第25話 Fランクのピンチ
殺気も盛り盛りで俺に剣先を向けるココパパ、うーん怒っているなぁ、下手に何か言うと斬られそうだ。
そこに立ち上がったイエローが、俺の前に飛び出して両手を広げ庇ってくれる。
「タイシ兄ちゃんに何するのよお父さん! タイシ兄ちゃんは――」
だがイエローの言葉を遮るココパパ。
「そこをどきなさい、その男に何て言って連れ去られたかは知らんが家族の事は私が守る! 大丈夫殺しはしない少し痛い目に合わせるだけだ!」
どうやら俺は痛い目に合うようです、まぁココパパ強そうだしな、逆らっても駄目そうかなぁこれは、痛いのやだなー。
庇われてるから主に背中しか見えないのだが、イエローが顔を少し伏せて体を震わせている……恐怖?
いやこれは……。
しばらくして顔をがばっとあげるイエロー。
「お父さんはいつもそうだ! 人の話を聞かず自分の考えだけを押し付けようとする! ……タイシ兄ちゃんは困っている僕を助けてくれたのに! お腹が空いている僕にご飯を食べさせてくれて、そして悩みを優しく聞いてくれて……そんなタイシ兄ちゃんに話も聞かずに酷い事をしようとするお父さんなんて……大っ嫌いだ!」
そう大声で言い切ったイエローの尻尾はピーンと立っていた。
うーん恐怖ではなく怒りで震えてたらしい、すごい剣幕だ。
それを聞いたココパパは殺気も消え失せて、今はオロオロとイエローに語り掛ける事しか出来ない。
「あ、いやでもな? 成人した年頃の女の子をこんな家に迎え入れるのはな……色々な意味で危険というか、あのな……えーと」
ココパパはイエローを説得しようと必死だ。
ココパパの気持ちはすごい分かるんだ。
愛娘な次女が、少し前に急に長女と婚約なんてしかけた相手と一緒に狭い家に二人きりになっている。
こいつはもしかしてすごい女たらしの極悪人なのでは? なんて想像をしちゃうかもだよな、うんうん。
だがイエローちゃんには通じない。
「出ていって! 顔も見たくないから出ていって!」
そうグイグイとココパパを押し出していくイエロー。
体格が違うから普通なら押せる訳ないのだが、下手に抵抗して嫌われるのが怖いのだろうココパパは、ついに入口のドアの外まで追い出される。
「入ってきたらもう二度と口きかないからね!」
そう言ってイエローはドアを勢いよく閉める。
ドアが痛むから静かに閉めようね?
そしてトボトボと歩きながら俺に近づき。
「ごめんねタイシ兄ちゃん……お父さんが酷い事して……どうしてお父さんはいつもいつも自分勝手に……」
泣きそうな顔でそんな事を言ってくるのだが……ココパパへのヘイトがすごい。
ここで悪い男ならココパパへのヘイトを利用して、相手に共感するふりや同調してココパパの悪口等を言い。
そして『俺だけは君の事を理解出来るんだよ』なんて言って、イエローの気持ちを自分に向けさせるような事をするのだろう……。
でもタイシ悪い男じゃないからそんな事しない!
座ったままの俺は立っているイエローより視線が低い、なので少し見上げてイエローと目を合わせると。
「庇ってくれてありがとう嬉しかったよ、でもねココパパは君の事を愛しているからこそあんな風になったんだって理解してあげてね、今回の事はイエローが悪いよ、知らない男と二人っきりなんて本当は良くないんだ、ま、飯に誘った俺も悪いけどな」
こんな感じでココパパの事を持ち上げるタイシ!
これでこの後も安全だね!
ココパパ怖かったからね仕方ないね。
そしてイエローの事もちゃんと叱っておく。
勿論俺が悪い事も一緒に伝える。
その結果多少嫌われてもいいしな。
イエローの心に寄り添っていくのはご家族に任せる、俺はそんなの抱えられないし。
イエローの目からじわりと涙が滲みだす。
ああ、俺が味方してあげなかったから泣いちゃうのか……でもまぁそれも――
がばっと座っている俺の顔ごと抱きしめてくるイエロー。
「ありがとうタイシ兄ちゃん!」
イエローはそんな事を言ってくる。
……なぜに感謝?
と聞きたかったが、イエローの成長途中のお胸様が俺の口に被さっていて声が出せない、というか声を出そうと口を開くと色々アウトっぽいのでどうにもならん。
「お父さんやお姉ちゃんともケンカはするんだけど僕の事を叱ってくれないの! いっつも僕が甘やかされてるのは分かってる! でも、だからこそ自分の力で冒険者として生きてみたかったの……」
そうムギュムギュと俺を抱きしめながら、自分の思いをこぼす僕っ子イエローだった。
いや分かったから……ちょっと離れませんか?
お胸がね? もにゅもにゅと顔に当たってくるんですよ……。
俺の賢者のHPは満タンだったけど、今の攻撃でちょっと減ったからね?
ココは言っていた、成長の早い獣人種もいると……うむ!
タイシその話を今初めて実感する事で、すごい納得出来た!
