第17話 続々ギルドのお仕事体験
お早うございますタイシです。
今日でギルド内部の仕事も三日目で、お休みがある日まで頑張ろうと思います。
なぜならそこに私の賢者が待っているから。
ウエイトレス達の制服が目に毒なんです。
チップを貰いやすくするためなんだろうなぁ……早く休みが来ないと俺の賢者のHPはもうすぐゼロよ。
そして今日も今日とてギルドの食堂勤務。
ブルー君やレッドやピンクは違う部署とかを回っているらしいのに……俺だけずっと食堂なの?
お給料が良いから嬉しいんだけど、冒険者ギルド内部の様々な仕事の大変さを教えるという建前は何処にいったのやら……。
今日も特に何事も起こらず……いや、ひとつだけ変わった事があるな。
狐耳受付嬢が早めにお昼休憩に入り、俺の横で一緒に賄いを食べていく事になっていた。
厨房長の許しは得ているとかなんとか……。
お昼前の賄い時間になり、俺の横にウエイトレスが来て相性確認デートに誘われるかと思ったのだが……俺の横にいる狐耳受付嬢とは反対側の席が空いている。
ウエイトレス達に嫌われるような事はしていないし、今日のご飯もすごく美味しいと言いながら彼女達は食べている……ふむ?
ウエイトレス達がちょっと遠巻きに俺を見ているような気がする。
なんでや?
そして『ご馳走様です』と、俺や厨房長と雑談をしながら食事をしていた狐耳受付嬢は帰っていった。
俺はまだテーブルに残っていた厨房長に不思議に思った事を聞いてみると。
「そりゃぁ公爵家の後ろ盾がある嬢ちゃんが狙っている男に、他の娘っ子達は簡単には手を出せないだろう? まぁみんな諦めた訳じゃないと思うがね」
そうなの? という意味を籠めながら、近くにいたお泊まり有りのデート希望を出していたウエイトレスを見てみる。
するとその子は苦笑いをしながら。
「貴族の関係者にケンカは売れないですよ……優良物件はすぐ売れちゃうんだもんなぁ……はぁ……タイシさん、もし彼女と上手くいかなかったら声をかけてくださいね? あ、でも公爵家に目をつけられるような状況ならパスです」
そう残念そうにするウエイトレスだった。
俺も非常に残念です。
そして意外に抜け目がないというか、肉食系ではあるけどもしっかり考えているんだなと思った。
そういうちゃっかりしている感じの子は好きだぜ、と伝えてみたら『ブイッ』っと笑いながらピースサインを出してウエイトレスは仕事に戻って行った。
転生者はそんな仕草も広めたのかよ……。
しかし残念だ、性格もよさげな子が揃ってたのになぁ……年も俺の前後くらいの子達が多くて守備範囲内の子が多い。
まぁなんか俺の事を十七歳前後くらいだと思っている節はあるが、特に問題はない。
ま、狐耳受付嬢も監視とやらを誤魔化すためには、俺を狙っていると思わせる必要があったんだろうな。
そういえば今日の賄い飯は米を使ったガパオライス擬きにしたんだ。
つまり、この世界に米があったんだよ。
醤油や味噌っぽい物もこの厨房で見かけたんで、厨房長に聞いてみたら米もあるって事で今回は特別に使わせてくれたんだ。
稲は元々家畜の餌だったらしいんだが、それを知った日本からの異世界転生者や異世界転移者がキレたらしい。
怒涛の勢いで米料理を広め、大豆やら麦から味噌や醤油も作っていったとか。
食べ物の事で日本人を怒らせたらいけないって事だね。
ただちょっと熱を入れ過ぎたのか……お米が高くなってしまったとかなんとか……特に日本酒が一部の人種に受けてしまい、食べるくらいなら酒にしろと米を買い占めに走っているとか……。
やりすぎて他に真似をされて原材料が高くなるってのは、日本人あるあるだよね、うん。
転生者とかもさぁ米を使った料理や酒の知識があるなら、米農業の知識も持っていてくれよと……。
なんでも農薬や機械ありきの近代米作知識しかなくて量産は試行錯誤中らしい。
頑張れ農家さんとか研究者さん、このままだと具なしオニギリが一個五エルとかになってしまうねん……。
堅い黒パンの五倍ってなんだよ……元々は水辺に生える草で家畜の餌だったんだぜ?
どんだけ酒を作っているんだよ……まぁ小麦は作られている量が違うというのは理解できるが……むぐぐ。
そうだよお前らだよドワーフ!
転生者がウイスキーを披露すれば穀物を買い占めようとするし。
日本酒なら米を、芋焼酎を知れば芋類を買い占めようとしやがって……あふぉか!
