第26話 Fランクの会議
お早うございますタイシです。
昨日は仕事以外の部分で疲れたので、ぐっすりと眠れました。
今日は朝からお屋敷にある大きい会議室にいます。
何故って?
それは俺が書き出した諸々の情報を精査しつつ新たなルールを作り出す、というか既存のルールをブラッシュアップさせるのが目的だそうです。
これに駆り出された文官達が男性二人女性二人の四人程と俺、そして何故かイエローがいる。
「なんでイエローがここにいるの?」
「タイシ兄ちゃんに冒険者の事を聞くのと一緒にご飯を食べるためだよ、お仕事の邪魔はしないから一緒にいちゃだめ?」
上目遣いでそう聞いてくるイエロー。
金髪ショートのすっごい美少女なんだよなぁこの子……おねだりの破壊力が半端ない、勿論俺も文官さん達も許可を出した。
美少女の無理のないお願いを聞かない男がいるだろうか? いませんよね。
そうして文官さん達と会議に入る。
『まずはすべての情報を読み込む必要があると思うんだよ!』
『情報なんて皆〈速読〉で一度は読んだはずでしょう? 既存のルールとの違いをピックアップするべきだわ!』
『ここはルールごとの方向性で仕分けをするべきではないでしょうか?』
『いやいやゲームごとの共通項を潰せば情報が少なくなって効率が上がるだろ?』
パリピっぽい男文官、ちょい派手な女文官、地味系女文官、芋男文官の四人だ。
わいわいがやがや会議は踊るも進まず、俺は取り敢えず聞いてるだけだ。
異世界独自のルールを作るのならば、異世界の人達が主導するべきだからね。
そんな中、俺の隣で大人しくしてたイエローが一言。
「まずは遊んでみないと理解できないんじゃないかな?」
と呟いた。
その瞬間、会議場は静まり返った……。
イエローは邪魔をしてしまったのかとちょっと焦っている、がしかし。
『その通りだよ! しまったなぁ……難しく考えすぎてた』
『ですわね、理解の及ばない物をいくら論じた所で意味はなかったわ』
『素晴らしい意見ですイエローちゃん』
『答えは足元にあったんだなぁ……遊びのためのルールだものな、遊んでみないと』
イエローは皆に褒められて嬉しそうだ、そして俺を見上げて。
「えへへ、タイシ兄ちゃん僕の意見役に立ったかな?」
可愛い笑顔でそんな風に聞いてくる。
俺はイエローの頭を撫でながら『勿論最高の意見だった』と返してやった。
……狐耳は触ってないけど、思春期の女の子の頭を撫でるのは良くないかな?
イエローは気にしていないっぽいな、ならいいか、ナデリコナデリコ。
という訳でイエローの要望により、プレイヤーが冒険者となって遊ぶゲームをする事にし、全員でルールを軽く見直してキャラを作っていく。
ゲームマスターはゲームに慣れている俺がやる事になった。
いやまぁカードの従者相手で慣れてるからいいけどね……。
……。
――
俺は皆で囲んだテーブル上に〈幻影〉スキルや〈生活魔法〉を駆使して、MAPやキャラの位置を空間投影する事で示していく。
「さて、君たちは索敵に失敗し敵の襲撃に気づかなかった、現状の配置がこんな感じだ、ゴブリンは五匹、さぁどうやって動くのか決めてくれたまえ」
そう俺が促すと、皆はワイワイと相談を始める。
自身のスキルや能力、手持ちのアイテムなんかを加味して、ルールブック片手に効率の良い動きを見つけるために真剣に会話する。
テーブルトークは、そういう瞬間が一番楽しいのだと思う。
現に皆笑顔だ、そしてゲームマスターは孤独な仕事だ。
そういった楽しそうな彼らの中には入れない。
だがしかし、楽しませそして苦しませて最後に笑顔で終われれば、ゲームマスターとしての勝利なのだ……なんちゃってな。
『では僕がまずゴブリンAに攻撃をしかけます、えぃ!』
自分の操るキャラの行動を宣言してダイスを振るイエロー、本当にそれでいいのか?
