第23話 Fランクのお仕事?

「意味が分からん……芸術系の才能があったからスキルが現出した? いや、いくらなんでもその理屈は……」


 公爵様は頭を抱えている。


 そこにセバスさんが一言。


「分からない物は分からないのだから置いておきましょう、異世界人は謎な生物という事でよろしいじゃありませんか公爵様、まずは才能のある若者だと判明した事でどう扱うかを決めましょう」

 

 公爵様は顔をあげ成程と頷く。


 何処に納得したのだろうか? 謎生物の部分でない事を祈る。


「ふむ、本当にそれだけのスキルがあるならうちで保護してやれるな、当初の予定であるコーネリアの婚約者としてではなくてもいけるが、お前達はどうして欲しい?」


 そう聞いてくる公爵様。


 これはココにも聞いてるんだよな?

 俺が横のココを見てみると、アワアワと謎のロボットダンスをしていて役に立ちそうにない。


 仕方ないので俺が先に答える事にし。


「俺は冒険者としてダンジョンに潜ったり魔物と戦う仕事に着くつもりです」


 カードをゲットするにはそれが必要だしな。


「公爵家のお抱え吟遊詩人なんて選択もあるが……そうかお前はそういう選択をしてサイコロを振るか……」


 公爵様が最後の方に小さな声で呟いたのだが……サイコロ? 何言ってんだこの人。


「ならばお前の選択が上手くいくか見守っててやろうではないか、精々ファンブルを出さないといいな」


 ククッと笑いながら言う公爵様だが、部屋にいる皆はよく分かっていないようだ。


 いやまぁ……俺は分かるよ? 分かるけども、まさかこんな真剣な話し合いにそんな事を言ってくるなんて……そんな事はないよね?


 ……でも一応、話を少し合わせてみようという事で。


「ええ、せいぜいロストしないように頑張りますよ」


 と返してみた。


 ……さてどうなるだろ。


 俺の返事を聞いた公爵様の動きがピタっと止まり。


「お前……ふむ……2D6はどういう意味だ?」


 そんな事を聞いてくる。


 部屋にいるセバスさん以外の人は質問の意味が分かっていないような表情で。

 セバスさんはまったく表情が変わらないのでよく分からん。


 勿論公爵様の質問に対して俺は。


「六面ダイスを二個振る事です」


 そう答えた。


 公爵様はそれを聞くや。


「皆の者ご苦労だった、タイシとセバスを残して下がっていいぞ、ああそれとコーネリアの報告義務違反も不問に処す、これからもタイシとの付き合いを許すから好きにやれ、もし結婚する事になるような時はちゃんと報告しろよ?」


 そうして公爵様が手を振ると、護衛とココの両親はお辞儀をした後に部屋を出ていきココも連れていかれる。

 ココはこっちを何度も振り返って見てくるので、手を振って見送ってやる。


「さてタイシ、お前はテーブルトークを知っているのか?」


 ココ達がいなくなってから、公爵様はそんな事を聞いてくる。


「異世界に召喚されるような奴らなら皆知っているのでは?」


 と俺が返事すると。

 セバスさんは何故か頷いている……貴方召喚されてたりしていないですか?


 同じように公爵様も頷きながら。


「そうか知っているのか……タイシよ、冒険者になりたいというお前の意思は尊重しよう、異世界に召喚されてすぐ城から放り出されたお前と、もう一人の女子は公爵家で保護しようと思っていたのだが……彼女も現状に満足しているようでな、後ろ盾は欲しいが職場は今のままで良いときた、ふっ、放り出された異世界人の方が逞しく生きているというのはお笑いだな……それに比べて……」


 そうかモフモフ女子も元気にやっているのか、良かった。

 そして放り出されてない異世界人を、苦々しく思っていそうな公爵様である。

 あいつら何を仕出かしたのやら……。


「タイシにも公爵家の後ろ盾をやろう、拒否は許さん、だが面倒事になるのでせめて冒険者ランクがBランクくらいに上がるまでは、冒険者ギルドなんかで公爵家の名を吹聴するなよ、何かあったら助けてはやるが……まぁ貴族相手になら俺の名前を出してもいい」


 有難いけど条件が良すぎない? 俺に対する義務が一つも出て来ないのだけど。


「無条件で後ろ盾になってくれる訳じゃないですよね?」


 これは確認しておかないとな。


 公爵様は神妙な顔で頷き。


「勿論だ、お前には……」


「俺には?」


 一体何させられるんだろうか、ごくりっ。


「……異世界の知識を提供して貰う」


 そう公爵様はおっしゃった。


 おや?


