第20話【閑話】天界の女神

「ええそうね、あなたは地上に降りて記憶を持ったまま転生者として生きて貰います、いえ世界最強は無理です、でも高位スキルを得る事が出来れば女の子にもモテモテになれるわよ、ええ、じゃぁそのスキルに設定しておくわね、私との会話は覚えてないでしょうが頑張ってね、行ってらっしゃい」


 ふぅ……また新たな魂を地上に送り込んだ。


 彼が大きく育って新たな文化をもたらしてくれるといいのだけど……あの性格だと無理そうね。

 悪人ではないのだろうけど……まぁ自分が魂になっている事に絶望して記憶保持転生を断られるよりはましかしらねぇ。


 さて一区切りついたし、ちょっとお菓子でも食べて休憩しましょう。

 テーブルと椅子とお菓子を出してっと。


「あれ? 三箱あったお菓子って後これだけしかないの!?」


 もー、なくなるの早すぎよー、十箱くらい要求しておけばよかったかしらねぇ。


 彼……タイシだったかしら?

 あの子も今頃は〈カード化〉のユニークスキルでバンバン活躍しているだろうし、私に感謝して女神教会にお菓子を奉納なんて事も……いや……普通にあり得るわね?


 ちょっと地上の様子を見てみましょうか、ワクワク。

 彼の活躍次第では二十箱も有り得るわね~ふんふんふ~ん、この辺だったかなっと。



 ん~? んん? んんんん?


 あれ? なんで彼ってばこんな狭い部屋に四人で……あっれぇ?


 スキルは弱い方から順番に馴染むのはしょうがないけど、カード化があればもっと良い宿屋なりに泊まれるでしょうに。

 せっかく手持ちのカード達にも向こうの世界になかった才能と格を設定してあげたのに、何しているのかしらね彼は。


 あ、のんびりやさんで異世界のな成り上がりをゆっくり楽しむ系かしら?

 段階を踏んでいくのが楽しいって奴で、確かロールプレイだったかしら?


 低lv勇者からってやつよね……何してんだか彼は、早く私に感謝しなさーい、なんてね。


 さてはてこの世界でカードは何枚取ったのかなぁ……。


 あ、え? ……あー---!! やっちゃった!


 そうよね……〈空間倉庫〉が使えないならスキルオーブを取り出せないものね。

 それじゃぁスキルを覚えられないじゃないの!


 あーっと……でも彼も気づかなかったんだからお互い様ね! 私悪くなーい。


 彼の能力を見ても、馴染んだスキル数はすごいけど戦闘に使えないのばっかりね……。


 あれ? これってスキルの並び順を自分の意思で弄っているのかしら?

 なんでここだけスキル一つずつで改行しているの?


 えーと何々。

〈目利き〉

〈ガイド〉

〈見返り〉

〈ノリ突っ込み〉

〈歩く〉

〈掘る〉


〈踊り〉

〈歌唱〉

〈詩作〉

〈誤解〉

〈反省〉

〈こんにちは〉


 スキルの並びがおかしい部分の最後のスキルとか、これってただの挨拶じゃないの……。


 異世界のスキル名を考えた神は適当すぎないかしら?

 ……私も大概適当だと自覚しているけど、これには負けるわね。


 そういえば昔話した異世界人が縦読みとかって……試しにえっと。


 めがみのあほ?


 女神のアホ? ってふっざけるな!


 自分のスキルで何してんのよあの子は!

 女神を侮辱ってこれもう天罰物よ?

 いえ天罰を落としましょう、背中の手が届かない部分が一日痒くなる呪いとかどうかしら? えいや!


 ふう、これでよし。


 っと続きもあったわね、どうせ馬鹿とか何とかなんでしょうけど、えーと。


 おかしごはこ、私の頭がおかしいとかの間違い?


 いえ……あ! お菓子五箱!?


 え? これって……現状をどうにかしたらお菓子五箱くれる契約って事でいいのよね?


 ……んもうしょうがないわねぇ、弱き物にたまに救いの手を差し伸べるのも女神の仕事よね!

