第11話 Fランクの報酬

 異世界人だと告げた後に、なんやかんやで魔物の駆除兼狩りと調査をしながら歩いていく俺達。

 途中で飯になったので堅パンを齧る、もう色々ばれているので〈生活魔法〉で水分を含ませ電子レンジ的な奴で中からふっくら……とはいかないが多少柔らかくしてやると皆喜んでくれた。


 この美味くない黒パンって冒険者御用達なの? みんな同じだし。


 まだまだ成長期のこの子らの食事がこれでは良くないなぁ。

 かといって金も無いスキルも無いの無い無いタイシだからな、ぼちぼち考えていくしかないね。


 お昼が終わったら引き返すらしい。

 この先の門まで行って中から帰るのは?

 ……遠いから時間的に厳しいらしい、第四城壁どんだけ長いねん。


 壁の外側も特に異常なく、帰り道は魔物も少なく安全に帰る事が出来た。

 門のおっちゃんに挨拶して入っていくのだが、出入りで身分証とかのチェックないんだね? ああ、二区に入るのには必要なのね。


 うーんしかし荷物が重い、角ウサギ一匹で三キロ以上はあるだろこれ、それが二十以上だもんなぁ。

 他にも獲物はあるし、雑魚スキルがこの世界に馴染んで俺の基礎能力が上がってなかったらへばってただろうな。


 ……。


 そうしてしばらくの間歩くと、冒険者ギルドの裏側の方に買取所はあった。

 獲物のランクごとに場所が違うらしく、倉庫みたいな建物が連なっていて獲物を担いだ冒険者でいっぱいだ。


 四人で列に並ぶ事しばし、俺達の順番が回ってきた。


「お疲れさま、ここに獲物を出してくれ」


 ガタイの良い中年の男の人が買取担当で、買取査定は揉める事があるから元冒険者とかを雇っているんだってさ、ごろごろっと角ウサギやらの獲物と魔石を出す。

 すると男は慣れた様子で素早く査定していく。


「全部で百二十エルって所だな」


「はい、ではそれでお願いします」


 ブルー君は値段に文句を言う事もなく即決で決めていた。

 その場で買取のお金と依頼書に獲物の数を書いてサインして貰い、冒険者ギルドの受付を目指し表通りに向けて歩いていく。


「値段はあれで適正なんだね? ブルー君」


「はい、買取所は冒険者ギルドと商業ギルドの共同経営ですし、文句を言ったら目をつけられるだけで得な事は一つもありません、それに個人でそこらの飯屋とか皮屋に売っても相場を知っている彼らの値付けは変わりませんよ、よっぽど珍しい素材なら別かもしれませんが」


 そんなもんかね、解体していない三キロのウサギ一匹で銅貨三枚から四枚の間って所か……毛皮と可食部が一キロとして……いやまぁ、細かい計算はやめとくか。

 そんなもんだと記憶しておこう。


 ……。


 冒険者ギルドの登録&Fランク用受付は相変わらず暇そうだ。

 狐耳受付嬢は大あくびしているし、美人が台無しだよな。


 依頼終了しました、とその台無し美人にブルー君が依頼書を出している。


 狐耳受付嬢は数字の確認をしてから。


「お疲れさまです『四色戦隊』の皆さん、調査も特に問題なしでしたか、ではこちら調査が七十二エル、駆除が四十八エルですね」


 駆除の数と色々合わないがどういう計算なんだろう。


……。


 市場に向かいながら聞いてみたら、税金を引かれるらしい。

 獲物の買取の時も勝手に引かれているのだとか……世知辛いなぁ。


 四人の稼ぎで二百四十エルだから、一人六十エルか……パンが六十個買えるが、三区の宿賃の平均が四十エルだから……。

 うんだめだこれ、タダの宿舎がなきゃ詰んでるかも。


 もっと安い宿もあるらしいが、おっちゃん兵士がそういう所は危険だって言っていたけど……地元の人がそう言うのなら安い宿屋は計算に入れちゃ駄目だよな。


 ブルー君やレッド達にそこら辺を聞いてみた。


 そしたら冒険者用の宿の中には、何人で泊まっても同じ値段という場所が多いらしい。


 ああなるほど……狭いのを無視すればパーティで割り勘が効くのか。

 四人なら宿賃一人十エルか……今日の稼ぎが六十エルだから五十エル残るな。

 飯代を抑えればギリギリ貯蓄も出来るか? それでもきっちぃなぁ。


 市場に着いたので買い物を、って、あー新鮮な野菜は朝に買わないと駄目なのか……根野菜を何種類かと塩や中古の小さい鍋を買った。

 それで俺の今日の稼ぎが吹っ飛んだ、ハハハ。


 三人からは食材費を割り勘、鍋は俺の物って感じ。


 色々と物資が入っている俺の〈空間倉庫〉さんは、この世界に馴染むまでまだまだ遠そうなんだよなぁ……。


 宿舎に帰ってきた俺らは一旦部屋に戻り、服や荷物に付いた魔物の血と、汗でぐっしょりな服を〈生活魔法〉でパパッと奇麗奇麗にしてから炊事場に向かう。

 ブルー君とレッドとピンクの理不尽な物を見る目がすごかったが。

 いいじゃんか、便利で簡単なんだから使えるものは使おうぜ?


