第8話 賄いと見習い


「さて角ウサギはどうやって食うつもりなんだブルー君」


 ブルー君は革袋から角ウサギを出すとナイフで解体しだした。

 上手い解体ではなく、毛皮とかボロボロだな……。


「こんな感じですね、あとは適当に切ってハーブと塩を揉みこんで焼けば終わりです」


 調理器具はなく細い枝をナイフで少し加工し、ぶっ刺して焼くらしい。

 そんな肉串は全部で十本出来た、大ぶりの肉が美味しそうだ。


 うーん……調理系のスキルはまだ〈まかない〉しか馴染んでいないんだがいけるかな?


 俺が焼くよと言って五本程受け取り、ハーブと塩を周りにもみ込んでいく、そしてかまどたきぎを入れて〈生活魔法〉で火をつける。


「タイシさん〈生活魔法〉スキル持ちなんですねぇ……ここに来た理由はそれでかぁ……」


 ブルー君は何やら俺の境遇に納得している。


 そして串に刺さった肉の周りに満遍なく焦げ目をつけて一旦離す。


「ああ、それだと中がまだ生焼けですよタイシさん! もっと焦げがいっぱい付くくらい焼かないとお腹壊しちゃいますってば、僕がやりましょうか?」


 そう言ってくるブルー君を手のひらを向けてまぁまぁと抑え。


〈生活魔法〉の電子レンジ的な物を使い中まで熱を通す。

 実際は魔法でやっているんで例え鉄の鍋でも爆発しないからね?

 ジュワジュワと音がして油が滴ってきたものを竈の火に落とし、そこから出る煙を肉に纏わせるように生活魔法で結界的な物と空気の流れを操作する。


 実際問題、敵意が側になけりゃぁこれほど便利な魔法もないんだよな。

 魔物や人間なんかの敵意がある存在の近くだと、戦闘スキル以外のスキルは上手く使えなくなるんだよね、さっきの〈手妻〉とかも然り。


 戦闘に使わせませんよっていう、何者かの意思を感じるよな。


〈賄い〉スキルさんがもういいよ~って教えてる気がするので、肉を煙ドームから取り出して〈生活魔法〉を解除した。

 途端に肉を焼いた良い匂いがあたりに漂う。


 ブルー君は俺の使ったスキルがおかしい事に気づいたのだろう、こちらを驚愕の目で見ている。

 俺はそんなブルー君に、口元に人差し指を当てシーっと内緒のポーズをしてやる。

 文化的に通じるか謎だったが、通じたらしくコクコクと頷いていた。


 その呆けた姿を見るに、こんな時は年相応の幼さを見せるんだなとちょっと笑いが込み上げて来た。


 そこに匂いに釣られたのかレッドとピンクがやってくる。


「美味しそうな匂いね、私達の根菜スープとちょっとずつ交換しない?」


 そうレッドが提案して来たのでブルー君を見てみると彼も頷いていた。

 肉串も十本くらいあるし問題はないな。


「じゃこの焼いた二本を細かく切ってスープに入れてくれ、残りの串は一人二本でどうよ」


 そう提案すると、レッドはワーイと喜び、ピンクと一緒にスープの手直しをしに離れていった。


 今のうちに残りの肉串も焼いてしまおう。



 ……。



 ……。



 炊事場には簡素なテーブルや丸太椅子も備えてあるのでそこで食べる事に。

 ブルー君が出してくれた木皿にはウサギ肉の串焼きが八本、スープは木のコップに入れてくれた。

 木のスプーンは借りた、今度そこらも買わないとな。


「では食べようかね、一人二本なー」


「女神様に感謝をしていただきます」


 ブルー君は女神に感謝の祈りを捧げてから食べ始め。


「いただきまーす!」

「いただきます」


 女子二人は特に何もなかった、いただきますは普通に使うんだな。


「じゃ俺も食べようかな、いただきます」


 肉串をパクリッ。


 表面はパリッっとしていて中はジューシー!

 んーこれこれ、角ウサギの味は日本と同じだな!


