第13話 Fランクのお仕事改

 お早うございますタイシです、今日も良い天気で世界は平和なようで、素敵な事ですね。


 昨日の夜に部屋に帰ってきたが特に何も言われる事は……いや。


 ――


 レッドは『男の子は大変だよねー』と言っていた。


 ピンクは『三年、三年待てば良いんですよね』と言っていた。


 ブルー君は『タイシさんが正常でよかったです』ってお前は俺を何だと思ってたんだ?

 段々と遠慮がなくなってきているよな君、いいんだけどよ。


 ばれないように〈生活魔法〉で匂いとか消して、奇麗奇麗にして帰ってきたんだが……。


 なんでだろうと首を捻っている俺に向かって、ブルー君が。


「タイシさんがスキップしながら、そっち系の場所に向かって行くのを、僕ら三人共一緒にご飯を食べている時に見ましたから」


 な、なるほど?


 ――


 てな事があったが、タイシ昔の事は気にしない。


 収入が一日の食費を除いて五十エルで、休みが四、五日に一回だっけか。

 んで昨日の賢者転職で俺のお財布が半分以下の重さになったから……うーん、もっと安定した収入を模索せねばいかんな。


 これは必要経費だから仕方ないねん。


 守備範囲の年齢じゃないとはいえ、女の子と一緒に暮らすってのは色々ね?

 賢者タイムは俺には必要なのよ。


 そういや、日本のダンジョンから出るスキルで〈賢者〉ってのがあって、効果がまさしくそれだったのがあるんだよな。


 日本の男の子達に恐れられていたスキルで、日本人の男はほとんど競売に参加せず、意味が分かっていない海外のバイヤーが高額で競り合っていて笑い話になった事があったな。

 オークションはスキルの名称しか書かれないルールだからねぇ……。


 だからたまにすごい外れや、逆にすごい当たりがあるんだよね。

 俺の〈指鳴らし改〉みたいにな。


 ……。


 今日の仕事は普段着でいいと冒険者装備を着こんでいない三人。

 武器やら高価な物は一時的に教官が預かってくれるらしい。


 高価な物なんてなんもない俺は、中身がスカスカの背負い袋を預けておいた。

 ちょっと教官に嫌な顔をされたが、でもその中古の鍋はナイフの次に高価なんですよ!


 今は今日の仕事場に向かっている途中で。


「今日はいつもと違う仕事になるんだよなぁ?」


 俺の質問に対して、ブルー君、レッド、ピンクの三人は。


「はい、僕たち見習いに冒険者ギルドの裏側で仕事の手伝いをする依頼が来ました」


「見習いの頃にギルドの手伝いをさせて、その大変さを教え込むらしいわよ?」


「この依頼を受けた見習いは、将来ギルド員に無茶はあんまり言わなくなるとか教官が言っていましたね~」


 それと信頼のない冒険者にはこの依頼は出ないらしく、男の子達パーティは今日も元気に壁の外での魔物討伐に向かって行ったそうだ。


 ……あ、はい。



 きっとギルドランクの上がり方の違いや、指名依頼とかでこの先に差が出てくるんだろうなぁ。


 そんなこんなで辿り着いた冒険者ギルド、そこで俺達に指導する監督者はやっぱりというか、狐耳受付嬢だった。


「では皆さんにはそれぞれの部署に分かれて作業して貰います、遊びではないですので真剣にお願いしますね! では配属先ですが――」


 真剣でキリっとした表情でそう言い放つ狐耳受付嬢。

 側に上司っぽい人がいるからだろうか? いつも受付で爪をいじったり髪をいじったりしながらアクビとかをしている姿からは想像も出来んな、有能っぽく見える。


 そうしてブルー君はギルドが冒険者から買い取った魔物を、買取を希望している各商人へ分配調整する部署へ……ここは交渉能力がかなり必要らしい。

 ブルー君は横で見ていたり呼び出しの手伝いをするくらいらしいが……目の前で交渉を見られるなんて商人としての勉強になるだろうなぁ、あれ? 彼は冒険者では?


 ピンクは解体した魔物を運ぶとかで、体力の必要な部署に。

 身体強化スキルとか現出するといいね。


 レッドは倉庫内の予備武器の補修やらなにやらに。

 武器のお手入れを勉強させて貰えるらしい。


 ちゃんとみんなが成長出来るように割り振っているなぁ、狐耳受付嬢は有能かも?


 ブルー君やレッドやピンクは仕事先に向かい、上司っぽい人もその仕事ぶりを見てウンウン頷きながら離れていった。

 待って! 俺への指示が終わるまで行かないでー!


 上司がいなくなった途端にキリっとした表情から、いつものへにょりとしたやる気のない表情に戻った狐耳受付嬢。


「じゃータイシさんは適当に仕事していてください、私は受け付けに戻りますね」


 仕事をふる事すらされなかった!


「いやいやいや、待て待て、さすがにそれはないだろ、なんで俺だけ適当やねん」


 狐耳受付嬢は俺をじっと見てから。


「だってタイシさんのスキルの現出の仕方がおかしいんだもの、そのスキル達は修行したから出ているって訳じゃありませんよね? なら適性を理解して振っているあの子達と同じには出来ませんよ」


 俺のスキルは〈隠蔽〉でほとんど見えなくしている。

 今の所見えているようにしているのは〈生活魔法〉〈共通語理解〉〈賄い〉〈記憶力向上〉〈詩作〉〈演奏〉〈歌唱〉くらいだ。


 てか狐耳受付嬢は相手のスキルを確認できる能力持ちか。


 吟遊詩人的な物で小銭でも稼ごうかなって思った構成なんだが、こんな少ないスキル数程度でおかしいと思うのか?


