第16話 続ギルドのお仕事体験
昨日に引き続きギルドのお仕事のお手伝い。
俺は厨房長からの要請もあったとかで食堂の手伝いに固定されそうだ。
色々な部署の人とかと話をしたかったのになぁ……。
驚いたのが昨日の報酬、ブルーやレッドやピンクは七十エル前後を貰い喜んでいたが、俺に渡された報酬はなんと二百エルだった。
いくらなんでも多すぎじゃね?
って下働き四人分の働きをしていたらしい……、まじかー。
朝から夕飯の手前までで四人分と考えると……ちょっと安く思えるくらいだな。
いやまぁ単純作業の多い下働きならこんなもんか?
ウエイトレス達の強烈なお願いにより夕飯の
ウエイトレス達の上目使いのお願いにより彼らは快く俺に譲ってくれた、いやそこは修行のために自分でやれよ……。
ちなみにブルー君やレッドやピンク達とは、この仕事中はご飯は別々に取る事になっている。
時間も合わないしな、そして俺は昼夕と賄いが出るので飯代がかからない。
うむ! 次のお休みの日も賢者になれそうだな!
今日も狐耳受付嬢からみんなに仕事を割り振られ、俺はやっぱり食堂の手伝いに行く事に。
え? 昨日は制度の問題で二百エルだったが、依頼の格を上げたから今日は三百エル?
何人分働かされるんですか俺……、いやしかし、これなら賢者貯金に余裕が出来るかも!? 頑張ります!
賢者って口に出てたか? えーと頑張って賢者みたいに強くなりたいなーとそういう意味でして、気にしないでくれ、誰がエッチやねん!
って気づいてるなら指摘するなよ、俺も若いししょうがないんだってば。
狐耳受付嬢はプリプリと怒りながら去って行った。
……
――
「タイシ! これとこの山全部頼むよ、終わったら皿を洗って、それが済んだら賄い二十人分頼むよ!」
厨房長の指示が次々と俺に飛ぶ。
「了解しました~」
さって今日も今日とてマスィーンの時間だな、ふんふんふーん。
鼻歌はどうしても出ちゃうなぁ……こないだウエイトレスにも、さすが『鼻笛』ね良い音色だわ、とか言われちゃったんだよな……。
もう俺の二つ名は相当広がっているらしい。
大丈夫タイシ
今日は暴れ牛と角ウサギの合い挽きにしてハンバーグセットにでもするかね。
付け合わせはポテトのノンオイルフライと、んーマッシュポテトはあるみたいだから……異世界風ポテサラだな!
マヨネーズは買うと高いらしいが自作ならいけるか?
この世界の卵に菌とかついてるんだろか?
あ、浄化済みなんですね、それなら卵何個か使いまーす。
ある程度俺の事を認めてくれたのか、昨日よりお高い素材を使うのを許してくれる厨房長。
他の料理担当の勉強にもなるからだろうねぇ、彼らは自分の作業をしながら俺の手順とかこっそり盗み見ようとしているし、勉強熱心でなによりだね!
ふふんふんふ~ん、ニンジンのグラッセ擬きも作りまして~、マヨを作って混ぜ混ぜと~〈生活魔法〉さんいつもあーりがっとぅー。
ははんはんは~ん、パンを柔くの……あ、そうだハンバーガーにしちゃうか、急遽変更パンさんに俺の横切りを食らわせる。
トマトっぽい酸味のある野菜にレタスっぽいのはないか、じゃキャベツっぽい奴の千切りでっとトトトントトントントトンっと。
……。
……。
「厨房長出来ました~! 味付けはマヨケチャップ擬きのハンバーガー二個にポテトフライが別盛り山盛りざっくざっく、欲しい分だけそれぞれ取ってね、ニンジングラッセ&ポテサラの下には葉野菜もぎっしりでお肌と健康にも気をつけました、スープはなしで代わりに果汁を使った微炭酸飲み物でーす、召し上がれ?」
「相変わらず早いねタイシ、ハンバーガーって確か東の方で流行っているってやつだろ? よく知ってたね、……しかしあんた歌いながらじゃないと料理できないのかい?」
「実はそうなんです厨房長、俺のスキルのせいで歌やらを入れないとノレなくて……くっ恥ずかしい」
とまぁこれが広がれば、ワンチャン『鼻笛』から『歌う料理人』とかに二つ名が変わるかもと思っています!