「ゴブリンAにダメージ3だ、しかしイエロー、いや剣の戦士よ、君は味方に合流する事なく戦闘を始めたね? ならば必然的にゴブリンのすべての攻撃は君に集中するだろう、他の人たちは? ふむ、全力移動でもここまでしか動けないのだがね、ならばこちらのターンだ」
「ゴブリンAは剣の戦士に3のダメージだ」
『それくらいなら!』
「ゴブリンBは2のダメージ」
『ま、まだまだー』
「ゴブリンCは……おっと鎧で防がれた」
『剣の戦士が着ている鉄鎧ならゴブリンの攻撃なんか跳ね返すもん!』
「ゴブリンDは……おやおやクリティカルだね、ダメージ素通しで残りHP2だね」
『えええぇぇ僕の剣の戦士がぁぁ!』
「さて最後のゴブリンだ、ダメージ2、剣の戦士はゴブリンの攻撃を食らい倒れる」
『そ……そんなぁ……仲間から借金までして良い装備にしたのにぃ……』
……。
そしてゴブリン達は残りの冒険者に排除された、しかし低lvな冒険者達に倒れた剣の戦士を蘇らせる術はなかった。
……。
「……なんとか街のギルドに帰ってきた冒険者達は犠牲者に黙祷を捧げ、そして新たな冒険に向けて休息を取るのであった……以上でショートシナリオは終了です、お疲れ様でした~」
『おつかれー』
『お疲れ様ですわ』
『お疲れ様です~』
『お疲れ様でした』
『うわーん僕の剣の戦士が~、うう……お疲れ様です』
文官達が今やったゲームの感想やらを話し合って書類に纏めている。
真面目だなぁ君達。
イエローがゲームのために離れていた席から俺の横の席に戻り。
「タイシ兄ちゃん意地悪だよぉ……」
そう言って俺の肩に頭をゴリゴリと擦り付けてくる。
地味にイタイ。
「イエローは後先考えないで突っ込み過ぎなんだよ」
そう言ってイエローの膨れた頬をつんつんしてやる。
「だって僕の読んだ本とかだと、英雄はみんな突っ込んでいくもん」
ふくれっ面でそんな事を言うイエロー。
「なぁイエロー、これがもし本当の冒険だったらお前は死んでしまっている訳だ、そんな迂闊な行動をする人が冒険者になって良いと思うか?」
机上で失敗を体験出来るテーブルトークを遊ぶ事は、イエローにとって良かったかもしれないな。
俺の言葉を聞いたイエローは難しい顔で何か考えている。
まぁ会議室にデリバリーされた昼飯を一緒に食おうぜ?
……。
――
「さぁ物語も終盤だ、君たちは交渉に成功をしたために、味方となる沿岸警備隊と商人連合の戦船と共に進軍する事が出来た、だが……忘れてないだろうか? 君たちがファンブルした情報収集で海賊に襲撃の事が漏れていた事を」
テーブルを囲む全員からゴクリッと唾を飲みこむ音が聞こえる。
やっぱ演劇系スキルを使ったゲームマスターの語り口調やらは臨場感あるよなぁ、俺もプレイヤーやりたいな……。
「では海戦MAPを表示しよう」
俺は皆で囲んだテーブル上に〈幻影〉スキルや〈生活魔法〉を駆使してMAPや船の位置を示していく。
「海賊は出来る限りの戦力を集めて君たちを待ち受けていた、海賊船は全部で五隻だ、さて君たちはプレイヤーだけでなく全ての船を好きに動かして良い、味方となる船のデータを渡そう、ではどう動いていくのか相談してくれ」
ワイワイと相談し始める皆、イエローも積極的に意見を出していてルールブックを睨みつけながら一生懸命に考えているのが分かる。
いいね、そして楽しそうだな……俺がプレイヤーをやれる時は来るのだろうか……。
……。
「決まったかな?」
『僕達はまずこう回り込みます!』
「なるほど、他の味方の船はどうする?」
『沿岸警備艇はこうやって進むぜ!』
『商人連合の船はこんな感じでいきますわ!』
『そしてここで索敵スキルを使ってもらいます』
『成功だね! やっぱり島影に隠れてた!』
あらら、隠し玉が見つかっちゃった、やるねぇ。
……。
「君たちの連携の取れた動きで海賊たちは翻弄されて一隻また一隻と沈んでいく、だがしかし! ボスの能力を完全に調べきれてなかったね? 彼には逆境スキルが付いている、ピンチになればなるほど成功確率が高くなる物だ、さぁ良い風を捕まえた! ボス船が君たちの船に突貫してくるよ! どうする?」
『僕達の船は逃げます!』
おっと色々と脅かし過ぎてイエローが弱気になった?
