第37話 Fランクの就寝と起床
教会からグリーンと一緒に見習い宿舎に帰ってきた、もう夜だし早く寝たいわ。
部屋の扉は開いていたので助かった、がらっとな。
ブルー君達は起きていたらしい。
「お帰りなさいタイシさんグリーンさん」
「タイシお帰りー、グリーンもお帰りー」
「お二人共朝帰りとかじゃなくて良かったです」
そんな事せんわいピンク! まぁいいや、さて寝よう……あれ?
「なぁ、俺のベッドにグリーンの荷物があるんだが、俺は何処で寝ればいいんだ? 床か?」
「あ、僕は一人じゃないと寝られないので御免なさい」
ブルー君は速攻逃げた。
「私の所で寝る? 兄妹ともよく一緒に寝てたし、タイシなら私はいいよー」
レッドは年頃の女の子がそれでいいのか。
「タイシさん私と寝ましょう! 大丈夫何もしませんから! 安心して寝てください、むふー」
安心できません、というか年頃の女の子がそんな表情をしていいのかと思う。
「フルフル」
グリーンは顔を横に振っている。
人見知りかよ!
俺と二人の時は普通に話してたくせに……それでどうやってブルー君達の輪の中に入っていったのさお前……。
「女子のうち二人が一緒のベッドで寝てくれませんかねぇ……」
俺はそう頼んでみた。
ブルー君はすでに寝ている、ずっるいぞお前!
レッドは手を横にヒラヒラとさせながら。
「あはは……ピンクは寝相と寝言がちょっとね、二段ベッドならそれほど煩く感じないんだけど、昔実家でお泊まりした時とかベッドから蹴り出された事があってさぁ」
レッドのその言葉にピンクは慌てて。
「え? え? 私そんな……寝言とか言っていますか? どうなんですタイシさん! これは乙女のピンチなんです! 嘘はつかないで……いえ……やっぱり優しい嘘もたまには必要だと思うんです……」
家族とかにも言われた事があるんだろうな。
すでに自分が負けている事を悟っているピンクであった。
そして俺は真実を言ってあげる。
「ピンクはよく寝言を言っているな、前回は胸が育って喜んでいる寝言だったな」
ピンクはそれを聞くや。
「いー--やー---せめて、せめてセクシーな寝言であって欲しかった……そうだ、タイシさんとセクシーな事をすれば寝言も変わると思いませんか?」
まったく思いません。
「……」
お前は何かしゃべれよグリーン!
「ロリコン?」
もっと他の事をしゃべれ!
……。
結局ジャンケンして決める事になった。
「それでなんで俺がじゃんけんに加わるのさ?」
「そりゃタイシが寝る場所を探しているんだから、タイシも加わらないと駄目でしょ」
「デスヨネー、タイシサンモ、ヤラナイト、ダメデスヨネーふふり」
「……」
じゃんけんーぽん。
……。
――
「おやすみータイシ」
「うぐぐぐ、パーを出しておけばぁぁ! ……おやすみなさいタイシさん、せめて夢の中で会いましょう……」
レッドとピンクは寝たようで、俺は二段ベッドの上でグリーンと向き合っている。
そしてグリーンは何か魔法を使った……光魔法か?
「なんで私がタイシさんと寝る事に……」
「おろ普通に話しだしたな、もう無口キャラはいいのか?」
「キャラを作っている訳じゃないんですよ! ……ちょっとこう異世界の人と話そうとすると、売られたり生贄にされた昔を思い出して体が固まってしまうんです……悪い子達じゃないとは分かっているんですが……それと結界を張りましたので音は外に漏れませんし」
「トラウマになっているのか、良い奴らだし少しずつでも慣れてあげてくれ、まぁ寝ようぜ?」
「寝ようって……こういうのはお付き合いしている男女がする物であって、ごにょごにょ……」
「手を出したりはしねーよ、背を向けて横寝するから勘弁してくれ、おやすみー」
俺はベッドの片側にゴロリとグリーンに背を向けるように横寝をする。
そしてコートを掛布団代わりにしながら寝てしまう。
……。
――
おはようございますタイシです、今日も暖かくて良い目覚めです。
俺は仰向け寝になっており……ちらっと左を見ると俺の左腕に抱き着いて眠っているグリーン。
そして俺と掛布団代わりのコートの間に入って上からうつ伏せで被さっているピンク……そりゃ暖かいはずだわ。
「いや、お前何してんの?」
俺の胸にあるピンクの頭を右手で持ち上げてやる、寝たふりだろ?
顔をあげると目が開いたピンク。
「気になって早めに起こしにきたら、仲良く腕を抱きしめて寝ているじゃないですか、それなら私もお邪魔して良いと思いませんか? 私はその意見に賛成です」
自分の意見に賛成するピンク。
出来レースじゃね?
