第35話 Fランクの帰還

 ふぅ、あの後レシピを書き終え、セバスさんに説明をしながら渡して俺の仕事は終了。

 ココファミリーにも三区に帰る事を告げに行ったら。



 イエローに私も必ず行くからねと、ほっぺにチュウされたり。


 ココ妹ちゃんにまた遊ぼうねと、ほっぺにチュウされたり。


 ココパパに娘を泣かせたら許さんと誅されそうになったり。


 ココママは、あらあらうふふと注意すらされなかったりした。


 お貴族様も帰還し始めているので、ココはそろそろギルドに戻るそうだ。

 また今度ギルドでなーと、ココにバイバイしながら帰る。


 ……。


 ガタゴトと鳴る馬車に乗せてもらい、三区に入るまで送って貰う。

 日が落ちかけている頃だし、皆の依頼が終わる頃かなー。


 そして三区から歩きで見習い宿舎の側に帰ってこれた俺。

 丁度俺の前を歩く彼らは髪の色で俺の同室メンバーだと分かる。


 青い髪のブルー君、赤い髪のレッド、桃色の髪のピンク、緑色の髪のグリーン。


「おーい帰ってきたぞーい」


 と声を掛けながら彼らに速足で近づく。

 彼らは俺の声を聞いて振り向くと、嬉しそうに。


「タイシさん! やっと釈放されたんですね!」


 ブルー君や、俺は捕まった訳じゃないんだが?


「タイシ! 大丈夫? お貴族様に斬られてゾンビだったりしない?」


 レッド、俺は死んでないし、斬られるような事もして……していないと思いたい。


「タイシさんやっと帰ってきました……うわーん」


 ピンクがそう言って俺に抱き着いてこようとするが、俺はひょいっとピンクを避ける。

 だって狩りからの帰りだからなのか、ピンクが帰り血とかですごい汚れているんだもの。

 避けたせいかマイナスポイントをくれた、あざーす!


「タイシ……貴方がタイシ……」


 グリーンはいつものように……グリーンはいつ……もの?


 ……。


「ってか君は誰!? もしかしてパーティから俺が追い出された? これがパーティ追放物って奴か! そうなると俺はこの後にユニークスキルを覚えるんだな、ふふり」


 昔読んだ小説に影響されている俺だった。


 そしてグリーン髪の子は俺の腕をがしりと掴み引っ張りだした。

 って何? 何?


「ちょ? 何? 痛い、痛いから! 君は身体強化系スキル持ちだな、痛いってば、ちょっと! ブルー君説明おねがーい!」


 引っ張られる俺はブルー君に説明をお願いした。

 だって緑髪のこの子ってば何も話さないんだもの。


 周りをささっと見回して、こちらを見てる人がいない事を確認した俺は、四人を〈生活魔法〉で奇麗奇麗にしてしまう。

 強力な後ろ盾を得たし、見せつけるような使い方を自重するだけでいいやね。


 グリーンに手を引っ張られて、何処かに連れていかれる俺についてくるブルー君とレッドとピンク。


 ブルー君は苦笑しながら。


「えっとこの人はグリーンさんと言いまして、女神教会の聖女見習いだそうです、タイシさんが貴族に連行されてから僕らの所というかタイシさんを探しに来たんですが、まぁタイシさんはすでにいない訳で、それなら帰るまで待つと言って僕らの部屋に勝手に住み込み、依頼にもついて来るようになりまして……そしていつのまにかパーティメンバーに……」


 いや俺は連行された訳じゃないんだけどな?

