異世界被召喚者はこんなものだ編
第21話 Fランクの朝帰り
お早うございますタイシです。
結局徹夜になりました。
スキルを大量投入して本気語りをしたら、それに興奮した狐耳受付嬢が寝かせてくれなかったんです……。
……勿論エッチィ事ではなく漫画の語り部の仕事です。
仮眠くらい取らせてくれるかと思ったんだがなぁ……、もう一話もう一話と
取り敢えず本人には『次は違う意味でもう一度って甘えてくれ』と言いましたが、本人はよく分かっておらずポカンとするばかり。
くそ! セクハラでお返しすら出来ないのか。
今は狐耳受付嬢の部屋から出る所である。
朝も早いうちに帰ると言っているのにこいつ聞きやしねぇで、『後一話だけ』を何度も発動させて結局ギリギリになっちまった……。
本当にいいのか? と何度も聞いているのに。
まだ疲れてないからとか、ずれた返答しやがって……。
そうして今は玄関口で会話をしている所だ。
「じゃーな狐耳受付嬢、次はもうちょい軽めにしてくれ、結局異世界の常識や気を付ける事の話もほとんど聞けてねぇしよ……」
そう俺は零した。
狐耳受付嬢は申し訳なさそうな表情で。
「う……それは御免なさい、次は……次はちゃんと色々教えるから!」
次に来てもまた同じ事になりそうな気はするけどな。
結局『悪転』すら終わりまで行かなかったしなぁ……言葉で語ると意外に時間食うのな、スキル盛り盛りでやったせいで飽きは来なかったみたいだが、俺がすっげぇ疲れた。
スキルは便利だが使うのに魔力が必要で、大量に使えばそれだけ魔力消費もでかい訳だが、あれこれと舞台装置的な音や光を出したりして盛り上げたらかなり消費しちまった。
まぁ熟練度上げには良かったかもしれんが。
「じゃぁ帰るわ、狐耳受付嬢も仕事頑張ってなぁ」
そう声をかけて帰ろうとするとあいつは俺の袖を掴んで。
「ココ」
そう呟いた。
「ん? どうした?」
顔を伏せて俺の袖を掴んでいる狐耳受付嬢にそう聞き返す
「私の事はココって呼んで!」
顔を上げてそう言う狐耳受付嬢の頬が少し赤い。
「愛称っていうならネリィとかネリアとかじゃねぇか?」
「確かに私の名前はコーネリアだけど、家の名前がコランザスだからそんなにおかしくはないでしょう?」
いやいや、そんな略し方はするかぁ?
俺が納得していないのを感じたのか、コーネリアは俺と目を合わせながら語る。
「前世の名前がしあわせにこどもで
なるほどな……。
「ちなみにベルは何処から来たんだ? ココ」
そう愛称で呼びながら聞いてみる。
するとココは嬉しそうな顔をしながら。
「苗字から取ったの! モフモフ系同人絵描きとしてはそこそこ有名だったんだからね?」
本人のすれてなさからすると、成人指定の同人ではなかったんだろなと思う。
俺はドアを開け外に出ながら
「じゃーなココ、また今度よろしく」
そう声を掛け……あ、やば。
「うん! タイシさん、また泊まりに来てね!」
そう笑顔で玄関口にて返事をしたココ。
……そしてそこに通りかかる受付嬢さんらしき人が一人。
人種であろうその人は俺とココを順番に見るとニッコリと笑い、何も言わずに足早で離れて行った。
その受付嬢さんの様子を見たココは。
「あれ? お隣さんだ、挨拶もしないで行くって珍しいなぁ、急いでたのかな?」
色々と気づいてないらしい。
仕方ないので教えてやるか……。
俺はココに今の状況を一つ一つ丁寧に説明してあげた。
独身寮の受付嬢の部屋から朝帰りする男がいます。
そしてその男に受付嬢が『また泊まりに来てね』と声を掛けています。
二人はそこそこ仲良さげに見えます。
貴方がこんなシーンを見たら、二人の関係はどんな物だと思いますか? と。
ココが首を傾げて考える事数十秒……。
ハッっと何かに気付き。
そして俺を見上げるその顔は、徐々に赤くなっていった。
「いやぁぁー--!!!! 絶対勘違いされてるじゃないの! どどどどどどうしようタイシさん! あの子職場に言いふらすわよ! そんな関係じゃないって言ったら皆は信じてくれるかしら? ……にゃー……今日はお仕事おやすみする……いきたくないにゃ……」
狐獣人であろうに猫のような声をあげ、ココは両手で髪をかき乱し混乱している。
「だから俺は何度も聞いただろう? 『本当に泊まっていいのか?』ってさ、微妙にずれた返事が来ていたから心配していたんだが、ちょっと考えれば分かる事だろーに」
「ちょ! 気づいてたなら教えてよタイシさん! どうしてくれるのよ~」
ココは恥ずかしいのか両手で真っ赤な顔を抑えて体を揺すり、混乱を表しているのか尻尾がクルクル回っている。
「俺はまぁ会える口実が出来るから構わんのだが、ココは結婚とかに影響ありそうか? 貴族なんだっけ?」
細かい話をする前に漫画語りをする羽目になったので、その辺も確認出来てないんだよな。
取り敢えず体を揺らすのを止めたココは。
「うちはお父さんが騎士だけど、姉妹しかいないなら継がせる気はないって言ってたから……あ! 公爵様には友達としてって報告してあるし……ごめんなさいタイシさん、場合によっては後ろ盾が出張ってくるかもしれない」
そう申し訳なさそうな顔で言ってくるココ。
「しょうがねぇなぁ、まぁ俺のパーティへの説明は適当に誤魔化しておくけど、そっちはまぁ……異世界の話で盛り上がったくらいにしとけ」
「ごめんね……えっとブルー君達に誤魔化すってどうやって?」
ココが聞いてきたが。
「確かココは絵が描けるんだよな? 後は音楽とか好きか?」
「う、うん嫌いではないけども」
ふむふむ、ならいけるかな?
