第39話 Fランクのクラン設立

 おはようございます、そろそろ賢者に転職しに行きたいタイシです。


 いやね、目が覚めたらレッドに横からしがみ付かれていた訳なんですが。

 年齢にしたら大き目のレッドのお胸さんがね、今も俺の腕に当たっている訳ですよ。


 昨日のグリーンの時もそうだったが、俺の賢者さんもそろそろHPがきついんです。

 ピンクが上から被さってきた時は、肋骨の感触が痛いだけだったので気にならなかったんですが……。


「おはようございますタイシさん、今私の悪口を言いましたか?」


 すでに起きていたらしいピンクからそう告げられた。

 タイシ何も口に出してないよ?


 ……。


 俺も起き上がりベッドから出ていく、そして俺の腕から手を外されたレッドも起き上がり。


「おふぁよぉ~ポカポカ暖かくてよく眠れたかも~、ねぇタイシ、また一緒に寝ようね? えへへ」

 レッドがまだ寝ぼけた感じでそう言ってくるのだが……うーむ、妹がいたらこんな感じなのだろうか?


「ナチュラルにタイシさんを誘っている! レッド恐ろしい子……」


 ピンクは慄いてそんな事を言っているが、ピンクと違ってレッドはそういう意味で言ってねぇと思うんだが?


 ……。


 ――


 今日はクラン申請と宿泊場所を探す事になっているので、朝飯代わりに黒パンと肉串を齧りながら冒険者ギルドに向かう。

 ちなみに皆は狩りじゃない時でも武器は持ち歩いている。

 鎧は暑いから装備していないけどね。


 俺? ほら……タイシ君は笑顔が武器だから。


 ……はぁ……スキルオーブ買ったら対応する武器も買わないとなぁ……。


 朝方なので依頼を探す冒険者もそこそこいて混んでいるギルドの中を進み。

 空いている受付を探すと、見習い用受付にはココがいた。


 俺はまだ見習いだしココに頼むかねぇと、皆でココの所に向かう。


 受け付けのココに挨拶してからちょこっと内緒話をしたら、王都外から来ていた貴族はだいたいが領地に帰ったそうで、護衛のシフトも通常に戻りギルドに完全復帰できたそうだ。


 雑談も終わり本命の話として、クラン結成の申請をココにすると。


 ココはおでこに手をあてている、熱でもあるのか?


「Fランクがクランリーダーなんて前代未聞ですよ……そりゃ少しは目立って良くはなりましたが、それでも自重してくださいよタイシさん! それとクラン設立にはギルドからの連絡とかもありますし、固定の住所を持っている事が必須なんです、しかもクランの基幹メンバーが十分に暮らせる広さの建物じゃないと許可が出ませんよ?」


 へー、色々規定があるんだな。


 そーいったギルドの決め事をココに聞いていく俺達。

 仮申請として『女神の軌跡』を申請しておいた。

 クランメンバーは俺と『四色戦隊』の四人だ。


 ココがそのメンバー表とパーティ名を見て、俺にだけ聞こえるような声で。


「ふふふ、まさかタイシさんが裏切り者枠になるなんて……いや追い出され枠でしょうか? この流れだとユニークスキルを覚えそうですよね、なーんちゃってアハハハ……ぶふっぅ! げほっげほっ〈引き出し〉は分かるけど〈カード化〉とか聞いた事ない名称だし……ユニークスキル!? ……何してるんですかタイシさん……自重してくださいよぉぉ!」


 セリフの途中で吹き出したココ。


 話をしながら俺を〈人物鑑定〉したのだろう。


 このスキルは女神様から下賜されたのを司祭様も見てたからな、隠す訳にいかないのよなぁ……すまんね。


 まずは拠点用の場所を決めないとなぁと思い、ココに冒険者ギルドから紹介して貰おうと思ったのだが。


 グリーンが俺の腕をチョイッチョイッと引っ張るので、ちょっと離れた所に二人で移動する。

 するとグリーンが内緒話の体勢をしてくるので、俺より背の低いグリーンが耳打ちしやすいようにちょっと前屈みをしてやる。


 そしてグリーンは俺の耳の側で小さな声で『私に考えがある』と言い。

 そのまま俺を引っ張っていく。


 いや、だから……細かい説明をしろと……くそっ! 力が強い。


 グリーンに力強く引っ張られているために、外に向かって歩くしかなかった俺は、受付の側にいたブルー君に後の事を頼む事にした。


「ブルー君、すまんが仮申請の続きとか説明を聞いておくのを任せていいかな? 君をクランの副リーダーに任命するから! レッドやピンクもブルー君の補佐をお願い、話のすり合わせは見習い宿舎で~」


 そうブルー君にお願いしたら、彼はすごい嬉しそうな笑顔で。


「お任せくださいリーダー!」


 と返して来た。


 名だけのクランとはいえ重要な地位に任命されたのが嬉しいのかもね?

