第30話 Fランクの出し物

 おはようございますタイシです。


 園遊会はすでに午前から始まっており。

 お庭で軽食を食べたり遊んだりお話をしたり、貴族間の交流を深めるゆるい催しみたいだった。

 今回『木目を囲う会』とやらのメンバーだけでなく、公爵様の寄子やら何やらで結局伯爵から男爵まで五十を超える爵位持ち貴族とその家族が集まっているらしい。


 年齢に規定の有る社交界のパーティと違い、小さなお子様連れでも来られるのが、この園遊会の特徴なんだとか。



 遠くから来る貴族は公爵家に泊まったりもするが、王都にいる派閥関係の貴族も日帰りでたくさん来ているとの事で……最低でも総勢三百人を超えると聞いていたが。

 ……それ以上いるように見えるんですけど……。


 ……。


 お昼の少し前になった。


 俺は覚悟を決めココファミリー達に頷くと、事前に頼んで組んでおいて貰ったステージ上に駆けだしていく。


 そして。


「みんなー! 今日はタイシ君のコンサートに来てくれてありがとー!」


 そんな風に大声を出しつつステージの上から周囲を眺める。


 貴族様達はテーブル周りの椅子に座っていたり、芝生の上に敷いた布の上に座っていたりした。

 リラックスしているのはいいけど、かなりばらけているな……これは手品とか落語にしないでよかったと思う。


 ステージ上には俺と、ドラムのココママ、ギターっぽい弦楽器のココ、そしてステージの前に俺達に向いているココ妹ちゃんとイエロー。

 事前に公爵様に許可を得ているので、貴族様方にお尻を向けていても怒られない。


 少し物足りない楽器演奏は俺の〈生活魔法〉でいくつか浮かべて鳴らす!


 複雑な演奏は無理だが、賑やかしの鳴り物くらいなら〈思考分割〉や〈並行処理〉とかも使ってやればなんとか……。


 スキルの多重使用はそれなりに疲れるが……タイシ負けない!


 さてそれじゃぁ始めようか。


 ……。


 ――


 お貴族様達は俺の出し物をポカンとした顔で見ている。

 お偉いお貴族様達はまったく乗ってこないし、俺の出し物に対する拍手すら一切ない。


 くっ頑張れタイシ!


 お前は探索者専門高校の文化祭で、観客が三人なのに三十分完璧に歌い続けた鋼メンタルの男だろう!?


 くそっ! 何が危険な水着ミスコンだ! 事前にそんなのがある事を知っていたら俺もそっちに行ったよ!

 しかも撮影禁止だったから、どんなだったか言葉でしか聞けなかったんだよ。

 ……皆危険だったとしか言わねーし……くそ……。


 そんな事を考えながらも、しっかりと歌う俺だった。


「ターイシ君といっしょーにヘイホーっ!」

『『ヘイホー!』』


 うんうんイエローとココ妹ちゃんは可愛いなぁ。

 二人はお揃いのタイシ君ハッピを着て、さらにタイシ君好き好きウチワを両手に持ち、そしてステージ前で俺に合わせて踊ったり掛け声を返してくれている。

 ウチワとハッピには俺のデフォルメされた顔と名前と後は、好き好き、と文字が描いてある


 尻尾を振り振り狐耳をピョコピョコと、体をいっぱいに動かして俺に合わせてくれる姉妹達は最高に可愛い。


 後で君達にはお礼をするからな。


「体をおおきく伸ばして~トレントのポーズでワッハッハー!」

『『ワッハッハー!』』


 貴族様たちは相変わらず訳もわからないのか、ポカンとした表情だ。


 そんな曲が三週目に入った頃の事だ。


 ココ姉妹ズの横に小さな幼女が来て、彼女らと一緒に踊り出した。


 フィッシュオオオオオオーーーーーーン!!!!!!


 やっと一人来てくれたか!


 そうだよ! 俺が今回楽しませるのは貴族様達じゃねぇ!

 お貴族様が連れてきた小さなお子様達だ!


 公爵様には、お貴族様達に対してステージ前に自由に移動して見に行って良いと事前に通達して貰っていたんだ。


 ココ姉妹は五歳くらいに見える幼女に、タイシ君好き好きウチワを一つ渡し、一緒に踊ってあげている。

 幼女が転ばないようにサポートもしつつで……うーんいい仕事だ!