 ちょいちょい俺の扱いが雑だよなブルー君は。


 そしてレッドが追加情報を。


「タイシのベッドは今この子の物になっているわ、それで教官が教会に話をしにいったらしいんだけど、聖女見習いの好きにさせてくれって事なので冒険者に登録したんだよね、んで私らのパーティに参加して依頼をこなしつつタイシを待ってたって訳、理由はよく分からないんだけどね、タイシは知っている?」


 俺は知らんと首を横に振る。

 ピンクさんはいつものごとく。


「タイシさん、聖女に手を出すとか勇者様みたいですね! プラス二十ポイントです! でもグリーンさんも十三歳なんですよ? それなら私にも手を出してくれればよいのに、おかしくないですか?」


 君はいつでも変わらないね、ある意味安心するよ。


 俺はこの子、グリーンちゃんとは初対面だと皆に説明する。

 グリーンは俺の問いかけにも「行く、分かる」としか答えず、ぐいぐい引っ張る。


 しょうがないので皆に歩きながら食べられる屋台飯を奢り。

 それを食べながら何処かへと向かう事にする。

 グリーンも片手は俺の腕を掴み、もう片方の手で肉巻きクレープのような屋台飯を持って食べている。


 俺もそれを食べながら。


「うーん味付けが塩とハーブなのはいいんだがバランスが悪いな」


 俺が屋台飯について批評していると、それを聞いたブルー君達が。


「タイシさんのご飯が食べられなかったから、最近は食事が寂しくて辛かったです」

「ほんとそうだよねぇ……私達がこうなった責任はタイシにあると思うのよ」

「タイシさんのご飯がないと耐えられない体になった……つまり責任とって結婚してくれるって事ですねタイシさん!」


「しませーん」


 勿論ピンクの意見にだけは否定しておく。


 ピンクは悔しそうに。


「くっ、話の勢いで承諾してくれてもいいじゃないですかー」


 まぁいつもこんな感じだったが、久しぶりの俺を交えた会話に皆楽しそうではある。


「んでこのグリーンはどんな子なんだ?」


 俺を引っ張るグリーンを見ながら皆に聞いてみる事にした。


 グリーンの見かけは緑のロング髪をうなじあたりで縛っていて、そして女神教会の服だろうか、城で見かけた女神教会の人達の服装ににちょっと似ている。

 ……あれに比べるとすごい質素だけども。


 まぁその教会服の上からごつい皮鎧を着こみ、ラウンドシールドを背負い、片手用のメイスを腰に装備しているのだけどもね。


 ……聖女? こっちの世界の聖女って戦士の事を意味しているのだろうか?

 常識がまだよく分からぬ。


 俺の質問に対して、ブルー君がまず口を開き。


「そうですねぇ基本的に無口ですが、相手にきっちり配慮して行動してくれますし、買い物時の暗算とかも早かったですね、値切り交渉は苦手っぽかったですが」


 そう説明してくれるのだが。

 俺には配慮してくれない訳ですがそれは。


 そしてレッドが言うには。


「メイス捌きが素晴らしいわね! 盾も使われたら今の私だと勝てないでしょうね、しかも……〈光魔法〉スキル持ちなのはさすが聖女見習いよね」


 後半の方は小さい声でこっそり俺に伝えてきた、周りに聞かれるかもだしな。

 治癒の出来る魔法持ちは聖女っぽいね。


 そしてピンクはいつものごとく。


「レッド並みに大きいんですよこの人! それなのに大きくする方法を教えてくれないですし……教会の秘密って奴でしょうか? 無言ですが料理を手伝ってくれるのは有難かったです、レッドとブルー君は下手っぴですし」


 教会の秘儀にそんなのあったらびっくりするわ。


 料理の下りでブルー君とレッドを見るが、彼らは目を反らしたり顔を背けるだけだった。

 レッドは口笛下手だな、今度教えようか?


 ……。


 そんなこんなで着いた場所は教会だった。


 ブルー君いわく、三区の教会の中でも一番大きい所だそうで。

 そこに大きい教会がある理由がダンジョンに近いからだとか、


 なんでや? と思って詳しく聞いてみたら。

 ダンジョンスタンピード時の周辺住民の避難先にもなるんだとか、言われてみれば教会を囲む壁とかが分厚い感じだ。


 敷地内に入っても教会の建物までは結構距離があって、ただ広い道が通っている。

 敷地内にこの広さの道は何か宗教的な意味でもあるのだろうか?


 ああ……避難民を受け入れた時とかに使うのかもか。


 そうしてグリーンに引っ張られて教会の中に入っていく俺。

 ここは一般の人がお祈りする場所なのかな?


