第12話 Fランクの訓練

 お早うございますタイシです。


 昨日でFランクに対する壁外調査依頼を受ける事三回目だった。

 収入は大体同じくらいの六十エル前後という所で、飯代が一日十エルとちょっと。


 一食堅パン一個ずつなら一日三エルで済むんだけど、とか笑いながら言っていた三人娘含む女子共には、栄養の概念を軽く説明してやった。


 栄養不足で体調を崩して魔物の攻撃を食らってケガでもしたらどうすんねんと、コンコンと説教じみた事を言い。


 栄養を取らないと髪に艶もなくなるし、オッパイも大きく育たないぞと説明を続けたら『ちゃんとお金を使ってお野菜も肉もいっぱい食べるよ』と彼女達は反省してくれた、よきよき。


 でもその後に彼女らが続けた言葉が『だからタイシさん美味しく料理お願いね』となるのは、それは少し違わないか?


 色々食べるには色々な調理法を知ってそうな人がやるのがいいって?

 むむ……俺の料理で大きくなったら揉んでもいいだと!?

 ……そういう事は五年後に言ってくれよ。


 後でブルー君に男冒険者のそっち方面の解消はどうしているのか聞いておこう、俺も若いからね……。


 で、冒険者は適度に休日を挟むべしとのギルドからの教えがあり。

 見習い宿舎にいる人は必ず休みの日を取る事になっている。


 今日がその休みの日らしい、だがしかし冒険者ギルドの鍛錬所で職員が有料で鍛えてくれる授業があるっぽいのだが、宿舎の人間が休みの日は格安で受けられるとかなんとか……。


 それってもう自分の意思でお金を払ってでもきっちり修行やらで鍛えるかどうかを、ギルドに観察されてるよね?


 俺ら『四色戦隊』は勿論、三人女子も授業を受けに行く事になる。


 やっぱりというか、男だけのパーティはお休みで遊びに行くらしい。


 ブルー君が彼らとは合わないと言った事も納得だな、まぁ彼らは戦闘スキル持ちばかりなので食うには困らんのかもだけどな。



 ……。



 ……。



 冒険者ギルドに着き、いつものFランク専用受付へと歩いていく。

 あ、冒険者ギルドの中は基本的にはフードをかぶっています。

 学生共に見つかると絡まれそうでいやなのよね。


「おはようさん狐耳受付嬢さん、今日はギルドの鍛錬所で教官達の授業を受けようと思むんだけど、どうやったらいいのかな?」


「お早う御座います『四色戦隊』と『三人が狩る』のみなさん」


 三人娘のパーティ名そんなんだったの?

 メンバーが増えたら数を増やししていくつもり? なるほどねぇ、まぁ分かりやすい名前でいいんじゃないかな。


「今空いている教官はこの人達ですね、それぞれ得意な事が違うので学びたい事がある人にお願いする感じで、皆さんは格安サービスが適用され午前中は銅貨五枚で教えてくれますよ! 普通は十倍以上するんですからね?」


 そう言って教官達のプロフィールが書いてある用紙を何枚か見せてくれた。


 ふーむ、俺はまだ戦闘スキルがこの世界に馴染んでないんだよな。


 どうもスキルが世界に馴染むって、全てのスキルを一斉に馴染ませているんじゃなくて、弱めのスキルから順番に馴染ませている感じなんだよね。

 出来れば戦闘スキルと倉庫を先にやって欲しかったなぁと思う……。




「僕はこの斥候系の教官でお願いします」


 ブルー君は斥候系か。


「じゃぁ私は盾術を教えてくれるこの教官でお願い」


 レッドは盾術ね。


「私はえーと、じゃぁこの花嫁修業が出来る教官でお願いします!」


 ピンクは花嫁修業か……ってなんでやねーん!


 ……よく見たら礼儀作法を覚える事が出来る教官だった。

 Dランク以上からある護衛任務とかを受けるには必須と書かれている……まぁいいか。


 三人娘もそれぞれ使いたい武器スキルの発現を目指すらしい。


 彼女らのスキルはそれぞれ〈索敵〉〈気配感知〉〈隠密〉だったかな?