「そういったスキルもあるんだねぇ……、む? この飲み物は炭酸飲料って奴だね、泡の水を作るのに錬金術師が必要って聞いたんだけども……まぁ料理人の秘儀を聞いたりはしないさ」
厨房長はモラルのしっかりした人のようで安心だね。
微炭酸は二酸化炭素を冷たい水に溶かせば良い訳で〈生活魔法〉さんは有能ですって事でよろしく。
『これが噂に聞くハンバーガーか、パンに肉を挟むっていうが思ってたの違ったな』
『ステーキをパンに挟んで美味しいのか? とか昔会話しましたよね』
『このマッシュポテト? に使ってある味付けもすごいな、肉の方もだが』
『炭酸って錬金術師とかが必要でお金持ちのステータスみたいに聞いた事が……』
『うーん今日も美味しーねー』
『口の中がパチパチしてたのしーアハハ』
『お芋だけじゃなくお野菜もしっかり有る所が良いわね』
『この揚げ芋は屋台とかで売ったらすっごい儲かりそうじゃない?』
『わかるー、私毎日揚げ芋を買いにいっちゃうかも』
『タイシさんと屋台をやれば将来安泰?』
『普通にお店を持てるんじゃないかしら? ふむ……』
『なるほど、でも初期資金とか、ほら、見習いだしあの人』
『ああ、私らの貯金をあてにされちゃうのもねぇ……』
『厨房長~タイシさんこの腕ならすぐ料理担当になってお給料も上がるんじゃ?』
「ん? タイシの給料は今でも一日三百エルに上げたよ、もっと上げても良いんだけど冒険者に対する依頼だからねぇ、直接雇用ならもう二、三割……いや五割上げてもいいかな?」
『五割! それって日に四百以上って事じゃ……』
『え? え? それってもう、中級冒険者並みじゃないの!』
『しかも命の危険がない職場だよね……急にいなくなったりしないって事は……』
『四百以上って俺らの給料より断然高いんですけど……』
『見習い八人分だね……俺らだって四人分は貰ってるけども』
『ええ……今の時点で俺らの倍は貰えるって事? いやまぁこの味が出せるなら分からなくもないけど、しかも仕事の速さがおかしいしな』
『僕らの倍以上は早いですし給料倍も……まぁ納得できますかね?』
料理担当達の困惑と納得の声を聞いた一部のウエイトレス達が、自分の椅子とご飯の皿を持って俺の横の席に移動してきた。
出遅れた子は残念そうに外側に座っていき、俺の周りの密度がおかしい事に。
それと君はなんで俺の後ろに、って背中に二つのハンバーガーが当たっているんですけどぉ!?
「ねぇタイシさん、私と今度デートでもしませんか? 危険な冒険者より安全な稼ぎ口の相談とかしましょうよ、私は良い女将さんになれると思うなー」
「私私、私もデートしたいなー夜のディナーからお泊まりも良いですよ? まずはお互いの相性をみないといけないですよね?」
「私の実家は食材を扱う商人なんですよ! なので食材の仕入れとかお安くできるし子供をたくさん作っても裕福に暮らしていけると思いますよ~?」
「それを言うならうちのお父さんは大工よ、お店の改築や新築も私の旦那なら格安でやってくれるわ! どうかな? 一度デートでもしてじっくり話してみませんか?」
「この押し付けた二つの膨らみは貴方の物になるのよ? 私にしておきましょうよ、ね? 私は冒険者でもまったく問題ないわよ? 男の子は夢をもってるものだしね、イケメンだし、冒険者を諦めて引退しても将来に困らなそうなスキルもあるみたいだし……どうかしら? ふぅーー」
あの、この世界の女子達って肉食系多くないですか?
俺の手をとって恋人繋ぎとかしてくるんです!
太ももを手でスリスリとか!
俺の背中に抱き着いて耳元に話しかけたり、ちょっ耳に息を吹きかけないで!
俺の中の賢者さんが倒れちゃうでしょー!
「いや俺は冒険者を続けるつもりなんだよ、お互いに割り切った遊びならいつでも付き合うけどな、結婚して料理屋とかを始めたいって子とは無理だなぁ、済まんね」
そう返事をすると二人ほど離れていった。
冒険者を辞める気になったら声をかけてねと俺に言いつつな。
そして空いた場所に外側にいた子が詰めてくる。
ダルマ落としか何かだろうか、移動の連携がスムーズだった。
「私はいいわよ、責任を取れとか言わないから一度相性を確かめてみない?」
「むむ……安売りはしたくないんだけど、ここは勝負時な気がする! 私もいいよ! その結果好き同士になればいいんだもんね」
「私はちょっと早いかなぁと思うから、えーとデートとか何回かした後でもいいですか? タイシさん」
まぁ割り切った遊びだと納得してくれるならデートのお試しはありだよな、うんうん。
「おっけーじゃぁまずは相性を――」
「相性がなんですか? タイシさん?」
俺の頭上から氷点下な声が響いてきた。
後ろを見ると、そこには笑顔なのに背中に怒った角ウサギオーラを背負っているように見える狐耳受付嬢がいた。
うむ、良い殺気だな、こいつもかなり強そうだ。
この世界には強い奴が多すぎて、今の所チート無双は出来そうにないです。
そんな狐耳受付嬢が俺とウエイトレスさん達に話しかける。
「早めのお昼を頂きに来たついでに、タイシさんのお仕事具合を担当者として見にきたんですが、職場の方とも仲良くやれているようで良かったですね? あ、そろそろお客さんが入ってくる時間では?」
普通に話をしているのに、何故か体が震えてきそうな気がする狐耳受付嬢の言葉を聞くと
俺の周囲にいたウエイトレス達は『ハーイ』と良い返事をして、そそくさと俺から離れていった。
あれ? 相性デートの話は?