 ……。


 ――


「体をブラブラさせてスライムのポーズでニョンニョンニョーン!」

『『『『『『『『ニョンニョンニョーン!』』』』』』』』



 曲を周回するごとに慣れてきて楽し気に踊るキッズ達が増えていく。

 それを見て笑みが零れる貴族のお母さん方は、リズムに乗って拍手をくれる人も出てきた。

 お父さん方や、ある程度歳のいった子らは苦笑しているが、別に構わん!

 大事なのはキッズが楽しめるかどうかだ!


「さぁ最後の一周だ、皆元気よく行くよ~タ~イシ君といっしょ~にヘイホー!」

『『『『『『『『『『『『『『『ヘイホー!』』』』』』』』』』』』』』』


 ずっと踊り続けていると疲れるし、演奏しているココママ達も大変だろう。

 だがそんな素振りは一切見せずに、皆笑顔で最後まで駆け抜ける!


 ……。


 ――


「みんな~! 一緒に踊って歌ってくれてありがとー! またタイシ君と踊ろうね! ばいばーい」

『『『『『『『『『バイバ~イ』』』』』』』』』


 元気よく返事をくれる子供達に、バイバイと手を振りながらステージから降りる俺達。

 そして貴族様達の見えないスペースまで下がると……。


「ふあーつっかれたなぁ……」


 用意されていた椅子に座り込む俺達だった。


「予定より二周も多くやりましたからね……腕がつりそうです」


 ココは自分の腕を揉んでいる。


「あらあら情けないわよネリアちゃん、お母さんなんてまだまだいけたわよ?」


 あらあらうふふ系なココママは、まだまだ元気のようだ。


 この人もそれなりに実力者っぽいんだよなぁ……。


「僕もさすがに足が疲れたかもー、でも楽しかったよ!」


 イエローはそう元気よく言ってくれる。


 お子様達が転ばないか、踊りながらも気づかって見ていてくれたし、本当に有難い。


「最後は子供達がたくさんいましたよねタイシ兄様! ウチワとハッピは欲しがった子にあげちゃったけど良かったですか?」


 ココ妹ちゃんはまだまだ元気だった。


 え? タイシ君好き好きウチワと、タイシ君好き好きハッピを欲しがる子なんていたの……?


 ……いいけど、後で我に返って捨てられないように願うよ。


 そんな俺達の元にセバスさんがやってくる。


「お疲れ様でした皆さま、公爵様も大変ご満足頂けたそうです、出し物の方向は少し予想と違って困惑されたようですが……」


 セバスさんはセリフとは違い表情を変えずにそう言ってくる。


 この人は俺が色々準備を頼んだ時点で理解してた気もするんだよな、でもそれを公爵様に説明していないっぽい。


 謎な人だね。


「予定では皆さまの仕事はこれで終わり、貴族様達はお庭でお昼のお食事をし、その後は個々で交流を深めたり庭に配置してある遊具などで子供同士を遊んだりさせる訳ですが……」


 セバスさんが珍しく言い淀む。


 嫌な予感がした俺は椅子から立ち上がって皆を促す。


「じゃぁお屋敷の使用人区画に帰ろうか皆、おつかれー」


 しかしタイシはセバスに回り込まれた。


 逃亡が失敗し、セバスさんに肩をがしっと掴まれて動けない俺。


「まぁお待ちくださいタイシ殿、さきほどのお子様達が『タイシ君』と遊びたいと申してまして、公爵様はこの度の演奏の報酬とは別に新たに上乗せをするとおっしゃっていますがいかに?」


 それを先に言ってよセバスさん。


「行きます! キッズの笑顔のためならば、このタイシ、身を粉にして……ちなみにおいくらくらいでしょうか?」


 セバスさんが俺の耳元で金額を告げる。


 ふお! 賢者に四回以上は転職できるじゃないですか!


「じゃぁ皆、俺は仕事があるんで行ってくる! お手伝いありがとうな! お礼はまた後でするから~」


 ココファミリーはさすがに疲れているのか、俺の見送りを受けて屋敷の方に帰って行った。


 あ、まってセバスさん。


 何をやっていいか聞きたいんだけども……ふんふん、お菓子は?

 じゃぁ庭園に設置してあるお菓子ならどうです?