 ……いやもう戦闘系のレッドとピンクと組めばよかったんじゃね? と思ったのだが。

 どうやら冒険者として目指す地点が違うようで、方向性の違いから組まなかったらしい。


 ……君らはガールズバンドか何かか?


 いやまぁ無理して組んでも先がないのは分かるけども、じゃぁレッドとピンクは一時的な仮パーティとはいえ、なんで俺らと組んだんだって話だよな?


 んで俺はまぁそうだな、泊りがけの依頼のための野営の知識について学ぶか。


「じゃぁ俺はこの野営知識の人で頼む、それと狐耳受付嬢って仕事が終わるのは何時なんだ?」


「はい、ではみなさんの予約を承ります、情報はすぐ送っておくので鍛錬所に行けば受けられますのでよろしくお願いします、私ですか? 夕ご飯前くらいにあがりですね基本日勤なので、それが何か?」


「じゃぁよ、仕事が終わったら俺とでもしないか? 何処かで飯でも食いながら二人っきりで話でもしようぜ?」


 鍛錬の話をしていた周りの子らがピタっと静かになり。


「美人受付嬢狙いとかタイシやるわね!」

「タイシさんってそういう欲求がないのかと僕は思ってました」

「おっぱいですか、やっぱりおっぱいの大きさですかタイシさん! マイナス二十ポイントです!」

「「「見習いでギルドの受付嬢を狙うとかタイシさん勇者だね」」」


 狙いは別にあるけどな。


 そしてブルー君、俺も若い男だから! 我慢しているだけなんだよ。


 狐耳受付嬢はおっぱいでっかいもんなぁ……ピンクは……きっと成長期なんだよ、これからは栄養のあるご飯をたくさん作ってあげるからな。


 狐耳受付嬢は俺を胡乱な目で見てきて……しかし一転、楽し気に語る。


「いいですねタイシさん! 実は私ディナータイムで一食百七十エルのお店に行きたいと思ってたんです、誘ってきたのだから勿論全部奢りで、エールじゃなくワインも頼んでいいんですよね?」


 ニコニコしながらそう言ってきやがった。


 おまっ! ……今の俺の貯蓄が四百四十エルって所だ。


 俺の財布の中身を知っているかのごとくの攻撃だな、今回は諦めるか。


 こいつ絶対転生者だと思うんだよなぁ……会話に含まれるネタが日本のオタクっぽいんだもん……。


 〈空間倉庫〉が使えるようになったら目の前に高級チョコとか置いてやろうかしら?


「済まん、俺の稼ぎじゃぁ、そこは無理だな、また別の機会があったら誘う事にするよ」


「はい、非常に残念ですタイシさん、次があるなら一食二百五十エルのお店にしましょうね」


 ハードルが上がったようだ。


 楽しそうに笑いやがってこの狐耳め、いつかモフモフしてやるからな!


 俺の稼ぎが上がったら店の値段も上がっていくんだろうな、しかし三区にある店の上限なんてたかがしれてるわい、いつかお前と尋問デートしてやる。



 ……。



 ――



 鍛錬所に着き皆別れてそれぞれの教官の所へ、俺に野営を教えてくれる教官は、元冒険者っぽい強面のおっさんだった。


「では早速説明していくぞ」


 教官は挨拶すらせず説明に入った、せっかちな人やなぁ、別にいいけども。


 鍛錬所の裏手にある広大な空き地には、土が盛ってあったり、三方に壁があったり、足場が悪かったり、丸太が置いてあったり、色んな設備や状況が備えてあり。


 練習やら対戦やらしている冒険者に、教官っぽい人に教えて貰っている人も、ってかレッドとかブルー君や三人娘もいるね、ピンクだけ礼儀作法だから室内なのかもしれない。


 空き地の隅っこにわざと整地も雑草抜きもされていないような小さな林っぽい場所があり、そこで説明を受ける俺。


 ふんふん、地面に直接だと体温が取られちゃうのね?