いや……これは。
『そしてこの位置で味方と合流! 全艦で袋叩きだよ!』
『ひゃっほーナイスだイエローちゃん』
『ひっかかりましたね海賊のボス船さん!』
『諸々計算済みです!』
『陸地で盗まれた俺の財布、返してもらうぞ』
全方位からぼこぼこに攻撃を受けて、あっという間に沈んでいく海賊のボス船。
……。
「……かくして海賊のアジトで貯め込んだお宝を回収した君達、莫大な財を得た訳だが……使い道はどうするね?」
『勿論僕たちは新しい船を買います!』
『船の装備も良い物にしたいよな~』
『生活環境も整えたいわね……豪華なベッドとか』
『可愛い服とかも欲しいです』
『次の冒険の予算も確保して準備しないとな』
「なるほど……君たちは財宝を使い性能の良い船を買い、天蓋付きのベッドを備え、可愛くて能力の上がる装備品を揃え、新たな船出に向かって準備していく……次なる冒険はどんな物になるのかそれは誰にも分からない……以上でショートシナリオは終了です、お疲れ様でした」
『おつかれー完璧な勝利だったね!』
『いやー気持ち良かったな、おつかれ~』
『イエローちゃんの策が当たったね、お疲れ様』
『風を読むのに苦労しました~おつかれさまですー』
『俺の財布の仇は取った、お疲れ様でした』
そしてまたもや感想やらを書類に纏める文官達、真面目やなぁ……。
俺の隣の席に戻ったイエローは自慢げに俺に語る。
「ふふーんどうだタイシ兄ちゃん、僕すごかったでしょー! 一生懸命考えて動いたんだよ? 誉めて褒めて~」
嬉しそうな顔で頭をこちらに向けてくる。
これはまぁこういう事だよな、ナデリコナデリコ。
しかし俺がイエローの頭を撫でているのを戸惑った目で見ている文官さん達がすごく気になる……本当に撫でていいの? イエローさん?
……。
――
「残念ファンブルだ、さぁまたゾンビが増えるぞー、新たに五体投入だ!」
『にょわ~無理だってば! なんでゾンビが走るんだよー--』
『あ、俺齧られちゃった、皆後の事はまかせたぜ! さようならー』
『ちょっと何一人で先に逝ってるのよ! 探索系スキルは貴方頼みなのに!』
『ムリムリムリムリムリゾンビはむりー! もうこのゲーム止めましょうよー!』
『おや、san値チェック失敗しちゃった、俺もさよーならー』
うーんこのゲームはこの世界には馴染まないかもな……リアルにゾンビがいるから想像しやすいんだろうなぁ……。
阿鼻叫喚のゲームは全員キャラロストで終わった。
叫び過ぎて疲れている皆だがしっかり感想やらを書類にしている、真面目やなぁ君達。
イエローは俺に向かって駆け寄り、抱き着いてくる。
何故に?
「もー怖すぎだよあれはー、タイシ兄ちゃんの意地悪!」
何故かそう言いながら俺の顔を抱きしめて離さないイエロー。
そんなに怖いかなぁ? うーん抱き着いて来ている腕に鳥肌たってるね……次は怖くない奴にするね、ごめんよ。
……。
――
「ではダイスを振ってくれ、はい成功だね君の魅了値はさらにUPだ」
『やったわーきたぁぁ! うふふふふ最高値まで後少し』
『いやなんでそこまで上げる必要あるんだよ……もう魅了してる相手いるじゃん』
『それはやはり逆ハーのためじゃないでしょうか? 浪漫ですよね、分かります!』
『俺はすでに魅了されちゃったしな……って君も分かっちゃうの!?』
『なんで自キャラが悪役令嬢なの? タイシ兄ちゃん、これ僕にはちょっと意味が分からないんだけど……』
うーむさすがに乙女ゲーの世界観はこの世界には早かったかなあ……女子文官二人はすげー馴染んでるけどな。
ワイワイガヤガヤゲームをして夕飯前になった頃。
セバスさんが部屋に入って来ると、文官達の背筋がピンと伸びる。
「会議室から歓声が聞こえるとの連絡が度々あったのですが、仕事は進んでいますでしょうか?」
文官さん達は書類を渡して色々と説明を始める。
それをある程度聞いたセバスさん。
「つまり一日中ゲームで遊んでいたと?」
文官さん達は必死に説明をする、世界を知らずば創造も出来ず、と。
「成程……確かにそれは言えますな……いいでしょうこのまま進めてください、ただし! 何事も為せなかったら遊んだ時間分のお給料は減額するので、そのつもりでいてください、では失礼します」
セバスさんが帰っていった。
文官さん達は遊んだ感想をまとめたり、それを元にルールの叩き台を作ると言って残業する事になった。
俺らはまた明日で良いそうだ。
俺とイエローはご飯を食べに行く、ってそっちは上級使用人が使うエリアでしょ、俺は行けないってば……え? 許可を貰っているの?
トコトコと歩くイエローに案内をされてついたそこは食堂だな。
見た目は下級の食堂と大した違いはないけど、ってあれ? ココとご家族がいるっていうか、ココはギルドの仕事に戻らなくていいのか?
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