 女神像があってその前に大きな台があって、長椅子とかも部屋に置いてあるし、一般の人もかなり出入りしていて、立ったまま祈ったり、椅子に座りながら祈りを捧げている人もいるね。

 ってグリーンはそこを無視して、さらに奥に行こうとしている。


 ……。


 関係者に止められた俺達、グリーンは女神様に祈るとしか言わないのに、彼らは理解をしたらしく。

 ブルー君達は一般礼拝堂で待たせて、俺だけ中に連れていかれる。


 周りは同じような教会服の人しかいねぇ……どーもどーもこんにちは~タイシ君怪しい人間じゃないですよー。

 グリーンは周りに何も説明してくれないので、俺が愛想よく振る舞うしかねぇ。


 途中から質素だが偉そうな雰囲気の人や、兵士っぽい感じの人も一緒についてきた……もうなにこれ、グリーンさん説明くれないから分からん。


 ……仕方ないから偉そうなハゲた人に聞いてみる事にした。


 あら、この教会のトップの司祭様ですか? それはそれは……。

 で、なんで俺は引っ張られて? はぇ? 神託で呼ばれた?

 ……あー、はいはい理解しました、いいえ俺は使徒ではありません!


 教会の奥の小さな部屋、聖域と呼ばれるその部屋にも小さめの女神像が置いてある。


 むぐう、見られながらやりたくないんだが、聞いてくれそうにないな。


 グリーンちゃんは女神像の前の床に俺を連れてきて、跪いて祈りを捧げ始めた。

 周りにいたハゲ司祭さんとか兵士さんも同じく……。


 仕方ねぇなぁ俺もやるか。


 ……。


 ――


 ……ここは、あの時の真っ白い世界だな、む?

 前回と違って体がないのか?

 意識だけ呼ばれた?



「待っていたわよタイシ! ちょっと遅いじゃないの! せっかく神託したのに十日もかかるってどういう事よ!?」


 知らんわ! って声が出せないな……まぁ心が読める女神だし必要ないか。


「そうそう、でねタイシ、貴方のスキルをちょーっと見てみたら、縦読みでお菓子五箱って読めるじゃない? あれはやっぱり助けてあげればお菓子をくれるって事よね? ね? そうよね?」


 嬉しそうな笑顔が超うざい。


 もしかしたらと思ってやったが気づいてくれたか。

 だがな、助けるじゃなくて、不手際の修正の間違いだよな?


 〈空間倉庫〉が開けないからカード化スキルオーブも出せねーし、すっげー苦労したんですけど?


「貴方だってここで会話してた時に気付かなかったじゃないの、お互い様って奴よ、それでどうなのかな? 交換条件で援助はいるのかしら?」


 くっ……今はスキルをどうにかする方が優先だな……。


 援助欲しいです〈空間倉庫〉を世界に馴染ませてください!

 それと戦闘系のスキルも!


「あーうーん、それはちょっと天界ルール的に難しいかなぁ……」


 なんだよ……じゃぁ逆に何が出来るんだ?


「そうねぇ〈カード化〉のスキルオーブを教会で貴方に下賜するという形で渡すくらいかしらね?」


 ふむ……もう覚えて大丈夫なのか?


「ええ、細かい雑魚スキルもそれなりの量が馴染んだみたいだし、いけるわよ、ただ貴方見事に戦いに使えないスキルばっかり増えていくわよね……私の世界って戦闘に使えるかが価値の基準になるから仕方ないんだけども」


 それでか!


 調理系とか結構すごいスキルなのに早く覚えたわりに、同じ生産系の鍛冶とか皮細工とかが順番の奥の方にある理由が分かったぜ。


 この世界のスキルの価値基準が脳筋仕様だったからなのか……。


「脳筋って失礼ねぇ、それだけ魔物との戦いが大変って事なのよ、魔法を世界に実装するには魔素から生まれる魔物もセットになるのだから仕方ないじゃないの、ちゃんとダンジョンで生存圏が確保出来るようにもしてあげてるじゃないの」


 成程、ダンジョンは人間のために神が設置しているのか。


 まぁ〈カード化〉スキルは有難い、下賜出来るなら俺の〈空間倉庫〉内にあるカードとかも下賜してくれないか?