おーい、遊びでいいなら俺は受けるつもりだったんだがー?
と、そこに厨房長が話かけてくる。
「こっちに顔を見せるなんて珍しいじゃないか嬢ちゃん」
「あ、はい、タイシさんは私が担当している見習いでもありますし、何やらその……色々目立っているみたいなので様子を見ておこうかなと……」
そんな狐耳受付嬢の反応を、厨房長はニヤニヤした表情で聞き、そして。
「タイシ、どうせお代わり用に余分に作ってあるんだろ、嬢ちゃんにも食べさせてやんな、あんたもちっとも食べられてないし、嬢ちゃんと一緒に食べてから仕事に戻ってきな、嬢ちゃん、タイシの作った賄いは美味いからね、二人でゆっくり食べてていいからね」
そう言って厨房長は他のみんなを連れて厨房に戻るのだった。
俺は言われた通りハンバーガーセットを出してあげる。
それを見るや狐耳受付嬢は溜息をつき遮音の魔法を使い。
「タイシさん、貴方は目立ちたいんですか? それとも目立ちたくないんですか?」
「そりゃ弱いうちは目立ちたくないけど?」
「こんな料理を作っておいて目立たない訳ないでしょう!」
「ええ? こんなのありふれてるじゃんか、近所のファーストフードに行けば数百円で」
「こ・こ・は! 異・世・界・です! 日本じゃないんですから……まったくもう……」
大きな声を出して喉が渇いたのか、微炭酸果汁ジュースを飲む狐耳受付嬢。
そしてブハッとそれを噴いた、もったいねぇな!
「あーあー勿体ない何してんだよ」
「これ炭酸じゃないですか! こんなの小金持ちからしか飲めないんですから自重してくださいよぉ……」
「ええー? だってエールとかにも微炭酸が入ってたりするだろ?」
「あーいうのは発酵をさせた時のがほんの少し残っているだけで、果汁ジュースに入れるには色々手順とか材料とかで値段が大幅に上がるんですってば」
「なるほどなぁ……そういう異世界あるある知識を教えてくれる優しい人が何処かにいないかなぁー、チラチラッ」
「う……私には監視が……いやでもタイシさんには裏がないから? ……あれ? いけちゃう? ……でもそれだと私の……両親……いやいやいや……」
異世界の情報を教えてくれと遠回しに聞いたら、狐耳受付嬢がぶつぶつと独り言を呟き反応がなくなった、また故障したか。
ブルー君が獣人の耳は気軽に触っちゃ駄目だと言ってたなぁ。
なら動体センサーを起動させるためにも胸でも揉むかぁ、よしいくぞ。
「なんでタイシさんは私の胸の前で手のひらをニギニギしているのですか?」
「そりゃ故障したら叩いたり握ったりしないと駄目だろう?」
「故障とか失礼な、ちょっと考え事をしてただけですよ……って握るってなんですか!」
おお、スルーからの思い出し突っ込みか、見事だなぁ、うんうん。
「まったくタイシさんは……まったくもう……ぅぅ」
急に泣き出した、俺何かしたか?
「なんで泣いてるのかサッパリなんだが、秋の空って奴かね」
「すみません……ちょっとタイシさんとの馬鹿話で、大学の友達との楽しかった頃を思い出してしまって、よく女オタ達で集まってアホな会話をしてたなぁと……」
「なるほど、俺もアニメや漫画は好きだし話くらいなら出来るぜ?」
それを聞いた狐耳受付嬢は俺をじっと見て。
「そうですね、ならその……公爵様にお伺いをしておきますので……その……話し合いデートはそれからという事で良いですか?」
後ろ盾は公爵らしかった、大物じゃんか。
「異世界のあるあるネタを楽しみにしているよ、お礼は金でも体払いでもどんとこいだ、さて、飯食っちまおうぜ」
「はい、楽しみにしておきますね……ご飯美味しそう、ハンバーガー、こちらでは初めてです」
そう笑顔でバクリッと豪快にかぶりつく狐耳受付嬢。
耳と尻尾が嬉しそうにピクピク動いている。
そうそう、ハンバーガーはそうやって食べないとな! 頂きます。
その後も特に問題もなくその日の仕事は終わる。
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