第36話 Fランクのユニークスキル

 ったく相変わらずの女神だったな。


 意識が戻ると、そこは女神像のある小さな部屋で、足元にはスキルオーブらしき物が転がっていた。


 俺は早速それを使ってしまう。


 何故なら偉いハゲ司祭様とか兵士とかがこちらに、いや、スキルオーブに注目しているからだ。

 それをよこせとか言われたら戦争になる自信があるし、とっとと使ってしまう事にする。


 ……。


 確か魔力を通せば……スキルオーブの内容と本当に使用するかという確認を頭の中でされる。

 俺が肯定意思を思い浮かべるとスキルオーブは消えていき……俺の中に新たなスキルが芽生えたのが分かる。


 よし〈カード化〉スキルゲットだ!


 さてと。


「では帰りますね」


 そそくさと帰ろうとする俺を、力強く押しとどめるハゲ司祭さん。


「何ですか? 女神様からの伝言と下賜も受けたし俺は帰りたいのですけど?」


「それです! 奉納された食べ物や生活品等が下賜される事はよくあるのですが、スキルオーブを頂くなど……しかも眷属神からではなく女神様から直々に下賜されるなんて早々ある事ではないのです!」


 司祭さんが鼻息荒くそう言ってくるが、そんなん言われても知らんですよ。


「そうですか、じゃぁ帰りますね」


 くそ……部屋の入口を塞がれた、それなら。


「女神様からスキルを直接下賜されるような存在を、あなた方は監禁するのですか?」


 信仰心厚いのなら、この言い方でどうよ。


「違います! そうではなくてですね、貴方様は使徒であらせられるという事でよろしいでしょうか?」


 ハゲ司祭さんは必死になってそう言い募る。


「違いますさようなら」


 違うからね仕方ないね。


「お待ちください、どうか話を! 話しをさせてくださいまし! お気にいらぬというのなら、話が終わった後に私の首を差し上げます!」


 入口で土下座を始めやがった。

 兵士っぽい人も一緒になって土下座しているし。


 貴方の首なんていらんのですが……。


 ちなみにグリーンも俺の腕を掴んでいる。

 この子もよく分からんよな。


 ……。


 仕方ないのでハゲ司祭さんとお話をする事になり、長くなりそうなのでブルー君達には先に帰って貰う事に。


 ……。


 ハゲ司祭さんに案内された部屋には、俺とハゲ司祭さんとグリーンがいて。


 ハゲ司祭さん的には、グリーンに席を外して欲しかったようだが、彼女はその指示を聞かなく、そしていまだに俺の腕を掴んでいる。


 俺達の前にお茶を出しながらハゲ司祭さんは語り出す。


「さきほどタイシ殿はこう言いました、女神様から伝言と下賜を受けたと、下賜された物も気にはなりますが……大事なのは伝言です、それは神託という事ですよね? やはり本道派と新生派に関してでしょうか?」


 本道? 新生? なにそれ?


 知らない単語なので聞いてみると、最近女神教の中の本道派と新生派で戦いがあったようだ。

 本道派は昔からの清貧であれという教えと共に、民に近しい教会であれという考えで。

 新生派は女神教の教義に新しい解釈を加えた物で……まぁ金を集める事を本義としたよくあるやつだ。


 最近は女神教会の一番偉い大司教や、ほとんどの司教が新生派になっていたが。

 女神教会の本部教会において、女神から聖女に大司教を解任しろと神託があったそうで。

 それを元に本道派が決起し、本部教会は本道派が掌握して、今は各地へとその余波が来ている所だとの事。


 うーん、あの女神がそんな神託するかなぁ……?