 その笑顔を見ると彼も歳相応の男の子だなぁと思ったよ。


 グリーンはギルドの建物の外まで俺を引っ張り、周りにメンバーがいなくなると、腕を引っ張るのをやめてくれた。

 しかし次は手を繋いできた……なんでやねん。


 そうして何故かグリーンと手を繋いで歩く事に。


「んで何処に向かっているんだ?」

「司祭様に相談するのが良いと思う」


 グリーンが簡潔に答え、そして繋いだ手はぶんぶんと嬉し気に振られている。


 こいつの行動が良く分からんのなら直接聞いてみるだけだな。


「なんで嬉し気に手を繋いでるのかね」

「私にはなかった青春のやり直し」


 えーと……まずは〈生活魔法〉で追尾型遮音結界を展開。


「つまり、転生前は引きこもりでやれなかった青春を今楽しんでいるって事? それなら相手はブルー君とかでもいいじゃんか」

「彼はこの世界の人間でまだちょっと怖い、それにタイシさんはお兄ちゃんみたいで安心出来るから……」


 ブルー君に押し付け作戦はまた失敗した。


「そういえば寝言でお兄ちゃんとか言ってたっけか、日本では兄がいたのか?」

「お兄ちゃんは優しかった、引きこもりの私にヴァーチャル生放送主の世界を教えてくれたし、寝坊すると頭を撫でながら起こしてもくれた……それなのに……」


 グリーンの嬉しそうな説明も、最後の方は悲し気な声色になった。

 もしかしてそのお兄ちゃんとやらは……。


「何かあったのか?」

「お兄ちゃんはいなくなった……」


 ありゃま……やっぱり死んだとかか、病とか事故か?

 俺がその悲しい話に突っ込めないで黙っていると、グリーンは悲しそうな声で続きを……。


「義理姉との間に子供が出来たら、そっちにばかりかまって実家に帰ってこなくなった! 兄は妹に優しく構ってあげるべきって法律で決まっているよね? あんな姪っ子なんて……姪っ子なんて……すっごい可愛かったけどさぁ!」


 そんな法律はないです。

 って……なんだよそりゃ……心配して損したわ!


「つまりお兄ちゃんが好きな人と結婚して実家を出ていって悲しかったってだけかよ……俺はお前の兄貴じゃないぜ?」


「分かっている、タイシさんはお兄ちゃんに似てるだけでお兄ちゃんの代わりじゃない、でも二人っきりの時はお兄ちゃんと呼びたい、兄妹になりたい訳じゃなく……こ、好意のある年上の男性をお兄ちゃんと呼ぶような意味であって……血の繋がったお兄ちゃんという意味ではないのでお兄ちゃんと呼んでもいい? ピンクちゃんはタイシさんは十六歳になるまで手を出して来ないと言っていた、それって日本の法律だよね? なら後三年は安心してお兄ちゃんとして添い寝も出来るし……十六歳になった後はその……お兄ちゃんが望むならそういう関係になるのもありかもですし……もう! お兄ちゃんのエッチ!」


 セリフがすごい長い上に早口で、しかも内容にお兄ちゃんが多すぎて、途中からお兄ちゃんがゲシュタルト崩壊を起こしてしまった。

 なので最後のエッチ呼ばわりされた部分しか覚えていない。


「そうか、うん……そうか?」


 ごめん、よく聞いてなかった。

 でもたぶん重要な内容は含まれてなさそうなのでスルーするね。


「それでねお兄ちゃん、司祭様なら助けてくれると思うの、お兄ちゃんは女神様の使徒ではないって言ったけど司祭様は建前上そう受け取ってくれただけだと思うよ? 女神様からの神託ってほとんど女性にしか降りて来ない物だしね」

「ブホォッ」


 グリーンからのそんな話を聞いて、つい吹き出してしまった。


 ナニソレー。


 そんなやばい事を、あの女神はこんな大っぴらにしやがったのか……くそ……高級ケーキの追加とかしなきゃよかった。


「まじか……?」


 一応再度グリーンに確認する俺だ。


「まじだよお兄ちゃん、だからこそ聖女と呼ばれる神託を受けた事がある女性が尊ばれるのだもの、従属神の神託とかは男性にも普通に降りて来る事があるけどね」


 くっ……俺の聞き間違いとかではなかったか……。


「まじかー……やばいかな俺?」


「大丈夫だよ? 本道派は清貧を持って民と歩む、人が良すぎるからこそ新生派に押されていたんだし無茶は言わないはず、私がお兄ちゃんを特別だと思っているのも、男の人なのに女神様からの神託や下賜があったからってのもあるし……まぁそれがなくても好意を持つ事になってたとは思うけどね?」


 グリーンが握った手に力を籠めてそう言って来る。


「はいはい、俺がお前のお兄ちゃんと似てるからだろ?」


「それは勿論あるけどね、……貴方は……私の今生の境遇を聞いても『可哀想』って言葉を一回も使わなかったんですよ? タイシさんは……私を憐れんだ目で見なかったの……」


