第28話 Fランクの会議2

 おはようございますタイシです。


 今日も朝ご飯を食べ終えたら会議室へ、とそこにはセバスさんが朝からいらっしゃっていました。


 怖い執事に見られているからか緊張している文官達をよそに、俺は少し離れた場所でセバスさんと話をする事になる。

 どうやら提出した諸々の情報の報酬が確定したとの事です、ワッショイ。


 ルール部分だけを思い出して書いたので、ルールブック一冊あたり平均で百枚くらいの複写でしょうか、俺ってば全部で五千枚弱も書いたんだなぁ……。

 スキルに身を委ねると、体がほぼ自動で動いてくれるから臨機応変な対処の必要がない作業は楽なのよね。


「という事で暫定的に十万エルが支払われます、これから先の作業や内容によっては公爵様からボーナスも出ると思ってください、ではこれを」


 そう言ってセバスさんは俺に小袋を渡すと去って行った。


 なんでも今日から『木目を囲う会』のお貴族様が到着するらしく忙しいみたいだ。

 お貴族様達は時間もバラバラに来るので、全員が集まるまでは数日のずれが出るみたいだけどね。


 小袋の中には大金貨が十枚入っているのだが、大金貨とか初めて見たわぁ……〈引き出し〉に大事に入れておこう。


 ……。


 そして、おまたせーとばかりに文官達の集まりに近づくと。


 昨日の文官と共にイエローと……ココ妹ちゃんもいるね。

 ちゃんと両親の許可は取ってあるのかな?

 ココママに許可は貰っているのね、そっかぁ……ココパパには? お返事は? もしもーし?


 ……ココパパからの訓練のお誘いを受けないといけない日も、いつか来そうだな。


 そして始まる会議……という名のゲームプレイだ。


 ココ妹ちゃんはまだ九歳なので俺のお手伝いをしてもらう。

 ゲームマスターが振るダイスを俺の代わりに振ってもらったり、敵側の魔物等を操る係だ。


 そして何故かココ妹ちゃんは俺の膝の上に座っている。

 イエローはプレイヤー側として離れた位置にいるが、そこは僕の席なのにとかぶつぶつ言っているのが小さく聞こえてしまう。


 俺の膝は俺の物であって誰の物でもありません。


 というかイエローが俺の膝の上に座ると、地味に俺の賢者さんがダメージを受けるのよね……さすがにココ妹ちゃんくらいだと何とも思わんけど。


 ……。


 ――


「グハハ我らに逆らう愚かな人間共よ! 連携の取れていないお前らごときでは魔王である我が出るまでもないわ! 四天王の一人である美鬼イモートーよ、お前にまかせる! 蹴散らしてこい」


「かしこまりましたタイシにぃ……魔王様!」


 そう元気に返事するココ妹ちゃん。


 俺がテーブル上に〈幻影〉スキルや〈生活魔法〉を駆使して、MAPや軍隊の位置を示し。

 そのMAP上に配置した魔王軍をココ妹ちゃんが操り、魔王討伐連合軍に襲い掛かる。


 そうしてダイスを転がすココ妹ちゃん……あ……またクリティカルを出している……。



『ぬあっ! またクリティカルだよ! 俺の国が誇る精鋭軍の前衛が壊滅状態に……』

『妹さん運が良すぎでしょー! 2D12で平均出目が十八以上っておかしいからー!』

『あわわ、回り込ませていた私の国の奇襲部隊が見つかって蹴散らされました……』

『まだまだ! 俺の国の勇者は健在だ! え? 寝返りってそんなの有り!?』


『にゃわー! なんでお姉ちゃんの国に集中攻撃してくるのー! 今度おやつ多めに分けるから手加減してよぉ~!』


 プレイヤーは阿鼻叫喚の図で、ココ妹ちゃんはキャッキャキャッキャと嬉しそうだ。

 そしてプレイヤーは気付いてないが、魔王軍全体の動かし方がすげぇ理にかなっているというか……君は熟練の参謀か何かか?


 あ、プレイヤー全滅した……。


 ……。


「かくして連合軍は壊滅し世界は魔王の手に落ちた……え? ココ妹ちゃん? このフレーバーテキストを足してくれって? えっと……魔王は美鬼イモートーと結婚して幸せに世界征服しましたとさ、めでたしめでたし……以上でシナリオ終了ですお疲れ様でした」


 ……。


 俺の締めの言葉が終わっても、全滅した皆はテーブルに臥せったままだ。

 最後の挨拶はちゃんとしようぜ?


