第6話 冒険者見習い寮
書類を提出し冒険者に登録した俺は、色々と説明を受けてから見習い用の依頼を受けた。
この依頼が宿舎にタダで泊まれる奴で、要はギルドの指示に従えよという内容の依頼だった。
報酬が終了時に少しだけ貰えるらしい、はよ一人前になっていっぱい稼いでねって事なのだろう。
銅っぽい金属で出来た冒険者タグにヒモを通し、それを首に下げた。
ランク制でSランクが一番上で、次にAランクからBCDEFと下がっていく例の奴なんだが、これ絶対に転生者か転移者が関わっているよね!
勿論俺は最低のFランク、戦力外の見習い冒険者タイシ二十歳です! よろしくお願いします。
スタンピードとかもあるけどFランクは後方支援らしいよ。
ほかにも諸々と教わったけど見習い依頼中に再度教えてくれるらしい。
話を聞かない奴のためとかなんだろうなぁ……見習いのほとんどが十三歳らしいものね、中学一年生? 冒険に行けるってなったらワクワクで止まれないよな。
狐耳受付嬢さんに教えてもらった宿舎に向かっている、というか冒険者ギルドの裏手にあるらしいが、これかな?
江戸時代の長屋みたいだなこれ、入口近くの手前の部屋だっけ。
すいませーん誰かいますかーと外から声をかける。
すると一番手前の部屋から出て来たのは、頬にでっかい傷がナナメに走った強面の中年男性だった。
「何か用か? ここは見習い冒険者用の場所だぜ」
「ああえっと、これ依頼受注書ですどうぞ」
受付嬢さんに渡すよう言われた紙を渡すと、強面男性はそれを読んでから顔を上げる。
「特記事項があるな……異世界人ねぇ……その年で見習いだと変な目で見られるかもだが、ちゃんとギルドの言う事を聞いたら冒険者としてやっていけるようになるからな! 頑張れよ若造」
「はい! よろしくお願いします! ……若造って何歳くらいに見えてます?」
威勢よく返事をしつつ聞いてみた。
「あん? そりゃお前……十五くらい……いや、背が高いから十七くらいだったか? どっちにしろ、まだ若造でいいじゃねぇか」
受注書には俺の登録年齢書いてないしな……二十の見習いより十七の見習いの方がまだ目立たないかな?
年齢はちゃんと聞かれるまで黙っておこう。
「はい若造です、今日はこれからどうしたら良いでしょうか、えーと」
「ん? ああ俺はギルドの指導員兼ここの管理者だ、元C級冒険者だな、教官とでも呼べばいい」
「わっかりました! 教官! それで俺はどうしたら? 他の見習い冒険者さん達はいないようですが」
そう聞いたら教官は俺を色々と案内してくれた。
長屋は縦に三本連なっており右側が男用で左側が女用らしい。
真ん中の宿舎はどっち? と聞いたら男女混合パーティ用で、入口は女性側にあるらしい。
混合パーティに参加していないなら、女性用宿舎の方にむやみに近寄るなと言われた、イエッサー!
一部屋に二段ベッドが二つあり、それを四人で使うらしい。
長屋一棟は五部屋で、俺が案内された先は誰もいない部屋だった。
普通は一緒の部屋の奴と仲良くなってパーティとか組むんだろうなぁ。
長屋の奥は屋根と奥側だけに壁のある男女共同の炊事場になっていて、
下水もあるんだ? すごいな……下水はスライムをテイムした人が定期的に掃除や浄化をしている? ほほーテイマーの職場がこんな所にあるとは……。
調理器具は? 自前でどうにかするのね……。
「この宿舎は泊まるだけはタダだが飯は別だ、自分らでなんとかしろ、炊事場は自由に使っていいが
見習い用宿舎のすぐ近くに、冒険者横丁とでも言うべき酒場と飯屋と屋台が連なる場所があるんだってさ。
市場ってありますか? ふむふむ反対方向にあるのね、教えて頂きありがとうございまーす。
今日はもう好きにしていいと言われた。
まだお昼にも成っていないんだが、下手に出歩いてカツアゲにあっても嫌だし。
すぐ近くの屋台でナンっぽいやつに肉炒めを挟んだ物を二つ買い、飲み物用の木製のカップを一つ買った、そして大銅貨一枚が消えた。
誰もいない部屋の二段ベッドの上を自分の位置にするが、布団とかはないっぽい……。
生活魔法でベッドの上だけ奇麗にして居座る。
肉炒めナンの一個は昼としてすぐ食べちゃう事にし、コップの上にもう一個置いておいて夜飯にするつもり。
さて、自分の中のスキルを意識してみる。
〈指鳴らし〉〈鼻歌〉〈口笛〉〈早食い〉〈隠蔽〉〈生活魔法〉がある。
他は〈音感〉とか〈お手玉〉とか〈スキップ〉が近くにあるような気がする。
……もう雑魚っぽいスキルは無視しようと思う、種類が多すぎやねん!
