第5話 いざ冒険者街へ

 ふんふんふーん~。


 〈鼻歌〉スキルを使いながら兵士さん達の送迎馬車に同乗させて貰う。


 スキルの熟練度が上がれば基礎能力の補正値も上がるっぽいしな。

 それは地球も異世界も同じらしい、どっちが真似したのかは知らんけど、仕様が似ているのは有難いな。


 昨日の食堂での雑談やらで集めた情報で。


 異世界のスキルは修練する事で自然に覚える場合と。

 十歳以上になると教会で女神からの祝福で一回だけランダムに覚えられるのと。

 後はダンジョン産出のスキルオーブで覚える、の三種類がある事が分かった。


 ガタゴトと走る馬車には布張りの天井があり、横は支柱のみで外に飛び出しやすいようになっているのかねぇこれは。


 貴族区画もすごかったが、富裕層区画も石畳で石造りの建物が整然と並んでいて素晴らしいねぇ。


 そんな時に、同じ馬車に同乗している気の良さそうな兵士のおっちゃんが俺に話しかけてきた。


「おうご機嫌だな若いの、お前さん召喚の儀式で来た異世界人なんだって? 今回は外れ召喚だって噂が流れてるけど、そこんとこどうなのよ?」


 このおっちゃんは第四城壁の城門警備兵だってさ。

 仕事のある期間は兵用の宿舎に泊まり込んで家には三日に一度くらいしか帰れないらしいから……ブラックだよねぇ。


 たぶんこの王都で働く兵士の中だと地位的に最下級だよな? そこらまで外れ召喚って噂が流れてるって、広まるの早すぎるだろ。

 期待が大きすぎて落胆も大きかったせいとかかな?


「どうなんでしょうね、まぁ強いスキル持ちはいなかったらしいですよ? 俺はまぁ……最外周である三区の冒険者ギルドに、案内もなく一人で行く時点で察してくださいよ」


 周りの兵士も聞き耳を立ててるようだし細かい事は言わない。

 兵士のおっちゃんは憐れみをこめた視線を俺に向けながら。


「そういやそうだなぁ……まぁ生きてりゃいい事もあらぁな若いの、諦めるなよ、何かあったら俺に聞きに来るといい、金は貸してやれんが世間話くらいならしてやるからよ」


 俺に同情してくれるとは意外に良い人っぽいな。

 世間話って言っているが、普通は金やらを払うのが当たり前の情報収集を雑談と見なしてタダでやってやる、って事だよな。


 ありがたや~ありがたや~、さっそく情報、いやいや違った、雑談な世間話を始める俺。

 昨日の食堂で会話をした下級文官さん達も優しかったな……マッシュポテト半分の要求で済んだし。

 四男文官さんもそうだが、情報や何かを要求するなら普通は対価を差し出す文化だって、遠回しに教えてくれたんだろなあれは。



 ……。



 ――



 第三城壁を超えて下町や農場区画である三区半ばで俺は降りる事に。


「おっちゃん色々教えてくれてありがとな~、俺が冒険者で魔物を倒せるようになったら肉でも差し入れるからね!」


「おうよ若いの、期待しないで待っているさ、いいか……無茶するなよ! 格がある程度上がるまでは強い魔物に突撃するんじゃねーぞ!」


 了解とおっちゃんに返事をしながら、離れていく馬車に手を振る俺。

 途中から周りの兵士達も雑談に参加してくれたし、気質の良い人らもいるって分かっただけで良かったわ。

 まぁ下級職っぽい人としか会話していないけどな。


 貴族がいるエリアが第一区、裕福な平民がいる場所が第二区、そして第三城壁から第四城壁の間が最外区もしくは第三区と呼ばれ。

 それで三区の大通りは石畳だったり砂利が撒かれているけど、細い横道は土のままだったりする。

 そして大通りを外れるとほとんど畑や果樹園で、街というよりは広大な農業部分を囲い込んだ形だ。


 建物も石だったり木造だったり、布が壁代わりになってたり……二区の街並みと比べるとカオスだな。

 取り敢えず雑談で教えてもらった冒険者街に向けて歩いて行く。


 今の俺の格好だが、靴は皮の頑丈そうなブーツに、黒のジーパンは見た目はほとんど日本の時のままか、ベルトの皮も別の物になってそうだが気にしない。

 下着のゴム部分とかも魔物素材っぽい物に代わっていてすげぇありがたかった。

 ヒモで縛る下着とか嫌だしよ、これにしてくれたって事はすでにある技術や文化なんだろな、ゴムは儲けのタネにはならなそうだ。


 上はロングTシャツにネルシャツだったが触り心地が変化しているかも?

 それとTシャツの色は茶色単色になっちゃっていて、細かい色使いの絵柄とかは再現してくれなかったんだよな。


 ハーフコートは着ると暑いので腰巻きにしている。

 でも昼は暑いんだけど、夜は意外に寒かったので毛布の代わりに使えたんだよね。


 今は日本でいうポカポカと暖かい春先くらいに感じるかなぁ?


