第22話 Fランクの暴露

 タイシです、現在馬車の中にてセバスさんと向かい合って座っています。


 ガタゴトと揺れる馬車の中、そろそろ二区を通り過ぎる頃でしょうか?

 朝日も眩しくて今日も良い天気のようです。


「この服装のまま公爵様に会っても良いのでしょうか?」

 〈生活魔法〉で奇麗にはしたがいつもの服だ。


 セバスさんは俺を品定めするように上から下まで見ると。


「ふむ、冒険者にしては身奇麗ですな……昨日見た時は返り血等があったようですが……武器も外してきているのですね、後で警備担当から軽いチェックを受けるでしょうが十分かと、冒険者にそこまでは求めませんので」


 そう表情を一切変えずに言ってくるセバスさん。


 まぁ日本式〈生活魔法〉さんは隠す事でもないし奇麗にしちゃったからな……むしろある程度情報を教えて俺の後ろ盾になって貰うべきか……公爵さんの性格を見極めてから決めようっと。


 俺は少し身じろいで背中を椅子にこすりつける。

 その動きに気付いたセバスさんが問いかける


「お会いした時から様子がおかしかったのですが、緊張しておられるのですか?」


 俺はそんな問いかけに対し。


「ああいや、なんか昨日の夜あたりから背中が痒くてですね……もしかしたら緊張しているのかもしれませんねアハハ」


 なんだろうなぁ……この痒さ、微妙に手が届かない場所だからモヤモヤするんだよなぁ。


 ……。


 ――


 馬車は貴族のお屋敷区画である一区に入り、一番奥まった場所にある大きなお屋敷の敷地内に入っていく。

 道路に面した大きな門から入ると、視界が林や建物で塞がれて敷地の広さが分からんなこれ、でもそれくらい広いって事だよな、さすが公爵様って所かな?


 あーこの世界の爵位の意味と順番を確認しておくのを忘れてた……いいや今聞いちゃえ。


 ……。


 セバスさんが丁寧に教えてくれた所によると、この世界の文化は転移者や転生者の影響もかなり受けているとかで。

 この国は王公侯伯子男の下に準男爵や騎士爵があり、それらでも世襲出来る物と非世襲が入り混じっているとか。


 法服貴族の伯爵様で非世襲だったりする人もいるそうで、すごい優秀な人を大臣にしたいから高い爵位を渡すが世襲はさせませんよ、みたいな事もあるみたい。

 ただしその大臣な伯爵様が元々持っていた世襲出来る男爵の地位もそのまま持っていたりとか……うーん貴族のこういう話ってごちゃごちゃしていて面倒だよなぁ。


 まぁ分かる人にその都度教えて貰えばいいか……。


 俺の乗っていた馬車が、正面にあったお屋敷の入口ではなく隅っこの方にある建物の近くで止まる。

 そこで降りた俺は兵士用の建物っぽい中で、男性兵士の人に持ち物チェックなんかをされる訳だが、お金以外は全部見習い宿舎に置いてきていたのですぐ終わった。


 手持ちのお金が千エル以上ある事にセバスさんが感心していたっけか。


 ただちょっとやばかったのは、女性の魔法使いっぽい人が前に出て来て、俺にこう聞いてきたんだよね。


「異空間に物を仕舞っておける等のスキルはお持ちですか?」


 って感じに。


 セバスさんとか警備の人もその場にいたし、これ絶対審議判定系スキルも使っているよなぁという訳で。


「将来的に使いたいですが、今現在は使用出来ません」


 と答えておいた。


 俺のその返事を聞いて、セバスさんの眉がピクリと動いたのがちょっと怖い。


 ……タイシ嘘ついてないもん。


 お財布もちゃんと返され、建物を出て徒歩で真ん中のお屋敷に向かう。


 でっかいなぁ…‥、ヨーロッパの方に有るような何とか宮殿みたいな物を彷彿とさせる大きさだ。

 徒歩で敷地外にあるコンビニにいこうとしたら、歩いて数十分かかるとかそんな感じ。


 俺達は下級使用人用の入口から入るようだ。

 さすがにこの辺りはごちゃついていて……セバスさんがちょっと怒っているのは、自分の目が行き届かない普段使わない通路とかだったのだろう。

 そんな場所の荷物とかが整理されてないからだろうかね。


 ごめんね? 後でたぶん下級使用人達が怒られると思うけど、俺のせいにしないでね?


 建物の中の下級使用人区画を抜けると、そこは広い廊下に高い天井で壁やら窓の装飾も素晴らしい。

 ……これ掃除だけで毎日何人必要なんだよ……俺が住むなら1LDKのマンションとかがいいや……。


 廊下を歩き、階段を上り、幾度かの角を曲がり、質実剛健ってな感じの扉の前に着いた俺とセバスさんと俺をチェックした兵士と女性魔法使い。

 部屋の中にまでついてくるのなら、彼らは結構身分が上ってことだよな。


 セバスさんがノックしてから入って行くので後に続く。

 中は思ったより狭くて仕事部屋って感じかな、あ、ココがソファーに座っていて、隣にいるのはご両親かな?