誰だよ基礎能力が上がるからって、こんなにアホなスキルをいっぱい覚えた奴は……って、俺だよ!
いや、日本にいたある程度実力が高い探索者達って、皆こんな感じだからね?
日本のダンジョンからスキルスクロールが出るのはいいけどさ、スキルの種類がアホ程あって名称と内容がカオスでさ。
そうだな一例を上げると、〈調理〉〈料理〉〈炊事〉〈割烹〉〈家庭料理〉〈和食〉〈洋食料理〉〈クッキング〉〈煮炊き〉〈板前〉〈包丁人〉〈料理番〉〈飯炊き〉〈賄い〉〈コック〉他にも色々、これら全部料理が上手くなるスキルなんだよね。
スキルの内容が微妙に変わったりもするけども、まぁ種類があればそれだけ基礎能力の補正も上がるから、俺ら探索者は歓迎していたんだが。
種類がアホ程もあるって例がそれらだとして。
んで内容がカオスの方が例えば、〈柔術〉と〈柔術〉と〈柔術〉だ。
同じ名称だって? そうその通りだ。
でも中身が違うんだよこれ……。
一つは柔道や空手や合気道なんかの格闘技な感じの物で、次が忍者系のやつで、さらに次のは魔法なんだよ。
な? カオスだろう? 俺が思うにこれ絶対わざとやっているぜ。
ダンジョンを作って名称やらを設定した奴が、面白がってカオスにしたままなんだと思っている。
まぁ嫌いじゃない世界だったけどな……もうあの世界には戻れないのかねぇ……。
あれ? 玉手箱って昔話が残っているって事は帰った事があるやつがいるのか……?
まぁこの考えは置いておくか。
寝るまでに雑魚スキルの熟練度でも上げようっと。
魔物を倒した事のない人間の格が上がるのは、スキルの熟練度を上げると経験値的な物が入るから。
もしくは格が上がるから強くなるのじゃなくて、基礎能力値に補正値がついて強くなった分を示すのが格の可能性もある。
どっちにしろ雑魚スキルも使っていれば格とやらが上がる可能性がある。
ならばスキルの熟練度を上げれば基礎能力の補正値も上がるし無駄にはならんだろ。
俺は『フフンフンフーン』と〈鼻歌〉をしながら〈指パッチン〉そしてたまに〈口笛〉を吹き、生活魔法でコップや肉炒め挟みナンを空中に浮かべて移動させる。
隠蔽スキルみたいなパッシブで発動させる事が出来るやつは、そのままで熟練度が上がるから楽だよな。
まぁそういうのは微妙に魔力を継続消費するから、スキルが増えてくるとパッシブスキルも発動させておく物を取捨選択しないといけなくなるけど、今はそんな必要ないな。
いやぁ、同室に誰もいなくて良かった!
鼻歌パッチン口笛で自分の周りにコップやコートを浮かべてグルグル回しているとかどう見ても不審人物だものな!
……。
――
次の日の早朝、周りの気配が動き出したのを感じた。
俺も起きて部屋を出ると、日本でいう中学一年生くらいの子供が数人うろうろしている。
不審な目で俺を見て来たが気にせずに、あ、こんにちはー冒険者見習いの新人です、よろしくお願いしますね先輩方!
そう先輩を強調して言ったら急にフレンドリーになった。
君らのチョロさが心配だよお兄さんは。
そんで教官殿に今日の依頼はこいつに付いていけと言われたのは。
落ち着きがありそうで、蒼い髪で透き通ったスカイブルーの短髪と、目が鮮やかな碧眼である、中一くらいの男の子だった。
「よろしくお願いします! 先輩」
「お兄さんのが年上っぽいじゃないですか、敬語はいらないですよ」
そう? じゃーまぁよろしくブルー君。
さっそく依頼場所に行くというので付いて行く……飯は?