 いや、そんな面倒な事はしないような……本当にまずい状況でも眷属神とかに丸投げしてそうなイメージがあるんだが……。。


 てことは本道派と結託した聖女とやらが演技をしたって所かね? まぁどっちでもいいや。


 この教会は三区にあり、貧しくてダンジョンの側にあるという危険さもあって本道派しかいないらしく、逆に二区から一区へと金の匂いが強くなると新生派が増えていくらしい。


 だが本部教会での事変により、新生派の者達が還俗し、今までに貯め込んだ資産を持って逃げ出しているとか。

 何故ならば、本部から新生派を駆逐した本道派の女神聖騎士団が、各地を回っているからだそうで。

 今教会は混乱の極みにあるらしく……そんな時に俺が来ちゃったとの事。


 なるほど俺を引き留めた理由は分かった。


 だがしかし伝言って言ってもなぁ……司祭さんがどんなスキルを持っているか分からんから、嘘をつく訳にもいかんし……。


 むーん……よし!


「なれば俺が聞いた女神様からの伝言を教えましょう」


 俺は厳粛な雰囲気を出しつつ、そう宣言する。

 それを聞いたハゲ司祭さんは背筋を伸ばして聞く態度を整え。


「おお! ありがとうございます」


 と、感謝の言葉を述べて来る……。

 感謝するのは早いよ、何故かってそれは……。


 俺はゆっくりとした口調で、女神の言っていた事をハゲ司祭さんに告げる。


「『お菓子を捧げにきなさい』です」


 簡潔に嘘をつかずそう言った。

 そして部屋の中に静寂が漂う。


「は?」


 ハゲ司祭さんは理解できないようだ。

 気持ちはすごい分かるが、厳粛な態度は一切崩さずに。


「『お菓子を捧げにきなさい』です」


 俺は大事な事なので二回言った。


「そ……それはどういった意味で……いえ貴方が嘘をついていない事は分かるのですが……それはつまり女神様は私共の事を……」


 ハゲ司祭さんは混乱している。

 うむ、このままだと良くないな、信仰が逆転したら悲惨な事になるだろう。

 ここは俺のスキルである〈ガイド〉さんの出番だな!


 これは俺の言葉によって思考を案内するスキルだ、ただし洗脳とかには使えない。

 説得力を少しだけ加味するだけの雑魚スキルだ。


 では始めましょう。


「司祭様、女神様の真意など地上にいる者が分かりましょうか? まずはお聞きしたい、お菓子は生活していくのに必須の物ですか?」


「あ? え? ……いいえ必要ありませんね、パンとスープがあれば人は生きていけます」


 ハゲ司祭さんは混乱しつつも俺の質問に答えてくれた。


「その通りです、つまりお菓子とは余裕の表れだとは思うのです、つまる所、余裕を捧げる事が出来るようになったでしょう? というメッセージのがあると私は思うのですが、いかがでしょうか?」


「な、なるほど……此度の件で過剰なまでの献金要求や、回復魔法を施した時のお布施が高額に設定されていたことが変わるでしょう……女神様はそういった事が是正されて、民に余裕が生まれた事をお菓子で示しなさいと……つまりそういう事なのですね! タイシ殿!?」


 頭の良い人は勝手に先回りして誤解してくれるから楽だね。


「さすがは女神様への信仰心の厚き司祭様なだけはあります、その見識の深さに私は頭が下がる思いです、そして私は世界が平和である事を願うばかりです」


「おお、おおぉぉ、やはり女神様は私共を見守っておられた……は! 早速この神託を各地の本道派に伝えねば、お話ありがとうございましたタイシ様、もしよろしければ教会の本道派のトップである司教様に……いえ、次期大司教様にお会い出来るように致しますが、いかがなさいますか?」


 おっと、ハゲ司祭さんが厄介事を投げ込んでくるので。


「俺は部外者で女神様のお言葉を伝えただけの傍観者ですよ、教会の事は教会の皆さんでどうにかするべきでしょう」


「そうですか……何か困った事があればいつでも私を頼ってください、教会は女神様からの神託を伝えたタイシ様を力の限り助ける事でしょう、では申し訳ございませんが失礼します」


 そう言ってハゲ司祭さんは部屋を出ていった。

 ふう……なんとかなったか。


 なんとか乗り切ったと安堵をしていると、掴まれた腕を振られ。


「女神様は私には何か言ってませんでしたか?」


 グリーンが口を開いた。

 ありゃ普通に話せるじゃんかこの子。


「なんだよ普通に話せるのかよ、なんで来る途中とかに説明とかしてくれなかったんだ?」


「だって……」


 言い淀むグリーン。


「だって?」


 俺は聞き返した。


「人がいっぱいいたから……」


 グリーンは顔を伏せた。

 ただの人見知りかよ!


