第9話 Fランクのお仕事
お早うございますタイシです。
昨日は教官に怒られるし、女子に増える銅貨を交換してくれと頭を下げられるなどで大変でした。
手品にはタネがあるのだと、彼女らに騒がないように教えるのに苦労しました……。
日本だと不思議な現象を見せられると、タネがあるんだろうなぁと思う事でも、魔法のある世界だと、本当にあると思ってしまうのかなぁ?
でもまぁ二区だと大道芸とかあるみたいで、ブルー君が一緒に説明してくれた。
三区くらいだと金にならんのか、そういう娯楽は少ないみたい。
吟遊詩人とかは、酒場とかにたまにいるようだけどね。
トランプとかリバーシとか、諸々な娯楽は有るって四男文官さんに聞いたんだがなぁ?
……ブルー君いわく、そういうのは裕福な平民層以上で流行っているそうで……なるほど。
レッドやピンクは三区の、三人娘は王都近くの農業都市出身らしい。
まぁ三区もほとんどが農家らしいだけども。
女性陣に子供の娯楽を聞いてみたら、ジャンケンとか、おままごととか、かくれんぼとか、鬼ごっことか、チャンバラだった。
農家の大人の場合は酒宴とか後は……まぁ農家は子供が多いらしいからな……。
うん、そういう事らしい。
そら、俺の手品で大喜びもするわな……。
十三歳の成人から入って来るような見習いは、農家の収穫の手伝いとか子守りとか掃除とか三区内で安全な仕事をやり。
そうする事で依頼を受けるという事に慣れるらしいのだが、俺以外の三人はそういうのはほぼ終わっていて、三人以上のパーティが組めれば第四城壁の外に出ても良いらしい。
そして俺は年が年なのでお手伝い系はパスされ、四人パーティでいきなり外に放り出される訳だ。
今はブルー君が教官に依頼の話を聞きに行ってる。
「心配しないでよタイシ! 私達が守ってあげるから!」
レッドは元気にそう言ってきた、ピンクもそれに続き。
「タイシさん楽しみにしててください、私の槍裁き見せちゃいますからね!」
そう言って俺の前で冒険者用の装備に着替える二人。
ドロワーズとはいえ下着姿とか恥ずかしくないのかね君ら……男女混合パーティでいちいち恥ずかしがってたら駄目って事かね?
そこにブルー君が扉を開けて外から帰ってきた。
「ちょ! ブルー! 私らが着替え終わるまで入って来ちゃ駄目よ!」
「もうブルー君ってば、女子の着替えとか覗いちゃ駄目ですよ~」
あの……俺が一緒の部屋にいるのはいいのでしょうか?
……いいらしい、魅了のスキルとか持っていないはずなんだが、手品がそんなに気に入ったのかね?
着替えも終わったのでブルー君を迎え入れ、荷物を整理して出かける準備。
昨日の夜にレッドに糸代込みで銅貨を数枚払い、裁縫道具を借りてフード付きハーフコートを馴染んでいた〈裁縫〉スキルで改造した。
袖が幅広で邪魔だったので、袖無しのフード付きハーフコートに改造。
暑さは生活魔法で戦闘中以外はどうにでもなるし、常にそのハーフコートを着ている事にして、取り外した袖で大きめの頑丈な巾着袋を二つ作ってみた。
さてこれに何を入れるか考え……考え……あのレッドにピンクさん?
そんな欲しそうな顔されると……使いますか?
……はい、ではパーティ結成記念? としてプレゼントしますね。
ブルー君! 布やら仕入れて売るとか計画しないで下さい! 俺は内職とかしないからね!?
今日はまず冒険者ギルドで依頼を受けるらしく、流れを知るって事だね。
行きがかりに適当な背負い袋を一つと、獲物や収穫物を中に入れる革袋やら必要そうな物を三人に聞いて買い求める。
背負い袋に全部仕舞える諸々の雑貨が合計で大銅貨十三枚、腰の腹側に装備した小ぶりのナイフが銀貨一枚……残金三百五十五エル。
やべぇ稼がないとな……これでもブルー君も手伝ってくれて値引き交渉したんだぜ。
そしてご飯用のパンが二個で二エル……は女子二人が巾着のお礼にと奢ってくれたので背負い袋に突っ込んでおく。
まともな武器はまだ買えないし、まともな戦闘スキルもまだありません。
冒険者ギルドに着いた。
「早朝でもそんなに混んでないんだな?」
「買取所とかは別にありますし、それに依頼を受けないでダンジョンに潜る人の方が多いんじゃないかな? 外の買取所は時間によってそれなりに混むそうですよ」
そうブルー君が教えてくれた、なるほど。
ギルドの中に入りFランク用の受付とやらに向かう。
あらま、狐耳受付嬢さんの所じゃんか。
ブルー君が仮のパーティ申請と外周の調査と魔物の駆除依頼を受けている。
依頼料は出来高制なのね、え? パーティ名?
