんとなく分かるように……まぁ仲良くなると思ってください、ここまではよろしいですか?」


 一旦公爵様にお伺いをたてる俺。


 ちなみに名付けの部分やらを検証した個体は先日の戦闘で消えている。

 日本の時と大体同じシステムかなぁという感じだった。


「ああ大丈夫だ、てかこのカードはテイムカードって名称なんだな?」


「俺がいた日本だと特に名称は決まってませんでしたね、この世界の人間は初めて見る物だし、分かりやすい名前がいいかなと思ってテイムカードと呼んでみました」


「成程な、まぁ分かりやすいのは良い事だし、誰かに見せる時はその名称にするか……続きを頼む」


「はい、見て頂いたら分かりますが、テイムカードには種族名と対象の絵、そして格と才能限界が表記されています、これは人の持つ格と同じで、格が上がれば基礎能力が上がるようで、魔物を倒させたりスキルを使用させたりすると格が上がり、才能限界は恐らく上げる事の出来る格の上限だと思われます、ちなみにスキル持ちのテイムカード魔物を才能限界まで格を上げたら進化しました、それと名付けをすればその名前がカードに表記されます」


 説明はこんな所かな。


 俺が検証以外で名付けをしないのは、失った時に思い入れがあると辛いからだ。

 なのですごく強いか、もしくは特別なカードにしか名付けはしない事にしている。


「成程……供給源がお前のみだと、それほど世界に与える影響も少ないか? いやでもそうなると狙われる可能性も……」


 公爵様が考え込んでしまったようなので追加情報を落とす。


「ちなみに俺のカードの評判が良さそうなら、女神様が世界に魔物カード化の法則を定着させるかもとおっしゃってました」


 情報をドカーンとな。


「はぁ!? なんだよそりゃ! そういう大事な事はもっと早く言え! 城のやつらの話にもカードが出て来たんで報告書を読み返したが、このテイムカードってのは日本でも流通しているんだってな? つまり女神様は異世界の法則を真似したいと? そうするとタイシはやっぱり女神様の……」


 公爵様の思考が間違った方向に行きかけてるので、最後まで言わせない。


「使徒ではないですし、この〈カード化〉スキルは俺の趣味です! 異世界から召喚された時に女神様が、日本でカードが大好きだった俺に合わせたユニークスキルをくれただけです、まぁ新しい要素を世界に定着させて文明を活性化したいとかの思惑はありそうですけどね」


 タイシは使徒じゃないので、そこはきっちり否定しておく。


「趣味かよ! ……しかし女神様か……うーむ、このカードはヤバ過ぎるんでお前を守るためには俺だけだと力が足りない、教会あたりに力を貸して貰うのが良いと思うんだが……どうするよ?」


 ありゃまぁ、そんなに大事かぁ。


 うーん、日本だと誰にでも手に入るチャンスがあるけど、今は俺だけか……確かにちょっとやばいか? それなら……。


「それなら女神様に相談してきますね」


 俺がそう提案するも。


「いきなり教会を飛び越えるなよ! そんな簡単に女神様に相談なんて出来る訳ないだろう!? 神託を得るための大がかりな魔術儀式をやっても、失敗する事があるって聞いてるぜ?」


 公爵様は俺の提案に懐疑的だ。


 神託ならつい先ほどグリーンに二連続で来ましたけどね。

 たぶんチョコケーキとかを奉納すれば、話は聞いてくれると思うんだよな。


「まぁどうにかするので大丈夫です、テイムカードは相談が済むまで表に出さない方が良いかもですね、それと女神様に奉納する貢ぎ物を準備するので厨房で材料くださいな」


 公爵様に素直におねだりをしていく俺だ。

 おれのおねだりに対して、公爵様は呆れた表情で。


「なんでお前はそんな簡単そうに……いやもう好きにしろよ……異世界人は謎生物だものな! このスライムのテイムカードは俺が買い取るからな? 材料は好きにしろ」


 何かを諦めた公爵様に、結果が出たら教えろと言われて追い払われた。


 廊下に追い出された俺は、セバスさんと共に上級厨房に向かう。

 その途中でスライムカードと情報料として二万エルを貰った時に、まだスライムカードありますよと言ってみたが、取り敢えず研究用に一枚あれば良いとの事。


 残念、追加報酬ゲットならずか……と落胆しそうになったが……。


 だがしかし! 前回教えた調味料と酒のレシピの買取暫定額で、二十万エルを追加で貰った!

 これらは試作段階なのでこの値段だが、製造が上手くいくようならさらに追加で払われるらしい。

 タイシ一気にお金持ち?