 グリーンが真剣な声でそう言ってくる。

 そのセリフの中で、俺はお兄ちゃんとは呼ばれなかった。


「たまたまだろ?」

「そーいう事にしておいてあげますよ、タイシおにーちゃん」


 グリーンは嬉しそうに歩く速度を上げ、繋いだ手で俺を引っ張りつつ教会へと向かう。


 ……。


 ――


 ほどなく教会についた俺達。

 グリーンは繋いでいた手を離し、司祭様とやらに話を通すために一人で奥に入っていく。


 俺は礼拝堂で椅子に座りながらグリーンが戻って来るのを待っているのだが。

 ……この女神像に向いて祈ったらまた天界にいけるんだろか? という疑問が湧いてしまった。


 ……。


 ちょっと試しにと、周りの作法の真似をしながら、女神像に向かって目を瞑り手を組み祈りを捧げてみる事にする。


 祈りの内容はえっと……そうだ、『女神様お菓子を捧げるにしても何が良いでしょうか?』なんつってな。


『チョコケーキニシテ!』


 ふぁっ!


 がばっと瞑っていた目を開けて周りを見る俺。

 ……特に騒ぎは起きてないな?


 神託を受けた時に体が光ったりとか異変が起こらないかとかを、グリーンに聞いておくべきだった……危ない危ない。


 というか女神様簡単に神託くれすぎじゃね?

 とその時、関係者用の扉からグリーンが出てきて俺を呼ぶ。

 俺はまた関係者用の通路に入っていく、どーもどーもタイシ君不審者じゃないですよー。


 ……。


 着いた先は以前に来た事のある部屋だな。

 その部屋の中には、ここで一番偉いというハゲ司祭さんが待っていた。


「いらっしゃいませ使徒……いえタイシ様、こちらへおかけください」


 ハゲ司祭さんが自分とは対面のソファーを示す。


 俺とグリーンがハゲ司祭さんと向かい合って座ると、ハゲ司祭さん自らお茶を入れてくれる。

 偉いはずなのに偉ぶらないというか、本道派ってのはこういう人達の集まりなのかねぇ?


 俺がハゲ司祭さんに淹れて貰ったお茶を飲んでいると。


「聖女見習いから話は聞きました、新たなクラン結成で名前が『女神の軌跡』ですか……成程、これはお手伝いしない訳にはいきませんね!」


 ……。


 ハゲ司祭さんのテンションが高い。


 あーあれか、俺を使徒だと思っていて、しかもクランの名前が『女神の軌跡』だものなぁ……。


 色々と誤解してそうだなぁ……。


 まぁ面倒事になったら皆を連れて、銀髪お母さんエルフ侯爵さんの領地にでも逃げてしまえばいいか。


 ハゲ司祭さんはクラン用の建物に心当たりがあると言い。

 詳しく聞いてみると、この教会の道路を挟んだ向かいにある建物で、どうやら新生派が三区に用事がある時に泊まっていたお屋敷らしい。


 本道派には普段使わせなかったお屋敷で、新生派が娼婦とか呼んだりするのに使ってたんだって……。


 今は本道派が新生派に持ち逃げされなかった資産の中で、必要のない物を売却して整理している所だとかで、その建物もその処分候補にあがっているんだとか。


 新生派の資産が現金化出来れば、孤児院の予算なんかも大幅に増えるとかでハゲ司祭さんが喜んでいる。

 今まではほとんど本道派の自費でやってたんだが、冒険者街には親が亡くなった孤児も多いとかで、これで大幅に孤児の受け入れ数が増やせるとかなんとか。


 その建物のお値段は? と俺が聞くと、ハゲ司祭さんは申し訳なさそうに。


「三区は元々土地が安いですし、ダンジョンの側は土地に殆ど価値がありません、ですがお屋敷の建物は立派ですし、丈夫な外壁はそれなりに価値がありますので……商人相手なら八十万エルという所なのですが、そうですね使徒……タイシ様なら半分くらいまでなら私の権限でお安く出来ますがいかがでしょうか?」


 よ、四十万エルかぁ……今の俺の資産が四十七万エルな訳だが、スキルオーブを買う金がなくなっちゃうなぁ。

 でもこの機会を逃す手もないし……うん。


「俺は使徒ではないですが、取り敢えず現物を見てから決めていいですか?」


 俺はハゲ司祭さんにそう言うのであった。


 そして話の流れでハゲ司祭さんが直接その建物を案内してくれる事になる。

 こういのって普通誰かにまかせるよね……タイシ君は使徒じゃないからね?


 ……。


 ――


 そこは教会入口から道をへだてた反対側にあるお屋敷で、教会に来る時に教会と同じで立派な壁だなーとか思っていた場所だった。

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