そんなの『仮パ』とかでいいんじゃない? 駄目ですか、そうですか。
……わいのわいの四人で話し合う事十分くらい、ちなみに俺は話し合いに参加していない。
そして狐耳受付嬢さんのプレゼンが勝利し、全員の髪の色が違う事から『
「なぁ狐耳受付嬢さん、あんた転生者じゃないだろうな?」
他のパーティメンバーに聞こえない小さい声で聞いてみた。
しかし彼女は俺の質問に返事をする事はなく、俺らを送り出した。
「頑張ってね
ちょっ! お前やっぱり異世界知識継承型の転生者だろ!?
俺以外の三人はキョトンとしてたって事は、こっちにない文化の話だよなぁそれ!
まってくれ三人とも俺はあの女とちょっと話が……って腕を引っ張らないでくれレッド、そして誰が浮気者だピンク!
俺は誰とも付き合っていないわい、ブルー君? 他人の振りをして一人だけ先にいくのはずるいぞ!
そしてマイナス二ポイントはありがたい!
っとギルドの外に引っ張られていたが素早くフードを被り、レッドに腕を掴まれピンクに背中を押されて連行されるのに逆らうのは止めて、そそくさとギルドから出て行く事にした。
外に出る瞬間に黒髪の集団とすれ違った気もするが、きっと気のせいだろう。
はよブル―君に追いつかねば、ほれほれさっさといくぞ二人共、ほら止まるなってば。
「あーあれって昨日来ていた異世界人の団体だ、みんな真っ黒髪ですごい集団だよね」
「そうだねー、でもちょっと昨日に比べて元気ない感じもするね、髪の艶もないし……そういえばタイシさんの髪ってやけに艶々しているよね?」
そりゃ俺には日本式〈生活魔法〉さんがいますから?
服も髪の毛も全部奇麗になりますよね、まぁリンスみたいなコーティング剤をしているのには勝てないだろうけども。
ピンクに髪の毛を見られながらブルー君に追いつく。
そして四人で第四城壁の門に向けて歩いて行く……フードは途中で外した。
ついでに少しレッドとピンクに質問してみる。
「レッドは剣でピンクは槍が武器なんだな」
レッドは分厚い布の服の上から皮の鎧を装備し、各関節やら足やら腕を巻くように皮の部分鎧を装備していて、暑そうに見える。
「うんそうだよ! 私は〈剣術〉と〈生活魔法〉と〈身体強化〉持ちだからね~」
レッドは戦闘特化とも言うべきスキルだった、すげぇな。
ピンクも分厚い服で、レッドに比べると皮鎧部分が少な目な感じ。
「私は〈槍術〉と〈生活魔法〉ですね~」
なるほど、ブルー君を見る。
「僕は〈投擲〉……だけです」
ああいやうん、俺も言うべきなんだろうが困ったな、少しだけ言葉を濁すか……。
「俺は今の所戦闘系のスキルはないんだ、有用なのは〈生活魔法〉と〈賄い〉くらいかなぁ?」
今の所と言っているので嘘にはならん。
「へー〈賄い〉なんて初めて聞くスキル名だけど、料理系って感じだよね、だからウサギ肉の串焼きが美味しかったんだね~」
「主夫もありですよタイシさん、五ポイントアップです」
主夫はないですピンクさん。
「タイシさんは冒険者より料理屋の主人とかのが良いかもですね、僕が出資するので屋台からやってみませんか?」
「俺は冒険者になりたいんであって、内職をしたり主夫をしたり料理の屋台とかを本職にはしません」
本職じゃないならいいんですねと、ブルー君が言い。
そんなに力強く嫁を引っ張る夫になりたいだなんて、とピンクが言う。
そして五ポイントアップした。
ちょっとピンクさん? 冒険者や主夫になってもならなくてもアップしていくんですけどぉ!?
誰かピンクの攻略サイトを作ってくださーい、そして俺にマイナスポイントになる選択肢を教えてください! 有志の方お願いします!
「まぁ俺はポーター的な事をする感じでいいのかね」
「タイシさんは戦闘系スキルを何か覚えるまではそれがいいですね、僕はいつか〈索敵〉とか覚えて斥候系になれたらなと思っています、余裕が出来たら弓も習いたいんですよね」
ふむふむブルー君はレンジャー系を目指しているのか。
「タイシは料理という役目があるじゃないの、戦闘は私にまかせてよ! お父ちゃんに教えて貰って〈剣術〉も発現したんだよ! いつか〈盾術〉も欲しいわね~」
レッドは祝福で〈身体強化〉を貰ったのかな?