 ……しばらくしてから皆むくりと起き上がり。


『理不尽だから! あの出目はありえないって! おつかれー!』

『私達の出目もそこそこ良かったのに、お疲れ様』

『運の眷属神様にお布施しないと駄目かもです……お疲れ様ですぅ』

『いいとこなしでした……おつかれさまー』


『そんなラストはルールシナリオに書いてないじゃない! 勝手にお話を足しちゃだめだよ妹! そしておつかれ!』


 うーんココ妹ちゃんの出目おかしいなこれ……何かスキルが関係している?

 それか神の加護とかもある世界だし……うーむ困ったな。



 文官達は感想を言いながら書類にまとめているが……運の要素にスキルや加護が影響してくると色々難しそうなんだが……。


 次はゲームマスター対プレイヤーでなくプレイヤー同士が戦う奴にしておくか……。


 ……。


 ――


「ふむ、君はその選択でいいんだね? それでは結果を出そう、妹ちゃんよろしく」


 ココ妹ちゃんはダイスを振る。


 ……ふむ、自分の事じゃないと普通の出目になるんだな。


『ひゃっはー! 相場予想が大当たりだ! 俺の商会がこの国を牛耳るのも近いな』

『あ、じゃぁ私ここでスキル使います、妹さんよろしく……ふふ相場暴落きたわ!』

『まぁ先行逃げ切りしようとしたらそうなりますよねぇ、私も後追いに乗っかってひと稼ぎっと』

『目立つゴブリンは狩られるってな、俺は底値の小麦を買い占めます』


『僕はえーとえーと……タイシ兄ちゃん、これ難しいよぉ~たすけて~』


 あー、経済系のテーブルトークゲームはイエローには難しかったか。

 文官さん達はノリノリでやっているけども。


 ……。


「かくしてこの国の経済は君に掌握された、商品の値段も流通量も好きに決める事が出来るようになった訳だ、おめでとう! ……以上でシナリオは終わりだ、お疲れ様」


『一時はトップを走ってたのに……銅貨一枚残らなかった、おつ、かれ』

『賭けに傾きすぎなのよ貴方は、堅実が一番よ、といっても私は二位だけどもねぇ、お疲れ様』

『むー慎重にやり過ぎて三位でした……お疲れ様でした』

『人が失敗したらチャンスと思え、爺ちゃんの格言が当たりました、お疲れ様~』


『相場とか流通とかよくわかんにゃい……おつかれー最下位だよぉ……』


 二人ほどテーブルに突っ伏しているな。


 銅貨一枚も残っていないと言っているパリピ男文官より順位が下のイエローは……。

 まぁあれだ……察してやってくれ。


 ココ妹ちゃんはちょっとつまらなそうだな、でも君が参戦したら独走しそうなのよね。


 早速とばかりに文官達はゲームプレイの感想を元に情報をまとめている。

 本当に真面目だよね君達。



「さてイエローに妹ちゃん、これから先はゲームプレイじゃなくて情報を色々詰めていく話だからつまらないと思うんだ、お昼ご飯の時間だしココママの所に戻っておきなさい」


「えーもう遊ばないの? ちぇー、……また遊ぶ時は絶対僕を呼んでね? タイシ兄ちゃん」

 イエローがそう言ってくるので頷いておく。


 だが俺達は遊んでた訳じゃないのよ?

 あくまでお仕事のためのテストプレイだから!

 セバスさんあたりに遊んでたって伝えないでね!?


 ココ妹ちゃんもニコニコ笑顔で俺に語りかけてきて。


「楽しかったよタイシ兄様、また今度一緒に連合軍を蹂躙しようね!」


 いや、それはどうなんだろう?


 もっとこう……普通のシナリオをやらせるべきだったかなぁ。


 バイバイと手を振って二人を見送り、会議室でデリバリーのお昼を皆で食べる。


 そして食後にすぐ会議に入る、一日半かかってやっと会議に入る事が出来た訳だ。



『色々やってみたが全てのルールを参考にして一つに纏めるのは悪手でしかないな』

『そうねぇ、系統別に数種類作るのがベターかしら?』

『取り敢えず公爵様が好んでいる冒険物を詰めちゃうのを先にしませんか?』

『それがいいね、じゃぁまずはこれとこれとこれあたりを参考に……』


 俺は外部協力者という扱いなので、会議の主導は彼らにまかせて要所要所でアドバイスするくらいに収める。


 異世界に新たな世界観を持つテーブルトークのルールが誕生する訳か。

 ワクワクするね。


 さて皆にお茶でも入れて来てあげるかねと、ワイワイと話し会っている彼らをよそにお茶の準備をする俺であった。


 ……。


 ――


 俺が淹れたお茶を飲みながら、ワイワイガヤガヤと会議は進む。

 踊る事も停滞する事もなくスルスルと進んでいった。


 そして。


 今俺の前には一つの纏められた書類の束がある。

 中身は文官達が昨日残業して作った物に、先ほどの会議で決めた物を足したり引いたり添削したりと、ゴチャゴチャと書き込まれたそれは、決して奇麗な書類ではなかったが、その内容にはキラキラとした情熱が垣間見える物であった。