 そしてその向かいのソファーに座っているのが……公爵様?

 意外に若いんだな、三十代半ばくらいに見える。



 セバスさんに教えて貰った通り片膝を床につけて頭を下げ。

「この度は――」

「あーそういうのはいらんいらん! 異世界人に作法なんて強要しても意味がない、それにそもそもうちの家を興したのが異世界転移で来た日本人なんだぜ? 相手を本当にうやまって下げる頭が大事なんであって、作法である礼儀をやりたいなら……ふむ、貴族の一員になってみるか?」

 ざっくばらんな公爵様らしい。


 うーんこれって、なりたいって言ったら貴族にさせられるのだろうか?

 なんか公爵様の真剣な表情が怖いので。


 俺は立ち上がり公爵様に向かって。


「あ、そーいうのいらないっす、面倒そうなら他の国にでも流れますんで」


 と自分の顔の前で手を横に振り振りと、少し無礼な態度を取ってみた。

 これで切られるのなら、そもそももっと前に処理されているだろうという思いもあるがどうかな?


 ココやご両親はギョッとした表情で俺を見るし、俺と一緒に入ってきた兵士やらは剣や魔法の杖に手を掛ける。

 そしてセバスさんはまったく動じずに自分のヒゲを撫でている。

 この人すげーなぁ……セバスって本名なのかなぁ?

 ……前世の名前とかありそうだよな。


「くくっ、まぁ座れよ異世界人、コーネリアの隣でもいいぜ?」

 そうおっしゃる公爵様、しかしココの両隣は両親さんで埋まっている……ふむ。


 ポスリッとココのお母さんだろう隣に座る。


「おま! 何を私の妻の隣に座っているんだ異世界人!」

 狐獣人なココの父親っぽい人が立ち上がりそう言ってくる。


「空いているのがここくらいしかなかったもので」

 と俺はそう返してみた。


「私の隣の方が大きめに空いていただろうに!」

 父親さんは俺に詰め寄る。


「俺を睨んで来ている怖い男の人の隣より、ココの美人なお姉さんの隣の方が良いに決まっているじゃないですか!」


 俺は真剣な顔と声でそう返事をする。


 すると女性は俺に笑顔を向けながら。


「あらあら、私がネリアちゃんのお姉さんに見えてしまうのかしらぁ……もう正直な子ねぇ……お義母さんは結婚を許可します!」


 どうやらノリの良い母親のようだ。


 その状況にココは慌てているし公爵は笑っている、そして父親らしき人は。


「この状況で私が妻と言っているのに、両親だと思う事はあれど姉に間違う訳がないだろう!」


 あーそれは悪手だココパパさん。


 ココママさんがココパパさんを見ながら。


「……それは私がもう若くないという事かしら? どうなの? 貴方?」


 部屋の中にピキリッという張りつめた空気を感じる、ワクワク、さて返答はいかに!?


 ココパパさんは焦りながらココママさんの前に移動して跪くと、ココママさんの両手を取り。


「そんな事はない! 君はいつまでも奇麗で若々しい、そんな君を妻に迎える事が出来きた私は幸せ者だ! ただね……この状況がね、そう、状況を見れば分かるだろうという話なだけであってね……」


 後半の声はだいぶん小さかったが……。

 どうやら効果はクリティカルだ!


 そのまま二人のイチャイチャが始まったが、描写するだけで口から砂糖が出そうなのでカットするのは勘弁してくれ。


 ちなみに、公爵さんの咳払いが出るまでそれは続いた。


 俺はココパパさんにソファーから引っこ抜かれて反対側に……ココママさんにじっと見られていたココパパさんは、俺を苦々しい顔でココの隣に置くと自分は外側に座った。


 そして笑っていた公爵様が話を始める。


 ちなみにココパパさんは、公爵様にちょっと怒られていた。

 そりゃここの主に尻を見せながら妻とイチャイチャしてたらね、怒られるよね?