くそ……今度ブランデーとかラム酒の製造法をドワーフに流して世間を混乱させてやろうか?
奴らの興味を米から離す、全ては米を安くするために……我らが結社『お米安くし隊』結成の花火を打ち上げて――
「ほれタイシ、ぶつぶつ言っていないでそろそろ仕事に戻るよ」
「あ、厨房長了解でーす! 今日も頑張っちゃいますよー」
そう力強く宣言をしながら厨房に向かって行く。
無論、それまで考えていた事は奇麗さっぱり忘れている。
そうして、この日も特に問題はなく仕事をする事が出来た。
……。
――
お早うございますタイシです。
今日も食堂でお仕事、四日目かな。
はい、そんな訳で皆さん今日の賄い飯は。
「油を使わないのにフライドチキンとはこれいかに? です、サラダとスープと一緒にた――」
「肉もないのにウインナーコーヒーというがごとし」
中々やるね狐耳受付嬢、でもお前、皆が聞いている場所でそんな事を言っていいのか?
みんな意味が分からなくてポカーンとしているぞ。
あ、こいつ、しまったって顔しやがった。
慌ててるなぁ、耳や尻尾がヒョコヒョコ動くから感情が分かりやすいんだよなこいつ、そして慌てて追加の穴を掘る。
「夏なのにミゾレ汁というがごとし、の間違いです、さっきのは忘れてください!」
この地域って夏でも精霊だか魔物のせいだかで雪が降る事もあるんだろ?
墓穴を掘るってこういう事なんだろうなぁ。
しょうがねぇなぁこいつは、話を逸らせてフォローするかね。
「みなさん、毎度のごとくお代わりはあります、欲しいのなら食べ終わった人達からジャンケンでお願いしますね」
そう言うと、みんなが急いで食べだし狐耳受付嬢の失言はスルーされた。
これで良し。
そうして、俺の横に座っている狐耳受付嬢に顔を向け。
「気をつけろよ?」
「ごめんなさいタイシさん」
謝罪の言葉を漏らした狐耳受付嬢の尻尾と耳がしょぼんと垂れている。
「いいか、あーいう時はもっとこう『成功しているのにティラミスというがごとし』とか『美味しいのにクズ餅というがごとし』とかのがいいだろう?」
「あんまり変わらなくないですか?」
「そうか?」
ちなみに『気を付けろよ?』のあたりから、会話はお互いが聞こえるぎりぎりの小さい声で顔を寄せてやり取りをしている。
そのやりとりが傍から見たらどう映るかとかは考えてもいなかった。
「勇者が作るのにチキンライスとかどうです? タイシさん」
「気づいているのにムシパンとかな」
「許しているのにイカリング」
「二人分なのに、みつ豆」
どっちも苦しいですよねーと小さく笑う狐耳受付嬢。
そして俺は周りからの生暖かい視線に気づく……なんだ?
……あ……小さい声で会話してお互い笑い合っているカップル……あーうん。
それに気付いた俺は素早く横に肘撃ちを入れてから。
「じゃぁ仕事の話はこんな所にしましょうか! ご飯を食べちゃいましょう」
そう大き目の声で狐耳受付嬢に言った。
狐耳受付嬢は一瞬呆けていたが、周りからの視線で自分の状況を理解し顔を真っ赤にして
ちょまてよ! そこはこっちの振りに乗って、何でもない風に同意する所だろう?
「……頂きます」
まだ顔が赤いままの狐耳受付嬢は、もそもそと食べだしたのであった。
厨房長のニヤニヤ笑いが嫌すぎる。
ウエイトレスさん達、『正妻は無理そうだねー』って側室狙いに切り替える相談が丸聞こえなんですが……メンタル強いな君ら!
漏れ聞こえる話を聞くに、この異世界の恋愛は戦争らしい……さようですか。
いや俺はまぁ相談のための偽装だからいいけど、こいつの結婚とかに問題でないかが心配なんだよな。
そうして特に問題もなく、その日も終わる。
……。
――
お早うございますタイシです、今日でギルド体験ツアーも終わるそうです。
ブルー君達は楽しそうで何よりです。
うんうん、レッドも色々教われてよかったね。
ピンクは……『タイシさん成分が足りない』ってナニソレー? 俺から妙な物質とか出てますか?
さて、今日も今日とて賄い飯を。
あんまり向こうの知識を使うのはよくないと注意も受けている事だし。
厨房長~串焼きの串って何処に、あ、はい了解です。
今日は角ウサギ肉の串焼きにして手抜きでいきます。
俺の宣言を聞いて、周りの料理担当や偶々側にいたウエイトレスはがっかりしている。
角ウサギ肉の串焼きとかは屋台飯とかの定番だしね。
厨房長も俺を認めてくれたのか、ちょっと高い素材も使っていいと言われた、ならば!