「それもルール的に難しいわね、私から持っていった食材とかならいいわよ?」


 そうか……カードが無理なら仕方ないか、食材とかを今貰ってもなぁ……まぁいくつか質問いいかな?


「いいわよ~どうぞ」


 まずこの世界のスキルは俺がいた世界のスキルより強力だよな?


「そうねぇ、日本のスキルって基礎能力の上がり方が低いわよね? その分を数で補う仕様なんだろうけども、うちのは戦闘用だとがっつり基礎能力が上がる仕様だわね」


 やっぱりそうか……ブルー君とかスキル一つなのにおかしいなと思ってたんだ。

 こりゃ俺の戦闘系スキルが使えるようになってもきつそうだな。


「なんで? 私の世界で修行してスキルを現出させるなり、スキルオーブで覚えちゃえばいいじゃない」


 あ……そうか。


 はは、日本からの能力だけでやっていこうと思ってた、あほだな。


「本当にあほね!」


 うるさいわい!


 んで、後はあれだ、玉手箱どうなってる? 結構日にちがたっているけど。


「そうね、ちょっと貴方の空間から出すわね」


 女神はそう言って、以前のように椅子とテーブルを出して自分は座り。

 俺は空中に浮いているような感覚だ。


 女神がテーブルの上に玉手箱を出すと、それには完了の文字が見える。


「交換終わっているわね、開けるわよ? お菓子と手紙かな? これで読める?」


 手紙を読めるように開きテーブルに置いてくれた女神。


 ふむふむ、何を送ればいいか教えてくれってか……って何で玉手箱に入っていたお菓子を勝手に食っているんだよ……。


「モゴモゴ、いいじゃないこれくらい、手数料よ手数料、美味しい飴だわね」


 ったく……あー手数料って言うんならよ。


 俺が〈空間倉庫〉を使えるまで玉手箱を使って連絡とか頼んでいいか?

 あっちから送られる物の半分をお菓子にして貰って、それが手数料でどうだ?


「へぇ……いいわよ受けてあげる、何をしたらいい?」


 相手に送るのはこないだと同じように肉にしてくれ、肉の種類は美味そうな奴から適当に選んでくれればいい。


 要求するのはそうだな……紙に印刷したお菓子レシピや料理レシピや、各種食べられる作物の種や苗なんかと、高くなくていいからお菓子を半分くらい詰めてくれとお願いしておいてくれ。


「了解、送られてきたお菓子は全部貰っていいのね? ぼちぼちやっておくわ、さてじゃぁお菓子五箱貰ってから送り返すわね、教会に戻ったら貴方の足元にスキルオーブが下賜されてるからね、ちゃんと使うのよ?」


 待て。


「何よ? まだ聞きたい事とかあるの?」


 違う、お菓子五箱の契約はいいけど、与えるお菓子は俺が選ぶ。

 お前が選ぶと……トラック運搬用の大型コンテナを一箱とか言い出しそうだしな。


 流通業者からまとめ買いするのに、コンテナごと買ったりしたのが入ってたはずだしな。


「っそそそそそそんな事ないわよー、そりゃちょっと大き目な箱から順番に選ぼうかなとは思ってはいたけど、さすがにそんな非常識な……その手もあったわね! あなた天才かしら?」


 余計な知恵をつけてしまったか……。


 この意識だけの状態でスキルを使ってリストは見られるのかなっと……おー使えそうだし見られるね、んーじゃあこの辺だな。

 ドサッと、お菓子が詰まったダンボール箱を五箱分、女神の側に出す。


「ありがとーって生菓子はないのかしら? むーまぁいいわ、じゃ送り返すわね、たまには教会に来てお菓子を捧げに来なさいよ! じゃまたねー」


 意識が遠くなっていく中で、仕方ないので高級ケーキの箱も一つ追加で出してやった。


 俺は女神の歓声を聞きながら意識が遠くなる。

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