 おっちゃん兵士が言うには、こんな天気でも、たまに精霊やら高位の魔物のせいで雪が降る事とかもあるんだとかなんとかで……気象に影響を与える相手なんてのと出会いたくないな。


 んでこの国というか、世界の貨幣は女神の眷属神が管理しているらしい。

 ダンジョンの宝箱から産出するんだとさ。


 貨幣の流通量が多くなると女神教会で眷属神に貨幣を捧げて減らすんだってさ。

 その時に強力なアイテムやら若返りのポーションやらスキルや加護が貰えるらしいから、各国はこぞってダンジョン攻略を冒険者なんかに勧めているんだとか。


 女神教会にて貨幣を眷属神に捧げる時期は神託によるので、民から税金で無理やり集めたりしても無駄らしい。


 貨幣の種類が、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨。


 だそうで単位はエル、銀貨一枚なら百エルって感じ。


 大金貨までは十倍の価値で、大金貨から白金貨が百倍の価値になるそうだ。


 支度金は銀貨八枚と大銅貨五枚とか言われたんだが……数字が中途半端すぎるだろ!


 絶対途中で抜かれてるんだろうなぁ、実際は金貨一枚か……はたまた金貨数枚か……途中で何人に抜かれてるのか、考えるだけで憂鬱だ。


 四男文官さんには身分保証書のお礼に銀貨二枚を渡しておいたが、たぶん証書発行の経費として足りてないと思うけど、いつかお礼するから許してちょうだいね……。


 貨幣の価値については、四男文官さんが宿屋一泊大銅貨十五枚、下級文官さん達は大銅貨八枚程度、おっちゃんら兵士に聞いた最外区の平均だと大銅貨四枚くらいだそうで……二枚以下の宿屋は危険だから泊まるなと注意された。


 幅があるよなぁ……。


 考え事をしながら歩いていたら武骨な建物が多くなってきた、これが冒険者街かな?

 周りを歩いているのもそれっぽい奴らが多いしな、道の端っこ歩こうっと。

 細かい戦闘に使えないスキルは何個か馴染んだが、まだまだ俺はヨワヨワだしね。


 〈鼻歌〉や〈指鳴らし〉や〈口笛〉の熟練度上げとかも此処ではやめとこう、目立ちたくないし。


 おー、兵士のおっちゃんは大きいから見りゃ分かる説明されたが、これが冒険者ギルドって奴だな。

 他の建物がほとんど木造で二階建てまでなのに、これだけ総石造りなうえに四階くらいあるのかこれ、外壁の窓が小さいというか……ほとんどないから階数が分からんな。


 窓が少ないのは防犯のためだろうか?


 入口はドアがなく素通しで、しかも広いから、十メートル以上の横幅はありそう。

 がっつり防具を装備している人らが行き交うには、こんなもんかもしれんかな。


 中に入ると酒場は併設されてなかった、そりゃそんなのは小説くらいか……。

 魔道具か魔法か分からないけど、窓が少ないのに明るく天井が高い入口のホールには受付やらがずらっと並んでいる。


 入口横に人が立っているので案内人かな?

 新人なので施設の利用方法が分かりませんと、その人に挨拶しながら聞いてみたら、案内人で合ってた。

 そして端っこの窓口に案内された。


 案内をしてくれた人に、ありがとうございますと頭を下げたら、ちょっと驚いてたね。

 お礼を言う時に頭を下げる文化は転生者のおかげなのか、普通にあるっておっちゃん兵士が言ってたんだけどなぁ?



 ……。



 ――



 登録受付らしいそこは、他の冒険者もいなくてヒマそうだ。

 その受付には頭に獣耳を生やした女の子がいた。

 まぁ異種族がいる事は気づいてたんだけども話すのは初めてだな、共通語とやらは通じるんだよな?


「こんにちは、冒険者に成りにきた新人です、案内の方にこちらの受付へ行くよう言われたのですが合っていますでしょうか?」


 金髪のロングヘアーの髪先をいじってヒマを潰していたケモミミ受付女子。


 たぶん狐耳? は、俺の言葉を聞くとびっくりしてこちらを見て、見て、見て、見て……。


 動かないな、電池でも切れたかな?