 俺は一枚一枚丁寧に確認をしていき……。


 すべて読み終わった書類の束を整えてから机に大事に置くと。


「良い出来です、まずはこれを元にテストプレイを複数の人達にしてもらい、内容をブラッシュアップしていけば、問題なく完成すると思われます」


 そう文官さん達に答えた。


『いよっしゃー--俺も良い出来なんじゃないかと思ったんだよな! 特にお前の意見は秀逸だったぜ? さすがだと思ったよ』

『な、なによ急に褒めたりして……貴方のあの発想もすごいと思ったわよ? ゲームを心底楽しんでないとあの意見は出ないわよね……少しだけ格好良かったわよ?』


 いつのまにか文官さん達の座る席の位置が、何故だか男女ペアに分かれている。


『良い仕事が出来ましたね~、一緒に作業が出来て楽しかった~、また違うお仕事でもご一緒したいですね!』

『ああ、確実に一つずつ話を詰めていく君の我慢強さと堅実さは素晴らしかったよ、俺も見習わせて貰う……また一緒に仕事を……いや仕事は別にして一緒になりたいな……どうだろうか?』


 あれ? おかしいな?


 今日はテーブルトークの新たなルールを作る会議だったはずなのに……いつからここはお見合い会場になったのかな?

 そして俺の相手は空気かお茶しかいないんですけど?


 ズズズッ……冷めてる。


 どうやら今日ここに異世界テーブルトークの新たなルールのひな型が出来上がると共に、二つのカップルも誕生するらしい。

 ……どうしよう、実は少しだけ内容に追加したい事があったのだが、今は言い出せる雰囲気じゃないな……。


 文官さん達はイチャイチャしているし……しょうがないから書類の端っこにでも書いておこう……タイシすごく寂しい。


 いいもん、タイシもそのうち賢者に転職しに行くから!


 それと君達終わった感じ出しているけど、これからこの書類を清書したうえでまだテストプレイとかするんだからね?

 聞こえてる? おーい……くっ自分たちの世界に入ってしまっている。


 というかパリピっぽい男文官の方はヘタレなのに、芋っぽい男文官の方はグイグイ攻めていっている。

 なんかもう婚約を前提にした話まで持ち出しているよ……相手の真面目そうな地味系女文官も恥ずかしそうだが乗り気だし……すごいな芋男文官君。


 ……。


 少し落ち着いた彼らは書類を一旦清書して、夕飯前に来たセバスさんに渡して確認をして貰っている。


 セバスさんは。


「ふむ……こうきましたか……成程良い出来です、後はテストプレイですがそれはこちらで手配しましょう、この出来なら公爵様もお喜びになる事でしょう、ひとまずお疲れ様でした」


 そう皆の事を褒めていた。


 それを聞いた文官達は男女でお互いの手を取り合って喜んでいて、セバスさんはそれを見て嬉しそうだ。


 ん? セバスさんがそういう表情をするのは珍しいな……。


 ……あー、そういう事か。


 元々男女同数なのは相性の良さそうな奴らを組ませていたって事かぁ……お見合いの意味も籠めた仕事だったのね……俺いらなくね?


「では残りの仕事も引き続きお願いします、この出来ならボーナスも期待してよろしいかと、では失礼」


 セバスさんは清書されたプロトタイプなルールブックを持って部屋を出ていった。


 文官達カップルなのだが……地味な方は結婚資金になるねとか笑いながら話し合っているが。

 もう片方はお高い洋服だとか、自分用のお高い万年筆だのと言っている。



 うーん、カップルは二つでなく一つになるかもなぁ……まいいか。


 明日もよろしくね!

 って君達また残業して作業していくの? そう? ま、まぁ頑張ってね?

 じゃタイシは夕ご飯に行きます!


 残業仕事を始める文官達を背にドアを開けると、丁度イエローが迎えに来た所だった。

 ってまた上級食堂で食べるの? そっかぁ……。


 ……手品のタネを仕込む暇が欲しい所さんです。


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