 炊事場に着くと、料理は主にピンクが担当していたとの事で、ブルー君とレッドには持って帰った角ウサギ二匹の解体をお願いした。


 その間にピンクと料理手順の相談をしておく。



 ……。



 ブルー君とレッドが拙いながらも解体した角ウサギの肉を持ってきたので、受け取りながら。


「タイシと」

「ピンクの」


「「簡単クッキング~」」


 パチパチパチパチパチ、俺とピンクの二人で拍手する。


「はい、そういう訳でピンクさん、今日もやってきました簡単クッキングのお時間です」

「はいタイシさん、簡単に料理する簡単クッキングですね!」


「その通り! まずはこの解体された二匹の角ウサギから肉部分を外していきます」

「うわーそれは大変そうですね~タイシさん」


「そう思うでしょう? そこで今日はすでに肉部分を外しておいた物をご用意……出来ませんでした!」

「手分けしてやりましょうかタイシさん」


 そうしてピンクと一緒に骨と肉を分けていく。


「えっと……ナニコレ?」

「僕に聞かないでくださいレッド」


 レッドとブルー君は困惑しているが、俺はそれをスルーした。


「はい今日はまず、こちらの角ウサギの骨から出汁を取っていきます」

「出汁ですか? 調理スキルを持っている人は骨も使うと聞いた事がありますけど……」


「こちらの骨をまず大きな鍋……鍋……大きな鍋どこ?」

 俺が買えた中古の鍋は、携帯出来るくらいの大きさだった。


「私達の鍋もそんなに大きいのはないですね、骨捨てちゃいますか?」


「そこでこの簡単異世界型〈生活魔法〉さんの出番です! 大きな鍋型の結界を作り出し、その中を水で満たし骨を入れて加熱します、結界を閉じ軽い圧力状態にしてしまいましょう、圧力が強すぎると結界が壊れるので適度に湯気を抜いてください、その摘んできたハーブも入れちゃいましょう、気をつけないといけないのがピンクさん、これをやっている時に殺意や敵意を出さない事です、魔法が強制解除されると大惨事になりますからね?」

「タイシさんは私に殺意や敵意を出されそうな事に身に覚えがあるんですか?」


「さて、こちらで出汁を取っている間に、根野菜を切っていきましょう、調理器具が鍋くらいしかないと煮込み料理しか選択肢がないですね! 悩まなくて済むので非常に簡単です」

「なるほどー簡単クッキングって、選択が簡単って意味だったんですね! で、タイシさん質問に答えて貰っていないんですけど?」



「ねぇブルー、ナニコレ?」

「僕に聞かないでくださいよレッド」



 そんなこんなで簡単に作った根野菜とウサギ肉の塩ハーブ味煮込みと、残ったウサギ肉で定番の串焼きを作ってみた。

 骨出汁のアクの取り方とかをピンクに丁寧に教えていく。


 この前交換したスープはちょっと量が少なかったんだよね。

 小さな鍋の中身を四人で分けたから、なので今回は俺の鍋も入れ物に使って倍作る事にしたわけだ。


 ブルー君が俺に声を掛けてきた。


「あの……タイシさん、今回まったくかまどというか火を使っていないんですが……」


「実は異世界型〈生活魔法〉さんがあれば調理に火とか要りません! でも質の良い木炭とかを使えればそっちの方が串焼きは美味しくなるかなぁと〈賄い〉さんとか〈板前〉さんとか〈クッキング〉さんが言っている気がする」


「タイシさんの〈生活魔法〉が理不尽すぎる! そして何かスキルが増えてませんか!?」

「私の〈生活魔法〉と交換して欲しいわぁ……」

「タイシさん素敵です! 十ポイントアップ!」


 ブルー君とレッドとピンクがそんな事を言ってきた。


 理不尽なのは生活の質が日本と異世界で違うせいだろね。

 増えているのは、まぁ時間がたつとどんどん馴染んだスキルがポコポコ増えていくからだ。


 スキル交換は無理です、そして、ピンクのお嫁さんポイントの数値がインフレから元に戻っていて良かった良かった……。


 ……ん? 良かったのか? いやそもそも上がったら駄目だろう!

 千ポイントのショックが大きくて麻痺しちゃってたよ。


「それじゃまぁ頂きます」

「女神様に感謝を捧げ頂きます」

「「頂きます!」」


 肉串は前回より多い十六本に増えている、一人四本だぜ!

 肉が角ウサギ二匹分だしね、スープも倍以上作ったしこれならお腹一杯満足に食べられるはず!