「俺は反対です」
なので俺は即座に否定しておいた、一度許すと二度三度ありそうだしな。
「あ、じゃぁ私も賛成しておくー」
レッドが二段ベッドの下の方から声だけで賛成してくる。
「僕は棄権します」
ブルー君は味方になってくれなかった。
「賛成多数ですね、ではおやすみなさい」
ピンクがコテンと俺の胸に顔を戻し寝直す。
多数決で負けたなら仕方ないか……なんてなる訳ないだろう!?
「そんな訳あるかい! レッドも何賛成してんだ! ブルー君も反対しようぜ?」
頭頂部にチョップで軽くピンクに突っ込みを入れてから、姿の見えない二人に突っ込んでおく。
するとレッドからはケラケラと楽しそうな笑い声が下から返ってきて、ブルー君は恨まれたくないですしとか言っていた。
ピンクは体を起こして横に退き、俺も起き……グリーンが結構しっかり左腕を掴んでいるな……右手でグリーンを揺さぶる、起きろー。
グリーンが身じろぎして。
「なに~おにいちゃん? もうあさ? あと五分寝かせてよぉ……むふゅぅ」
寝ぼけている。
「俺がいない時もこんな感じでねぼすけだったのか?」
すぐ側にいるピンクに聞いてみた。
「いえ、いつもは私達より早く起きていましたね、こんなのは初めて見ました、グリーンさんはきっちりした印象でしたが、なんだか可愛いですね」
ピンクがグリーンの頬をツンツンしながらそんな事を言っている。
それは……この世界の人間だけの部屋で寝る事に緊張してたのかもな。
俺だって赤の他人なのだが……女神様と関係のある日本人というだけで補正がかかっちゃっているのかね?
この世界でどれだけ辛い目に遭ったのやら……。
その境遇を思い、俺はグリーンの頭をナデリコナデリコする。
「もう~おきるってばぁおにいちゃん」
そしてグリーンの目がパチッっと開き、頭を撫でている俺と目が合う。
しばしの静寂が過ぎ。
がばっと起き上がるグリーンは周囲を見回し。
俺とピンクの姿を確認すると。
「ぉ、ぉはよぉ」
ピンクがいるせいか人見知りモードで挨拶してきた。
おはようございますとピンクが挨拶を返し、コクコクと頷いているグリーン。
「おはようさん」
俺も挨拶をしながらベッドから降りていく。
ついでに全員を〈生活魔法〉で奇麗奇麗にする。
ピンクとグリーンも二段ベッドの上から降りてきた。
今日は何するのかと聞いたら、やっぱり外周調査狩りだが、教官に早めに帰るように言われているらしい。
なんだろね?
まぁいいや、カード出すぞカード!
新たなスキルを得た俺は、わくわくとしながら皆を急かして外周へと向かうのだった。
……。
――
朝ご飯用の堅い黒パンを齧りながら歩いている俺達。
このパンってめっちゃ堅いよなぁ……焼き方次第でもっと美味しく出来そうなんだけども。
今度パン作りも試してみるかな? 酒じゃないし相談もいらんだろ。
そしていつもの外周狩りだ。
ビックラットをドガンッとメイスで叩き潰すグリーン。
盾はここでは必要ないのか背中に背負っている。
うわぁ……素材いらないからいいけど、血が周りにすごい飛び散っている。
そういや昨日の狩り帰りに会った皆は、いつもより汚かったな……。
レッドもピンクもブルー君も連携が整ってきていて、問題なく魔物を倒している。
女神の言った通りに、この世界のスキルは一つでも強いよなぁ……俺も何かスキルオーブを買うべきか?
最終的には自前のスキルも生えてくるし、カード達もいるからほどほどの何か……うーん何を買うか迷うな、まずは値段を調べるか。
俺は色々と考えながらポーターの仕事をこなしていく。
しかしまぁ、そう簡単にはカードは出ないよなぁ……。
……あれ?
もしかしてこれって俺が倒さないと出ないか?
確率のせいもあるかもだが、日本とは仕様が違う可能性に気づいてしまった。
嫌な事に気づいたので、スキルに意識を集中して内容をしっかり認識してみる。
自分のスキルに意識を寄せると、何となくそのスキルの内容が分かる仕組みなのだが……。
うげ……スキル持ちの俺が倒すか、俺がカードから召喚した魔物が倒した時だけカード化のチャンスがある感じだった……。
ラストアタックだけでいいのは温情だが……誰が倒してもカードが出るチャンスのある日本とは違うよなそりゃ。
カードの譲渡は出来るみたいだが、他の人が召喚した魔物にはカード化の効果は出ないみたいだな。
今日は取り敢えず諦めて後で皆に相談するかぁ。
あ、こらそこのスライム、まだ魔石を取り出していないビックラットに取りつこうとするんじゃないこいつめ。
いつものようにそこらの棒でスライムを何度も叩いて倒すと……カードが出た。
まじかぁ……。
ポーターとして皆について行きながら、さっき出たスライムカードを確認してみた。
すると日本のカードと違っている部分を見つけた。
日本だと魔物の絵が描いてあって、後は種族名とレアリティと名付けをしたらその名前が書いてあるくらいだったが。
レアリティ表記が無くなっている代わりに……何だこの格って。
……いやまぁ分かるけども、つまり、日本だとスキルを覚えさせる事でしか強くさせる事が出来なかったカード達が、格を上げる事で強くなる可能性がある?
