第7話 見習いの仕事
お日様がテッペンに昇ったのでお昼だそうだ。
ブルー君は農家の方に井戸を使わせて貰い、水を得るようだ。
俺には生活魔法があるんだが……まぁ、俺も一緒に井戸水をコップに貰っておく事にした。
「朝や昼飯はいつもこんな感じなのか?」
堅い黒パンが一個の事である。
俺も丸太っぽい所に座り堅いパンを食べる。
ブルー君の真似してコップの水につけてふやかしてから食べてみた。
少し食べやすくなったが、不味くはないけど美味くもないな……。
「宿代がタダとはいえ収入は低めですし、武器や防具を買うにも貯めておかないといけません、角ウサギも農家さんにとったら畑を荒らすし子供がケガするしと嫌な魔物なんでしょうが……僕らにとっては大事な収入源になるんです、この魔石一個で銅貨二枚ですね」
「肉とか毛皮は売れないのか?」
「体を成長させるためにも一匹目のお肉は食べます、何匹も倒せたら売りますけどね、毛皮は上手く剥ぎ取れれば良いんですが……〈解体〉スキルを持っている店やらギルドの買取所に売る方法もありますが……ちょっと安いんですよね、ダンジョンで大量に狩れるらしいので店側が搾取している訳でもないんで、しょうがないのですが……」
大量に持ち込むならともかく一匹くらいなら食べた方がましだそうだ。
冒険者のイメージだと獲物を安く買い取りされたら文句を言いそうだが……。
ブルー君の口調は丁寧で説明は理路整然としていて、さらに店側の事情に詳しいんだな。
「なぁブルー君はパーティを組んでないのか?」
そう聞くとブルー君は顔を伏せて落ち込んだ。
「ええ……どうしても他の男の子達と気が合わないんですよね……、一度同室の者達と組んだ事があるんですけど、ガサツというか適当というか読み書き計算もまともに出来ず予算や買い物は適当、あれじゃあちょっとケガをしたら貯えもなくて詰むと思うのですが、僕の忠告は嫌がられちゃって、それでお互いに知り合い程度で終わりましょうと円満に解消しました」
ほほう、ケンカにならず恨みも残さずか……この子やり手だなぁ。
「それはブルー君の口調がやけに丁寧だったりする事と関係があるのかな?」
ブルー君は押し黙りこちらを伺っている、が、溜息をつくと語り出した。
「別に隠す事でもないからいいんですけどね、僕は第二区に有るお店の長男で跡取りだったんです、そして祝福で得たスキルが〈投擲〉でも、父親は商売人として修行していればそのうちに有用なスキルが発現するだろうと言い、色々な勉強をさせられました」
「ほうほう、商人さんだったのか、買い取る店側の事に配慮していたのはそのせいか」
ブルー君は苦笑いして。
「前のパーティはギルドの買取所とか、毛皮とかを扱う個人のお店の人に文句を言って追い払われてましたよ……でまぁ話は戻りますがよくある話です、父の後妻の子供、つまり僕の弟が祝福の儀で〈交渉〉スキルを手に入れたんです、その時僕にはまだ商売系のスキルは発現していませんでした、あのままあそこにいて毒でも盛られたら嫌ですし、父と義母に跡取りを弟にするように言って家を出たんですよ、揉める事がなく素直に家を出たおかげで……いえ……そんな所です」
最後に途切れたのはたぶん、手切れ金でも出してくれたって事なんだろう。
信用できるか分からん俺に金の話はしたくなかったんだろうな。
「なるほどなー、つまり商売系の情報が欲しかったらブルー君に聞けるって事だな、いや冒険者としての情報も聞く事にしようかな」
ブルー君は少し嫌そうな顔をして。
「貴方も元のパーティみたいな事を言うんですか……」
「勿論報酬は払うよ? お金はほとんどないからどういう形になるかは分からんけど労働で払ったりとかね、まぁ条件をブルー君が納得出来たならって事でいいさ、情報には価値がある! タダでよこせと言ったり買い物の代金交渉を押し付けたりなんかはしないつもりだぜ?」
まぁ恐らくこの辺の事を元パーティメンバーにやられたんだろう、なのでそういう部分を先んじて潰しておく。
ブルー君はポカンとした顔になり、程なく。
「ふふ、道理を知っている方のようで安心しました、これはタイシ兄貴とでも呼ぶべきでしょうか」
「経費のかからない兄貴呼びで友好度を上げとこうってか? 実に元商売人らしくていいね」
「あはは、ばれちゃいましたか、タイシさんは……ええと十六歳くらいでしょうか?その年で冒険者見習いになるみたいですし、僕と同じように訳ありなんでしょうかねー? 冒険者によくある農家出身とかには見えませんが」
おやおや、探りを入れてきたか、抜け目がないというか頼もしいというか。
でもまぁ最初の頃の、義務感から俺に接してた感じがなくなってきたな、良い事だ。
「そんな所だよ、俺はチキューウの出身でな、俺のいた地域は山が多くてよ……七割以上が山だったんだぜ?」
タイシ嘘つかないもん、ま、スキルやらが有る世界だし念のためにね。
「チュ、チュキューウですか? ……言いにくいですね、聞いた事がない地名です、しかもほとんど山とか、相当なド田舎からやってきたんですねぇ……地方の名士の三男とかでしょうか?」
「うちの家も昔は名家だったらしいけどな」
裏で蠢く魔法の名家だったのは、世界中にダンジョンが出現する五十年前までの話だけどな。
ブルー君の表情を見るに、名家の人間が冒険者になるなんて相当落ちぶれたんだろうなぁとでも思っているんかなこの顔は。
「そうですか……タイシさん、頑張ってお互い冒険者として成功しましょうね!」
「そうだな、魔物を狩りまくりたいしな!」
あー早くテイムカードをゲットしたーい!