 とそこへ。


「「「わー良い匂いね~何作ったの~?」」」


 三人娘が野菜やら角ウサギやら鍋やらを持って炊事場に入ってきた。


 えーと三人共こんにちは、俺たちはこれから食べる所でして……ええ……ええ……ええ?

 ……確かに今度ご飯でも食べようねとは約束しましたが……えっとそうだね……じゃぁ一人四本ずつ、全部で十六本あるからって、あれ?


 ……お皿の上の肉串はすでに四本しか残っていなくて、レッドとピンクとブルー君は自分の分を確保していた。


「……君たちも一人一本どうですか? あ、うんお返しに堅い黒パンをくれるのね、ワーイ嬉しいなぁ……」


 そしてなんで俺に君たちのお野菜や角ウサギを手渡されるのでしょうか。

 スープ分けて上げるから作ってくれと?

 いやいやさすがにそれは……なんでレッドとピンクとブルー君は賛成しているのさ、さらにスープが飲めるから?

 作るのは? 俺ですね……ハイ、作ります。


 ってまだ食べてない俺の串焼き一本を巡って六人でジャンケンっておかしくないか!?


 ……。



 ――



 追加で作った料理の振り分けで、俺の分はかなり多めにしてくれました。



 ……



 ――



 いつのまにか三人娘ともご飯を共にした訳だが、何故かその流れで俺たちの部屋に彼女達がついて来た。

 君達何しに来たの?


 俺が手品をして騒がれて教官に怒られるのは嫌だって言ったら、他の物でも良いって言うんだよ。

 ……いやいや、俺にそんな娯楽の引き出しはないからね?


 え? イケメン? 格好いい? 頼りになる? 嫁にしたい?


 しょうがないなぁ……って最後の誰が言った!?


 じゃまぁ、お話を聞かせるくらいなら静かに出来るでしょ。


 それじゃぁ〈詩作〉〈歌唱〉〈演劇〉〈役者〉〈ノリ突っ込み〉他諸々使えそうなスキルを使って、舞台装置的な照明の色変えは〈生活魔法〉さんでっと。


 ではでは桃太郎をアレンジした「テイマー太郎」の物語を披露!


 昔々あるところに、太郎という――

 お爺さんお婆さんから支度金を貰った太郎は――

 テイマーとして冒険者に――

 魔法使いに玉手箱を――

 小さな妖精とスライムとウッドゴーレムを仲間にし――

 悪いオーガと小狡いゴブリンの守る――

 そこで太郎が大ピンチに! しかしてそこに流れの冒険者が――

 形勢は大逆転、だが狡いゴブリンによりピンチになった冒険者を今度は太郎が――

 そうしてダンジョンの奥でお宝を見つけて――

 お爺さんとお婆さんは大喜びで――

 流れの冒険者が兜を脱ぐと長い髪の毛がばさりと外に出て――

 こうしてめでたく下級貴族の三女と結婚した太郎は――

 開拓地に代官として赴任する事に――

 太郎は次々と襲い掛かる代官地の難題を退け――

 美人な嫁と沢山の子供、そしてテイムした魔物に囲まれて――


 幸せになりましたとさ……めでたしめでたし、おしまい。


 ふぅこんなもんだろ。


 えっとみんなからの反応がないな。


 おーい終わったよ~? 呆けている六人の前で手を振ってみる、すると。


 ふとレッドが何か力を貯めてから吐き出すように。


「すっっっっごい面白かったよタイシ! テイマー太郎すごいね! お宝がいっぱいで羨ましいなー、助けて貰った貴族三女の人を逆に助ける所は格好良かった!」


「初めて聞いた話ですけど面白かったです、僕なら代官になった後にそんな施策は思い付きませんよ! 逆転の発想というやつですね、勉強になります」


「三女のお姉さんを引き留めてキスしながらプロポーズする所は最高でしたタイシさん、二十ポイントあげちゃいます! タイシさんも子供がたくさん欲しいですか? 私頑張りますね!」


「「「すっごい面白かった! テイマーってそんなにすごいの!?」」」


 レッドの言を切っ掛けにみんなが騒ぎ出す。


 シー! シー! 教官に怒られるからね? もう少し小さい声でお願いします!

 うん、手品の時と同じでやりすぎたね!


 テイマーって魔物を従えるから街に入り辛いし、スライムを使った清掃浄化の仕事や、弱い鳥系の魔物で連絡をしたりとか、あんまり目立たないらしいんだよね。


 インフラの一つとして必要だから仕事にあぶれるって事はないみたいだけど、高位冒険者とかには成りづらいらしい。

 テイマーの冒険者はまったくいない訳でもないみたいなんだけどもね。


 うん君達、感想をお互い話すのはいいんだけど、もう少し静かにし――



 ガラッ! ドアが開かれた音がして。


「うるせーぞガキども! 夜は静かにしろって言ったよなタイシ!」


 名指しで俺が怒られた、まあ最年長だしね仕方ないね。


「申し訳ありません教官!」


 代表して頭を90度下げておいた。

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