 うんうんじゃぁ早速彼に神託を……むぐ……私に対する信仰心が欠片もないわね彼、これじゃ神託を聞かせられないじゃないの。


 どうしよう? 女神教会で祈りを捧げてくれればどうにかなるのに、この信仰心の低さだと来るかどうかも怪しいし。

 信仰心がまったくないのに、私に対する敬意はある程度あるのがムカつくわね。

 私の事を神じゃなく友達か何かだと思っているのかしらあいつ、美しい女神様なんだから少しくらい信仰しなさいよね。



 うーん……お菓子五箱、お菓子五箱、お菓子五箱……。


 勝手に貰えない神のルールが憎い!

 勝手に取ったらそれもう邪神だものね……あ、そうだ彼に伝言を伝えて貰えればいいじゃない!

 私冴えてるわねぇ、美人女神なだけあるわ!


 ふんふーん、この国に神託を降ろせそうな都合のいい相手はっと。



 ……あーこの子がいたわね『ツヨクシアワセニナリナサイ』強く幸せになりなさいって励ましてから、聖女見習いとか適当な事を言ってここの教会に押し付けて以来忘れてたわね。


 本当は元生贄の境遇にもめげずに「心を強く」って入れたかったんだけど文字数がねぇ……まぁ元気そうで何よりだわ、うんうん良かった良かった。


 神託って会話じゃなくて文字数に制限がある短い文章でしか送れないってのが面倒よね。

 会話すると女神の神聖性がなくなるからとか皆は言うし……眷属神のくせに失礼しちゃうわよね。


 私はいつでも最高に美人で神聖な女神様だっての。


 文字数に制限があるし、うーん『タイシキョウカイニテイノルベシ』


 えっと『タイシ教会にて祈るべし』ってね、うんうん、ぎりぎり文字数足りたわ。

 私天才じゃないかしら? まぁ超絶有能な女神だし? 当然よね。


 ではこれを神託で送って……あ! 間違えて他の子に送っちゃった。


 んもう! こんな時に儀式なんてしているから間違えちゃうのよ!


 今度こそ正確に狙ってっと、はい的中!


 後は待つだけね~お菓子五箱はよこーい、わくわく~うきうき~ふふんふ~ん。







 side とある国の女神教会


 女神教会シスターの服を着て、緑色のロングヘアーをふり乱し、一心不乱にまとへとメイスを振り込む、成人したての13歳くらいに見える少女がいた。


「一つ振っては女神様のため! 二つ振っては女神様のため! 三つ――」


 ドガンドカンと的の鎧とそれに叩きつけられるメイスが奏でる音を聞きながら、それらを見る周りの同僚女性達は。


「さすが聖女見習いよね信仰心が半端ないわ」

「いや……女神様への信仰にメイスを振る事って関係あるの?」

「さぁ? 聖女見習いだとそんな物なのでは?」

「私はあの子が何か勘違いをしている方におやつを賭けてもいいわ」


 緑髪の少女は急に動きを止め。


「はわわぁ! ああ女神様! 私をお救いして頂いたあの時以来の神託ですね! 私の存在を忘れて放っておかれているのではとほんの少しでも疑ってしまった事をお許しください、やはり女神様は私を見ておられた! 後で自らへの罰として素振り一万回を追加しておきます」



 ちなみに緑髪少女の言葉は全て独り言である。


 離れた位置から見ていた同僚達は。


「どうしようあの子がまた変な事を言っている」

「変な子が変になったら普通になるのでは?」

「成程納得した、良い事ね」


 そして緑髪の少女は。


「『タイシキョウカイニテイノルベシ』ですか……教会にて祈るべし、でしょうか? となると、その前の三文字が『タイシ』だから……大志を抱き祈れと? つまり私に希望や夢を持って生きろとおっしゃってる!? ああ女神様、貴方様はやはり私の事を案じておられて……この身この心を貴方様に捧げます……いえそれではまた生贄になってしまいますね、女神様はそれを望まなかったはず、私に『強くなりなさい』とおっしゃいました、なれば最高の強さと信仰を貴方様に捧げ、大志を抱き夢や希望を掴む事で恩に報いましょう! 素晴らしき女神様に感謝の祈りを」