ブルー君が荷物袋から縄を取り出し俺にも分けてくれた、何事?
「確認作業はもう少しで終わりますし
ああ、例の炊事場で使う奴か、ウサギを焼くのに使うのかな。
城壁の中にもポツポツと小さい規模の林がそこらにあるのよなぁ、たぶん燃料用なんだろうけども。
ついでにと料理に使える野生のハーブ類なんかも教わりながら回収していく。
田舎育ちなのに知らないんですか? と聞かれたがスルーしといた。
それと毒がない香りの良い小さな花も教えて貰い回収していく。
食べられる訳でもないただの花を集める俺の行動が理解できないのか、ブルー君は不思議そうに首を傾げながら見てくる。
だってさぁ、共用の炊事場を使うんでしょ?
料理に使えるハーブと小さな花を使ったミニブーケをいくつか作り、それを飲み物用のコップに仕舞っていく、香りだけでなく実用性もあると尚いいよね。
そんなこんなで薪にする枯れ枝を縄でしばり背に担ぎ、ハーブ類も回収し、ハーブ花ミニブーケも作り終わったので帰る事になった。
日の落ち方から四時くらいかね、この世界も二十四時間制らしいが庶民はあんまり使っていないとか。
そういった単位が有るのは転生者や転移者の仕業だろうね、地球の時間と同じなのかは謎だけども。
急ぎ足で帰るだけで一時間弱かかりそうだ、足腰を鍛えられてよいね……。
……。
――
ブルー君が冒険者ギルドに入って行き俺は外で少し待つ。
俺はまだ見習いの見習いという、正式な依頼を受けていない扱いだそうだ
そうして見習い用宿舎に帰ってきた。
そこにいた見習いの男の子達は外に食べに行くとかで、俺も誘われたが、金がないので買い足した堅い黒パンと自炊だと答えたら、頑張れよ『鼻笛』! とか言われた……。
それ、流行らせないで欲しいのですけど……。
横にいたブルー君に、彼らはお金をどうしているのかと聞いたら。
見習いパーティには第四城壁の外側で角ウサギやビックラットなど、弱い魔物を狩る依頼があるそうで、そこそこ金になるらしい。
後は壁の内側だとほぼ取りつくされている薬草なんかも、外で回収しているのだと教えてくれた。
彼らは全員戦闘系のスキル持ちだから壁の外でも大丈夫らしい。
たぶん現状で俺より強いんだろうなぁ……。
教官は俺の弱さを理解してくれたが故に安全な方にしてくれたのね、有難い。
奥の炊事場にブルー君と一緒に歩いて行くと、女の子の冒険者が使用しているようだった。
「こんにちはー、新人のタイシといいます、炊事場を使わせて貰いますね、先輩方」
そう声をかける。
一人は赤い髪のポニテで、もう一人がピンク色のミドルボブっぽい髪形だ。
目の色も髪と同じような色で、どちらも中学一年生くらいの歳に見えるが可愛らしく。
赤髪の目元がきつめで、ピンク髪の方がおっとりした目つきだった。
両方共将来は美人になりそうだ、というか、この世界の顔面偏差値が元の世界より少し高い気がするんだよな……。
赤い髪、レッドちゃんの方が語り掛けてくる。
「いらっしゃい新人、ちゃんと奇麗に使うなら誰でも使っていいのよここは、ブルーがいるならその辺は大丈夫そうね、あの馬鹿共と違って!」
レッドは何か憤っているが、馬鹿ってのは男の子の見習い冒険者達の事かなぁやっぱり。
竈に鍋を置き、そこに何かを入れていたピンクちゃんも会話に参加してくる。
「もうレッドはまたそんな言い方をして、ケンカになっても知らないからね? あの子達は放置しましょうよ~、あ、こんにちは、よろしくね年上の新人さん……新人さんの髪の毛は真っ黒で素敵ですね、目も真っ黒で……って……あれ?」
ピンクがそう最後の方に疑問の声をあげると、レッドも俺の目を覗き込んでくる。
「わーほんとだ、今朝ギルドに来ていた異世界人みたいね! 先祖が異世界人の家系なのかしら? 何処の出身? 彼らはニホンとかいう所から来たみたいよ、もしかして今朝の異世界人達と一緒に召喚された人だったりね、あはは、ま、そんな訳ないか」
黒髪は珍しいなーと思っていたけど、まったくいない訳じゃないから安心してたんだが、目まで黒いのはレアっぽいのか?