 へー自然の木の枝とか利用する事でポールが要らないんだねぇ。


 あ、火種は〈生活魔法〉あるので、水も大丈夫です。


 ふむ? 魔素の揺らぎを感知する魔物? 隠密性も高い魔物って、それはまた……〈気配感知〉スキル持ちとかが欲しくなりますね。

 糸で罠を? なるほどなるほど、奇襲さえ防げれば良いですもんね、勉強になるなぁ。


 ご飯作りは大丈夫です、え、これも食べられる野草なんですか?

 外でたくさん見かけましたが皆何も言わなかったんですが?


 ……いやそれは……最終手段ですねハイ、普通に美味しい野草をお願いします。

 へーこれも畦道や外壁の外で見かけた気がします、なんと! 火を十分通せば毒が消えて食べられると?


 メモは大丈夫です記憶力が上がるスキルがあるんで、はい有難うございます。


 野外ではそんな事も……他に実際の依頼だとどんな状況が……はい……なるほどー……でもこんな事になりませんか?

 あーはいはい上手い具合にみんな考える物ですねぇ。


 そんな書物がギルドの勉強部屋に? 読んでみたいです。

 って高くないですか? ああ返してくれるんですね、今度読んでおきます。


 あ……それでその……野営とは関係ないかもなんですが、ちょっとお聞きしたい事があるんです。


 ……ゴニョゴニョ……え? 男女混合パーティならちゃんと考える必要があると、そうですか、そうなると、ふむふむ、そんなパーティもあるんですねぇ……。


 うちはそういうのじゃないので……ええ、はい俺も若いですし……え……教えてください! お願いします何でもします!


 ……なるほど……相場は……分かりました! ってもう時間でしたか。

 く……もっとお話を聞きたかったです……ご指導有難うございました!


 大変勉強になりました!



 ……。



 ……。



 ふぅ……大変ためになる時間だったな。

 

 ブルー君達も終わったらしいが、休みの日は自炊をせずに各自適当に食べる約束なんだ。


 なので俺は一人で移動する。


 何処へって? それは……。


 そう娼婦街に向けて! いや俺も若い男だしね……色々ね……。


 この国のそっち系の仕事は国への完全登録制で、雇われや奴隷であっても待遇や値段も細かく規定されて店側が搾取出来ないようになっているんだってさ。

 ダンジョンに行く冒険者は国にとって大事な収入源であり、それらが落とす金の行方にもきっちり網を張って、各種ギルドでしっかり手綱を引き締めているらしい。


 仮に規定を破っている店があると、国で数の上限が決まっている登録者を引きずり下ろすチャンスとばかりに、周りの商人から情報が国へとすぐ届けられるらしい。


 そんな密告情報があると権利者は国に罰せられて登録権が一つ浮く訳で、すると登録の優先権が情報提供者の物になるんだとか。


 勿論自分の子飼いの悪党を相手の店に送り込んで悪さをさせて密告なんてのもあるらしいが……まぁこの世界に審議官ってのがいて、嘘を見抜くスキルを使った審議があるらしいのよね。


 なのでそういう事をしたのがばれた商人は首がバイバイするらしい。


 借金奴隷にしてみたら素早く借金を返済する道として、はたまた普通にお金を貯める手段としても娼婦や男娼は人気がある職業とかなんとか……。


 夜は混んでいるらしく、昼飯後に開く店は早く行けば空いてるとの事で、教官が俺の今のお財布事情を聞いてから、お勧めの場所を教えてくれた。


 この野営の知識を教わりに来て本当によかった!


 はっ! ……もしや! 他の教官にも話を聞いてみるべきじゃないだろうか?


 ……ごくりっ……これは休みの日の鍛錬が楽しみになってきたぞー!


 そそくさと娼婦街に向けて歩いていく俺の足取りは、ついつい〈スキップ〉スキルが発動してしまっていた。


 タイシも男の子だからね、仕方ないね。


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