 でもこの程度の値段じゃ〈斧術〉のスキルオーブも相場次第じゃ買えないかもなんだよな……。


 ……。


 ――


「こんちは~戦士厨房長、また材料を頂きにきました」


 相も変わらず怖い顔の戦士厨房長に挨拶をかます。


「おうタイシ! お前のレシピ見たぜ、だがもっと色々知っているんだろ? 公爵様にたくさん売りに来いよな!」


 戦士厨房長は元気そうだね。


「何が売れるのか俺には良く分かんないんですけどね、まぁ材料頂きまーす」


 もう慣れたもので材料倉庫からお菓子用の物を集めていく。

 さぁいざ調理開始! ふふんふんふ~ん。


 ……。


 ……。


 ――


 美味しそうに出来ました~。


 女神様に奉納するには……あれ?

 奉納ってどうやってやるの? 助けてセバスさん。


「どの教会にも奉納用の台座があるのですよ、タイシ殿は女神像の前にある台を見た事がありませんか?」


 セバスさんは即座に教えてくれた。

 へー、あの台ってそのためにあるんだ?


 てっきり説教とかをする時に聖典でも置く台なのかと……やけに低くて大きい台だなとは思っていたんだ。


 詳しく聞くと台に品物を置いて、奉納する意思を籠めながら祈ると品物が消えるらしい。

 奉納された品物が、世界中で貧乏な教会とかに下賜されるのに使われているのも知られているそうで、女神様は欲のない優しい方だと信仰を集めているらしい。


 それってたぶん、奉納されたのが美味しいお菓子だったら、下賜に回されてないと思いますよ。


 お城や一区の教会に行くかと聞かれたが断固として断った。

 そして三区の教会に馬車で送って貰う事に。


 もう夜も遅い時間だけど、三区の教会に入ってみれば一般の礼拝堂はいつでも開いているらしく、台座まですんなり辿り着いた。


 周りに参拝者もおらず、神官っぽい人が一人、隅っこの椅子に座っているだけだ。

 俺は早速と台座……には何も置かず、椅子に座り祈りを捧げる。


『女神様に話がある、この間みたいに会話する事は可能だろうか? 話が出来たらこのお菓子達が奉納される事になる、出来ないならお菓子はなしだ』


 むにゃむにゃと思考で女神に訴えかけてみる。


『オクニキナサイ!』


 神託が来た、ふむ……ここだと会話までは出来ないのかな?

 しょうがねぇ関係者の人に奥の聖域を使わせて貰えないかと聞くと、しばらくしてハゲ司祭さんが出て来た、デスヨネー。


「夜分遅くに如何なさいましたかな使徒……タイシ様」


 ハゲ司祭さんがそう聞いてくる。


 この人審議判定系スキルを持ってそうなんだが、毎回俺を使徒呼びしてくるんだよな……。

 ちゃんと否定しているし、それが嘘じゃないって分かっているはずなのによ。


「女神様にお菓子の奉納をしようと思いまして、出来れば聖域でやりたいのですが……」


 カード云々の話はまだ出来ないし、こんなものかね。

 ハゲ司祭さんは何故かすごく嬉しそうに。


「おお! さすがはタイシ様です、貴方の神託を世界中で共有した後に各地の教会が様々なお菓子を奉納したのですが、女神様はお優しいのか殆どが何処かへの下賜品に使われているようでして、私どももぜひ民の余裕の表れであるお菓子を女神様に召し上がって頂きたいと思っていたのです、タイシ様も同じ思いなのですね……さすがは……」


 ハゲ司祭さんは早口だ、しかも俺の行動の意味を勘違いしているっぽい。

 色々と否定したいが、嘘をつかずに上手く言える気がしねぇ……なので曖昧に笑う事でお茶を濁す。


 そうして聖域に案内された俺は、女神像の前にお菓子が詰まった箱を置き、跪いて祈る。


 ……。


 また白い世界に来れたようだ。


 そして目の前にはテーブルがあり、俺が奉納した箱が開けられ中にあった何種類ものケーキを女神が食べている。


 食うのはえーよ! 意識だけの俺が心で叫ぶ。


「うーん美味しい! 何故か最近各地の教会からお菓子が奉納されるのだけど、地味だったり素材の組み合わせが下手であんまり美味しくないのよねぇ……貴方がお菓子のレシピを広めてよ、はぁ~これもおいし~わね~」


 この女神の姿と言動はハゲ司祭さんには絶対に見せられないよな……まぁいいや、俺は相談に来たんだよ。


「そんな事言ってたわよね、まったくお菓子を人質にするなんていい度胸だわね、まぁこの美味しさに免じて許してあげるけども」


 お前の免罪符安すぎないか? ダース単位で売ってくれない?