それとレッドの勘が鋭すぎて怖い。
というか早速ダンジョンに入っているのかね学生さん達……羨ましい事だな。
「俺の出身は、えっと……ブルー君、俺が教えた地名を覚えてるかな?」
ブルー君にパスする事にした。
ほら、嘘はあんまりつきたくないからさ。
「確かチュキュー地方でしたっけ? 地方の名士家系で落ちぶれて流れてきたそうですよ」
そうブルー君は答えてくれた。
レッドとピンクがそれを聞いて、気の毒そうな表情を浮かべながら口を開く。
「へー聞いた事がない地名だわね、ド田舎の異世界人の血を引く名士が落ちぶれたって事ね……生きていれば良い事あるわよ、うんうん」
「珍しい地名ですね~、異世界人っぽい黒髪って奇麗で羨ましいな~、私の髪はちょっと色が薄いんですよねぇ……」
「ならピンクさ~この人の子を産めば子供が奇麗な黒髪になるんじゃないかしら?」
レッドが急に下ネタをぶっこんできた。
異世界冒険者は下ネタも有りらしい。
ピンクは俺の顔をマジマジと見ると。
「顔はそこそこイケメンだし背も高いし黒髪も黒目も素敵だけど……十六歳? 十七歳? その歳で見習い冒険者扱いなのはちょっと……最低でもCランク、出来ればBランク冒険者になったら奥さんになってもいいですよ?」
頼んでもいないのに、高ランク冒険者になったら嫁に来てくれるらしい。
俺は二人の話を華麗にスルーして終わらせる事にした。
「ま、まぁ、ご飯作りもあるので話はこの辺でね……あそうだ、これお近づきの印にどうぞ」
そう、まずはレッドとピンクに両手のひらを見せ何も持っていない事をアピール。
そして、チャラリラリラ~と例の音楽を口ずさみながら、二人の目の前に手を出しクルっと手先を回してポンッとハーブと花のミニブーケを出現させて二人に差し出す。
そう〈手妻〉や〈手品〉や〈マジック〉スキルがこの世界に馴染んだのだ……マジックなのに本物の魔法は使えないのが悲しいが。
レッドとピンクは何も持っていないはずの手からピョコンと飛び出した小さな花束に驚き、そして喜んだ。
「わー何これ何これ! 手に何も持ってなかったよね新人、いえ、タイシ! それに小さくて匂いも良くてすっごく可愛い! ハーブもついてるのね、ありがとう~!」
「わー香りも良いしお料理に使えるハーブも付いてる! タイシさん! ありがとう~、お嫁さんポイントを五ポイントあげますね」
喜んでくれるのは嬉しいが、謎のポイントを貰ってしまった。
これは上がらない方が良いポイントな気がする。
どういたしましてと、キャイキャイ浮かれている二人から離れ、ブルー君とウサギ肉の調理に移る。
「なぁブルー君や、この国の成人って十三歳からなんだろう? 結婚も出来るのか?」
ブルー君はその質問に対して。
「タイシさんがいた世界はどうだったか知りませんが、一人前を周りに認められたら結婚出来ますね、貴族なんかは祝福を受けた直後の十歳とかでも結婚する事もあるらしいですが……これはまぁ特殊な例です、商人なんかだと跡取りで婚約者がいるなら十三歳でも普通に結婚しますよ、逆に冒険者は結婚が遅いと言われています、普通に死んじゃう事もある職業ですから、有る程度お金を貯めている冒険者じゃないと相手にされないですしね」
ありゃ、ブルー君にはバレたかぁ……まぁある程度強くなるまで目立ちたくないだけで一生隠すつもりもないから構わんのだが。
「つまりブルー君には今年結婚する予定の相手がいたって事?」
「タイシさん、その話をこれ以上掘り下げる気なら、僕も彼女らと一緒にタイシさんの故郷について話し合いたくなっちゃいますけど?」
「お、おう、正直すまんかった、貸し一つって事で暫く黙っていてくれると助かる」
俺のそのセリフに、ブルー君はそれそれは良い笑顔で応えてくれる。
「商人に貸しを作るなんてタイシさんは良い度胸していますね~、まぁ僕は商人じゃないから? 口は重いですけどね、それに婚約者の件だって怒ってませんよ、別に相手に情がある訳じゃないんですよ、ただ結婚するはずだった相手が自分の義弟と、と思うとなんかこうモヤっとしませんか? 婚約者を好きだった訳でもないんですが」
なるほど……日本のオークションで手に入るはずだった落札済みカードが、権力者によって出品者から直接購入され、俺の落札がなかった事にされた時の感じかな?
……いやちょっと違うか。
あの時は落札金額の倍が慰謝料として払われたが、そういう事じゃないねんと怒りが収まるまでしばらくかかったな……。
やべ、思い出すとまた怒りが込み上げてくる。
深呼吸深呼吸っと。
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