 木炭でやった方がもっと美味しいんだけど、まぁこれはこれで中々美味いな。


「タイシさん……すごく美味しいですこれ、うちの家で雇っていた〈調理〉スキル持ちの調理人が作った物に迫るくらい? 美味しいです」

「うんうん、角ウサギはいつも美味しいけど、これはなんだか香ばしさがいつもより強くて美味しいね! 人気のある屋台の串焼きと同じ感じがするー、やるわねタイシ!」

「モグモグモグモグモグモグ、モグモグモグモグ、モグモグ、プラス二十ポイント」


 一人何も言わずに食べているピンクがいるが、そのよく分からないポイントを勝手に足さないで?


 いや、まだ〈賄い〉だけだし、さすがに料理系スキル持ちの本職の奴に近い訳はないと思うんだが。

 思い出補正が逆になっているのかな? 辛い人生だなぁブルー君よ。


 スープも根野菜っぽい物とハーブの味が優しく、そこに肉も入って中々美味しかった。

 そのスープに黒パンを浸して食べる……この黒パンはどうにかしたいよな。

 でもこれが安くてお勧めらしいんだよねぇ、元商人見習いのブルー君がそう言うならお買い得なんだろうけども……。


 ……。


 そんなこんなで、あっという間に食べ終えた。


 そうだブルー君、塩代とか銅貨一枚でいい?


 いらないから今度また作ってくれって? いやそれは構わんけど、また仕事が一緒になるとは限らんだろう? たぶん大丈夫? なんでやねん。


 そこにレッドとピンクが勢いよく手をあげて来て。


「はいはーいタイシ! 私達にも作ってくれると嬉しいかも! ウキウキ」

「タイシさん! お嫁さんポイント大量ゲットのチャンスですよ! ワクワク」


 いや……そのポイント要らないんですけど……。


 さすがに二十歳はたちの俺が十三の子に手をだしたら事案だよ?

 この世界ならいいのかもだけどさぁ、ってそんなにウキウキワクワクされたら断れない奴じゃんか。


「えーと、まぁ……時間が合うような時なら構わないけども……」


 そう答えるしかなかった。


 レッドとピンクは万歳をしていて、それも転生者あたりが持ち込んだ文化かね。


 ブルー君は何か考え込んでいるが、元商人らしく売り物にでもなるかと考えているのかね?



 飯も終わったし帰ろうと炊事場を掃除している途中、別のパーティの女の子達が三人来たので、例のミニブーケで挨拶しておいた。

 今度一緒にご飯でも食べようねー、ってな感じに誘われたし中々の好感触だった。


 そして部屋に帰る俺。


 雑魚いスキルは結構な数が馴染んできたので基礎能力値は上がっているんだが、戦闘に使えそうなスキルがまだ来ないんだよね。


 早くダンジョンに籠れる日が……ってあれ?

 入るのにランクとか必要なのかな? 今度聞いておこう。


 っとその時、ガラリと横開きのドアが開いた。


 てかカギとかないんだよねここ、寝る時に扉につっかえ棒は置くけど。


 そうして入って来たのは教官とブルー君だった。


「おう邪魔するぜ『鼻笛』のタイシ」


「教官までなんでその名前を! 勘弁してくださいよ……」


 少しずつ不名誉な二つ名が広まっている気がする。


 どうしよう、こんな恥ずかしい二つ名が日本人に……モフモフ女子あたりにまで広がったら、俺はお布団に籠るかもしれない。


 まぁカード化スキルをゲットしたら、スキップしつつお布団から出て行くけど。


「いいじゃねーか、二つ名ってーのは畏怖とか親しみから付けられるもんなんだよ、お前さんのは……あなどりかもしれんな、すまんかった」


「良い話しようとして失敗しないでください教官!」


 まぁ下手に絡まれるより侮られて放置されるくらいがいいけど。


 ベッドの上から降りて、わりーわりーと謝っている教官に向き合う。


「で、ブルー君連れてどーしたんですか? 教官」


「ん? ああえーと、ここで冒険者の勉強をするにあたり仮パーティを組ませるんだが、ブルーがお前で良いって言うんでな、こいつも良い奴なんだが普通の冒険者達とは気質が合わなくてな、お前も特殊な事情があるだろう? ブルーはそれに気づいているみたいだし、変な奴と変な奴らでパーティとかどうかと思ってな」