 頭を叩けば再起動するだろうか? ちょっと手を伸ばしてっと。


「なんで私の頭に手を伸ばしているんですか? 許可なく私の耳を触ったら警備兵を呼びますよ?」


 再起動した、動体感知センサーがスイッチだったらしい。


「ああいえ失礼しました、返事がなかったもので壊れたのかと思いまして」


「礼儀正しい冒険者志望者にびっくりしただけですよ! 壊れたって何ですか……ほんとに失礼ですよ?」


「礼儀正しいと目立つのですか? ふむ……なら……コホンッ、へいへーい美人の受付嬢さん! 冒険者登録一人前よ・ろ・し・く~ひゃっほー」


 こんな感じでどうだろうか。


 パリピをイメージしてみたんだが、まぁ内容はパリピだが声は小さめでやっている。

 他に聞かれて絡まれても嫌だしな。

 

 ちなみに、ヒャッホーの時に俺のスキル〈指鳴らし〉を存分に使わせてもらっている、良い音がでるよなこれ。


「そんな冒険者がいたら嫌ですよ! 普通にしてください普通に……それで冒険者登録ですね? ではこの書類に必要事項を書いて……あ、共通語文字は書けますか? 代筆は銅貨二枚ですけども」


 たぶん書けると思う、〈共通語理解〉スキルさんお願いしますね。


 受付嬢の問いにコクリと頷いて書類に向き合う。

 ペンは……羽根ペンとか超使いにくいんですけど……転生者がいるんなら万年筆くらいないの?


 狐耳受付嬢さんに聞いたら万年筆は高いらしい、ああうん粗暴な冒険者に使わせないよね、納得。


 えーと名前は……名字はいらんか、タイシっと。

 年齢、二十歳。

 戦闘タイプ? 空白っと……依頼の相性とかで必要なのかな?

 知られてもいいスキルか、空白で。

 出身地、チキューウ、こんなもんか。


「書けました」


 狐耳受付嬢さんは俺が書いた書類を見ると。


「全然書けていないじゃないですか! 空白もちゃんと埋めてくださいよ、それにチュキーウって何処ですか? 聞いた事がない地名なんですけど……ド田舎の村か何かでしょうか? 何処の誰とも知れない人は一応取り調べとか受けて貰う必要あるのですけど……貴方はどうしましょうか?」


 発音を間違えてるが放置しよう、あ、そうだ忘れてた。

 四男文官さんに書いて貰った身分保証の証書を渡してみる。


「えーと、いせか! ……っと失礼しました」


 大きな声をあげかけた受付嬢さん周りに注目されてないかキョロキョロ見回し、俺に謝って再度証書を読んでから返してきた、証書は大事に仕舞っておかねばな。


 そして少し声を抑えて俺に語り掛ける。


「あの、今日うちのギルド長が何人かギルド員をお供に連れて、お城まで様々なスキルを持った異世界の方々の冒険者ギルドへの登録をしに行っているんですけど……」


 あーそうね、格を上げるのに魔物を倒す事が効率いいなら、ダンジョンに潜らせるよね。


「ここに俺が一人でいる時点で、しかも知られても良いスキルが空白な時点で察してください、ハハ戦闘タイプ? これから見つけるつもりですが何か問題が?」


 俺の事を気の毒そうに見やる狐耳受付嬢さん。


「あ、はい、えーとこの内容だと冒険者のパーティに参加したり募集するのは難しいと思われますし、見習いである最低のFランクに成りますが良いでしょうか? 一応試験を受けて合格すればEランクからでもいけますが……」


「見習いからでかまいませんが、初心者で最低ランク冒険者がソロで稼げる仕事とかありますか?」


「ええ、見習い扱いの仕事ならありますけども……普通は成人した十三歳くらいの子達の仕事なんですが、報酬も安いですけどいいですか? というか貴方二十歳なんですね、もう三歳か四歳くらい若く見られると思いますよ」


 日本人は若く見られる世界なのかな、いやまぁ周りの人らの顔が濃いなぁとは思っていたんだ。


 まぁそんな事よりも、狐耳受付嬢さんに、大事な事を聞いてみる。


「その見習いの稼ぎで暮らしていけるでしょうか? 異世界人なので実家とかありませんし宿屋暮らしになると思います」


 狐耳受付嬢さんは困っている、だめそうかなぁ?


「……成人したての子や見習いのFランク冒険者用に宿舎をギルドで貸し出しています、宿代がかからない代わりにこちらが指示する依頼を受けてもらい、冒険者のなんたるかを理解して貰う制度があるのですが……参加しますか? 今だと周りは全部成人したての十三歳とかになると思いますが」


「参加します! よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げてお願いする。


 ひゃっほー、宿代なしで冒険者の勉強が出来るとか、冒険者ギルド優しすぎだな!


 まぁ簡単には死なない程度に育てて、ダンジョンから貨幣やらを拾ってこさせたいって事なんだろうけどな。


 なにやら複雑な表情で書類作成作業を始める狐耳受付嬢さん。

 あ、なんなら俺の年齢十三歳にしてもいいですよ? 駄目ですか? そうですか。


 ちなみに冒険者ギルドの登録料は大銅貨五枚でした。


 ギルドへの借金でもいいらしいが払っておいた。

 奴隷制のある世界で借金なんて出来る訳ない。

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