醤油、砂糖、みりんっぽい物、日本酒、砂糖が無理ならハチミツでも、あ、おっけい? いえーっす。
ふんふんふふふん、混ぜ混ぜ煮込んではいできあがり~、串焼きにタレをぬりぬりおいしくな~れ~。
ははんはんは~ん、部位ごとに焼き方をかえて~ネギっぽい野菜も間にいれまして~、ふんふんふ~ん、でっきあっがり~。
……。
やー疲れた、さすがに串焼き二十人分の百本ともなるとすごい量だね、さてみなさ――
うぉ! フロアを掃除しているはずのウエイトレス達が厨房の入口に
用事がない時に意味もなく厨房に入って来ないのは、さすがに厨房長に鍛えられてるだけあるね!
そしてそこの狐耳受付嬢ちょっとこっちに来い。
もしかして醤油も味噌も砂糖もあるのにタレ焼き鳥って存在しないの?
へぇ……二区以上にならあるんだぁ……なら良し!
砂糖も醤油も意外に高かったらしい……厨房長ごめんね?
「さぁ食うぞお前ら! 存分に行け! 一人五本までおっけーだ!」
そう声をあげると歓声をあげて運ぶのを手伝ってくれる皆がいた。
厨房長まで一緒になって何してんすか……貴方なら食べた事あるのでは?
おかしいな……大き目の肉だし一人五本もあれば十分なはずなのに。
ゆっくり食べていた俺の残りの二本への視線が……え? デートしてあげるから?
貴族にケンカを売らないんじゃなかったのか! そして君のデート安すぎないか?
一本で一回デートなら俺は数百本作っちゃうよ?
そんな軽口をウエイトレスに向けて吐いた俺だが。
狐耳受付嬢が頬にいっぱい肉を入れてモグモグしながらこちらを睨んで来た。
だが怖いというよりは可愛いな、いやまぁ、さすがに串焼きでデートを買ったりしませんから、冗談ですよ?
ジャンケン大会の賞品として献上いたします……はい。
……。
そして厨房長が片方の串焼きの権利を手に入れていた、何やってんすかアンタ。
そんなこんなで特に問題はなく……うん、問題はまったくなく! 仕事が終わる。
狐耳受付嬢がお昼ご飯を食べた帰りにこっそりと俺に。
「じゃぁ、お話合いデートは明日の見習い達の休日にやるという事でいいですか? 私もお休みにしましたし、時間とか待ち合わせとかどうします? 午前中はギルドで修行でしょうし、お昼からでいいですか?」
え? 明日は午前に教官の教えを受けてから、午後は俺の賢者に会いに行くんだが……。
「……夕飯を一緒にする感じでいいか? あんまり高くない所だとありがたい」
今の俺の貯蓄は今日の分を足せば千五百エルを超えるが、装備なんかを買おうとするとまったく足りないからな……賢者資金の事もあるし。
「お昼からでいいですよ? 時間もたくさん取れますし、お代は安いランチの店で割り勘でいいですから、それに実は夜にあんまり出歩くなと言われてるんですよね、ディナーは大丈夫だけど、その後に話をする時間が取れないと思うんですよねー」
そう笑いながら言ってくる狐耳受付嬢、いやお金の問題じゃなく賢者さんがね……。
「ゆ、夕ご飯を食べながらのお話でいいか?」
「……タイシさん正直に言ってください、修行が終わってから何処に行くつもりなんですか?」
女性の勘はいつの時代も鋭いのです。
「……娼館デス」
彼女は顔を赤くしたり青くしたり尻尾をクルクル回したり耳がピンっと立ったと思ったらヘニャっと垂れ下ったりと忙しい。
でも言葉は何も発せず、しばらくしてから。
「タイシさんも若いですししょうがないですね……恋人もいらっしゃらないんですよね? あのパーティメンバーに手を出してたりは……」
「恋人はいないし、さすがに十三の子に手を出したりしない、俺が賢者になるためにはどうしても必要なんだ! ほら小説とかでも異世界に行って賢者になる物語とか多いだろ?」
そう宣言してみた。
「な、なるほど? そ、その私はそういうのって友人の女子オタ同士会話か同人誌とかからしか知識がなくてですね……あの……我慢しすぎると爆発するって本当ですか?」
こいつの友人はそんな馬鹿な事を教えたのか……良し乗っかろう。
「そうだな、ある意味爆発する、これは男のサガというやつだ」
「それなら仕方ないですね……私がどうこう言う事でもないですし……じゃぁその……明日の夕ご飯は……私の部屋で食べるという事でいいですか?」
「……はい?」
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