 変な変なと繰り返して言わないで下さい。


「うーん、俺は最終的にはソロでやっていくつもりなんですが大丈夫ですか?」


 ソロというかカードで召喚した奴らと一緒にだが。


 教官はそれを聞いても特に表情を変えず。


「あくまで勉強のための仮パーティだ、ここを出て行く時にそのまま組んでも解散しても自由だし、取り敢えずこの宿舎を出るEランクになるまでやってみたらどうだ? お前さんには冒険者だけじゃなく常識って知識も必要だろう? 事情を知っているブルーとかになら聞けるだろうし、自分から頼んでおいて金をごっそり要求するとかもないだろ?」


 最後にそうブルー君に向けて聞いた教官、ブルー君はコクコクと頷いている。


 ふむ、悪い子ではないし頭の回転もよさげ、商人の勉強を多少なりとしていて、俺の事情を察しても周りに言いふらさずさりげなく言ってくる気遣い……気遣いか?


 いやまぁいいか、仮のパーティなら問題はないな。


「宿舎で勉強する間の仮パーティというなら問題はありませんよ、よろしくなブルー君」


 そう返事すると、ブルー君は喜び、教官は。


「おーそうか、よしタイシ、真ん中の宿舎の部屋に移ってくれ」


 ん?


「いや教官、真ん中って男女混合のパーティ用でしょ?」


「勿論そうだが、レッドとピンクも了承しているってブルーから聞いたぞ?」


 んん?


 ブルー君をみやる、すごく良い笑顔だ……。


 やりやがったったなこの野郎。


「……分かりました教官、移りますね」


「よろしくお願いしますねタイシさん!」


 この部屋に来てからブルー君が初めて声を出した気がする。


 彼に何か言われて騙された訳じゃなく、俺が勝手に勘違いしただけだとそういう事か、一本取られたな……。


 ブルー君のお父さん、俺はこう思うんですよ、この子を跡取りにしてたら貴方のお店は安泰だったのではないかと。


 ブルー君は教官と明日からのパーティでの仕事について話があるとかで別れ、俺は特に運ぶ荷物もなく真ん中の宿舎に移る。


 お邪魔しますよっと、がらりと開けた部屋の中にはレッドとピンクが片側の二段ベッドで荷物の整理をしている所だった。


「あ、来たねタイシ、今日からよろしくね! まさかそっちから誘ってくるなんてね~、いくら私達が魅力的だからって気が早いんだからもう! あ、でもでも、一緒の部屋だからって襲ってきたら潰すからね~」

「タイシさんよろしくお願いしますね~、ふふ、頑張ってアピールなんて可愛い人ですねタイシさんは、なので三ポイント上げちゃいます! それでこちらのベッドは女子が貰いますね~」


 何を潰すんでしょうか? なにでしょうか。


 そして、アピール?


 ……ブルー君、君は彼女らに何て言ってパーティに誘ったんでしょうか?

 聞きたいような聞きたくないような気がした。


 そしてポイントの事はスルーする事にした。


 今日はもう寝よう、としたら女子二人に雑談に付き合わされた。


 そして何故か〈鼻歌〉と〈口笛〉と〈指鳴らし〉を披露する事に。


 ついでに〈手妻〉〈手品〉〈マジック〉の合わせ技に、鼻歌やらで音楽も足して楽しませてやったよ。

 女子二人が楽しがってキャイキャイと騒ぐもんだから、途中から煩いと乗り込んできた炊事場で挨拶を交わした三人の女子パーティも巻き込んで手品を披露してやったさ。



 ……。



 ……。



 そうしたらブルー君が帰ってくるのと同時に教官が来て怒られた。

 夕飯を食う時間を過ぎたら寝る奴もいるんだから静かにしろってね。


 騒ぎたいなら深夜まで営業している酒場にでも行けと言われた、もっともな話です。


 後、そこの女子達! 手品に使った増える銅貨を返してください。

 本当に増えた訳じゃないんだってば! 手品だからタネがあるのー!


 ぐぁーやりすぎた! ミニ花束ブーケの時も思ったが、異世界の子らはそっち方面でスレてないから素直すぎる。


 それと十ポイントとかいらないから!?

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