「じゃぁよ、俺が金を稼ぐために吟遊詩人の真似事をしたいから、客を集めるための壁に貼るチラシを頼んだって事にする、音楽と絵が好きなココも友達である俺の頼みに断り切れずってなストーリーでいこうぜ」
どうせちょっと稼げるかやってみる気だったしな。
「ちょっと強引な話だけど……でもまぁうん、そういうストーリーでいくね、じゃぁ友達のタイシさん、これからもよろしくね」
そう言って俺に向かって手を出すココに。
「おうよ、よろしくなココ!」
手を握り返しながら返事する俺だった。
……。
――
さて、見習い宿舎に帰ってきました。
入口のつっかえ棒は……なさそうなので、ガラっと扉を横に開けると。
「お帰りなさいタイシさん……プラス十ポイントです!」
「おかえり~タイシ! 見習いが受付嬢の家から朝帰りとか武勇伝だよね!」
「お帰りなさいタイシさん、僕には到底真似出来ないです」
三人はすでに起きていたようだ。
「ただいまー、今日はまた外周の調査と討伐だっけか、早速行こうかー」
と、ささっと部屋から逃げ出す事にした。
何で逃げたかって?
そらお前、朝帰りしたらポイントがアップしたんだよ? 怖いだろ?
……。
――
前と同じように三区の外門に向けて歩いている俺達。
「つまり?」
俺が横にいるピンクにそう聞くと。
「英雄色を好むとも言いますし、タイシさんの器の大きさを示す訳ですね! 私も三年後が楽しみです!」
そうニコニコ笑顔で歩くピンク。
異世界の文化は日本とだいぶん違うらしい。
「残念ながらそういった行為はしていないんだよ、ちょっとチラシを描く事を頼んでなぁ……色々ポーズに駄目だしを食らったりしてたら真夜中になっちまってな、深夜に帰るのも危険だって事で朝まで起きてただけなんだよ」
こんな説明でなんとかなるだろうか。
レッドは驚きながら。
「美人受付嬢の家にお泊まりしておきながら手を出さないって情けなくない? 実は男が……って事は娼婦街に行ってたからないだろうし?」
「まさか……僕は駄目ですよ! 僕は普通に女性が好きなので!」
ブルー君は自分のお尻を抑えながらそう言ってくる、どんな勘違いしてんねん!
「私達を幼いと言い手を出さず、美人で同い年くらいの受付嬢にも手を出さない……タイシさんは特殊な性癖があるのでしょうか……熟女エルフ好きとかですか? マイナス百ポイントです……」
ピンクが悲し気にそう言ってくる。
色々と勘違いされてしまったようなので、普通に妙齢のお姉さんが好きだと一生懸命説明した。
中々信じてくれなかったのでちょっとディープな話も混ぜていく。
十三歳の子供達に自分の性癖を説明するタイシです……ちょっと死にたい。
ちなみにエルフは見た目が成人してから中々変わらないので年齢が分かり辛く。
ぱっと見若々しいのに中身は数百歳の性格が老成した女エルフを、熟女エルフと一部の人間が呼んでいるみたいだ。
長寿種は見た目ではなく精神で判断する文化なのか、数千年生きていても子供と呼ばれる個体もいるとか……ファンタジーよく分かんない。
……。
――
俺の懸命な説得により女好きな性癖を信じてくれた皆だった。
……真剣に語っておいて何だが、女好きを納得させるって嫌な話だな。
いやまぁいいか、今は三区の壁の外で例のごとく角ウサギやらを狩って移動している所だ。
角ウサギの頭をスパっと切り落としながらレッドが。
「タイシは好きみたいだけど、おっぱいなんて剣を振るのに邪魔なのよねぇ……これ以上大きくなって欲しくないわね」
十三歳にしては少し大きめなレッドはそんな事を言い。
「レッド! いらないなら私に頂戴! うぐぐ……お肉とかご飯をいっぱい食べているのに何故胸にいかないの……噂で聞く異世界知識の中に揉めば大きくなるって話があるのですが本当ですかタイシさん!? 私達小さい派の希望の星的な噂なんですけども……」
ピンクはそんな事を聞いてくる。
あーそれってネタ的によく聞くけどどうなんだろなぁ……。
結局は遺伝な気もするけど、ピンクの母親の大きさは?