 地面に片膝をついて目を瞑り、両手を前で組み真摯に祈る少女はそれはそれは美しかった。


 それを見ていた同僚達は。


「美しい祈りの姿ね、まさに聖女と呼ぶに相応しい」

「ええ、すぐそばに壊れた丸太と打ち込み用の壊れた鎧が、そしてそれを為したメイスが転がってなければね」

「……そうね」



 少女の祈りは未だ続いている。













 side とある女神教会の総本部


 そこは女神教会を統べる場所、女神に捧げる壮大な儀式が行われている。


 聖女と呼ばれる女神から神託を受け易い女性を中心に、その周りを女神聖騎士団が護衛をし。


 少し離れた奥に備えられた壇上にはブクブクと太った豚が並び、失礼、太った豪勢な教会服を着た聖職者達が並んでいる。

 彼らの周りにいる聖騎士はニヤニヤと笑みを浮かべ態度も悪い。


 そしてそれら儀式を見上げる質素な教会服を着ている沢山の聖職者や武装神官兵とみられる者達。


 それらを見ながら聖女の護衛を担当しているだろう儀式近くにいる聖騎士達は、小さな声で回りの皆と会話をしている。


「くそっ、どうせ今回も自分達の都合の良い神託を聖女様に含ませているんだろう」

「落ち着け、金が集まれば力も増す、誰が味方かも分からないうちに動く訳には」

「しかし団長、この神託で貴方を団長から降ろすのではとの噂が有るんですよ」

「やりましょう団長、今ならこちらの兵もまだ多い、武装神官の中にも追随してくれる奴もいるかもしれません」

「そうです待っているだけでは取返しが――」

「まて儀式が終わる」


 儀式が終わり中心にいた聖女が目を開ける。

 そして豪華な服を着た豚が聖女に問いかける。


「さぁ聖女よ、女神様からの神託を皆に告げるのだ!」


 豚は何かを確信しているかのような得意満面な笑顔でそう言っている。


 その豚の要請に聖女は何かを口にしかけ、しかし口を閉じ、少し考えてからキッっと豚を見ると。


「女神様はこうおっしゃいました『タイシキョウカイニンシテイノルベシ』大司教を解任して祈るべしと!」


 それを聞いた豚は狼狽ろうばいをしながら宣う。


「な、何を言う聖女よ、聖騎士団長を変えろとの神託のはずではないか!」


 狼狽した豚が漏らした言葉を聞いた女神聖騎士団の団長は。


「ほほう? 貴方は女神様からの神託を事前にご存じのようだな大司教様? いえ女神様は貴方を解任せよとおっしゃった、ならばもう……お前は只の豚だ! 立ち上がれ女神様を奉じる女神聖騎士団の者らよ! 女神様は我らを見捨てずに見ておられた、ならば今こそ教会から膿を排除すべき時だ! 女神様を信じる者は我に続け~!」


 聖騎士団長は豚に切りかかり、その剣を受け止めた態度の悪い聖騎士達との戦闘に突入する。


 そこに他の聖騎士達もなだれ込む。


「女神様に祈る事さえしない偽の聖騎士共を許すな!」

「金に執着し女性信者に手を出す豚共の事を知らない者はいなかったはずだ! 今こそ立ち上がれ! 女神様は教会をあるべき姿へ戻せとおっしゃっている!」

「武装神官兵諸君! 地位や権力など女神様の前では全て平等だ、相手が大司教だろうとそれを女神様が認めないと言うのならば気にする事はない! おのが心に有る女神様への感謝と信仰心に従って行動せよ!」

「清貧であれ! そう女神教には教えがある! なれば我らと女神様の希望や望み、そして願いをかなえるのは今ぞ!」



 それら聖騎士の声に応える者達も現れ、儀式場でも他でも戦闘が始まり大混乱になっている。

 だが趨勢すうせいは、武装神官兵を味方にし聖女を守りながら戦う女神聖騎士団の方へと傾いているようだ、そして偽と言われた聖騎士達は戦意も低く逃げ出す者も多い。







 後の歴史学者が言う『希望の神託事件』と呼ばれる物であった。













 ◇◇◇


 以上で取り合えず一区切りといった所。




 異世界なのに日本語読みのトリックとかおかしくね?


 とかは無しでいきましょう、ファ、ファンタジーなので?


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