第27話 Fランクの食事
やってきました上級使用人用の食堂、そこにはココとご家族がいた。
下の妹ちゃんらしき少女もいる、たしか九歳だっけか。
イエローに引っ張られてそこに向かい一緒のテーブルで食べる事に。
えっとこんにちは?
「さっさと座れ……」
「イエローちゃん今日はどんな事があったの?」
「タイシさんお仕事お疲れ様」
「お姉ちゃん、この人だれー?」
ココパパ、ココママ、ココ、ココ妹のセリフである。
イエローとココママは楽しくおしゃべりを初めている。
長テーブルに三人ずつ座り、ココパパ、ココ妹、ココママ
そしてその対面が、ココ、俺、イエローの順だ。
……なんで俺が真ん中なの?
ココに冒険者ギルド所有のアパートではなくこっちに泊まっているのかと聞いたら、耳打ちで返事をしてくる。
どうにもお貴族様が集まるので館の護衛を厚くするために、普段ココに付けている人員も投入するらしい。
なのでココはしばらくギルドをお休みするのだとか、なるほどね。
そして下の妹ちゃんに挨拶しておいた。
「初めまして妹ちゃん、コーネリアの友人で冒険者のタイシだ、よろしくね」
「よろしくータイシ兄様、私は×××だよ」
元気よく返事をくれる狐耳美少女、うむ可愛いな。
でもココパパが怖いので、あまり構わないようにしよう。
俺はココの方を向いて。
「なぁコーネリアこの食堂はセルフじゃないのか?」
食堂の中に料理が配置されてないんだよな。
「メニューは決まっているけど、その都度作って持ってきてくれるのよ、ほらきた」
そうココが示す先には、給仕担当らしき女性達が食事を運んで来てくれているのが見えた。
俺らの前に置かれるその大きな皿は……お子様ランチ? 的な物だった。
ココは苦笑いしながら俺に言う。
「タイシさんが何を言いたいかはなんとなく分かるけど、これが最近の貴族の流行りらしいの、少しずつ美味しい物を一皿にいっぱい乗せるってね、上級使用人は流行りを知らないといけないから同じような物を食べるのよ」
へー所変われば文化も違うって感じだな、取り敢えず頂きますか。
パクっとまずはお肉から……うわ美味しいなこれ。
妹ちゃん達もご両親もココですら喜んで食べている。
見た目はお子様ランチだけど中身はすげー手が込んでる……でも多少の荒さも感じるし……新人料理人の修練に利用している?
下級使用人用の食堂と食材がほとんど変わらないのにな……これはすげぇ。
……。
はー美味しかった、食べ終わったお子様ランチの皿も給仕の方が片付けてくれる。
そして今は食後のお茶を飲んで雑談している訳だが。
とある事を思い出したのでココに耳打ちする事にした。
「そういや〈パティシエ〉も使えるようになったし、材料があればあれを作れちゃうぜ」
俺のその言葉を聞いたココは、くわっっと目を見開き俺を見てくる。
そして小さい声で。
「チョコレートさん?」
その小さな声に頷く事で答えてやると……ココは良い笑顔を浮かべだ。
そして俺らのコソコソ会話を睨んでいるココパパがいる、うーん怖い笑顔だ。
カカオ豆っぽい物は薬として流通しているし、チョコレートも人気なので原材料はそれなりの値段で買えるらしい。
ただその先のチョコレートに至るまでの方法が表に出て来ないんだと。
チョコレートも売っているお店によって美味しさがかなり違うとか。
そりゃチョコが金になるなら、作り方を簡単には教えたりしないのかな?
まぁ使えそうなスキルもあるしどうにかなるかね。
一応〈発酵〉とか〈醸造〉も使えるようにはなったが、流通段階でそれは終わっているっぽいんだがはてさて……。
材料を入手して来ると鼻息荒く宣言するココ。
そしてココママと今日の出来事を話していたイエローだが、俺やココがコソコソ話しているのを見て飛び込んでくる。
そう、本当の意味で飛び込んでくる。
膝が痛いからね? ジャンプして膝に飛び乗るのは止めてね?