「人見知りなのに男の腕を取って引っ張るとか訳わからんな」


「だって貴方は女神様に近しい関係者でしょう? それなら怖くないもの」


 グリーンは普通に俺と会話を始める、


「悪いがグリーンに女神様からの伝言はないな」


 俺がそう答えるとグリーンは悲しそうに。


「そう……女神様は貴方を呼ぶ神託をくれたの……それも短い期間で二回もくれたから嬉しかったのだけれど」


 聖女見習いだっけか……それでこれだけ女神に感謝しているって事は……。


「なぁ、グリーンはもしかして生贄にされた子って奴か?」


 それを聞いたグリーンは、顔をぐわっと俺に近づけて鼻息荒く。


「それを知っているって事は、女神様は私の事を貴方に教えたって事よね! やっぱり女神様は私を気にかけてくれているのよね?」


 真剣な表情で俺にそう聞いてくるグリーン。

 すまんが女神は俺に生贄を押し付けようとする輩だ。


「それで女神様のお言葉はどんな内容だったの? 教えてくれませんか?」


 近い近い近い。


 グリーンはソファーの横から俺の顔の近くに寄って来ながら聞いてくる。

 彼女の鼻息が俺の顔にあたる近さといえば分かるだろうか。


「あー生贄の子が各地の穏健派の教会に預けられるって話を聞いただけだ、生贄を捧げられるとか迷惑だって言ってたぜ?」


「そうです! 女神様がそんな事を望んでいるはずないのです! それを新生派の連中ときたら……」


 生贄を捧げてるのって新生派かよ。


「まぁ救われて良かったじゃないか、じゃぁ俺はそろそろ帰る、案内ありがとグリーン」

「はい、では一緒に帰りましょうか」


 ん?


「一緒?」

「はい、私とタイシさんで一緒に帰りましょう」


「なんで?」

「私はもう『四色戦隊』のパーティメンバーだからですよ? 女神様も大志を抱けとおっしゃいましたし、私もちょっと怖いけど教会から出てみようかと思いまして、それにタイシさんは女神様と関係のある日本人ですよね? それなら安心かなと思って」


 俺が召喚された人間だと知っている? 聖女だから情報があるのかな?

 しかも異世界人ではなく日本人って……。


「俺を異世界人だと思った理由を聞いてもいいか?」

「お城で異世界からの召喚儀式をした事は、教会のある程度の地位のある人間なら知っている事です、それにもう一般の方にも情報は流れ出していますし、そしてタイシさんの髪色と目の色、そしてこちらの人の顔は欧米系が多いのに、貴方は日本人顔ですし」


 欧米系? これはやはり。


「グリーン……君は転生者か?」

「……タイシさんは日本から来た異世界人ですか?」


 俺が答えたら自分も言うって事か、なら。


「そうだ、俺は最近城で召喚された日本から来た異世界人である事には間違いない、今は城から追い出されて冒険者をやっている」

「やっぱり! ……私は転生者です、日本の方とまた会えて嬉しいです」


「城にはたくさん異世界人がいるけどな、四十人以上召喚されたんだぜ? 女子もいるしそっちと組む方がよくね?」

「……彼らはだめです、内緒ですけど彼らのあまりの横暴さに貴族様達が切れたそうです、もう十人近く奴隷紋を掛けられて犯罪奴隷として強制労働させられているそうですよ? 彼らには近寄りたくないですね」


 何してんねんあいつら……。


「そうか……何をしたのかを知りたいような知りたくないような」

「貴族の女性や世話係のメイドに性的に襲いかかったり、奴隷に酷い事をしようとしたり、後は街中でも……まぁエロい漫画の読み過ぎですかね? この世界の奴隷なんて契約が自分から切れない契約社員みたいな物なのに、あ、犯罪奴隷は別ですよ?」


 一般に流通するのは借金奴隷が基本って言ってたもんなぁ、雇い主は選べないが身体の権利は自分にあるって感じなのかな?