そしてイエローは何故か、座っている俺の膝の上に横座りして俺を抱きしめ直す。
今度は俺の肩に顎を乗せるように抱きしめてくるイエロー。
「タイシ兄ちゃんとお母さんだけだよ、僕をちゃんと叱ってくれるのは……すごい嬉しかった……ありがとうタイシ兄ちゃん、僕の事をちゃんと思って叱ってくれてるのがすごい分かるから……」
ギュっと抱きしめながら俺の耳元で囁くようにそう言ってくるイエロー。
賢者さんのHPが徐々に減っていくんですけどー! 状態異常か何かですか!?
そして俺とイエローのこんな姿をココパパあたりに見られたら、俺は三枚おろしにされるのではなかろうか……。
イエローの肩越し下方で尻尾が機嫌良く左右に振られているのが見える。
そんな時だ『コンコン』と扉をノックされたのは。
ココパパ!?
やばい! 取り敢えず俺は両手を万歳の状態にした。
俺からは何もしてませんポーズだ。
がらっと扉が開き、そこから入ってきたのは……ココとココママだった。
良し! ココパパはいないな、セーフだ。
しかしココは冷たい声で。
「うちの妹に何しているのタイシさん?」
……やっぱりアウトかもしれなかった。
イエローはその声に気づいて、てか顔をグリグリと俺に擦りつけたり、強く抱きしめるのに夢中だったのか、ノックや扉が開く音には気づいてなかったらしい。
「あ、お母さんお姉ちゃんいらっしゃーい」
と呑気に声を掛けていた。
イエローは俺の膝に乗って正面から抱き着いたまま顔だけ扉方向に向けている。
俺は万歳をしたまま『無実です』とココ達に目で訴えかける事にした。
「ちょっとお話ししようかタイシさん」
ココは入口の扉を閉めると、テーブルの向こう側の椅子に腰かける。
ココママもココの隣の椅子に腰かけて。
「あらあら姉妹揃ってお嫁さんにしちゃうのかしら? でもそれには甲斐性が足りないわねぇ……頑張って稼いだら許可を出すのだけど……その時はついでに一番下の子も貰っちゃう?」
ココママはノリが良かった、って下の子まだ九歳でしょーに。
俺は一生懸命に事情を説明した。
イエローにした説教じみた恥ずかしいセリフなんかも一言一句そのままに説明する……こういうのすごい恥ずかしい……。
そしてやっと理解してくれるココとココママであった。
ちなみにイエローはずっと俺の膝の上に乗ってニコニコしている。
今は横座りでなく縦座り? 俺の膝を椅子にして俺の手をシートベルト代わりにするようにお腹の前に交差して抱きしめさせられている。
ちゃうねん! 俺が抱きしめているんじゃないんだ!
イエローが俺の腕を取ってその形にしたんだよ、しかも離そうとすると寂しそうな顔で振り返ってくるんだもの……。
ねぇイエローさん隣の椅子に移りませんか? 嫌ですか……そうですか……。
対抗してココがイエローに向かって、お姉ちゃんの膝に乗ってもいいのよなんて誘っているが断られてショックを受けている。
なんでその部分で対抗してきたの? シスコンか?
……。
イエローが自分の思いをココとココママに伝えると。
「イエローちゃんは自立したかったのねぇ……お母さん気づいてあげられなくて御免なさいね」
ココママはイエローに頭を下げていた。
ココママがちゃん付けをしてもイエローは怒らないらしい。
イエローは俺の膝の上からココママに向かって慌てて言う。
「お母さんは悪くないよ! お姉ちゃんだって悪くない、僕が甘やかされてるだけだから……こんなのは良くないって思って、でもお外の事は良く知らないから飛び出すのも怖くてお庭で……情けないよね……」
お父さんの事が出て来ないのが哀れだ……。
ココが慌ててイエローに向かって。
「そんな事ないわよイエローちゃん! 私もね喜んで欲しくて楽しい事しか話さなかった事を反省するわ……お外にある悪意や冒険者の悲惨な現状なんかも話すべきだった! 成人したし大人だもの……これからはそういうお話もしてあげるからね」
「お姉ちゃん……ありがとう! 大好きだよお姉ちゃん!」
どうやら仲直り出来たようだ。
尚ココパパはこの場にはいないから仲直りは出来ていない。
ココはイエローの大好き発言を聞いて嬉しそうに。
「私も大好きよ、それでね、成人した大人は男性の膝に乗るような事はしないの、だから隣の椅子に座るかお姉ちゃんのお膝においで?」
「やだー」
ココは速攻拒否をされてがっくりと落ち込んでいる、シスコンか?。
「あらぁ? 私は今でもお父さんのお膝に乗るけども」
ココママがどうでもいい情報をくれた。
「だよね~お母さん、仲が良いなら膝くらい……そうだ! タイシ兄ちゃんと一緒に冒険すれば良いんだ! ねね、どうかな? タイシ兄ちゃん、僕とパーティを組んでくれない?」
イエローが何か良い事を思い付いたといった感じでそう言ってくる。
また俺の膝の上で横座りに戻り、俺の顔を至近距離で見て答えを待つイエロー。
ココママは何も言わず、ココは『何を言い出すのー!』とか叫んでいるがイエローに無視されている。
そうだな……俺は。
「家族に甘やかされて守られて、次は俺に甘やかされて守られたいってのか? それがイエローのしたい自立なのか?」
ちょっと厳しめの言葉を掛ける事にした。
まぁこれくらい厳しく言えば俺から離れてくれるだろうし。
ココママは『あらまぁ』と手を口にあて。
ココは『ちょ! タイシさん言い過ぎじゃぁ……』とイエローを気づかい。
イエローはびっくりした表情を見せて……そして……。
「やっぱりタイシ兄ちゃんは僕の駄目な部分をちゃんと叱ってくれるんだね!」
そう嬉しそうに言いながら、さらに強くムギューっと俺に抱き着いてきた……。
あっれぇ……?