普通に乗るのはいいから……あれ? ……いいのか?
俺が色々とマヒしている自分自身に首を捻っているとイエローが。
「お姉ちゃんは仲良くしすぎだよ! 婚約話は流れたんでしょ? ならタイシ兄ちゃんは僕が貰いますー! 頭もたくさん撫でられちゃったし……えへへ」
なんて事を言い出した。
そのイエローのセリフでココとココパパがビシリッと固まる。
ココがギギッと音が成るような動きでこちらに顔を向けると。
「タイシさん? 獣人の頭を家族以外が撫でるのは親愛の証で簡単にやって良い事じゃないんですよ? 私言いませんでしたか!?」
「言ってないな」
俺はすかさずそう返した。
てーかやっぱり頭ナデリコはまずかったのか……タイシ反省した。
怒っていたココも、そういう事を教えるべき日に漫画の語り部を俺にさせた事を思い出したのか、顔を赤くして頭を下げてくる。
「ごめんなさい言ってませんでした……でもそういう事なんで、もうやっちゃ駄目ですよ……ぅぅ……私はなんであの日にあんな事を……」
後悔先に立たずってな。
あれがなきゃ今俺がここにいる事もなかっただろうしな。
しかしココパパにはその理屈は通じないのでジロっと俺を睨んでいる。
だがイエローに睨み返され、何も出来ないココパパ。
うん三すくみだな。
そこに全ての頂点に立つココママが一言。
「貴方、タイシさんも知らなかったようだし仕方ないじゃないの、それにイエローちゃんが貴方を許してくれたのもタイシさんのおかげなのよ?」
そんな風に収めてくれた、やったぜ。
って俺のおかげって何だろ? イエローに聞いてみる。
「タイシ兄ちゃん言ったじゃない、お父さんに認められるくらい強くないと冒険者は無理だって、だから、しばらくはお父さんと口をきかないつもりだったんだけど……それだと認めて貰えないから、許してあげたの」
なるほど?
ココパパは俺の事を怒るに怒れなくてウグウグ言っている。
しかし俺達だけで会話をしているせいか、ココ妹ちゃんがつまらなそうだ。
これはいかん! イエローに膝から降りて席に戻って貰い、ココ妹ちゃんに話しかける。
「ココ妹ちゃん、ヒマなら俺とちょっと遊ばないか?」
横からココが『不審者の誘い方です』とか言ってくるが、うるさいわい。
急に話を振られたココ妹ちゃんだが、コクリッと頷いたので、俺はポケットから銅貨を一枚出して見せてみる。
「銅貨だね? それがどうかしたの? タイシ兄様」
うん、ではこれを左手で握り込み。
そして握り込んだ拳はそのままに、今度は反対の右手のひらを見せつつ何もない状態で握る。
「妹ちゃん、銅貨はどっちの手の中にあるかな?」
俺のそんな質問に対して、ココ妹ちゃんはつまらなそうに答える。
「そんなのこっちに決まってるじゃない、タイシ兄様、これのどこが遊びなの?」
俺は妹ちゃんの質問に言葉を返す事はせずに、こっちと言われた左手を開けてみせる。
勿論そこには銅貨なんてない。
それをびっくりした顔で見るココ妹ちゃん、とココ以外のご家族全員……。
ブルー君は二区以上には大道芸人とかがいるって言ってたんだが、こういうの見た事ないの?