「やらかしたそれらは全部男子っぽいけど、女子共はどうなんだ?」

「生産組は大きな問題も起こしていないですし、まだ能力は低いけど重宝されているみたいです、戦闘組の女子は……ちょっと狩場のマナーが悪くて冒険者と揉めてるとか噂されていました」


 確か戦闘系は男十二人に女が六人だったはずだ。

 それでもう男十人が奴隷? そんで女性組みはマナーが悪い? 後は男が二人しか残ってないじゃんか。


 男はペアで狩りをしてるのかなぁ? ……いやまぁ男女混合パーティとかあるかもしれんが。


「まぁブルー君達が受け入れたってんならいいけどよ、帰る前にグリーンの事情を聞いてもいいか? 転生者なのは大っぴらにしていないんだろ?」


「あのパーティは良い子達ばかりでした、そうですね転生者である事を知っているのはタイシさんくらいです、私は人見知りで日本ではバーチャル生放送主をやって引きこもりで暮らしていたんです」



「あー知ってる、投げ銭を貰って稼ぐ人達だよな、ダンジョン探索者系のとか可愛いキャラのとか、俺も結構見てたぜ」


「はい、転生者は自分の死因を覚えてないそうで、私の記憶は十代後半まででした、病気か事故かはたまた……まぁ転生しました、そしてとある農家の子供として生まれたんですが、私は自分に女神様から頂いた〈光魔法〉と〈健康〉スキルがあるのを知っていたので、幼い頃に魔法を使ってしまったんです、それが失敗でした……」


 えーと確か前にブルー君に教えて貰った内容からすると……。


「祝福の儀の前に持っているスキルって貴重だし、それは血で受け継ぐ可能性が高いから、ばれたらやべーんじゃなかったっけか?」


「はい、私は両親に教会の新生派に売られました、そして女神様への生贄にされたんです、その頃の私は格も低く幼かったので〈光魔法〉があってもどうにもなりませんでした」


 うーん女神が言ってた転生者の悲惨なパターンな奴か。

 まぁ今生きてるだけましかねぇ?


「それで女神様に助けられて聖女見習いになったと?」


「はい、元々人見知りなのもあったし、この世界の人相手に良い事なんて一つもなかったので、女神様の強くなれとの教えの元、教会の中でひたすら鍛えて引きこもっていたのですが、大志を抱け……これが勘違いなのは分かっているんです……でもそろそろお外に出ないといけないなと思いまして、どうせなら日本人でまともな方がいれば安心できるかなと……それにタイシさんの側にいれば女神様がまた伝言板代わりに神託をくれるかもしれませんし」


 なるほど。


「つまりグリーンは、転生者で人見知りで引きこもりで、この世界の人達が苦手で聖女見習いで、尚且つ女神様ガチ勢って事だな? 要素多すぎないか?」


「ふふふ、この設定で生放送配信をしても人気出なそうですね」


 グリーンは楽しそうに笑う。

 あ、笑った顔初めてみたな、ずっと表情がほとんど変わらなかったんだよな。


「俺の事を女神の関係者って言うが、それほど関係がある訳じゃないからな? それと前世と年を足したらおれよりお前の方が年上じゃねぇ? やりにくいな……」


「タイシさんからは女神様の匂いがするんです、それに私は十三歳です! 前世の年齢は足されませんのでよろしくお願いします、なんならお兄ちゃんって呼びましょうか?」


 そうグリーンは笑顔で言ってくるが、それは勘弁してくれ。

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