 使って良い物をこのあたりに……それとメイドさん一人貸してください。

 それでこんなのとか用意して欲しいなーって……。


 え? あーそうかお貴族様相手だから……むーん……ふむ……なら護衛の人に事前に確認して貰って、それをお貴族様にも見えるようにしたら?


 準備に時間がかかるのは後回しでいいので、まず簡単なこれで行ってきますね。

 はい、残りの準備はよろしく~。


 セバスさんは、メイドさんやらお手伝いしてくれる人を何人か俺に紹介し終わると離れていった。

 あの人も忙しいだろに、色々頼んですみませんねぇ。


 お貴族様達がお昼を食べ終える頃を見計らい、俺は行動を始める。


 ステージ前の芝生にスペースを作って貰い、俺がそこに歩いて行くとキッズ達がわらわらと集まって来た。


『タイシ君あそぼ~』『タイシ君様、踊りを教えてくださいまし』『へいほー!』

『あのねあのね!』『新しいお歌がいいの!』『にいにー』『おしっこ~』


 人間種が四割くらい獣人種が四割、後はエルフやドワーフや……えっとそこに浮かんでいるフィギュアみたいな背丈の妖精さんも貴族のお子様なの?

 ……まいいか、おしっこの子はお付きのメイドさんに急いでトイレへと連れていって貰った。


 俺はテンションが高い子供達にゆっくりと話しかけて落ち着かせていく。


「こんにちは~タイシ君だよ~、皆はお昼ご飯食べたかな?」

『『『『『『食べたー』』』』』』


「良いお返事だ、じゃぁタイシ君と遊んでいこうか?」


 ……。


 そうして子供達に遊びのルールを教えていくと共に、お手伝いの兵士さん達に道具の準備をお願いする。


 まずはジェスチャーゲームなので〈パントマイム〉スキルの出番だ。


 ……。


「じゃいくよー」


 俺は口を閉じ、キッズ達との間に置いた仕切りのこちら側で、横に歩きながら少しずつしゃがんで行く。


 すると。


 キッズは事前に言い聞かせた通り、手をあげてから元気よく発言してくる。

『階段を降りてる所!』『え!? 向こうに階段あるの?』『すごーい』


「はい正解! 階段を降りている所でしたー」


 はいはい仕切りのこっちを覗きにきちゃだめだよー、しゃがんでるタイシ君は結構間抜けだからねー。


 正解した子は、近くのお菓子を山盛りにしたテーブルの側に控えているメイドさんから、好きなお菓子を一つだけ貰えるルールだ。


 まぁこんな事をしなくても、彼らは好きな物を好きなだけ食べられるんだけどね。

 ゲームで勝ち取ったという事が、子供達には嬉しく感じるんじゃないかなと思っている。


 ……。


「次はどうかなー?」


 それからも俺はスキルをフル活用して演じて行く。


『わかんない……』『あ! メイドがお掃除してる!』『わぁ! そうかも』


「はい正解、お掃除している所でしたー」


 正解した子は嬉しそうにお菓子を貰いにメイドさんの所に駆けていく。

 他の子は羨ましそうにその子を見ている……。


 ふむ、小さい子が多いし、あんまり勝ち負けにするのもあれか……なら。


「次は正解が分かっても言っちゃだめだよー、分かった人達全員に一斉に言って貰うからね~、さぁこれは何の歌を歌っている所かな~?」


 そうして俺は、ついさっきやった踊りを披露していく。


 しばらく無言での踊りを見せてから。


「じゃぁ皆で一斉に答えを言ってね、せーの!」

『『『『『『『『『『タイシ君と踊ろうの歌!』』』』』』』』』』


「はい皆せいかーい! 皆でメイドさんの所でお菓子を貰ってきていいよー」


 それを聞いたキッズ達は、わーっと全員がメイドさんに突入していく。

 その人数にメイドさんがパニックになりかけていた。


 あ、やべ、俺も手伝わないとな。


 ……。


 はいはい一人一つだよー、こっちのクッキーが良い? はいどーぞー。

 お菓子を受け取るキッズ達の手を〈生活魔法〉で奇麗奇麗っと。

 次の番は君だよ、どれがいいかなー?