途中で買うのね了解しました。
貴重品は持ち歩きが推奨で、部屋に置いていった物が紛失しても自己責任と言われている。
ハーフコートは腰巻きにし、木のコップはそのポケットに入れといた。
そのうち荷物用の袋でも買おうかな、ブルー君も荷物袋を背負っているしな。
ブルー君は途中で、一個が銅貨一枚の堅そうで小さな黒いパンを二個買っていた。
俺もそれに倣って同じ物を買う。
一個目の黒パンを齧りながら冒険者街を出て外壁方面に向かっている……硬いなぁこの黒パン。
「今日は何をするんだ? ブルー君」
「外壁と周囲の確認になりますね『鼻笛』さん」
……。
……なにそれ?
え? 部屋の壁が薄いからフンフンパチンパチンヒューヒュー煩かった?
……申し訳ありません、俺の名前はタイシと申します、なのでその二つ名は止めて頂きたい。
……同室の子らが騒いでたから無理? がはっ。
拙者異世界で早速二つ名『鼻笛』を貰ったでござる、『カードマスター』タイシとか呼ばれる予定だったんだがなぁ……。
「タイシさんに仕事の説明しますね、第四城壁は魔物が穴を開けたり風雨によって崩れてる事もあるので、それを調査するのが僕らの仕事です、それと城壁内に魔物が紛れ込んでないかとか外に魔物が近づいてないかとか、城壁沿いをずっと歩いて確認するのも仕事です、今日はここから向こうに向けて歩きますよー」
そう第四城壁の内側で言うブルー君、うわ、ほんとに高さ一メートルくらいしかないじゃんか、壁というか民家の石垣?
「この高さの壁で意味があるのか?」
「知性の低い動物型魔物ならこれでも十分なんですよ、第四城壁は距離がすごいですし、お金や労力を考えたらこれで十分かと」
つまり知性がある魔物は超えてくる可能性があるのね……外周はほとんど畑と農家の家がポツリポツリとあるだけか。
「それにねタイシさん、冒険者には城壁外での魔物の間引き依頼もあるし、滅多に魔物が壁を超えてくる事なんて……」
言葉の途中だがブルー君が何かに注目している。
うん、進行方向にいるあれはウサギに角が生えてるね?
日本のダンジョンにもいたなぁ、ドロップの魔物肉が低階層で手に入るから人気だったっけか。
「あれ、魔物だよな、どうする? ブルー君」
日本だと初級探索者でも倒せていた角ウサギだが、武器がないのが辛いなぁ。
取り敢えずこん棒でも買っておけばよかったか?
ブルー君は俺に返事せず石を拾い、その石を角ウサギに投げつけた。
勢いよくその石が当たった角ウサギはダウン、ささっと魔物に近寄ったブルー君は角ウサギにナイフでトドメを刺している。
そのまま解体を始めるブルー君、小さな魔石を取り出した後は荷物袋から皮の袋を取り出しそこに獲物を入れていた。
帰ったら肉を分けてくれるそうだ、ありがたい。
「なぁブルー君、聞いていいのか分からんが、やけに投石の威力が高かったな、一撃で角ウサギが昏倒してたぜ?」
「僕は祝福の儀で〈投擲〉スキルを女神様に頂いたんです、これは公開している情報なので聞いても大丈夫ですよ、パーティ募集するにも戦闘スキルはある程度知らせる必要がありますからね」
やっぱりそれ系のスキル持ちだったか、十歳で祝福の儀とやらがあるなら、それ以上の歳の子は一つは必ずスキルを持っているって事だよな?
弱いうちは十歳以上の子とケンカにならないように気をつけようっと。
壁が少し崩れている所があるが、カウントするだけで位置を覚えたりはしないようだ、これくらいはおっけーなのね。
動物が通れたり飛び越える事が出来そうな崩れ場所があったらすぐ知らせると? なるほどねぇ。
角ウサギの件はあったがそれ以降はのどかな物で、畑仕事をしている農家さんに挨拶したり、遊んでる農家の子供やらにまとわりつかれたりしながら外壁を確認していく。
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