第46話 Fランクの呼び出し
慎重にゴブリンの集落に近づいていく俺達。
木の枝や葉っぱで作ったテントのような家が立ち並び、周囲には、ゴブリンが食べたであろう獲物の骨なんかが散らばっている。
一つ一つの家を確認して、何もなければ支柱を倒して潰していく。
すべての家を潰して見つかった物は、ゴブリンが自作したであろう武器や道具とか、後は奇麗な石ころしかなかった……。
そうだよなぁ……街道を行く商人でも襲っていれば別だが、そんなのが襲われたら討伐依頼とか出されるだろうし。
冒険者ギルドの護衛依頼はDランク以上からの仕事だから、Eランクの『四色戦隊』でも勝てるゴブリンじゃ、キャラバン襲撃とかは無理だろうな。
護衛のいない単独の行商人や旅人ならワンチャン?
まぁ冒険者ランクってイコール戦力ってだけじゃなくて、信頼度を示す物でもあるんだけども、Dランクに至った冒険者が弱いはずはないしな。
そういった依頼を受けずに、ダンジョンにしか行かないようなEランク冒険者で、すっごい強い奴とかもいるらしいしね……。
低ランクだからって甘く見ない方がいいんだよね、ほらタイシ君もFランクだし!
敵のボスであるゴブリンが使っていた剣やらの装備品だが、カードドロップする時に装備品は外れる仕様みたいで地面に落ちていた。
そしてやられたカードの魔物達に装備させていた白い布やらツタ服も、その場に残るようだ……。
カード化したナイトゴブリンに改めて鎧と剣を譲渡しておいた。
後は俺が作ったツタと枝製の手足ガード装備をプレゼントしよう……。
……。
さて帰り道だが、ナイトゴブリンに指揮させたゴブリン部隊に戦闘を任せている。
ここらにいる敵なら問題なく被害もなく狩れていく。
今日は王都に帰るのでお肉も持ち帰る事にした。
格が上限を迎えたゴブリン達に、集落の家をぶち壊した時の廃材で作った神輿を担がせて、持ち帰る獲物を山積みにしていく。
そんな移動中に皆が戦闘の感想等を話し合い始めた。
ブルー君は神妙な顔で感想を漏らし。
「スキル持ちや集団相手の戦いは今までの狩りとは違いましたね……僕達も運が悪ければ死んでいたかもしれません……」
「冒険者は危険な職業だって理解しているつもりだったけどね……スキル持ちの殺意を向けてくる相手を前にしたら一瞬怖くなっちゃった……悔しい!」
レッドは悔しそうに、そう語った。
「私達はEランクに上がったけれど、まだまだ弱かったという事に気づきました……」
ピンクも少し元気がないし、いつもの調子に戻って欲しい所だ。
「……」
グリーンはあまり変わらないか? いや、拳を握りしめているな……。
「早いうちに気づけて良かったじゃないか、危険なのが嫌なら畑でも耕すなりすればいいし道はいくつもあるさ、どうすりゃいいか考えようぜ?」
俺は気楽な感じで、そう返してやった。
こういうのは思い詰めても良くないからな。
俺の言葉を聞いたレッドは顔を上げて宣言をする。
「私達は甘かった……お父ちゃんも言っていた、まず格を上げろと、ダンジョンはそれを為すのに丁度良い場所のはずよ! 安全に狩れる地点でたくさん魔物を狩りまくるわよ!」
「そうですねレッド、たくさん狩ってたくさん稼いで格を上げて、そうしてからタイシさんのお嫁さんになればいいんです! 十ポイントアップです!」
ピンクはいつもの調子に戻った、良かった良かっ……。
ピンクさん何か話の脈絡がおかしくないですか?
なんでその流れでポイントアップするの!?
「ん!」
グリーンの一言にレッドとピンクは頷く、それは意思疎通出来ているのか?
ってブルー君は? ……何か難しそうな表情で考えている。
まぁ悩むがいいさ若人よ、俺もまだ若いから助言は出来んが、一緒に悩んでやるさ。
……。
そして街道に出た俺達だったのだが。
王都に向けて進む俺達を追い抜いていく荷馬車の御者や護衛なんかは、ゴブリン神輿や護衛のゴブリンにびっくりして戦闘態勢を取る者もいる。
真っ白い布の頭装備や俺達人間が側にいるから攻撃はしてこないが、テイマーってそんなに少ないのかね?
すれ違う人、追い抜く人、全てがこちらを警戒してくるんで疲れちまう。
……。
第四城壁が見えてきたんでゴブリン達は周りに人がいない間にカードに戻し、俺達四人で神輿を担ぐ。
グリーンはフリーで戦闘係だ。
「ソイヤー! セイヤー! よいやーさ! チョイナ! オイサ! どっこいしょ! そらやーほいさーよいやーさー! どっこいどっこいわっしょいしょい!」
俺が掛け声を掛けながら神輿を揺らす、神輿といえばこうだよな。
「ちょ! タイシさん揺らさないでくださいってば、わわっバランスが!」
「ちょタイシ! なんで荷物を揺らすの! 肩に! 肩に重さが来て痛いから!」
「なんかこれ豊穣祭りの時の、女神様へのお供えを運ぶ時の感じに似てますね! わっしょいしょーい!」
神輿はね揺らす物なんだよレッド。
ブルーやレッドは慌てているが、ピンクは楽しんでいる……ってか転生者はお神輿の文化も伝えたのかね?