 そうしてお菓子を嬉しそうに食べるキッズ達だった。


 ……。


 そして次のゲームへと移行する。


 キッズの中には上級貴族なのか護衛が側にいる子もいるからね。

 その護衛に出し物を確認して貰っている所を、周りにいる貴族の方々から見えるようにする。

 心配させちゃまずいからね。


 まぁ俺の日本式〈生活魔法〉は周囲に悪意や敵意があると使えないのだが。

 さっき子供達の手を奇麗にする時は、問題なく発動したので大丈夫とは思うんだけどね。


「じゃぁ次の遊びだ、中身はなんだろなゲーム始めるよー! 小さい子から順番に並んでね、間違えた子は残念だけどお菓子一個だ、正解した子は二個ね、答えはタイシ君だけにこっそり教えてね?」


 そうやって小さい子に袋の中に手を突っ込んで貰い、中に何があるかを当てるゲームだ。


 ……。


 猫耳で将来イケメンになりそうなショタキッズが、しゃがんでいる俺に耳打ちしてくる。

『えとね、あのね、これはお茶を飲むカップだよ』


「はいせいかーい、テーブルの方へどうぞー、メイドさん二個までおっけーね」


 イケメンショタキッズの耳打ちボイスとか、日本のお姉さん達に高く売れそうだ。


 次々と順番が来てゲームをするが今の所正解率百%だ。

 だがちょっと困った……妖精さんの手は小さすぎるよね……。


 いいよ、体ごと袋に潜り込んじゃっても……はい正解でーす。


 さっきメイドさんに聞いたら妖精族な貴族もいるらしい。

 彼らは個体によって大きさがまちまちで、数百年生きていても小学生くらいの大きさだったり、逆に二十歳くらいで人間の成人女性と同じくらいの個体もいるとかなんとか。


 勿論フィギュアサイズのままな妖精もいるとかで……ファンタジーだよなぁ。


 ……。


 その後も『中身はなんだろなゲーム』を袋の中身を変えて数回やってから終わる事に。


「皆楽しんでくれたかな? じゃぁタイシ君はそろそろ帰るね」


『『『『えー』』』』『もっと遊ぼうよー』『タイシ君様とおままごとしたい!』

『お菓子もっと欲しい~』『あのねあのね!』『ねむいの……』


 お菓子は後でいくらでも貰えるから安心しなさい。


 丁度そこにセバスさんが来た。

 頼んでおいた物を、タイミングを見計らって持って来てくれたみたいだ。


 頼んだ物は何かというと、ぬるま湯に石鹸と砂糖やらを溶かし込んだ物で。

 まぁシャボン液って感じだね。


「じゃ最後に皆にこれを見せて終わるからね~」


 シャボン液をたっぷりつけたシャボン玉製造の針金細工……あの短い時間でこれを用意できるとかセバスさんすげぇよな。

 〈パフォーマー〉やらのスキルを駆使して、あとキッズ達の目に入らないように見えない〈生活魔法〉結界も間に挟んでっと……。



 小さな大量のシャボン玉や、大きなシャボン玉等を大量に作り出し。

 それらを〈生活魔法〉を駆使してキッズ達の周囲を移動させる。


 日の光を浴びてキラキラと虹色に輝くシャボン玉が大量に流れて行く姿は幻想的なのだろう。

 キッズ達は口をポカンと開けて空を見上げている。


 そうして俺は指を鳴らす。


 パチンッ。


 その音と共に空中に漂うシャボン玉はすべてが弾け、その後には小さな虹がかかる。

 勿論虹が出るようにスキルで色々やっている。


 その光景にキッズ達の歓声や、大人達からも驚きの声が上がった。


 ……キッズ達には笑顔を向けている俺だが、実はスキル多重同時操作でかなり苦しかったりする。


「じゃぁね皆、またタイシ君と遊ぼうね、ばいばーい」


 そう手を振って出し物を終わりにする俺。


 それに対して、またねーと手を振ってくれる子もいれば、残念がる子もいる。

 追いかけようとする子は周囲のメイドさんや護衛が止めてくれた。

 その間にささっと見えない位置へと移動する。



 そしてそこにいたセバスさんに向かって。


「じゃ俺は帰って寝ます! さすがに疲れたので、後はよろしくでーす」


 セバスさんの返事も聞かずそう言って、お屋敷の下級使用人部屋に向かって駆けていく。



 すっごい疲れたし眠い! ご飯もいらんから寝ようっと……。

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