でも格の部分に才能限界って項目もあるな。
このスライムは格が一で才能限界ってのが三って書いてある。
それに、日本だと両面同じ表記だったのに、このカードは裏に〈消化促進〉って書いてある。
……これはまさかスライムが持っているスキルが分かる?
まだ鑑定スキルが世界に馴染んでないから、これは有難い神仕様だな!
さすが女神様だ、最高だぜ!
よしそれなら、何か食わせれば経験値を稼いで格が上がるかもか……そこらの雑草でも食わせてみるか。
それとカードも出ちゃったし、皆に俺のスキルを説明しちゃおうかな。
……。
――
「つ、つまりタイシさんはユニークスキルを獲得したって事ですか? 異世界人すごすぎですよ……その誰にでもテイム状態の魔物が呼び出せる能力は金貨の匂いがビンビンにします! ふふり」
ブルー君は驚き、そして商売人の顔になる……君は冒険者だよね?
「トドメをタイシに譲るってのもちょっと戦闘中だと難しいよね、油断は死をまねくって教官もよく言っているし、どうしようか?」
レッドは戦闘に対しては真面目だよな。
「素晴らしい能力ですね、ウルフ系とか索敵に役立ちそうですし、街中ではカードに戻しておけば邪魔にならない……タイシさん、二百ポイントアップです!」
ピンクはまたポイントがインフレしだした、要注意だ。
「さすめが」
グリーンはボソリと女神を称えた。
色々話合ったが今回は今まで通りで狩っていく事に、まぁやり方を変えてケガとかしたら嫌だしね。
……。
そしていつもより早く帰還する。
買取所はお昼過ぎくらいなので並ばずに済んだ。
そのまま冒険者ギルドの受付にいくもココはおらず、別な受付嬢に見習い宿舎の教官が待っているからと奥にある小部屋に案内される。
……。
その部屋には城で見たスキルなんかを調べる石板がある部屋で、見習いの男の子達や『三人が狩る』のメンバーもいた。
やっほー、と手を振って挨拶しておく。
彼ら彼女らは教官からEランクへの昇格を言い渡されて喜んでいた。
だが見習い宿舎を出ていけと言われて落胆もしている。
宿泊費タダだったものね。
だけどまぁ男の子達はワイワイと喜びながら部屋を出ていき、『三人が狩る』の彼女らも俺らと少し会話してから部屋を出て行った。
昇格祝いをしようだとか、今度またご飯を作ってくれだのと、色々ね。
そして部屋に残る俺達『四色戦隊』の五人と教官。
「おうやっときたな、んじゃまずは能力チェックだ、格が五以上になったスキル持ちはEランクになって見習い宿舎を出ていく決まりだからな、聖女のお嬢ちゃんは特別扱いだったけどな」
そんな決まりあったのか。
ちなみに魔物と戦った事のないような格十の生産系職人より、格五の戦闘系スキル持ちの方が強いらしい。
戦闘系スキルの基礎能力補正値が高い事が分かる話だ。
まぁ生産系は器用さとかが高くなるかもだけどね。
まずはブルー君からチェック。
格五 〈投擲〉〈計算〉
次はレッド。
格六 〈剣術〉〈身体強化〉〈生活魔法〉
そしてピンク。
格五 〈槍術〉〈生活魔法〉
ブルー君に新しいスキルが生えていた。
才能のあるスキルは現出しやすいという話だったか……暗算とかが早く正確になるスキルだとか。
君は商売人になった方がよさげじゃね?
教官は全員Eランク昇格を宣言しているし、皆嬉しそうだ。
ダンジョンに行けるのってEランクからだもんな。
そしてグリーンはやらなかった。
前回やっていて、すでにEランクが貰える水準だったとか、聖女見習いの頼みなので仕方なく俺と同じFランクで見習いにしたらしい。
俺はギルドで一度もこんなのやっていないんだがなぁ……あーココが情報漏れを心配して省いてくれた?
〈共通語理解〉って翻訳系スキルは、召喚された人が貰える奴みたいだしなぁ……。
そうして俺が石板に触れると。
格一 〈生活魔法〉〈共通語理解〉〈賄い〉〈記憶力向上〉〈詩作〉〈演奏〉〈歌唱〉〈弦楽器〉〈役者〉〈演劇〉〈踊り〉〈手品〉〈パティシエ〉〈鼻歌〉〈調理〉〈引き出し〉〈カード化〉
うん……部屋が静かになっちゃった……。
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