さすがに疲れるんでお神輿ごっこは三分で辞めた。
本場の人って何時間も担ぐんでしょ? すごい体力だよな。
いつものおっちゃん兵士がいる門を通っていく。
通る時におっちゃん兵士が声をかけてきて。
「なんだお前ら、すごい戦利品の量だな、遠征はどうだったんだ?」
まぁまぁですよーと返事をしながら買取所に向かう俺達。
買取所で魔石や肉を買い取って貰ったんだが、奇麗な石ころは宝石の原石で、そこそこ良い値段がついた。
お宝がないなんて言ってごめんよゴブリン達。
俺達が運んだ諸々の稼ぎ全部より宝石の原石の方が高かったんだぜ……。
全部で二千エル以上になったので一人四百エルだな。
さらに皆には護衛依頼だったので俺の財布から一人百二十エルを払っている。
二日で五百エルなら良い稼ぎだよね。
時間も遅かったんで夕ご飯は屋台で買って帰る事にする。
「おれはいつもの肉クレープでいいかな」
俺が屋台を見ながら発言をすると。
「うーん、タイシさんのご飯の味を知ってしまうと、外での食事が楽しくなくなっちゃうんですよねぇ」
「それ分かるわぁーブルー! 特にタイシの作るナッツ黒パンの味を知ってしまった今だと、元々食べていた味気ない硬い黒パンには戻れないよね!」
「タイシさんは罪な人です、私達をこんな体にした責任をとって嫁に貰ってください!」
「コクコク」
グリーンは適当に頷いてるに違いない。
知りませーんとお断りしながら、手に持った夕ご飯を食べたり雑談をしながらお屋敷に帰る俺達。
がしかし、その途中にグリーンがいきなり立ち止まる。
そして。
「ああ女神様……はい、伝えればよろしいのですね」
ブツブツと呟くグリーンの姿に、何か嫌な予感がする。
そしてグリーンは俺を皆から少し離れた位置へと誘導して、光魔法の結界を張り遮音する。
「女神様から神託が降りました……それも二回連続で! やっぱりタイシさんの側にいると女神様との距離が近く感じられます……はふぅ」
グリーンはうっとりとした表情でそんな事を言って来たのだが、くだらん内容なんじゃないかなとか思うのは俺だけか?
「で、女神様はなんだって?」
どうせチョコケーキの催促とかだろうなと思いつつ聞いてみると。
「はい『タイシヘカクリツマチガエタ』と『ドクジカクリツニカエルカラ』との事です」
グリーンはそう答えた。
ん?
えーと……『タイシへ確率間違えた』『独自確率に変えるから』か?
……ってもうカードドロップ率の修正が入るのかよ! くそ!
無能っぽい女神のくせに有能なのかよ……どうせならソシャゲ運営とかやっててくれよ!
それだと独自確率ってどんなもんになるのか検証し直しじゃねぇか……。
変わるのはドロップ確立だけっぽいか……しまったなぁ女神が気づく前に、もっと強い魔物を倒しておくべきだったか。
俺はがっくりと気落ちしながら皆と帰っていく事になった。
皆には女神様からの神託を教えて貰っていたと伝えておき、内容はまぁ……彼らの信仰心に関係してくるので秘匿しておく。
うっかり女神なんて尊敬出来ないだろうしな。
そうしてクラン屋敷に近づくと、お屋敷を囲っている壁にある正面入口の前に、見慣れた紋章をつけた馬車がとまっている。
屋敷に近づく俺達に気づいたのか、セバスさんが馬車から降りて来ていた。
俺は急いでセバスさんに近づいて挨拶をする。
「こんばんはセバスさん、えーと例のカードの件って事でいいですか?」
セバスさんはいつものように表情を変えずに。
「その件でもありますが……まさか一週間もたたずにやらかすとは思いませんでしたぞタイシ殿、まずは馬車にお乗りください、公爵様がお待ちです」
あれ? 俺なんかやったか?
俺が首を傾げていると、ブルー君達は。
「あ、じゃぁ僕達は先に帰ってますね、タイシさんは頑張って来てください」
「一体何したのよタイシ……無事に帰ってくるのよ?」
「貴族様に何度も呼び出されるなんてさすがタイシさんです! 私はタイシさんのベッドでお帰りをお待ちしていますね~」
「ヒラヒラ」
グリーンが手をヒラヒラと振りながら俺を見送ってくれる。
てかピンク! その物言いはやめてくれよ。
セバスさんが誤解した内容を公爵様あたりに伝えたらどうすんねん。
そしてブルー君達はそそくさと使用人用の扉の向こうに消えていった。
俺もそっちに行きてぇなぁ……。
あ、はい今行きますセバスさん。
……。
――
夕飯時であろう各家から煮炊きの煙が昇っているのを、馬車の中から眺めているうちに一区へと辿り着いた俺。
前回のような身体検査や質問はなく、館内を案内される。
本館正面の入口から入れてくれたし、本当に待遇が変わっているんだな。
……。
そして毎度のごとくの公爵様の執務室です。
部屋の中にいた護衛が扉を開けてくれたので中に入ると、何やら書類に向き合って仕事をしている公爵様がいる。
忙しそうならタイシはまた今度でもいいんですけど?