「さて異世界人の……あータイシだったか? コーネリアは俺が後ろ盾をしている大事な娘だ、食事に誘うくらいなら良かったんだが、さすがにお泊まりはなぁ……何もしていないとこの子は言っているんだが……」


 そう言いながら公爵様は、自分のナナメ後ろあたりに配置していた女性魔法使いに向けて手で合図を出す。


 女性魔法使いさんは公爵様の近くまで来ると俺達に向き合い。


「貴方達は男女の睦事をしましたか?」


 そう聞いてきた。


 ココは焦りながら。


「してません! タイシさんとはまだそんな仲ではありません! さきほど報告したようにお話とかしてただけで……」


 最後は黙ってしまった。


 俺はどうしようかなぁ……よし。


「コーネリアと性交はしてません!」


 ドーン! と嘘偽りのない報告をする事にした。


 その瞬間ココから肘撃ちが来た、結構痛い。

 いやだってこれが聞きたいんだろ? この人ら。


 女魔法使いは公爵様に向かって。


「嘘はついていないようです」


 と報告してから元いた位置に戻る


 公爵様や両親の反応だが。


「うっそだろお前……もしかして女性に興味ない……?」


 そう言って公爵様は少し俺から離れ。


「うちのコーネリアの何処に不満があるのだ異世界人!」


 ココパパは手を出して欲しいのか?

 さっき睨んでたのは手を出したかもしれない俺に怒ってたんだろーに、態度をどっちかにはっきりしやがれ。


「あらまぁ……ネリアちゃん? お母さんは教えたでしょう? 恋愛は戦争だと! 防御だけしてたら勝てませんよ?」


 ココママはココにそう諭していた、ココは頬を赤くして黙って聞いている。


 公爵様はセバスさんを呼び何か話しあっている。


 しばらくすると。


「タイシよ、お前娼婦街に行っているからには女性に興味はあるんだよな? それなのになんで手を出してねーんだよ! 出してたらお前を保護する大義名分になったのによぉ……ネリアちゃんと婚約させてうちで保護してやろうと思ったのに……予定が狂っちまった」


 公爵様は呆れた口調でそう言って来た。


 ありゃま、詰問ではなく俺を保護する良い機会だと思った訳か……俺を追い出した王城の貴族達よりマシな人っぽいなぁ……ふーむそれなら……。


 俺はココに顔を向けて、ってこいつ真っ赤になって顔を伏せてやがる。

 ほらこっち向け、アゴに人差し指をあてクイッっと顔を上げてこちらを向かせる。

 隣のココパパがちょっと煩い。


「コーネリア、俺のスキルの事は報告したのか?」


 そうココに聞いてみる、愛称呼びは皆の前ではやめておいた。


 ココは首を横に振っている。


 まったく……公爵様が悪辣ならお前も処分されてただろうに……借り二つにしといてやろう。


 俺は〈隠蔽〉スキルを操作して。

〈生活魔法〉〈共通語理解〉〈賄い〉〈記憶力向上〉〈詩作〉〈演奏〉〈弦楽器〉〈役者〉〈歌唱〉〈演劇〉〈踊り〉〈手品〉〈パティシエ〉〈鼻歌〉〈調理〉

 等を見えるようにしてから。


「なら俺のスキルをちゃんと報告していいぜ、もっかい確認してからな」


 そうココに笑顔を向けながら言った。


 それを聞いたココは俺に集中して……驚愕の顔をして固まった。

 ……あー再起動させるために両親の前で胸を揉むのはまずいな。

 頬をつつくくらいにしておこう、ツンツン、隣のココパパはやっぱり煩い。


 再起動したココは俺のスキルを公爵様に報告し始める。


 ……。


 ……。


 ココの報告を聞いた人達は驚いているようだ。

 まぁこれだけのスキルがあれば城から放り出されたりしないはずだものな。


 一番驚いている公爵様は、部屋にいる兵士やココの両親に他言厳禁だと厳重に言い含めてから俺に顔を向ける。


「いやおかしいだろ!? お前が追放されたのは〈生活魔法〉と〈共通語理解〉しか持ってなかったからのはずだ! ダンジョンにも行けてないし、スキルオーブを買う金もないのに、こんな短期間でそんな数の……女神様から特殊な能力を貰ったとしか? ……」

 公爵様は途中で言葉を止めた。


 ノンノンそうではないんです。


 勘違いされても困るので、俺は女性魔法使いさんに手で合図をする。

 彼女はその動作の意味を理解したのか少し前に出てくる。


 そして魔法使いの彼女に向けて。


「〈共通語理解〉以外のスキル達は俺の自前の物であって、女神様は関係ないです」


 そう答えてみせた。


 女性魔法使いはそれを聞いた後に『嘘はついていない』と公爵様に告げている。


 部屋の中に沈黙が流れ、誰も彼も驚いたり真剣な表情をしていた。


 ……。


 どうしようあまりにシリアスさんが強くなりすぎて、俺の中の〈道化〉スキルが動き出しそうだ……クッ収まってくれ……。



 ふとセバスさんを見ると、特に驚くでもなく真剣な表情でもなく最初と変わりなくヒゲを撫でている、あ〈道化〉さん収まった。



 ……早く公爵様の反応が欲しいタイシです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る