まいいか。
「残念、銅貨があるのはこっちの手でしたー」
そう言いつつ右手を開いて銅貨を見せる俺。
するとココ妹ちゃんは驚き、そして楽し気に語る。
「すごーい! どうやったのタイシ兄様! もう一回! もう一回やって!」
ピョンピョン跳ねながら強請ってくるココ妹ちゃん、ちゃんと椅子に座ろうね。
「転移系のスキルか?」
「でも強い魔力反応はなかったわよ?」
「空間庫に仕舞ったんじゃないかな?」
ココ両親とイエローがそんな話を初めている。
そして俺はその会話の間に手品ネタを知ってそうなココにタネを仕込む。
「では妹ちゃんの要請にお応えしましてもう一度、チャラリラリラ~」
音楽もつけてやる事にし、そして何故だかお向かいの向こうのテーブルにいた人達まで覗いてくる。
煩かった? ごめんね?
さきほどと同じような手順で両手を拳にして出す。
「さて銅貨は何処だ?」
ココ妹ちゃんは銅貨を握ってなかった方を指差し、ココパパは捻くれているのか銅貨を握った方を指差してている。
両方の拳を選べば当たると思った?
「残念どっちにも有りません」
俺は銅貨を握ってない両手を開いた。
驚きの声が俺の手に注視していた人達から溢れる。
「じゃぁ何処にいったの?」
ココ妹ちゃんがそんな事を聞いてくるので。
そこで俺はテーブルの上に不自然におかれたココの握られた拳を示す。
そしてココが手を開くと……そこには銅貨が一枚。
「すっごーい! お姉ちゃんいつのまに銅貨が移動して来たの? おしえて!」
ココ妹ちゃんは楽しそうにココに聞いている。
ココは苦笑いしながら『不思議ねー』とココ妹ちゃんに返事をしている。
俺が事前に渡しただけなんだけどな。
あいつも手品のタネを理解してくれてなによりだった。
予想を外したココパパは悔しそうだ。
ノンノン同じ手品は一回までデース、さっきのはココ妹ちゃんだからやってあげたんデース。
もう一回と言ったココパパに対して胡散臭いセリフを吐いたら、ココパパにデコピンされた、いってぇ!
まぁココ妹ちゃんが楽しそうで何よりだ、うんうん。
……所でなんで俺達のテーブルの周りに人が立って覗き込んでいるのかな?
ココファミリーも少し居心地悪そうだよ?
俺は見習いの宿舎の時の事を思い出し、嫌な予感を抱きつつもココを見ると。
……諦めろと視線で返された、まーじーでー? むぐぐ。
……。
――
給仕の女性に丈夫で大きなお皿を借りた。
そして何故か俺は食堂の一番目立つ場所に立っている。
ココファミリーも最前列で床に座って俺を見上げているし……うん、拍手アリガトウ……。
「さてはてではでは、これより始まるのは魔法やスキルを使わない不思議な出来事、魔力感知が有る方は見破れる物なら見破ってください、そして、楽しんで頂けたらこのお皿にちょちょいと良い音を鳴らしていただけると
そんな前口上をしながら手品系スキルを総動員して手品を見せていく。
「まずはこれなる銅貨、実は世にも不思議な増える銅貨なのです、他の方には内緒ですよ?」
さて、やるからには本気でいくか。
……。
――
「そしてあらまぁ不思議、切ったはずのロープが元通り! さて、復元のために魔法は使われていましたでしょうか? 見破れなかったお人はお皿を泣かせて頂けると嬉しい限り」
そう言って俺は頭を観客に向けて下げる。
すると、人が増えて周りにびっしり詰めかけている人達から、拍手と共にお皿に向けて硬貨が投げられる。
それら投げられた硬貨を全て〈生活魔法〉さんを使い、お皿に上手く落ちるように軌道修正し、尚且つ良い音が鳴るようにしている。
そんな訳で、チャリンチャリーンと良い音が響き渡る。
最前列に座って見ているココファミリーも一生懸命拍手してくれているね、ありがとうよ!