修行してスキルを発現させるには才能が必要だと聞いた。
誰でも同じくらい修行すれば同時期に手に入る訳じゃないっぽい。
スキルオーブはそんな法則も無視して覚えるらしいけども。
「縄はいっぱい持ってきましたので、獲物をたくさん持って帰りましょうね、頑張るタイシさんに三ポイントです!」
ついに何もしなくても上がるようになってしまった。
ゲームオーバーまで後何ポイントですか?
そんな雑談をしながら第四城壁の門に近づいていくのだが、この方角の門って……あ、やっぱり馬車で話した兵士のおっちゃんが門衛として立っているね。
そこへレッドが急に『お父ちゃん!』と叫び、手を振りながらおっちゃんに向けて走り出した。
追いかける俺達。
するとレッドとおっちゃんは仲良さそうに話をしていて、俺を見たおっちゃんは。
「おう若いの! 無事に冒険者になれたようだな、ってうちの娘と一緒にいるって事はFランクからなのか? ……あーなんだその、あれだ、生きてりゃ良い事もあるだろうし頑張れや」
レッドがそれに続くように。
「そうそう、生きていれば良い事もあるわよ! タイシ!」
うん、言動が似てるっていうか、親子だなこの二人、顔はまったく似てないけども。
こんにちはー、とピンクがおっちゃんに挨拶しているから、知り合いなんだろうな。
ブルー君が見習いで仮のパーティを組んだと、おっちゃんに挨拶している。
出来た子だよほんと。
っとと、俺も挨拶しないとな、余計なトラブルを回避するのに人間関係って大事だ。
「兵士のおっちゃん、俺はレッドと仮のパーティを組む事になったんでよろしくな、おっちゃんの娘なら良い子だろうから安心するよ」
少しレッドの事を持ち上げておいた。
すると兵士のおっちゃんは嬉しそうに。
「おうそうか、壁の近くにいるのは弱いとはいえ魔物だから気をつけろよ! まぁうちの娘は剣の才能があるから大丈夫だろうけどな!」
そう、ガハハ、と笑い声を上げ、恥ずかしがったレッドに腕を叩かれている。
うん、身体強化を発揮しているのか結構いい音がしていて、兵士のおっちゃんは痛がってレッドに謝っていた。
じゃ行ってきまーすと、防御力とかなさそうな簡素な門の外に出て行く俺達。
そうかぁ親子かぁ……俺が異世界人だってそのうちばれるかねぇ……。
まぁいいや、必死に隠している訳でもないしな。
そうしてブルー君を先頭に外周の壁を右に向かって歩いていく。
うん、外側から壁の中の農民さん達とかが普通に見えるね……ほんと壁の高さ低いよな……。
「そういやレッドもピンクも三区出身なのに宿舎にいるのはなんでだ? 仲間探しとか?」
歩きながら疑問に思った事をレッド達に聞いてみた、その質問にレッドは。
「あー私の家は三区に有るんだけども部屋数も少なくて狭いんだよね、家を継ぐ予定の兵士になったお兄ちゃんに嫁が来たからその……色々と狭いし、夜煩いし……、丁度私に〈剣術〉スキルも発現してたし冒険者で稼いでやろうと、幼馴染のピンクも戦闘系スキルだったから誘って、一攫千金を狙いつつ良さげな旦那でも探そうかなって、だよね? ピンク?」
「はい、うちは農家なんですけど祝福の儀で〈槍術〉を覚えてしまった私は、婿を探すにも難しかったんです……旦那より強いと嫌がられるんですよね、それにうちの家はレッドの家よりは広いんですが家族の数が多いんでやっぱり狭いし、丁度良いとレッドの誘いに乗ったんです」
なるほど、大家族だと部屋が狭いなんて事もあるんだな……。
ちなみに〈生活魔法〉のスキルオーブは安いので家族が餞別でくれたらしい、女子冒険者には必須なんだってさ、おトイレとか洗濯とか色々。
ブルー君の方を見ると。
「僕の事情はもう話してありますから大丈夫ですよ、家を継げない子供が冒険者を目指すなんてのはよくある話です」
ウンウンと頷いているレッドとピンク、なんていうか世知辛い世界だねぇ……。
ピンクの家族は何人くらいと聞いたら指を折って数えだしたうえに、両手では足りなくて折り返していた。
ああうん、大家族ってどんな感じなんだろうね? 俺は一人っ子だったし分からん世界だ。
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