好感度が下がりそうな選択肢を選んでいるはずなのに、何故か全て成功してしまいます。
ムギューっと俺に抱き着いて来ていたイエローは、体を少し離して尻尾をフリフリしながら聞いてくる。
「タイシ兄ちゃんはどうしたら自立できると思う?」
困った……イエローは俺の方を見ているからココ達の様子は見えてないだろうが。
ココは全力で顔を横に振っている。
そしてココママは楽し気な表情で俺の発言を待っている、貴方はいいのかそれで。
うーん、イエローが納得出来そうな理由で尚且つ外に出てこられないような状況を……あーこれならいけるか、嘘にはならんし。
「冒険者ってのは魔法を使う後衛でも、前衛と同じような戦闘が出来ないといけないんだよ、イエローは格闘戦とか出来るのか?」
まずはそんな質問をしてみた。
しかしまぁイエローの顔が近い、奇麗なまつ毛しているなぁこの子。
「魔法は得意だけど近接戦は出来ないかも……今まで習った事なかったし……出来ないと冒険者になれない?」
そうウルウルとした目で俺に聞いてくるイエロー、くっ可愛いな!
でもタイシ負けない!
「ああ、前衛並みに戦闘が出来ないと、足手まといになる可能性が高いから無理だな」
そうきっぱりと言い切ってやる。
イエローは顔を俯け落ち込んでいる。
ココはホッっとしていて、ココママは……なんだろうすごい楽し気な表情だ、なんで?
イエローは俺の膝から降り立ち、横にあった椅子に座る。
やっと諦めてくれたかな。
「タイシ兄ちゃん、どれくらい戦闘が出来るようになったらいいの?」
諦めてなかった。
えっとそうだな……ああ、こうすれば……。
「イエローのお父さんは騎士だったよな……ならお父さんに認められるくらいの近接戦が出来ないと駄目だろうな」
困った俺は、案件をココパパに放り投げる事にした。
「分かったよタイシ兄ちゃん! お父さんに認めて貰えるくらい頑張るから応援しててね!」
そう元気よく宣言するイエローだが。
まぁ君のお父さんはよっぽどの事がない限り認めないと思うけどね。
「ああ、応援しているよ……だけどなイエロー、自分に才能がなさそうなら諦めるのも有りだからな、人には向き不向きも有るから……」
俺は応援しつつも、逃げ道を残してやる事にした。
話も終わりテーブルを片付けた俺は、お屋敷の使用人部屋に帰る訳だが。
一緒にお屋敷方面に向かうイエローがニコニコと手を繋いで来るので、握った手をぶらぶらさせながら歩いている。
イエローの尻尾は機嫌良く振られ、そして近くを無言で歩くココパパの目が怖い。
俺から握った訳じゃないんですけど……。
そして歩きながらココママに内緒話をされていたココが、イエローと繋いでいる反対側の俺の腕にそっと自分の腕を絡ませてくる。
……いや、なんでだよ? ココママに何を吹き込まれた!?
いやもうココパパからの俺にだけ向けた殺気がすごいから! 鳥肌立つから!
そしてココパパが。
「なぁタイシ君、まだ数日はお屋敷に滞在するのだよね? それなら冒険者として実力を上げるためにも一度我らが騎士団の訓練に参加してみないか?」
そんな事をぱっと見は笑みを浮かべながら、実際は目が血走りながら言ってくる。
だが俺が断る間もなく。
「タイシ兄ちゃん何日もお屋敷に泊まるんだ!? なら僕にもっと冒険者の事教えてよ! あとご飯も一緒に食べようね!」
イエローは嬉しそうにそう言ってきた。
君この殺気に気づかないとか冒険者に向いてないと思うよ!?
ココパパの殺気の指向性がすごいだけかもだけど!
そしてココは何も言わず腕を強く締めないで! なんでかって。
ほらー! イエローが真似して腕を組みだしたじゃないか! 大と中のお胸様が俺の腕を挟むの!
俺の賢者さんのHPがガリガリ削られていく、そしてココパパからの殺気のせいで俺自身の精伸も削られていく。
誰か……誰か助けてください……。
腕は幸せなはずなのに、非常に辛いんです……。
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