「そこらの話はすでに王城で色々言いましたが、ほとんど駄目出しされましたよ?」


 まぁ実は〈記憶力向上〉がこの世界に馴染んだお陰で、記憶アーカイブにネタは色々あるんだが、出し過ぎて悪党に狙われても厄介だしなぁ。



「農業やら土木系技術の話だな? 俺が欲しいのはそんな物ではない! お前が知っているテーブルトークのネタを提供して貰おう!」


 ドドーンと叫ぶ公爵様。


 まぁ話の流れでそうなるのではないかとは思ったが、本当にそうだとは……大丈夫だろうかこの国。


「転生者や異世界転移者が知識を持ち込んでいるんですよね? 現状どんな感じなんですか公爵様」


 様は付けているが、もうかなり適当な問いかけ方だ。


 場所によっては俺の首が飛びそうだが……この人相手ならこれで良い気がするしな。


 公爵様が首を少ししゃくると、セバスさんが空間から本を取り出して俺に渡してきた。


 空間系スキル持ちかぁ、渡された本を確認すると……ルールブックだね。


 本を開き〈速読〉と〈記憶力向上〉と〈思考分割〉を駆使して一分ほどで読み終え内容を確認する。


「これ色々なゲームのルールがごちゃ混ぜですね……まぁ独自なシステムとも言えますけど……矛盾やらがあってちょっと気持ち悪いです」


 そう言いながらセバスさんに本を返す俺。


 公爵様はそんな俺を睨みながら。


「なんでこんな短い時間でそれが分かるんだよ……お前の持っているスキルだけじゃそれは無理だよなぁ?」


 俺はアハハと笑うだけで済ませる事にする。


「……まぁいいけどよ、ではタイシ、お前の知る限りのテーブルトークのルールを書面にして提出する事を命じる」


 そんな命令を公爵様から受けてしまったのだが。


 いやいや無理無理!


「いや待ってくださいよ! ルールブックって基本ルールだけじゃないでしょう? 一つの作品でも拡張版とか何冊も出ているし、知る限りって何種類のゲームがあると思っているんですか……一冊十万文字前後として……四十冊以上あるから? 五百万文字とか、俺死んじゃいますよ!」


 そう抗議の声をあげる俺だった。


 しかし公爵様は俺の抗議にこゆるぎともせずに。


「ほほーう、まるでお前はすべてのルールを覚えていて、それらを正確に書き出す事が出来るとでも言っているように聞こえるなぁ? なぁセバス、こいつは思ったより良い拾い物になりそうだ、後ろ盾のランクを一段上げておけ」


 公爵様は嬉しそうにそんな事をセバスさんに命じて、セバスさんは畏まりましたと頭を下げている。


 ……しまった……墓穴を掘ってしまった……タイシまたやっちゃった!


 公爵様はそれはそれは嬉しそうな笑顔で俺に語りかけてくる。


「数日後には『木目を囲う会』のメンバーが全員集まる事になっている、集まったら数日掛けてテーブルトークや一緒に来るご家族らと園遊会等で遊ぶ事になっていてな、彼らが帰るまでが期日だ、メンバーには土産として情報を渡してやりたいのでな、何、全部やれとは言わんが本気で書き出したかは魔法で確認するから励むといい」



 理不尽だぁ……王城の貴族よりタチ悪かったんじゃねーかこの人……。


 俺が顔を伏せて気落ちしていると、公爵様は続けてこう言った。


「勿論報酬は出す、お前の提出した情報をまとめるわけだが……そうさなぁ……出来上がった書類一ページ大銅貨一枚でどうだ?」


 それを聞いてむくりと顔を上げる俺。


「一ページで大銅貨一枚ですか?」


 本一冊分で大銅貨一枚じゃないよね? 俺の聞き間違いじゃないよね?


 そんな思いで聞き返した俺だったが、公爵様は何か勘違いしたのか。


「ん? 低かったか? なら大銅貨二枚でどうだ? 書類を書く文官の給料から考えるとこれ以上は難しいが……そうだな情報が良い物だったらボーナスも追加してやるぞ?」


 と基本賃金を上げてくれたうえにボーナスを追加してくれた、まじで!?


 なんだよ公爵様最高じゃんか!

 誰だよタチが悪いとか言ってた奴は、俺がひっぱたいてやるわ!