 って漫才は後回しだ、えっとな――


 ……。


 ――


「ふーむ、となるとカードを表に出すと貴方の身が危険になるのね? けど評判を得るには出さないといけない訳か……困ったわね、世間の評判を見てからカード化を世界に実装するか決めようと思っていたのだけど……」


 色々説明をした女神もちょっと困っているな、さすがに今すぐ世界に実装は無理か、となると……うーん。


「あそうだ! 貴方が直接売るからまずいのよね? なら私が各地の教会に下賜してあげるわよ、それで多少出回らせて評判を見ればいいのよ、私からの下賜品で出回ったらカードに良いイメージが付きそうじゃない? ほら私ってば民に好かれる女神様だし! どうよこの天才女神様の見識は」


 なんだろう、どやっている女神がすっごいムカつくんだが……意外にいけそうなのがさらにムカつく。


「はっはっは、人気者はいつもひがまれる物だものねぇ……はぁ……民に好かれ過ぎる女神も辛いわねぇ……でどうなのよ、さっきの提案でいけそう?」


 そうだな……確かに俺がいち個人で出していくよりはいいかもしれん。

 俺の能力を妬んだ誰かにネガティブキャンペーンとかされたら困るしな、悔しいが女神様の意見に賛成する。


「おっけーじゃぁそれで行きましょう! それで貴方のためにお仕事する訳だし、私にも報酬は出るのよねぇ?」


 女神が俺にそんな事を聞いてくるので。

 分かっているよ、テイムカードを奉納する時にはお菓子も一緒に奉納する、これでいいか?


「そうこなくっちゃ! じゃ適当に奉納されたテイム? カードとやらを各地の教会に下賜して……そうねぇ世界の民に新たな力を女神様が授けるとかなんとか、そんな感じの神託を従属神達に流させるわ」


 自分ではやらないんだな……。


「仕方ないのよ! 私の神託は文字制限付きなんだもの!」


 どうせ従属神達に止められたんだろうて、俺にはその気持ちがよく分かる……。


「なんで分かるのよ!? まったくもう……」


 女神は怒りながらもケーキを食べていく。


 そうだ、カードのドロップ率変更しただろ?

 あれってどうなったのか聞いていいか?


「あーあれねぇ……私が最初に処理した時は日本から貰った情報を元にしたんだけども、魔物からのアイテムドロップ率が全部カードドロップ率になっちゃっててさぁ……従属神達にすっごい怒られちゃったわ! でもカード自体を世界に実装する話は乗り気だったのよね、なのでこの世界のカードドロップ率とかも全部従属神達に丸投げしといた、たしか魔物の強さでドロップ率を変えるとか言ってたわよ?」


 やっぱりその間違いをしてたのか……最高のバグだったし、そのままで良かったのになぁ。

 てか魔物の強さで変えるとか……この世界って基準が脳筋に偏りすぎじゃね?


「文句があるなら従属神に言ってちょうだい! じゃ話も終わったし帰りなさい、次もお菓子奉納よろしくね~」


 ……。


 ――


 目を開けるとそこは聖域の部屋で、奉納したお菓子の箱はなくなっている。


「ありがとうございました司祭様」


「いえいえタイシ様ならいつでもお越しくださって良いのですよ、それで女神様は何か仰ってましたか?」


 また答え辛い質問をしおって、このハゲ司祭さんめが……。


「そうですね……世界の民に新たな力を女神様が授けるかもしれません……では帰ります、失礼します司祭様」


 ささっと帰る事にした俺を、ハゲ司祭さんは深く頭を下げて見送ってくれた。


 なんか疲れたな……はよ寝たいな。


 ……。


 クラン屋敷に帰ると食堂には誰もいなく夕食も残ってなさそうだ……まぁ夜も遅いし飯抜きも仕方なしと自分の部屋に帰る。


 すると。


「おかえりー遅かったねタイシ、もう寝ちゃおうかと思ったんだからね?」

「お帰りなさいタイシさん、ご飯はここに運んであるのでどうぞ食べてください」


 部屋に入ってすぐのソファーでレッドとピンクが待っていた。


 ありがたいんだけどね? ありがたいんだけど……ここ俺の部屋やねん。

 レッドとかソファーに寝転んでいるし……いや、有難く夕ご飯……時間的に深夜ご飯を食べるけども。


 ……。


 食べ終わって寝室に行く俺の後に続く二人がいる。

 そして俺のベッドにはグリーンがもう寝ていた……ここ俺の部屋なんだけどなぁ……益々遠慮のない家族じみて来ている気がする。

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