俺達に気づいた公爵様が、執務机からソファーに移動をして俺を促すので、対面に座る俺だった。
失礼しまーす。
公爵様はなんかすごい疲れた表情をしていて。
「なぁタイシよ、俺はな只でさえ休暇明けで忙しいのに、お前の酒やら調味料やらお菓子やら料理やらのレシピの件でさらに忙しくなった、そして何故かやらかす前に相談をしろと言っておいた奴が俺達に相談をせずにやらかしやがった……わざとか? お前わざとやってんのか!?」
公爵様おこですか?
「落ち着いてくださいよ公爵様、やらかしと言われても俺にはさっぱりなんですが?」
俺には心当たりがまったくない! 冤罪じゃね?
公爵様が驚いた顔で。
「こ、こいつまったく自分は何もしていないとか思ってやがる……セバス……」
セバスさんに呼びかける声も元気がないな、公爵様大丈夫?
セバスさんが一歩前に出て俺に語り掛ける。
「タイシ殿、貴方は新作の、それもライ麦を使った美味しいパンを披露したそうですな?」
「うん、したけど、それが?」
子供達も美味しいって言ってくれた自信作だよ? セバスさんも食べる?
「パンというのはすべての人が毎日食べる物なのです、この国にいる人すべてが毎日消費するのですよ」
セバスさんがそんな事を言う。
そりゃ主食だもの毎日食べるよね? だから?
セバスさんは溜息をつきながら続ける。
「それだけ市場が大きいという事は利権も大きいという事です、そんな中、新たな風味のパンが登場しました、目ざとい商人達はどうしますか?」
「買ってきて食べる!」
俺が元気よくそう答えると、公爵様が体を乗り出して俺の頭を引っぱたいた! 痛い!
引っぱたく事ないじゃないか……いや、俺も話の流れからなんとなく分かるけど……ボケておけって俺の中の〈道化〉スキルが言ったんだもん。
「違うわ馬鹿たれ! 自分達でそのパンを扱いたいからってレシピを欲しがるんだよ! なわけで様々な商会から何件も何件も何件も問い合わせがきてるんだよ! 後ろ盾になる時にお前には直接行かないように、前もって根回しをしておいたから良かったものの、それがなかったら今頃お前の周りには商人が群れていたからな?」
公爵様は大きな声で説明してくれた。
「了解です、タイシ理解しました、でもここの食堂で食べたパンも酵母を使っているパンでしたよ?」
この辺が理解できないのよね。
「あれは酵母とやらを錬金ギルドから買っているんだよ……お前は一から全部自作しちゃったんだよな? 俺はさぁー言ったよな? 新しい事をする時は相談しろって、言ったよなぁ?」
おーけい公爵様、男の顔なんて近づいても嬉しくないので体を乗り出さないでください。
「お酒じゃないからいいかなって思いました!」
俺は正直に答える事にした。
「おま! ……はぁ……いいか? パンとかは生活に密着していて重要な事なんだから、次からは相談しろよ? 絶対だぞ?」
公爵様は念を押してきた。
任せてください! タイシ理解した、酒とパンは気をつける!
「では俺の作った『ナッツ入り天然酵母使用ライ麦メイン黒パン』のレシピも書いて提出しますね、あ〈引き出し〉に少し残っているので一口いかが?」
俺は許可を得て〈引き出し〉からナッツ黒パンを数切れ出す。
セバスさんがささっとお皿をテーブルに出してくれたのはありがたかった。
そのままセバスさんが味見……いや毒見か、まぁ食べる。
しばらくしてから公爵様もパクリといく。
「むぐむぐ……ふむ、ローストされたナッツの香ばしさとライ麦の風味がいいな、白パンも美味いがたまにはこんな味のパンもいいかもしれん……これを孤児院の子供らに披露した訳か……」
「大変美味しゅうございますな、素晴らしい腕ですタイシ殿」
公爵様にもセバスさんにも好評だ、やったね。
しかしまぁ孤児院の子にしか食べさせてないってのに、商人の情報を得る早さときたら……凄いよな。
「まぁこの『ナッツ入り天然酵母使用ライ麦メイン黒パン』だったか? てか名称長いな……『ナッツ黒パン』でいいか、これのレシピはこっちでどうにかしておく、入った利益はそのうち持っていくとしてだ……問題はこれだ」
公爵様はスライムカードをテーブルに出した。
本命の話だね。
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