「大道芸は以上です、ありがとうございましたー」
俺がそう言うと最後とばかりに拍手と投げ銭が飛ぶ、そしてはけていく観客。
やー疲れた……アンコールのせいで一時間以上やるはめになったよ……ネタが切れそうで危なかった。
色々と仕込んでおかないと駄目だなこれ、やっぱ花は欲しいよなぁ。
そんな事を考えていた俺にココ妹ちゃんが飛び込んできた。
「タイシ兄様すごかったよ! また今度やってね!」
がしっと俺の腰に抱き着き、顔を上に向けて笑顔でそう言ってくる。
ココ姉妹はみんな美人や美少女だよね。
ココパパも俺の肩をバンバンと叩き褒めてくる。
「すごいじゃないかタイシ君、いやぁさすが公爵様に認められるだけの事はあるなぁハッハッハッハッハッハッハッハッハ」
あの……笑うたびに、叩かれている肩がすごく痛いんですけど……。
するとイエローが叩き過ぎだと言ってココパパを止めてくれた、ココパパは悲しそうだ。
そして俺の前側にココ妹ちゃんがいるので、イエローは横から腕を組んで来る。
「さすが僕の未来の相棒だね! すごく楽しかったよ!」
いつそんな事が決まったのでしょうか? てか相棒って冒険者のだよね?
ココママは楽し気に。
「あらあらすごいチップの量ね……ほとんど銅貨だけど短い時間でこの量……甲斐性としては十分ね! 三姉妹全員貰っておきますか?」
ノリのいいココママだった、いやなんでやねん! タイシ貰わないよ!?
ココは呆れながら。
「タイシさんはもう後ろ盾を得たし、ある程度は目立っても大丈夫だけど……口上とかすごかったね? 何処かで練習でもしているの? 本職の人みたいだったよ」
そりゃカード従者相手に見せたりするのに練習とかしたしな……。
っと女給が近付いて来たので。
「あ、お皿ありがとうねお嬢さん、これチップのお裾分け、かなり煩くしちゃったから食堂関係の人らで分けてね、え? この袋くれるの? ……ありがとう」
最後まで残ってた、お皿を貸してくれた給仕の子に皿を返して、チップの半分を渡しながら、食材の入っていた処分されるような袋を貰い、そこに残りのチップを入れて。
んじゃ帰って明日に向けて寝ます。
おやすみなさい。
「おやすみタイシ兄ちゃん!」
「タイシ兄様おやすみ~また見せてね~」
「おやすみなさいタイシさん、また今度あるある話をする時間作りましょうね」
「おやすみなさいタイシさん、娘達の事よろしくね」
「おやすみだタイシ君、娘達を泣かせたりしないようにな!」
そんなココファミリーの挨拶を背に、俺は上級食堂を後にした。
下級使用人の部屋に戻って袋の中を確かめたら百エル以上あった。
半分チップで女給に渡したけど一時間でこれかぁ……二区で大道芸やったら儲かるかしら?
あ……新しいスキルが馴染んだ……。
〈引き出し〉スキルゲットだぜ!
俺の血統スキルである〈空間倉庫〉の容量が増えないかなと思って覚えたんだよなぁこれ。
結局スキル同士で異空間を連結させるとかは無理で、物の出し入れをするには一回外に出す必要があってがっかりしたっけか……。
でも今になって考えると他にも〈ポケット〉くらいは覚えておけばよかったよ、従者には覚えさせたりしているんだがなぁ……。
まいいや丁度いいからお金だけ入れとこっと。
〈引き出し〉の容量はその名の通り机の引き出しくらい。
熟練度が上がれば少しは大きくなるんだったかな?
使わないスキルだからって中に何にも入れてなかったんだよなぁ……失敗したわぁ。
ま、おやすみなさーい。
◇◇◇
補足
タイシさんは手品の口上で魔法もスキルも使わない不思議な出来事と言っていますが、おもっきしスキルも生活魔法も使っています、ただし〈手品〉なんかはパッシブ系なので魔力の動きがほとんどありません、まぁタネのある手品なので……細かい事は言いっこなしという事でどうかよろしくお願いします。
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