 俺は背筋を伸ばし公爵様に向けて敬礼をしながら。


「一生懸命にやらせて頂きます!」


 そう宣言するのだった。


「後のことはセバスに聞け、期待しているぞタイシよ、っとそうだ忘れる所だった、コーネリアを泣かせたら父親と共に俺がお前を成敗しに行くと思え!」


 そう言い終わると公爵様は俺に向かって手を振った。


 下がって良しって事かな?

 俺は立ち上がり頭を軽く下げてから部屋を出ていく。

 セバスさんは俺の後についてきた。


 しかしまぁ、ココは利用されてはいるが愛されてもいるんだなぁと思った。


 廊下に出るとセバスさんが。


「ではタイシ殿こちらにどうぞ」


 何処かに案内してくれるようだ。


 歩きながらセバスさんが説明してくれた事によると。

 俺は今日からしばらく公爵家の下級使用人エリアに泊まり込みで働くそうだ。

 てかすでに泊まる事が決定しているのね……ブルー君達にはちゃんと連絡してくれるらしいからいいけども。


 そして記憶にある限りのテーブルトークの情報を書きだした後に、時間が余ればこの世界独自のルールを作り出す作業も待っているらしい。


 というか地球のルールを丸パクリはしないそうで、あくまで参考情報として欲しいのであって、そのまま使うのはこの世界の人間としての矜持が許さないそうだ。


 ……じゃぁさっきのルールブックも、そんな感じで作り上げた奴だったのかな?

 道理で色んなゲームのルールに似てたりする訳だよ。


 転生者の知識が曖昧だからとかが理由かと思ったが、それらの情報を叩き台にして新たな世界を作ろうとしたのがあれだったのね。


 案内された部屋は使用人区画の端っこで、狭いが一人部屋なのはありがたい。

 だがしかし、その部屋で休む事も許されずに、すぐ移動して仕事部屋に案内される。


 そこは文官達が働いている大部屋とドアで繋がっている隣の小部屋だった。

 セバスさんが文官達に指示すると、すぐさま俺用の仕事区画が整えられる。

 大部屋と繋がっている部屋なのは、ちゃんと仕事をしているかの監視も楽だからだろうか……。


 大量の紙と大量のインクに万年筆が用意され……俺の頼みによって万年筆は十本に増やして貰った。

 そしてセバスさんは夕方頃にまた来ると言って部屋から出ていった。


 大部屋に漂っていた緊張感はセバスさんが出ていくと消えていく。

 あの人恐れられているんだなぁ。


 大部屋の中の人に軽く挨拶なんかをしたら早速仕事だ。


 〈記憶力向上〉の中にある情報を〈思考分割〉〈並行処理〉〈生活魔法〉〈筆記〉〈俯瞰〉等々、使えそうなスキルを総動員して紙に書き記して行く。


 自分の手と〈生活魔法〉で浮かべた万年筆で次々と書いていく訳だ。

 紙の移動も〈生活魔法〉さんがいれば俺が動く事なく出来てしまう。


 ……。


 ――


 大部屋の文官さんにお昼ご飯だと声をかけられて仕事を止める。

 んー、座りっぱなしで凝った体を伸ばしてから、皆さんと一緒にご飯を食べにいく。


 仕事は進んだかと聞かれたので、本六冊分は書き終わりましたと答えたが、冗談だと思われて笑われてしまった。


 使用人用の食事部屋でご飯を食べる訳だが、皆が同じメニューを食べるセルフサービスといった感じで。

 野菜がいっぱい入ったスープの大鍋と、焼いた肉がどさっと積まれているトレイ、そしてパンがカゴいっぱいに盛られていて、そこから好きなだけ自分で取っていく。


 モグモグ……普通だな。


 配膳は雑だし、これなら三区のギルド食堂の方が美味しいんじゃね?

 素材はこっちのが良さげだが、やる気が感じられん。


 下ごしらえはきっちりされてるので、公爵家の料理人なら下っ端でも腕が良いのかもなのに、勿体ない仕上げだ。


 ただしパンはこちらの方が美味しかった。

 三区の黒パンは堅めで保存食っぽいんだよな……。


 周りには色んな人がいて雑談をしながら食事しているが、まだ知り合いもいないし人見知りな俺にはどうにもならんな。


 可愛い下級メイドさんをナンパするくらいしか出来なかった。


 しかしFランクの冒険者だと言ったらフラれてしまった……解せぬ。


 ご飯後に仕事部屋に戻り、文官さん達も書類仕事に忙しそうだし俺も頑張るか。


 ……。


 ――

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