「あー……あのねタイシさん、普通の人はスキルオーブがないと、一日一個ずつスキルが増えるなんて事は有り得ないの」


「なん……だと……なら俺の特殊さにギルドが気づいて……くっ逃げるか」


 最後の部分の小さい呟き声を拾ったのか、頭の上の狐耳がピクっと動いた狐耳受付嬢は、周りを見回し人がいない事を確認して、何か魔法を使ってから小さい声で。


「ギルドで気づいているのは今の所私くらいだよ……まったく……仕方ない人だなぁもう……私の祝福で得たスキルは〈人物鑑定〉なの、魔道具なしで相手のスキルを見る事の出来るレアスキルで、悪党に知られると狙われるから内緒にしてね同郷さん、しばらくはスキルを増やさない方がいいよ? 他にも鑑定スキル持ちがいるかもだしね」


 そうこっそりと忠告してくれたのであった。


 さっき使ったスキルは遮音系の何かかな?

 俺も〈生活魔法〉で遮音結界を張っておこう。


「ありがとう借り一つだ、やっぱりお前は転生者か、何処かでじっくり話をする事は可能か? 常識を知らない俺が気を付けるべき事とか色々聞きたいんだが……勿論礼はする、対価は金でも体でもいい」


「私には貴族の後ろ盾があるの、能力が能力だしね、彼らは守ってくれてもいるし監視もしているの、だから簡単にはいかないかな……それと私が転生者ってのは貴方と他数人しか知らない事だから絶対に洩らさないでね? 特に今回異世界召喚で来た学生達とかにはぜー--たいに教えないでね、あの馬鹿共に知られたら私は貴方の情報を世界にばらまくからね? ……後お金は分かるけど体って何よ、エッチね!」


 あの学生らは一体何をしたのだろうか。


 そして体ってのは労働的な意味で言ったんだが……。


「お、おう、了解した、しかしお前の言動を聞いていたらバレると思うんだが……特に『四色戦隊』とか裏切りの五人目とか」


「学生達がパーティ名を聞いても貴方が付けたって思うんじゃないかしら? それに他の人の前ではうかつな事は言っていないから大丈夫よ、私もね……前世故郷の話を存分にしたい時があるの……どうせなら趣味の合う人とね、貴方はある程度まともそうだった……まとも? そうだったから、私に気づくくらいの感性やそのアプローチの仕方なんかを観察してたのよ」


 ……『まとも』部分は大事な事だから二度言ったのでしょうか?


 でもなるほど、そういう事か。


「つまり俺は合格してたって事か?」


「補欠合格ね、まさかデートに誘われるとは思わなかったわ、最初みたいなもっと直接的な感じで言ってくるのかと……この短い期間で私の事を好きになった訳じゃないわよね?」


「そりゃ美人だし好みではあるけども、急に好きになったりはしねーよ」


「そ、そうよね……でも好みではあるのね……っとあんまりここで話しているとよくないわね、ではタイシさんは〈賄い〉持ちだし、ギルドの食堂で下働きでもして貰おうかしらね」


 そう言って歩き出す狐耳受付嬢。


 その横を一緒に歩いて行く俺だが、遮音結界は一応追尾させておくか。


「借りはいつか返すからな、そうだなーチョコとか好きか?」


 そんな風に軽く聞いた俺だったが、歩みを止めた狐耳受付嬢が俺の腕をガシっと掴み聞いてくる。


「貴方チョコレートを持っているの? メーカーは? 味のタイプは? 召喚時に持っていたなら量は少ないのかしら?」


 矢継ぎ早に聞いてきた、待って待って、痛い、腕が痛いから! 身体強化系のスキル持ちだなこれ、イタイってば!


 やっと手を離してくれたが、こちらの返事を待って黙っている狐耳受付嬢さん。


「ああいや、えーとな、今ある訳じゃないんだ、ごめんな、いつか手に入る当てがあったから聞いただけなんだよ、この世界にチョコってないのか?」


「ありますよ、医療用の苦いやつとか、お菓子のチョコだと貴族とかが食べる超絶高級な一袋で三区平民の一月のお給料が飛ぶような奴でいいならですけど」


 あーそういやチョコレートって工場生産しないと高いって聞いた事あるなぁ。


「すまんかった」


 ぬか喜びさせてしまった事を謝っておいた。


「いえ構いません、そんな事より当てがあるんですね? 同人活動のデスマーチ徹夜のお供であるチョコレートさんが手に入る当てがあるんですね? どうなんですかタイシさん!」


 俺の服の胸部分を掴み前後に揺らしながら聞いてくる狐耳受付嬢は、興奮して声が大きくなっている。


 てか、お前同人誌とか描いてたんか? 取り敢えず遮音結界を少し強めにしておいた。


「落ち着いてくれ、俺の中の〈記憶力向上〉に作り方の情報が有るし、パティシエ系スキルが目覚めれば作れるから、それ以外にも当てがない事もないがこっちはいつになるか分からん」


「了解しました、これから毎日タイシさんを〈人物鑑定〉します、材料は何が必要ですか? 値段は? 私の貯えで足りますでしょうか? そうだ……貸しが一つありましたよね……」


 どうしよう、この子の中の何かを目覚めさせてしまったようだ……。


「そんな事で貸しを返そうとか思わないから、出来るようになったら優先して教えるから落ち着け、な?」


「ふぅー……約束ですよ? ふふふ、チョコレートかぁ……退屈な日常に楽しみが出来ました、待っていますねタイシさん!」


 今まで一番良い笑顔で、そう言い放った狐耳受付嬢だった。


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