大きいのか、それなら大丈夫じゃねーかなぁ?
揉んでみてくれ? 三年後以降にもっかい言ってくださーい。
「あ、薬草発見しました回収お願いしますタイシさん、僕はタイシさんが女性好きで助かりました、いやぁパーティ崩壊の危機でしたよー」
ほっとした顔を見せるブルー君だが、君のお尻には欠片も興味ないです。
それとその言い方だと俺がすごい女好きって聞こえるんだけどな……タイシ普通だよ?
そうしていつものごとく何事もなく調査と狩りを終え、報酬を貰って宿舎に帰り……。
……そう俺は夕飯を作りに行かねばな! ああ、イソガシイ。
俺は一目散に見習い用宿舎の調理場に向けて歩いて――
「ほっほっほ、それ以上無視をするなら権力パンチをお見舞いしますが、いかがなさいますか?」
くっ……奥に歩いて行く前に声を掛けられてしまった。
……仕方ない。
「こんばんは貴族の執事っぽいお爺ちゃん、見習い宿舎に豪奢な馬車で乗り付けて何か御用でしょうか?」
そうなんだよ、宿舎の前に紋章がばっちり描かれている豪華な馬車が止まっていたんだよ。
しかも執事っぽい恰好をしたお爺ちゃんが、こちらをしっかり見てた訳だ。
俺はその横を無言で通り抜けようとしたが無理だった……。
執事っぽい人は自身の真っ白いピンと張ったヒゲを擦りながら。
「ふむ、公爵様からは馬鹿な人間性なら排除の許可は頂いているのですが、違う意味で馬鹿でもそれをしてよいと思いますかな? 『鼻笛料理人』殿」
あ、はいごめんなさい。
「コーネリアさんの件ですね分かります、私はどうしたらいいでしょうか?」
頭を下げてからお伺いをしていく事にします。
タイシ弱いうちは権力に逆らいません。
「初めましてタイシ殿、私は公爵様にお仕えしているセバスと申します、公爵様がお会いになるので明日早朝迎えに来る事をお伝えしに来た次第です」
そう胸の前に手を当てて言うセバスさん。
すでに俺が行く事は決まっているらしいが……仕方ないか……。
セバスさんに俺だけでいいのかと聞くと、勿論と返されたので、分かりましたと返事する。
俺の返事を聞いたセバスさんは豪華な馬車で帰って行った。
俺達は宿舎の部屋に戻り〈生活魔法〉で全員を奇麗にしてから夕ご飯を作る事にする。
俺の〈生活魔法〉を受けながらレッドは落ち着かない様子で。
「ね、ねぇタイシ、大丈夫なの? あれってお貴族様だよね? どうしよう?」
正確には貴族に仕えている人な、君が呼ばれた訳じゃないのに動揺しすぎだ。
ブルー君は。
「受付嬢さんに手を出したので報復、という感じでもなかったですし……何事でしょうね? タイシさんが異世界人である事での問題でしょうか? 連行の可能性も?」
冷静に事の分析をしている、頼りになるねぇ君は。
そしてピンクは。
「もしかしてタイシさんを受付嬢さんの婿に迎えるために? くぅ……正妻はやっぱり無理でしたか……仕方ないので側室で我慢します……」
レッドがピンクの言動に対して『そんな理由で来た訳ないじゃない!』と否定しているが、意外に良い所を突いていそうな所だし、勘が良い子だなと思う。
だがしかし譲歩したように見せているが、そもそもピンクと夫婦になる約束とかしてないからね?
まぁ実際の所は、後ろ盾についてる子に手を出した男がどんな相手なのかを見極めるためだよなぁ……まさかこんなに早く動くとは……異世界の文化を舐めてたかもしれない。
しかしココには指一本すら触れてもいないのに、こんな目に合うなんてなぁ……。
よし! 無事に帰れたらあいつの狐耳をモフモフする!
……無事に帰れるよね?
……まずは飯だ! ピンクのお胸様のためにも栄養たっぷりなご飯を作ってやらねばなるまい。
明日の事は明日のタイシがどうにかするさ!
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